アンダーカバー・SUMIRE 2


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■第2章 恐ろしき妄想


最悪の気分だった。
先ほどの催眠ガスのせいで頭の芯はズキズキ痛むし、全身が極度の倦怠感で包み込まれている。
意識が鮮明になるにつれ、今自分が置かれている状況がわかってきた。
幸い着衣の薄手のワンピースは無事だったが、両手は後ろにロープでしっかり縛られている。
あたりを見渡すと、私邸とは別の納屋のような薄暗い部屋。
その床に置かれた一枚の木製パレットの上に、私は寝かされた状態で拘束されていたのだ。
この時感じたほのかに酸っぱい自分の汗の臭いだけが妙に今でも鮮明な記憶として蘇える。

この先、私はどうされるのだろう。
マサダの連中は秘密裏の活動が外部に露見したとあらば、当然本国からこの大失態の処罰の対象とされることを恐れるているはずだ。
しかしたとえ部分的なものであれ、この2週間に私が持ち出したは情報は今さら防ぎようがない。
ならばいったいどこに情報が渡ったのか、その流出先、内容、重要度を知りたがるだろう。
もちろんそれを尋問されても私は答えるわけにはいかない。
とすると、連中は私から無理矢理にでも情報を得ようと躍起になるに違いない。
「拷問」。そんな恐ろしい言葉が私の脳裏をかすめた。

未だ不快な頭痛に苛まれる私の思考は、考えれば考えるほど最悪の状況へと発展していく。
これまで数多くの危険な任務にあたって来たが、一度たりともこんな敵の手中に落ちることなどなかった。
当然仕事柄、敵の捕虜となって過酷な拷問を受ける可能性は多分にあるし、事実拷問で廃人同様となった先輩、同僚も幾度か目にしたことがあったが、まさか自分がそのようなシチュエーションに遭遇するなど思ったこともなかった。
それが今、現実のものとなろうとしている。
果たして拷問に耐えられるのだろうか。
でも、私は公安捜査官。国にとって不利益になることは、いっさい洩らすわけには行かない。
何より国家に危害を加える輩は絶対許せない!
でも・・・・でも、拷問はイヤ!やっぱり無理よ!無理だわ!耐えられるわけなんかない!
助けて・・・誰か、助けて、お願い・・・・・
ズキズキ軋む私の脳の中で、二人の自分が戦っていた。正義と信念を貫こうとする自分と、恐怖に慄く自分が。

ガチャリ!ギィィィィ・・・・
その時、納屋の扉の鍵をはずし、何者かが扉を開けて室内に入ってきた。
私は恐ろしさのあまり入口の方角を見ることもできず、気絶したままのふりをして成り行きを見守ることにした。
それが救出であることを祈りながら。

足音から侵入者は一人のようだ。
その人物は静かに私の傍らにしゃがみこみ、首に片手を回し立てた片膝の上に私の上半身を抱き起こした。
気づかれぬよう薄目を開けると、黒いキャミソール、黒い帽子、黒いハイヒールと黒基調で整えた見たことのない女が私の視野に入ってきた。
いったい誰?敵なの?それとも味方?

文章 蝉丸
写真 杉浦則夫
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