「一流のエンターテイナーは、思わぬハプニングも、舞台演出に変えてしまうもの。
で、出番を間違って舞台に上がって来てしまった先生にも……。
このシーンに参加していただくことにしたってわけ」
あけみ先生は、ゆっくりと川上先生に歩み寄った。
上体をかがめ、下から舐め上げるように視線を上げる。
子供のころ読んだ漫画の、ろくろ首を思い出した。
「ほんとに美味しそうな身体。
縄のおふんどしが、よく似合いましてよ。
ほら、このお腹の肉。
縄に乗りあげて。
とっても素敵。
男なら、精子をかけずにいられませんわ。
川上先生?
いったい何人の男が、この身体に精子をかけてきましたの?」
「い、岩城先生……。
下ろしてください」
「まぁ。
誰かさんと同じことを言うのね。
気が合って、うらやましいわ。
でも、つまらない。
どうしてさしあげようかしら?」
「下ろして!
下ろしてぇぇ」
川上先生は、空中で身をよじった。
でも、両脚が宙を藻掻くだけだった。
天井の梁が、かすかに軋んだ。
「案外、頭の悪い人ね。
そんな格好で喚いたって、事態が好転しないことくらい……。
わかりそうなものだわ。
美里!
何、引っこんでんのよ。
こっち、おいで」
あけみ先生の声が、突然頬を叩いた。
こうして、観客席の隅に隠れてたわたしも、舞台に引っ張りあげられることになった。
「川上先生、この子、ご存知でしょ?」
「た、棚橋さん!
岩城先生、まさかこの子にまで?」
「ほんとに、気が合いますわね。
誰かさんと。
まったく同じこと聞くんだから。
でも、いいですか、先生。
この生徒には、縄もなんにも掛かってないでしょ。
つまり、この子は自由なの。
てことは……。
自分の意志でここにいるわけ。
そして……」
あけみ先生は、わたしの腕を掴むと、自分の脇に引っ張り寄せた。
剥き出しの骨盤が、先生の太腿にあたった。
「ほら、ご覧くださいな。
2人の格好。
同じでしょ。
下半身だけ、素っ裸。
つまり、2人はチームなの。
これが、チームのユニフォーム。
すなわち、この子は、わたしの助手ってわけ。
おわかり?」
あけみ先生は、わたしの腕を掴んだまま、川上先生の正面に回った。
「美里、見てごらん、この身体。
これが、大人の身体よ。
体育の着替えとかで、同級生のは見てるだろうけど……。
ぜんぜん違うでしょ?
身体の丸みが。
生殖可能な雌同士でも、成熟度合いによって、こんなに違うものなの。
男はね……。
こういう身体が、大好きなのよ。
こういう裸を見ると……。
精子を出したくなるの。
わたしが男だったら、このまま突っこんでるかも」
あけみ先生の手の甲が、ベールを掲げるように、川上先生の太腿を撫であげた。
「い、いやぁぁぁぁ」
絹織みたいな声が、窓を目指して伸びた。
声は、窓を塞ぐ横板の隙間を抜け、空に逃げていく。
「素晴らしいソプラノですこと。
でも、閨でこんな声出したら、近所迷惑ですわよ。
少し、調律が必要みたいね。
ここかしら?」
あけみ先生の指が、川上先生の乳房に伸びた。
器用に束ねられた指先が、乳首を摘む。
指先が、葡萄を潰すように撓った。
「痛いっ。
痛いぃぃぃ」
「生きてる証拠ですわ」
あけみ先生の手首が裏返った。
乳首は摘んだままだった。
乳輪がよじられ、渦巻状に皺が走った。
「ひぎぃ」
川上先生が、全身で跳ねた。
背中の柱が、ギシギシと音を立てた。
「ちょっと、重量超過かしら。
でも、ほら。
思ったとおり」
あけみ先生は、乳首から指を離した。
離れた指先が伸び、乳首を指し示してる。
「起っちゃった。
川上先生。
はしたない声あげながら……。
こんなに乳首、おっ起てて。
やっぱり、お好きなんでしょ?
乱暴に扱われるのが」
「ち、違います!」
「違わないわよ!」
乳首を指してた指が翻ると、手の平となって戻った。
大きな肉音が立った。
手の平が、したたかに乳房を打ったのだ。
縄に戒められた乳房が、肉のボールのように弾んだ。
乳房には、みるみる赤い指跡が浮き上がった。
「助けてぇ。
誰か、助けてぇぇぇぇ」
川上先生の声が、狂ったリボンのように宙を駆けまわる。
「あらあら。
先生が、はしたない声あげるから……。
お目覚めのようだわ」
畳に突っ伏してた理事長が、顔を持ち上げてた。
まだ半分夢の中みたいで、視線が壁際を這ってる。
川上先生には、まったく気づいてない。
「川上先生。
心強いでしょ。
ここには、お仲間がいたのよ」
床の理事長を隠す形で立ってたあけみ先生が、ゆっくりと身を移した。
川上先生から理事長まで、視界が開けた。
川上先生の目蓋が、大きく開いた。
「さすがだわ。
背中を見ただけで、誰だかわかったみたいね。
ま、こんな素晴らしい裸の持ち主は、そうそういないけど。
でも、それって……。
その裸が誰のものか、知ってるってことよね」
川上先生は唇を震わせながら、身をうねらせた。
開脚したまま吊られたマリオネットみたいだった。
「理事長。
お尻向けてないで、こちらをご覧になって」
あけみ先生は、理事長の傍らに歩み寄ると、床に蟠る縄を拾いあげた。
理事長の背中から伸びる縄だった。
あけみ先生が、指揮者みたいなモーションで縄を振り上げた。
縄は、生を得たように一直線に伸びた。
「でも、ほんと可愛いお尻ね。
こんなお尻抱えながら腰振れる男は、幸せものだわ。
でも……。
ほんとにそんな男、1人でもいたのかしら?
