「あぁ。
最高……。
撮って。
ミサ、撮って。
立ちオナする変態女を。
そう。
あぁ。
フラッシュ浴びると、身体が燃えるわ」
あけみ先生のブラウスが、細かく震え出した。
指先は、すでに佳境を奏でてるに違いなかった。
「撮って」
無音の花火のように、フラッシュの光が広がる。
「あひぃ。
イ、イキそう。
ミサ?
わたしって、イヤらしい?
イヤらしい?
言って!
変態って。
言うのよ!
変態女って」
「変態」
「もっと!」
「変態!
あけみ先生の変態!」
「ひぃぃぃぃぃ」
あけみ先生の腕が、フラメンコギターのクライマックスを掻き鳴らし始めた。
その時だった。
シャッターを切ろうとしたわたしの指が、止まった。
ファインダーの視界の中に、違和感を感じた。
姿見だった。
あけみ先生が、女王さまから身を隠すときに使ったという、大きな姿見。
それが、画角の隅に入ってた。
さっきまでは、暗い室内を映してたはずの鏡。
その鏡面が、色を発してる。
それは、鏡と云うより、縦長の窓に見えた。
窓の向こうは、昼間。
でも、何が映ってるのか、はっきりとしない。
鏡面が、さざ波のように揺れてる。
石を投げられた池のようだった。
いったい、どうしたんだろう。
いまさら気づいて、顔の前からカメラを外した。
鏡が、理事会室を映してないのは明らかだった。
鏡面を渡るさざ波が、次第に間遠になっていく。
矩形の端に見える青は、紛れもなく空だった。
手前には、白いテーブル。
そして、テーブルの向こうには……。
テーブルとは異質の白。
柔らかい乳白色。
そう。
人の上半身。
明らかに女性だった。
なぜなら、衣類を着けてなかったから。
2つの乳房が、焦点を結んでた。
でも、顔は見えない。
鏡面は、女性の首までで切れてたから。
「ミサ!
フラッシュちょうだい!
早く!」
わたしは、慌ててカメラを構えた。
シャッターを切る。
もちろん、画角に鏡は収めてある。
「熱い……。
背中が熱い。
光の精液を浴びたみたい。
そう。
わたしのブラウスの背中には……。
べっとりと精液が貼りついてる。
ブラウスの裾から垂れた精液が……。
お尻を伝う。
ぬめぬめと光りながら、尻の割れ目に潜りこみ……。
肛門を濡らす。
そして、会陰を回りこんで、おまんこに入るの。
あぁ。
ほら、クリを弄るわたしの指にまで、這いあがってきた。
あぅぅ。
この格好で、街の中に出たい。
精液を、尻たぶからツララのようにぶら下げて、人混みを歩くの。
わたしを見た男は、ことごとくちんぽを出すわ。
もちろん、わたしに向かって擦りたてる。
怒張した亀頭が、わたしを取り囲む。
射出口が、鈴穴みたいに膨らみ……。
男たちは、一斉に爆ぜる。
白濁した精液が、鞭のようにわたしを叩く。
もちろん、顔面にも。
栗の花の礫を浴びたよう。
わたしは、肺の奥まで匂いを吸いこむ。
それでも、精液の祝福は止まない。
仰向いた顔に、ブーケのように降り注ぐ。
全身を包みながら……。
精液は精液に重なり、厚みを増しながら流れていく。
わたしは、1本の鑞涙となり……。
その場に溶け崩れていく。
あぁ……。
イク。
イ、イクから……。
撮って。
イク瞬間を……。
撮って」
あけみ先生の腰が、ガクガクと前後に振れ始めた。
尻たぶが絞られてる。
わたしは、シャッターに指を掛けた。
でも、その指先が凍りついた。
ファインダーの中で、鏡面の景色が変わってた。
さっきまで、テーブルの向こうに座ってた人物が……。
テーブルの前に立ってた。
上半身は、鏡面を外れて見えない。
でも、肌の色合いから、さっきの女性に違いないはず。
でも……。
その女性の股間からは、男根が起ちあがってた。
男根は、女性の臍を隠し、天を向いて突きあがってる。
それでも“女性”と言うわけは、その男根が、明らかに人造物とわかったから。
毒を吐く虫のように、ヌメヌメと赤黒い光沢を纏ってた。
「ミ、ミサ……。
何してるの。
早く……。
早くフラッシュをちょうだい」
女性の指が、画角の上から降りてきた。
男根に絡みつく。
真っ白い指と、赤黒い男根。
それはすでに交合だった。
女性の二の腕に力が籠るのがわかった。
同時に、男根が押し倒された。
「ひ」
わたしは、カメラを取り落としそうになった。
水平まで仰角を下げた男根の先……。
怒張した亀頭が、鏡面から突き出てたの。
わたしは、カメラを抱きしめたまま後退った。
「ミサ!
