投影 ~小林一美を求めて~ 魔性


第一章 、魔性

“彼女”と出会ってちょうど30年。

私は、見知らぬ女と透け下着姿で絡む彼女を見ている。デビューして間もない頃かしら?心なしか硬い表情。「マンパック」というタイトルの自販機本だった。

見返しに掲載されている名前は「阿部美知子」、表紙には「美智子」とある。どちらかが誤植と思われた。

幾つ目の名前だろう?

「高橋弘美」「高橋幸恵」「小林一美」、「小林弘美」も見た気がする。「笠井はるか」「原泰子」「水木真理」「花月愛子」「加納恭子」、そして「阿部美知(智)子」…まだあったかもしれない。

緊縛グラビアを通じて知り合った同好の士の間では、「高橋弘美」が一番通っているが、私の中では「小林一美」のほうが馴染み良い。数ある名前の中で、なぜその名前が刷り込まれたか、心当たりはあるのだが、それが正解かどうかは不明である。

そんな彼女の古い本。つい最近、入手した一冊だ。(参考 マンパック画像)

まさか縄無し、しかもレズもののタイトルを手にすることになろうとは…いや、そもそもそんな彼女の作品が存在している事自体、全く想像していなかった。初めて見る「小林一美」に感動しながらも、どこか間の抜けた緊張感のない裸体に戸惑っている。

実はこれより少し前、同出版社の彼女の非・緊縛の単体本を購入していたが、やはり、カメラ目線で微笑む彼女に、不自然さを覚えた。

『きりりと鋭角に描かれた眉。

千変万化の表情を創る黒い瞳と、マシュマロのような愛くるしい唇。

触れば、吸付いてきそうな肌。

整った御碗形の美しい乳房、品の良い乳輪にポチリと乳首が乗っている。

肉付きの良い尻、はちきれるほど若さの詰まった太腿。』

そのどれもが“あの”小林一美と同じであるはずなのに、全く別人とも思える。

『眉間に寄り、苦悶の記号を描く眉。

うつろな瞳は憂いを帯び、歪んだ唇は何かを訴えているようだ。

弾力のある美肉には麻縄が食い込んでいた。

乳房に掛けられた縄は、形の良い半球をさらに美しく強調する。乳輪は楕円に歪み、乳首は搾り出されるようにツンと勃っていた。

湯気立つ桃尻が男を誘い、太ももは縄によって開かれ、もはや秘部を隠す事は適わない。』

縛られた小林一美は生きている。

体温を感じ、息遣いが聞こえる。大量のフェロモンを含んだ彼女の匂いは、絶えず官能を刺激する。そればかりでない。彼女の周囲の空間は緊張し、心の動きをそのまま私に伝えてくれた。

「魔性」とは、まさにそういう力ではないのか。

30年もの間、不断に彼女を追い続ける私は、その魔性に狂わされている。

第二章へ続く

文 やみげん 写真 杉浦則夫