杉浦則夫緊縛桟敷で今週掲載されている川上ゆうさんを題材に書き下ろして頂いているコラムを掲載致します。本作品は、上中下の三部作となっております。
膣に放たれた無数の精子達。先を争い、他者を押しのけ、彼女と一つになれる場所へと急ぐ。しかし無残にも、溢れ出した酸の海で、その十のうち九つが殺されてしまうのだった。
生き残った、わずか一つ。天上の子宮頚管より粘液が分泌され、子宮内へと吸い上げられる。
細くキラキラとした糸引く粘液をつたい、上へ上へと昇っていく。転生の為に。
【蜘蛛の糸】
現世を“この世”とするならば、これは“あの世”のお話でございます。
こちらはずっと緊縛地獄の底で、大勢の加虐性愛の男たちに混じりながらも会話する事も無く、一人きり、悩んだり苦しんだりしていた気がいたします。何しろ親兄弟にも、友達にも、先生にも、誰に相談も出来ません。「地獄」と申しましたのも、時折、出所の知れぬ背徳感や罪悪感が渾然と押し寄せまして、まさに地獄に堕ちた罪人の心境と同じかと思われたからでございます。
周りの男たちにしても、この場所へ辿り着くくらいでございます。緊縛地獄ばかりではございません。熱蝋地獄に浣腸地獄、鞭打ち地獄や針地獄など、もうさまざまな地獄の責苦に泣き叫ぶ女を見慣れているはずですが、現世では「変態」と罵る声ばかりでございましたから、こちらに参りましても、おそらく己の不可思議な性癖の苦しさに疲れはてて、ただただ心の中を内省する日々なのでしょう。たまに聞こえてくるのは微かなため息ばかり、その切なさと云ったらございません。ですから私も、緊縛地獄の絶景に魅入りながらも、このままであるべきか、それとも改心すべきであるべきか、ただただ思案ばかりして過ごしていたのです。
ある時の事でございます。何気なく私が、少年時代の思い出に浸って居りますと、かつて通った教室の中に美しい女教師を見つけました。教室の天上から、一本の麻縄が黄金色に光りながら、ギリギリと川上ゆうさんを縛り、吊り下げているではございませんか。
「川上ゆう」と言えば、当代一の人気女優でございます。御姿の美しさは、今更私があれこれ語るまでもございますまい。長い年月第一線で、そして様々に細かい性の嗜好に応える彼女は、無数の男たちの想いを一身に受けて居ります。間違いなく“記憶に残る”女優として、いつまでも語り継がれる事でしょう。
本作品で使用されている画像の掲載場所
緊縛桟敷キネマ館