縄を纏った女が2人。
床には、畳が敷いてあった。
2人は、その畳に座りこんでる。
2人の間には柱が立ってて、その柱を挟むように向かい合ってる。
ひとりの顔は、正面から見えた。
思ったとおり、川上先生だった。
想像だけしてた裸が、目の前にあった。
思ってた以上のボリュームに驚いた。
お腹の肉が括れを作ってる。
もう1人の身体は、見事なほど引き締まってた。
ときおりうねる背中に、筋肉が浮きあがる。
アップにまとめた髪から、解れた髪がうなじに流れてる。
同僚の教師に、こんな体型の持ち主は思い当たらない。
と言って、生徒では絶対ない。
成熟しきった大人の身体だった。
誰なのか確かめたい。
わたしは、危険も忘れて身を乗り出した。
刹那……。
川上先生が、高い声で鳴きながら、仰け反った。
それに応えるように、もう1人が顔を傾けた。
見えた。
知ってる顔だった。
考えてみれば……。
もう1人が塔の主だってことは、ごく当然のことだったのよね。
川上先生が、塔への鍵を持ってたわけも、これでわかった。
でも、理事長には命令されることしか無かったせいか……。
自分と同じ人間だって意識を、持ってなかったのかも。
だから、裸を想像したこともなかった。
これまで、天上から見下ろされてた人が、今、わたしの眼の前にいる。
性欲を剥き出しにした、1人の雌として。
激しい興奮が、わたしの脊髄を貫いた。
下腹が捻られる。
思わず、スカートの股間に拳を押しあてた。
2人は、何かささやき交わしてた。
でも、弦を引くような高音に、くぐもった鼻濁音が混じって、よく聞き取れない。
もどかしかった。
2人は、畳にひざまずき……。
柱に取り付けられた何かを、両側から挟むように向き合ってる。
柱を中心線にした鏡像みたいな格好ね。
その柱に取り付けられた何かが、よく見えない。
最近、近視が進んで、コンタクトが合わなくなってるの。
声を聞きたいし、2人の姿をもっと近くで見たい。
我慢できなかった。
身を移せる場所は、さっきから目に入ってた。
大きな姿見が、立ててあったの。
そう。
ここにある、この鏡よ。
この姿見が、2人の方を向いて置かれてあったの。
まるで、2人の舞台を見る観客席みたいに。
あの裏側なら、隠れられる。
そうは思ったけど……。
なかなか踏み出せなかった。
でも、とうとう好奇心が勝った。
天上から下がる裸電球は、わざとワット数の小さい電球を使ってるとしか思えなかった。
2人の舞台をほんのりと浮かびあがらせるだけで、壁際までは届いてない。
わたしは、手に持ったパンプスを、幕の外に置いた。
暗がりに揃えられたパンプスは……。
なんだか、身投げする人が残したみたいに見えた。
でも、そう思ったら、逆に度胸が座った。
そう。
この幕を抜けて、わたしは彼岸に渡るんだ。
別の自分に変わるんだって。
もう一度、2人の様子を確認する。
声はすでにうわ言に近く、忘我の境地って感じだった。
おそらく、お互いの目の中しか見えてないはず。
わたしは、幕の裾から這い出した。
そのまま、壁際に沿って移動する。
2人と鏡を結ぶ線上の位置で止まり、90度方向を変える。
鏡が作る死角に身を縮め、這い寄っていく。
おそらく、こちらを注視されたら、身を隠し切れてはいないはず。
でも、見られる心配は薄いようだった。
2人は、眼球を鎖で繋がれたように見つめ合ってたから。
ようやく、鏡の真裏に身を寄せた。
大振りな鏡は、おそらくわたしの全身を隠してくれてる。
わたしは、鏡の縁から、そっと顔を覗かせた。
2人の姿が、間近に見えた。
柱から突き出てるものの正体が、ようやくわかった。
それは、わたしの想像を超えた、最低に下品な代物だった。
張り型だったのよ。
わかる?
