あけみ先生の手首が、ゆっくりと前後し始めた。
さっきまでの乱暴な所作じゃ無かった。
でも、優しさとも違う。
そう。
獲物を嬲るような、無慈悲な悦びを孕んでた。
でも、理事長の反応は、明らかにさっきまでとは違ってきた。
「はぁぁぁ」
「まぁ、いいお声。
ほら、ここはいかが?」
「く、く」
理事長は、電球の明かりから逃れるように、顔を倒した。
あけみ先生の視線から、自らの表情を隠そうとしてるみたいだった。
理事長の顔は、わたしの方を向いてたから……。
電球の作る影が半分覆ってたけど、わたしにはその表情がよく見えた。
口が開き、白い歯が零れてる。
視線が、怯えたように揺れてた。
それは、あけみ先生への怖れではなく……。
自らの内奥へのおののきに見えた。
「どうしたの?
ほら。
いいんでしょ。
これが。
これよね」
「はぅぅ」
理事長の顎が上向いた。
電球の明かりに、表情を晒した。
下腹を絞りあげられるように感じた。
理事長は、それまでのわたしの人生で、まだ見たことの無い女性の表情をしてた。
無防備に身を任せながら、内奥の悦楽を貪ってる顔。
今なら、そうわかるけど……。
そのときは、見てはいけない顔に思え、その場から逃げ出したかった。
わたしの気配に、あけみ先生は気づいたようだった。
「美里。
よく見なさい。
これが、雌の顔よ。
どんな偉い学者でも、教育者でも、閨ではこの顔になるの。
理事長?
いかがですか?
何とか言ったらどうなの。
人にこれだけサービスさせておいて。
ほら、言ってごらん。
まんこにバイブ入れられて、気持ちいいですって」
「あぅぅ」
「オットセイじゃ無いんだからさ。
ちゃんとしゃべりなさいよ。
言う事聞かないんなら……。
今の理事長に一番つらいお仕置きをしますよ。
どうなの?
そう。
いいのね。
それじゃ……。
スイッチ、オフ」
バイブの音が消え、理事会室に静寂が戻った。
裸電球のフィラメントが灼ける、儚い音まで聞こえそうだった。
あけみ先生は口角を上げ、理事長の顔を見下ろしてる。
舌なめずりする蛇のようだった。
「あぁ」
理事長の表情が崩れた。
あけみ先生の口角が、さらに切れあがった。
「どうしたの?」
理事長は、唇を噛んでた。
「うぅ」
理事長の口から嗚咽が漏れると、腹筋が波立った。
不自由な姿勢のまま、腰が蠢いてた。
下腹部が、バイブを慕うように持ちあがる。
あけみ先生は、微笑みを貼りつけたまま、無慈悲に腕を引いた。
「イヤぁ」
「何がイヤなの?
言いなさいって」
理事長は、壊れた扇風機みたいに顔を横振った。
髪の毛が、左右の畳を叩く。
腰が前後に動き始めた。
「どうしてほしいの?
もう止めてほしい?」
理事長の首が、いっそう強く振られた。
「じゃぁ、続けてほしいの?
もう一度、スイッチを入れてほしい?」
理事長の首が持ちあがった。
自らの股間を覗きこむように、首が大きく縦に振られた。
「そう。
それじゃ、ちょっとだけサービス」
バイブの駆動音が立った。
「あひゃぁ」
理事長が奇声をあげた。
頭が再び落ち、髪がモップみたいに畳を掃き始める。
「はい、おしまい」
駆動音が消えた。
「いやいやいやぁぁぁぁぁぁぁ」
理事長は、赤ん坊のように泣きじゃくった。
その顔を、あけみ先生が覗きこむ。
口角は上がったままだったけど、目は笑ってなかった。
まるで、微笑みの仮面を被ってるみたい。
「動かしてほしい?」
理事長の首が、がっくがっくと縦振られた。
「それじゃ、言いなさい。
こないだ、ここに来てた女性は誰なの?
この部屋で、あなたに蝋燭垂らしてた女性よ。
言わないと、ずっと生殺しよ」
「知らない。
知らないのよ」
「ウソおっしゃい。
知らない人の前で素っ裸になって、蝋燭垂らされましたって?
