あけみ先生は、再び起ちあがった。
理事長を跨ぎ越し、川上先生の柱に向かう。
真っ直ぐな脚は、内腿がかすかに擦れ合った。
内腿は光ってた。
ナメクジの這ったような筋が、膝頭まで濡らしてる。
わたしは、思わず自分の足元を見下ろした。
あけみ先生とは違い、肉付きの乏しい内腿は、隙間を作ってた。
でも、ナメクジの筋は、先生と同じだった。
真上から見下ろしても、陰核が包皮を持ちあげてるのがわかった。
弄りたかった。
思い切り。
「こら。
何ボーっとしてんのよ。
手伝っててば」
あけみ先生は、川上先生の右脚を抱えあげてた。
川上先生の右膝には、ロープが掛かってる。
ロープは、斜め上方から伸び、右脚を吊ってる。
あけみ先生は、そのロープをほどいてる。
なぜだか、船の舫いを解いてるように見えた。
「さ、川上先生。
理事長のところに行きましょうね」
右脚を開放された川上先生は、爪先を畳に着いた。
「あ、その前に、お色直しが必要ね。
お股を隠したお褌、取りましょう?
理事長先生も、ツルツルのまんこ、剥き出してるし……。
わたしたちだって、ほら。
貝の剥き身のように、内蔵を晒してる。
ほら、じっとしてってば」
「いやいや」
川上先生は、あけみ先生の指を逃れるように身を捩った。
「どうしたのよ?
今さら、何が恥ずかしいの?
褌締めてる方が、よっぽど変だわ」
「解かないで」
川上先生は、身じろぎを止めなかった。
爪先立った右脚を軸に、身体を捻る。
「悪い子ね。
やっぱり、元の格好がいいのかしら?」
あけみ先生は、川上先生の後ろに垂れるロープを手に取った。
天井の滑車からは、数本のロープが下がってた。
川上先生の身動ぎのせいで、ロープはゆらゆらと揺れた。
教科書で習った『蜘蛛の糸』を思い出した。
でも、このロープは、人を救いあげる糸じゃない。
人を吊り下げるためだけの糸。
「美里!
ほんとに気の利かない子ね。
こっち来て、脚押さえてって。
持ちあげるの」
言われたとおり、川上先生の右脚を抱えあげる。
みっしりと肉の付いた脚は、持ち重りがした。
もちろん、先生がじっとしてないせいもあった。
抱える両腕の中で、脚は回遊魚のように暴れた。
「ほら、もっとこっち」
あけみ先生が、暴れる魚に縄を打つ。
熟練された手わざに、たちまち魚は蹂躙された。
「よしよし。
いい格好。
やっぱり、お股を開いた方がお似合いよ。
それじゃ、お褌、取りましょうね」
「取らないで。
それを取らないで」
「ずいぶん気に入ってくれたものね。
嬉しいわ。
明日から、毎朝締めてあげようか。
縄のお褌で授業をするのよ。
でも、今日は取ってもらうわ」
よく撓う奇術師みたいな指が、たちまち縄を解いていく。
川上先生の股間から、縄の束が失われた。
「はい、ご開帳。
気持ちいいでしょ?
きっと蒸れ蒸れね。
どれどれ」
あけみ先生は、わざとらしい仕草で身を屈めた。
もちろん、顔を近づけたのは、川上先生の股間だった。
「み、見ないでぇ」
「すごーい。
こんなにしちゃって。
なんでお褌を取りたがらないかと思ったら……。
こういうこと。
美里も見てごらん。
こんなに浅ましいまんこ、初めて見た。
お汁塗れ」
「うっ、うぅ」
川上先生は、顔を伏せて泣いた。
でも、その股間は、もっと号泣してた。
縄に潰された陰唇が捩れて、膣口が覗いてる。
陰唇も膣も、工作糊を溶かしたみたいな液に濡れてた。
クリトリスが包皮を持ちあげてるのが、はっきりとわかった。
「なるほど。
縄の刺激が良すぎたわけ?