ミサってば!」
男根に続き……。
鏡面からは、白い足が抜き出て来た。
塑像のように美しい片脚が、ゆっくりと膝を曲げ……。
理事会室の床を踏み締めようとしてた。
そうか……。
この鏡が入口だったのか。
「美弥子さん……」
「美弥子さん。
大丈夫?
ちょっと入れすぎちゃったかな?」
視界の中央で、人形(ひとがた)が、ゆっくりと焦点を結んだ。
美里だった。
目の前には、白いテーブル。
風を感じた。
そうだった。
ここは、マンションのベランダだ。
ようやく思い出した。
美里の話を聞きながら、ここでお茶を飲んでいたのだ。
でも……。
どうしてこんなに、身体が重いのか。
空気が、綿飴のように感じられる。
「良かった。
どうやら、大丈夫そうね。
いかがでした?
わたしの入れた特製紅茶。
眠り薬入り」
2杯めの紅茶は、リビングから場所を移し、ベランダで楽しむことになった。
美弥子が、カップを運んでる間……。
美里がキッチンで、新しい紅茶を入れていたのだ。
眠り薬とは、いったいどういうことだろう。
そして、この身体の重さは……。
「ふふ。
やっぱりそうだ。
さっきまで、あんなに曇ってたのに。
ほら、雲が切れて青空が見えてきた」
美弥子も、片頬に陽光を感じた。
でも、頸が自由に動かない。
「さてと。
事情を説明しなきゃならないわね。
その前に……。
これ、おみやげ」
そう言って、美里がテーブルに置いたのは、真新しい新聞だった。
美弥子の取ってる新聞社のものではなかった。
朝刊としては薄く、2つに折られた一面の上部一杯に、大きな活字が踊ってる。
これは……。
街頭で配られる、号外ではないだろうか?
「ふふ。
わからない?
ま、仕方ないわ。
大丈夫。
睡眠薬のせいじゃないわよ。
こんな話、わからなくたって当たり前。
わたしだって、まだ半信半疑なんだから。
でも、確かめてみる価値はあると思った」
「いえ。
確かめるだけじゃダメ。
実行しなきゃならない。
実行しなければ、わたしはいったいどうなるのか……。
判らない。
だけど、怖かった。
自分が消えてしまいそうで。
ふふ。
ますます判らないわよね。
じゃ、話を急ぎましょう。
空も晴れてきたことだし」
美里は、チュニックの胸ポケットから、矩形のカードを取り出した。
いや。
カードではない。
写真だ。
大振りなポケットから現れたのは、少し大きめな写真プリントだった。
美里は、それを美弥子の前に翳した。
「女性が3人写ってるでしょ。
1人は、畳に仰向け。
もう1人は、宙吊り。
2人とも、裸に縄だけを纏ってる。
3人めは、後ろ姿ね。
上半身は、オーバーブラウスに包まれてるけど……。
下半身は剥き出し。
両脚を“く”の字に開き、縄に打たれた2人の前に立ってる。
どう?
わたしの話が、嘘じゃないってわかったでしょ。
そう。
この写真は、わたしが撮ったものなの。
あの理事会室でね。
でも、ほんとに見て欲しいのは、ここよ。
見える?
小ちゃいからね。
縦長の大きな姿見が写ってるでしょ。
これこれ。
どう?
おかしいでしょ?
鏡なのに、部屋の中を写してない。
窓に板を打ちつけられた部屋なのに……。
ほら、青空が写ってる。
そして、白いテーブル。
その上には……。
新聞。
もちろん、紙面の文字は読めないけど……。
見出しだけは読める。
だって、こんなに大きい活字なんだもんね。
読めるでしょ?
『なでしこ 銀』って。
今朝の試合、見た?
はは。
見てないわよね。
美弥子さんの口から、サッカーの話なんて、聞いたことないもの。
でも、わたしは見てた。
これ以上ないほど真剣に。
ちっとも眠くなかった。
試合が終わってから、一睡もしてないんだけど……。
今も、ぜんぜん眠くないわ。
もうわかったでしょ?
そうよ。
この写真は、3年……。
いえ2年半前に撮られたもの。
でも、この中に写ってる新聞は……。
間違いなく、これよ」
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。