だって、レズビアンなんですものね。
理事長先生」
背中の縄を引っ張られた理事長は、全身を揉むように蠢いた。
起ちあがろうとしてかなわず、再び畳に突っ伏す。
「あらあら。
スゴい格好。
理事長。
お尻の穴まで見えてますよ。
美里、そこの縄束持ってきて。
本格的に目を覚ましそうだから」
あけみ先生の指先は、カメラの載った机の下を指してた。
そこには、飴色の縄の束が、いく巻もうずくまってた。
4本の机の脚に囲まれた縄は、まるで檻の中の蛇のように見えた。
「早く!」
わたしは、恐る恐る檻に手を差しこみ、縄束を拾いあげた。
「1本は、その机の脚に結んで。
お団子結びでいいから。
そうそう。
そしたら、そのまま引っ張って、こっち来て。
あと、もう1本は束のまま持って来て」
あけみ先生は、わたしから縄の一端を受け取ると……。
突っ伏した理事長の左足首を括り上げた。
もう1本の縄で右足首を縛り、そのままウィンチの載る作業台まで後退る。
理事長の頭が、持ち上がった。
「お目覚めですか、理事長。
でも、寝相が悪いですわね。
朝は、きちんと仰向けでむかえましょう」
あけみ先生は、持ってた縄を、大きく引っ張った。
縄は一瞬にして張り詰めると、理事長の右足が持ちあがる。
「ほら、美里。
掛け声。
何て言うんだっけ?
綱引きのとき。
あ、そうそう。
これだ。
オーエス、オーエス」
あけみ先生は、両手を交互に移し変えて、縄を手繰り寄せた。
先生は、うつ伏せた理事長の左側に立ち、理事長の右足を引っ張ってる。
理事長の左足は逆に、右手にある机に縛られてる。
起こる事態はひとつ。
理事長の身体は畳の上で裏返り、仰向けになった。
でも、あけみ先生は、綱引きを止めようとしなかった。
理事長の両脚が開いてく。
「オーエス、オーエス」
「い、ぃぃぃ」
「どうしました、理事長?」
「い、痛いぃ」
「そんなはずありませんでしょ。
その柔らかい身体なら、180度開脚も出来るはずよ。
ほら、もっと頑張って」
あけみ先生は、床にお尻を落とした。
両脚で床を蹴りながら後退る。
踵が床で空転するようになると、ボートを漕ぐように上体を反らせた。
「あぎぃ。
痛い痛い痛い」
理事長の悲鳴を聞いても、あけみ先生は縄を緩めようとしなかった。
改めてあけみ先生を見ると、すごい格好だった。
床にお尻を落とし、両脚は床に踏ん張って、目一杯開脚してる。
下半身を覆うものは、何ひとつ無い。
陰毛さえも。
つまり、股間は丸見え。
陰唇が、おちょぼ口みたいに開いてた。
先生は、その格好のままお尻を送り、ウィンチの載る机脇まで移動した。
引き絞ってた縄を、机の脚に巻きつける。
縄は、蛇のように机の脚を括りあげた。
縄目を結ぶと、先生はゆっくりと起ちあがる。
「最後、ちょっと緩んじゃったけど……。
ま、こんなものね。
ほら、美里。
こっち来てごらん。
すごい格好だから」
先生の招く手に吸い寄せられるように、わたしは立ち位置を移した。
先生の傍らに立つと、理事長の大きく開いた股間が、イヤでも目に入った。
いいえ。
イヤでもってのは、ウソよね。
見たかったから、自分で動いたの。
仰ぎ見る存在でしかなかった理事長が……。
無残に股間まで晒してる。
その恥ずかしい姿を……。
理事長の生殖器を、見たくてしょうがないわたしがいた。
「でもほんと、素晴らしい体型よね。
筋肉質の身体って、無理な姿勢を取らせるほど、美しさが際立つみたい。
ほら、この太腿の張り」
理事長の太腿には、大きな筋肉のはざまに、渓谷みたいな翳が走ってた。
「そうそう。
この姿、川上先生にも見てもらいましょう」
あけみ先生は数歩後ずさり、川上先生の視線を迎えた。
わたしも、反対側に身を退けた。
川上先生から理事長まで、モーゼの海のように視界が開けた。
「ほら。
よく見なさいよ。
何でさっきから黙ったままなの?
顔、こっちに向けなさいって。
どうしたの?
恥ずかしいの?
そんな格好、見られるのが」
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。