ちょっとでも身動きすると、締まるんだものね。
陰核が潰されて、たまらないわね。
少しだけ、弄ってあげましょうか?」
「止めて。
助けて。
これ以上、辱めないで」
「今でも、この上なく恥ずかしいと思いますけど。
お尻の穴まで濡らしてるんですもの。
お客様、どうぞ遠慮なさらずに。
一回イカせてさしあげますわ。
もちろん、無料で」
あけみ先生の指先が揃い、川上先生の股間に添えられた。
指の腹が、恥丘を隠してる。
指は、一瞬持ちあがるように動いた後、力強く鍵盤を押さえた。
「あひぃ」
肉で出来たピアノは、調律の狂った音色を奏でた。
「その声じゃ、もう崖っぷちね。
簡単な女。
ま、舞台転換のとき暴れられると困るから……。
一度、気を遣ってもらうわ。
美里、よく見てなさい。
ピアニストの指の威力を」
股間を押さえた指が、反りを打った。
指は、白く色を変えてた。
「いきますわよ」
指先が、細長いオーバルを描き始めた。
押さえられたクリは……。
ゴムのように伸ばされながら、引き回されてるに違いない。
わたしは、思わず股間を引き絞った。
「あひぃぃぃ。
やめてやめてやめて。
イ、イッちゃう。
イッちゃうから!」
「イカせてあげるから。
ほらほらほら。
練れて来た、練れて来た。
納豆みたいに、糸引き出した」
「あがが。
イグぅ。
イグイグイグイグイグイグイグイグイグ。
イッぐぅぅぅぅぅぅ。
……。
わきゃ。
ぅわきゃっ」
川上先生が、全身で跳ね踊った。
張り詰めたロープが唸り、天井の滑車が軋んだ。
あけみ先生の手は、まだ股間から外れてなかった。
すでにオーバルは描いてなかったけど、急所を押さえる力は緩んでない。
とどめを刺してるようにも見えた。
「ぶぶぶぶぶぶぶぶ」
川上先生は、口元からあぶくを零し、ようやく静まった。
首が、魂を抜かれた人形みたいに倒れる。
見開いた人形の目に、瞳は無かった。
真っ白い双眸が、床を睨んでた。
「浅ましいイキかた。
白目まで剥いちゃって。
でも、もし男が……。
女を、こんなふうにイカせられたら……。
誇らしいだろうね。
ほら、見てごらん、これ」
あけみ先生は、ようやく股間から離した手の平を、わたしの前に翳した。
指先は、電球の明かりを返して、ぬめぬめと光ってた。
思わず、隠すものを失った股間に目が行く。
そこは、溶け崩れてた。
貝の剥き身にバターを塗したようだった。
手の平に押さえられてた陰唇は、捲れあがって潰れてる。
覗いた膣口は、米のとぎ汁のような雫を零してた。
「ふふ。
美里も、そうとう気分出ちゃってるみたいね。
でも、お預けよ。
助手にまでイカれたら、舞台回しが出来なくなるわ。
ほら、こっち来て。
このロープ、持って」
あけみ先生は、柱の後ろで蟠るロープを拾い上げた。
「そしたら、理事長の方に、ゆっくり下がって」
言われたとおりに、後退る。
ロープは、縛られた2人の中間で、斜めに張り詰めた。
どうしていいか判らず、あけみ先生を見る。
「ちょっと待ってて。
今、柱から解くから」
あけみ先生は、川上先生の背中に回ってた。
どうやら、柱に括りつけたロープを解いてるらしい。
「よし、オッケー。
じゃ、そのままロープ引いて。
ダメダメ。
そんな小手先じゃ動かないわよ。
体重を後ろにかけるの」
ロープを持ち直し、ロープ登りをするように、胸元に引きつける。
恐る恐る、後ろに凭れる。
「もっと。
足の裏で踏ん張って。
そうそう。
ほら、動いた」
川上先生の身体が、柱から外れてた。
背中の支えを無くし、宙にぶら下がってる。
驚いて、力を緩めた。
「どうしたの?
大丈夫よ。
美里が持ってるのは、天井の滑車を動かすロープ。
ほら、天井の滑車は、レールから下がってるでしょ。
レールに沿って、滑車を移動できるってわけ。
ほら、引っ張って。
後ろ体重」
再び動き出すと、川上先生の身体が宙で振れた。
真っ白い目を見開いたまま、ぶらぶらと揺れてる。
壊れたマリオネットみたいだった。
「わたしが荷物押さえてるから、大丈夫。
ゆっくりね。
そうそう。
ふふ。
ほんと、お肉屋さんの倉庫よね。
世にも珍しい、生きた人肉だけを扱う倉庫。
あ、足元気をつけて。
そこから畳になってるわよ。
あら、お行儀いいのね。
ちゃんと靴脱いで。
はい、もう少し引いて。
ゆっくり。
よーし、ストップ。
どうよ?
ものの見事に位置が合ったわ」
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。