中を掻き回す気にならなかったので、一番上に載ってた赤いバイブを手に取った。
「それにする?
ちょっとおとなしめだけど、ま、いいか。
持ってきて」
赤いバイブは、本体と電池ボックスが別になってた。
コードでつながってる。
両手を伸ばして、捧げるように先生に手渡す。
間近で見るのが、ちょっと怖かった。
「この子も、だいぶレトロ感が出てきたわね。
今のバイブは、たいがい本体に電池が内蔵されてるから。
でも、別になってる方が、軽くて使いやすいのよ」
先生は、男性器を象った本体に鼻を近づけた。
「おー、臭さっ。
使いっぱなしだから、強烈に臭うわ。
あなたも、手に臭いが着いたかもよ」
わたしは、手のやり場に困った。
ブラウスで拭く気にもなれないし。
「どっちで持ってた?
右だっけ?
嗅いでごらん、手の平。
汚くないでしょ。
わたしのなんだから。
ほら、手の平を鼻に持ってきなさい。
そう」
わたしは、近づけた手の平を、思わず遠ざけた。
唾の乾いたような臭いがした。
「ふふ。
やっぱ、臭い?
ちゃんとお手入れしなきゃダメね。
消毒用エタノールで拭くといいのよ。
スプレーボトルに入ってるやつがあるから。
あれをシュッシュとやって、ティッシュで綺麗に拭いてから仕舞いましょうね。
でも……。
この臭いが、癖になるのよね。
あー、いい臭い」
先生は、バイブを横にして、鼻下に近づけた。
鼻を左右に滑らせる。
ハーモニカを吹いてるみたいだった。
「知り合いの男でね。
中学校のころ、オナニー覚えて……。
ティッシュで始末しなかったってヤツがいたの。
出した精液、どうしてたと思う?
タオルで拭いてたのよ。
それも、洗濯しないままの同じタオルで。
なんでそんなことしたのかって云うと……。
最初のオナニーで出した精液を拭いたのが、そのタオルなんだって。
そのときは、オナニーしてるつもりなんかなくて……。
なんとなく、ちんちん弄ってたら……。
突然ヘンな気分になって、ちんちんから白い液が出た。
で、慌てて、手近にあったタオルで拭いたんだって。
以来、オナニーが病みつきになったわけだけど……。
毎回、そのタオルで拭いた。
ティッシュで拭こうという考えが、不思議と浮かばなかったんだってさ。
男性は、最初の女が忘れられないって云うけど……。
そいつにとっては、タオルがその人だったのかも?
で、毎回毎回、タオルで拭いて……。
そのタオルは、ベッドと壁の隙間に隠してた。
もちろん、洗わないんだから、タオルは悲惨な状態になってく。
糊で固めたみたいにガビガビだったって。
白かった生地にも、ベージュや薄茶の染みが広がってく。
何より強烈だったのが、臭いだそうよ。
でもね。
オナニーするとき、その臭いを嗅がずにはいられなくなったんだって。
で、毎回、ガビガビのタオルに顔を埋めながら……。
オナるようになったそうな。
はは。
わたし、何が言いたかったんだろ?
とにかく、臭いってのは、記憶に灼きつくものなのよ。
それも、深い部分にね。
このバイブも一緒。
この臭いを嗅いでるとね……。
うんこ漏らしそうなほど興奮するの」
先生の片手は、いつの間にか自分の股間に回ってた。
「あぁ。
やっぱり、立ちオナっていいわよね。
精神的に昂まって。
たった一度だったけど……。
このバイブ持って、夜の公園に行ったことがある。
まだ、若くて可愛かったころよ。
素っ裸にワンピだけ着て。
で、茂みの中でバイブを取り出し、立ったまま突っこむ。
めちゃめちゃ興奮したわ」
「途中から、もうどうなってもいい気がして……。
ワンピも脱いだ。
素っ裸。
ガニ股で、声まで出してお尻振ってると……。
あっという間にイっちゃった。
遠くに見える水銀灯の明かりが、人魂みたいに揺れて見えた。
わたしの記憶に残る、青春の1シーンね。
あー、思い出してきた」
先生は、その場にしゃがみこんだ。
和式便器を使う姿勢から、さらに両膝を開いた。
「見て」
先生は、股間を覆ってた手の平を、肌を滑らせながら引きあげた。
陰唇が、しゃぶしゃぶの肉みたいに湯気を立ててる。
その上には、剥き出しのクリトリスが、一つ目小僧のようにわたしを睨んでた。
「どう?