そんなバカな話、通じると思ってるの?」
「ほ、ほんとなの。
お姉さまは、突然現れるのよ。
この部屋にだけ」
「お姉さま、ね。
あの人、いくつ?」
「知らないわ」
「確かに、理事長と同じくらいに見えましたわね。
でもあの人、わたしたちより、ずっと年下なんですのよ。
今ごろはまだ、どこかの中学生かな?
ふふ。
何言ってるか、わからない?
そんな顔ね。
ま、説明は止めとくわ。
しゃべってると、バカバカしくなるような話だから。
でも、名前くらい名乗りませんでした?」
「わからない……」
「ともみ。
ともみって言ったんじゃないの?
ともみよ!」
「ほんとに知らないの」
「うかつな女ね。
あなたは、名前も知らない女の前でヨガるわけ?
とんでもない変態だわ。
そうそう。
変態はもう一人いたんだった」
あけみ先生は、バイブを置き去りにしたまま起ちあがった。
「あぁ。
動かして。
これ、動かして」
「はしたない女ね。
おあずけよ」
投げつけるように言い捨て、あけみ先生は理事長に背を向けた。
向かった先は、川上先生だった。
「さっきから、バカに静かね。
どういうつもり?」
あけみ先生は、川上先生の顔を覗きこんだ。
川上先生は、眉根に皺を寄せ、顔を歪めた。
「ははぁ。
理事長のヤラシイ顔見てて、気分出しちゃったのね。
あなたも弄ってほしいの?」
川上先生は、目を伏せたまま顔を横振った。
「ウソおっしゃい。
こーんなに乳首、起ててるくせに。
美里、こっち来てごらん。
ほら見て、この乳首。
起ってるわよね?」
川上先生の平常時の乳首なんて、もちろん見たことないから……。
今の乳首が、普段と違ってるかどうかはわからない。
でも、これが通常の乳首だったら、ブラに擦れたりして大変なんじゃないか……。
そう思わせるほど、乳首は突き出て見えた。
「恥ずかしくありません?
生徒の前で、乳首なんか起てて。
それでも教育者なの?」
「た、起ててません」
「まーだ、そんなこと言うのかしら。
とんでもない嘘つき女だわ。
こんなになってるくせに。
弄ってほしいんでしょ?」
川上先生は、連獅子のように髪を打ち振った。
「ちょっとだけ触ってあげる」
あけみ先生の片手が上がった。
でも、その手は、乳首を摘む形では無かった。
影絵の狐を作る形に似てるけど、少し違う。
親指の腹に、丸まった中指の爪が押さえられてる。
残りの指は、宙に向けてピンと立ってる。
そう。
そういう遊びがある。
矯めた中指を開放し、額を弾くやつ。
いわゆる、デコピンね。
あけみ先生の作る狐が、川上先生の乳房に近づいた。
「悪い子にお仕置き。
そーれ。
ピーン」
「あひぃっ」
川上先生は、顔を仰け反らせた。
白いノド首が、石筍のように立ちあがる。
「すっごい感度。
ヤラシイ女」
「言わないで……」
「じゃ、自分で言いなさい。
わたしは、生徒の前で乳首を起てる、イヤらしい教師ですって」
「……」
「言ったら、弄ってあげるわよ」
「言えません」
「素直じゃない口ね。
身体は、こーんなに素直なのに。
ほら、見てごらん、美里。
股縄の隙間から、お汁、漏らしてる」
「ウソ!
ウソよ」
「ウソじゃないもんねー。
美里ちゃん、よーく見て。
絶対これ、本気汁よね」
確かに……。
飴色の縄が、そこだけ色を濃くしてるように見えた。
わたしは、思わず顔を近づけた。
「見ないでぇ」
「よく見なさい、美里。
教師の流す、本気汁よ」
「うぅ」
「あー、泣いちゃった。
かわいそー。
誰に苛められたの?
まさか、わたし?
ふふ。
じゃ、ちょっとだけ慰めてあげるね」
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。