勃起した陰茎を象った作り物。
安っぽい肌色の質感が、よけいに淫猥に見えた。
バイブみたいな棒型じゃなくて、陰嚢を模した平らな基部を持ってる。
立てておけるのね。
その基部が柱に密着し、陰茎は水平におっ勃ってる。
もちろん、柱に括りつけられてるわけ。
それがまた、白い布でね。
まるで、褌を絞めたみたい。
褌の脇から、ちんぽを突き出した変態男。
その陰茎を、一生懸命2人で舐めてるの。
理事長は、張り型に舌先を這わせてる。
陰茎の肌には、誇張された血管が巡ってる。
浮き出た血管を舌が乗り越えるたび、舌体がビラビラと震える。
陰唇みたい。
女の口が性器だってことが、まざまざとわかる。
川上先生は、舌先で亀頭をなぞってる。
張り出したカリ首を、愛おしむように。
わたしはエラの張ったカリが好きなんですって、一生懸命舌が言ってた。
ここまで近づくと、2人の声もはっきり聞こえた。
はしたなくて、イヤらしい雌同士の会話。
「理事長先生……。
頬張りたい。
お口いっぱいに」
「ダメよ……。
お預けって言われてるでしょ。
舐めるだけって」
「欲しいの……。
ノドの奥まで」
「あぁ……。
そんなこと言わないで。
わたしも欲しくなっちゃう。
このカリで、おまんこの襞を研ぎ下ろされたら……。
どんなにいいでしょう」
聞いてるほうが、おかしくなりそうだった。
わたしは、スカートの上から、拳を股間に押し当てた。
太腿に力を籠めると、お汁が滲むのがわかった。
「理事長先生、もう我慢出来ない。
お口に欲しいの」
「ダメダメ。
叱られるわ」
「ちょっとだけ。
だって、ほったらかしにするあの方が悪いのよ」
「もうすぐよ。
もうすぐ戻ってらして、お預けを解いてくださるわ」
この会話で、わたしは総身に水を浴びたように震えあがった。
どうして気づかなかったんだろう。
目の前の2人は、どちらも後ろ手に縛られてる。
ひとりがもうひとりを縛ることは出来ても……。
残された1人は、自分自身を縛れない。
つまり、もう1人いたのよ。
この2人を縛った誰かが。
わたしは床に突っ伏し、身を縮めた。
その誰かに、真後ろから襲われそうな気がした。
ここから、逃げなければ。
もう一度、2人の視線を確かめる。
陰茎を舐めあがった理事長も、舌先を亀頭に這わせてた。
2人の女は向かい合い、舌先を炎のようにちらつかせてる。
「まだなの?
まだお姉さまはお戻りにならないの?」
「ほんとに遅いわねぇ」
わたしは、反転しかけた身を止めた。
お姉さま?
ということは、第3の人物は女性だ。
しかも、“あの方”という言葉を使うからには、それもひとり。
そうであれば、さほど恐れることはないではないか。
ここにいる2人は、後ろ手に縛られ、戦力にはならない。
もうひとり現れたとしても、実際には一対一だ。
逃げる隙はあるはず。
それに……。
この2人を縛った“女性”を、どうしても見届けたかった。
わたしは、反転させかけた身を戻し、再び鏡の後ろにうずくまった。
「ゆうちゃんにちょうだい。
このおちんちん、ちょうだい。
ゆうちゃん、お口一杯に頬張りたいの」
「またそんな赤ちゃん言葉使って。
ずるい子ね。
その甘ったれ声で、お姉さまに気に入られようとしてるのね」
「そんなことしてません。
どうしてそんなこと言うの?
おかしいわ」
「そうなの。
あの方が現れてから……。
頭の中が、大混乱。
ゆうちゃんが、ハーネスを付けたあの方に犯されてるとこ見ると……。
悲しくて切なくて、涙がボロボロ出るのに……。
下のお口からも、お汁がどんどん溢れてくる。
わかる?
この気持」
「すごくわかる」
「うそうそ」
「わかるもん」
「じゃ、今日は、わたしがお姉さまに犯されてもいい?」
「いや。
理事長先生のそんな姿、見たくない」
「“理事長先生”は、やめて。
そんな偉そうな肩書きで崇められる日常が、ほんとは好きじゃなかった。
あの方が現れてから、それがはっきりわかったの」
「あの方に命令されると、嬉しくて仕方ないの。
ご褒美に、足の指をしゃぶらせていただくのが、至福のとき」
「理事長先生……」
「だから、それはやめて。
名前で呼んで。
結(ゆい)って」
「ゆい?」
「そうよ。
ゆうとゆい。
まるで、双子の姉妹みたい」
「双子?」
「そう。
2人は、羊水の中にいるときから、裸で寄り添ってたの」
「そして今も?」
「そうよ。
だから今も、2人とも裸」
「でも、ゆうは、威厳のある理事長先生が好きなのに」
「2人だけのときは、これからもそうしてあげる。
でも、あの方の前では、双子の姉妹にさせて」
「ゆいとゆう?」
「そう。
ゆうとゆい」
「わかった」
「じゃ、いいでしょ?
今日は、わたしが犯される番。
ゆうに見つめられながら……。
欲しいままに犯されたいの。
あぁ。
まだかしら。
もう、我慢出来ないわ」
「どうする気?」
「このディルドゥを、あの方がハーネスに装着するまで待てないの。
今、欲しいの」
理事長は、その場に起ちあがった。
後ろ手に縛られた身体が、よろめいた。
脚が痺れたというより……。
ささやき交わした睦言のせいで、腰が抜けそうなほど興奮してるのがわかった。
股間から垂れ零した液体で、ナメクジが這ったような筋が、太腿を伝っていた。
「見て。
ゆいが後ろから犯されるとこ」
理事長は、腰をかがめながら顔をひねり、川上先生を見上げた。
「ダメよ。
叱られるわ」
「叱られてもいいの。
いいえ。
叱られたいの。
罰されたいの」
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。