可愛い子が見えてる?
どんな憎たらしい女でも……。
クリだけ見てると、不思議と愛しさが湧いてくるものよ。
でも、今この子を苛めたら、あっという間にイッちゃいそう。
がまんがまん」
先生は、包皮を引き上げてた手の平を外した。
クリトリスは、柔らかい皮の帽子を被った。
写真でしか見たことないけど……。
なぜだか、雪の中で咲くザゼンソウを思い出した。
「でも、理事長のが十分湿ってないと、痛いかも知れないわね。
だから……。
わたしのお汁でヌメヌメさせてあげましょうね」
先生は、バイブを逆手に持った。
時代劇の女性が、自害する所作にも見えた。
切っ先が、陰唇をなぞる。
陰唇の襞が、茹で肉のように震える。
「はぅ」
紅色の刃が、あらかじめ穿たれた傷に潜りこんだ。
「あぁ、いぃ。
やっぱり馴染みの子は、襞の数まで覚えてるわ」
先生は、幾度もバイブを突き立てた。
紅色の刀身は、静脈血を噴き出してるようにも見えた。
「おっと、危ない。
危うく夢中になるとこだった。
一緒にクリ弄ってたら、止められなかったわ」
先生は、名残を惜しむみたいに視線を泳がせながら、バイブを引き抜いた。
体内から、紅色の抜き身が現れる。
「ほら。
湯気が立ってる」
そのまま、丸い亀頭部を鼻先に翳した。
「臭いぃ」
先生は、ブラウスの胸を起伏させながら、激しい呼吸をし始めた。
「美里も嗅いでみる?
たまらないわよ。
イヤじゃないでしょ?
わたしの臭いなんだから。
はは。
こんなことしてたら、また乾いちゃうわね。
こちらに、お待ちかねの人がいるのに」
先生は、しゃがんだままのアヒル歩きで、理事長の元に身を移した。
「理事長。
ほら、ぼーっとしないで。
あの薬、2度効きするみたいね。
大丈夫ですかー」
先生は、ハムのように括られた太腿を、ペタペタと叩いた。
「反応なし?
ふて寝かしら。
それとも、頭打って、ほんとにバカになっちゃった?
面白くないわね。
まだ大事な質問が残ってるのに。
嫌でも答えてもらいますからね」
先生は、理事長の足元ににじり寄ると、バイブを構えた。
亀頭を模した丸みが、無残に開かれた股間を覗いてる。
「ほら、頭が入っちゃうわよ。
あ、スイッチ入れた方がいいか」
先生が手元の電池ボックスを操作すると、騒々しい駆動音が立ち上がった。
ブリキのロボットが動き出したような音だった。
「昔のオモチャは、この音が弱点よね。
公園でしたときも、さすがにスイッチ入れる勇気は無かったわ。
でもここなら、どんな音立てても、誰に聞こえるわけもないし。
ほら、理事長。
なんなら、声も出していいんですよ」
先生は、生きもののように蠢き始めたバイブを、理事長の股間に翳した。
亀頭がゆっくりと切っ先を下げ、恥丘に着地する。
バイブに添えた指が反り、力が加わった。
「ほら、早く目を醒まさないと……。
クリが擦り切れちゃいますよ」
理事長の首が、大きく振れた。
「やっと起きたみたいね。
理事長ー。
何されてるかわかりますかー?」
「あ……、あぅ」
「いきなり喘ぎ声?
その前に、感想いってちょうだいよ」
「や、止めて……」
「ウソおっしゃい。
もっとしてもらいたいくせに。
あ、ちょっとタンマ。
もう一人の主演女優、バカに静かね」
あけみ先生は、理事長にバイブを押しあてながら、川上先生を振り向いた。
川上先生は、梁を背にぶら下がったままだった。
完全に眠りこんではいないようだけど……。
意識レベルが、かなり後退してるみたいだった。
「寝ちゃってる?
中毒かしら?
嗅がせすぎたかな。
美里、ちょっと近くにいってみて。
息してるわよね?
下の方、漏らしてない?
そう。
そんなら大丈夫ね。
余談だけど……。
2時間ドラマなんかで、人を気絶させるシーンってあるでしょ?
ハンカチで口を覆ってさ。
どういう薬使ってることになってる?
そうそう。
クロロフォルムよ」
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。