床に仰向いた理事長の真上に、川上先生がぶら下がってた。
「暑っつ。
美里、タオル取って。
ほら、その柱に下がってるでしょ。
バスタオル」
畳の脇の太い柱には、手を横に伸ばせば取れる位置に、白いバスタオルが下がってた。
タオルは、柱に付いた大きなフックに掛かってるようだった。
「うわっ」
何の気なしにタオルを外したわたしは、その場で飛び退った。
「はっはっは。
大成功。
いいリアクションしてくれるわね」
わたしが驚いたのは、タオルの方じゃなく……。
タオルが掛ってたフックだった。
柱からは、水平に男性器が突き出してたの。
さっきのあけみ先生の話で……。
理事長と川上先生が舐めてたというディルドゥに違いなかった。
「どう?
試してみる?
そいつにバージン捧げるってのも、ひとつの青春よ。
ははは。
冗談だって。
タオル、持ってきて。
ありがと」
あけみ先生は、形ばかりの仕草で顔を拭くと、タオルを放り捨てた。
そんなに汗なんて掻いてなかったみたい。
タオルは、わたしを驚かせたくて外させたんだろう。
そうとうテンションが上ってるようだ。
むしろ、拭かなきゃダメなのは、股間の方だった。
内腿には幾筋もの雫が伸びて、光を映すほど光ってた。
「お2人さん。
ご対面ですよ。
あらあら、まだ寝てる気?」
理事長は、上体だけ縛られたまま、畳に仰向いてる。
その上に被さるように、川上先生が吊られてた。
川上先生の姿は、あられもなかった。
戒められた両脚が、これ以上無いほどに開かれ……。
股間を隠すものは何もない。
しかも、その股間から会陰にかけては、明らかに濡れ光ってた。
上下から縄で潰された乳房は下を向き……。
乳首が、真下の理事長を指して突き出てる。
その2人を、柱の男根がじっと見つめてた。
一つ目の穴から、今にも精液が噴き出しそうだった。
「さてと。
舞台は整ったと云うのに……。
女優さん方は、いつまで寝てる気かしら。
理事長先生、起きてください。
もう、幕が上がってますわよ」
あけみ先生は、理事長の腕を爪先でつついた。
理事長の首が揺れ、うっすらと目蓋が開いた。
瞳はまだ、夢の中に溺れてるようだった。
「やっとお目覚め?
お望みどおり、2人一緒にしてあげましたよ。
川上先生も、いつまで寝てるつもり?
起きて」
あけみ先生は、川上先生の肩を小さく突いた。
川上先生の身体が、わずかに揺れる。
目覚めをむずかるように、縄が軋んだ。
川上先生の眉根に皺が寄った。
意識が戻りつつあるようだ。
「むぅん」
先に覚醒したのは、理事長だった。
彷徨ってた瞳が、真上で焦点を結んだ。
むろん、瞳が捉えたのは、自分に被さるように吊られた川上先生だった。
「ゆうちゃん……」
その声が聞こえたのか、続いて川上先生も目を覚ました。
理事長を呆然と見下ろしてた瞳に、生気が戻った。
「理事長先生」
「大丈夫?、ゆうちゃん」
川上先生の顔が歪んだ。
下を向いた瞳から、雨だれのように涙が零れた。
涙の粒は、理事長の額にぼたぼたと降り注いだ。
「あら。
いきなり愁嘆場なの?
そういうの、好きじゃないのよね。
どう?
ご気分は。
お望みどおり、2人一緒にしてさしあげましたのよ」
「岩城先生、もう許して。
お願い」
「ダメー」
「川上先生だけでも、助けてあげて」
「いえ。
岩城先生、お願いします。
理事長先生の縄を解いて」
「うらやましいわね。
仲がおよろしくて。
理事長。
お言葉どおり、2人一緒にしてあげたんだから……。
女王さまを呼んでちょうだい。
どうやったら来てくれるの?」
「わからないのよ。
ほんとなの。
突然現れるの。
塔の鍵も持ってないのに。
廊下に足音もせず、扉が開く音も聞こえない。
なのに、この部屋に突然降り立つの」
「呆れた。
それじゃ、ルルドのマリアさまじゃないの。
2人のベルナデッタの前に、ご降臨されるって云うわけ?
まるっきり宗教だわ。
エロ宗教ね。
そうか。
2人一緒でも、サカってなきゃダメなのか。
でも、残念ながら……。
これ以上、2人は近づけないのよ。
川上先生の縄、いっぱいいっぱいだし」
「だから解いて」
「バカ言うんじゃないわよ。
解いてあげたら……。
わたしの前で、レズビアンショーでも見せてくれるって言うの?
なわけないでしょ。
そうだ。
直接は、触れなくても……。
繋げてあげることは、出来るわ。
美里。
机のとこ行って。
さっき、バイブの入ってた引き出し」
机の方に身体を向けるとき、脚がもつれてよろけた。
自分の脚みたいじゃなかった。
夢の中の、ふわふわした地面を踏んでる感じ。
「ちょっと、美里、大丈夫?
酔っぱらいみたいよ。
場の空気に酔ったのかしらね。
この2人の噴きあげるエロ蒸気が、空中で醸されたのかも?
そうそう、その引き出し。
開けてみて。
クリップが入ってるでしょ。
銀色のチェーンが付いてるやつ。
そう、それ。
あるだけ持ってきて。
絡ませないようにね」
大小さまざまなクリップが、チェーンで繋がってた。
手の平に冷たい鎖を載せ、先生のところまで運ぶ。
もちろん、こんなことするの初めてなはずなのに……。
なぜだか、こういうことを幾度も繰り返してきた気がした。
ひょっとしてわたしは……。
どこか遠い古代の国で、こんな仕事に仕える小間使いだったのかも知れない。
「じゃ、その大きいやつを渡して。
あとのは、そのまま持ってるのよ」
先生は、クリップの片方を摘み、空中に吊るした。
真下に伸びる細いチェーンの先には、もうひとつクリップが付いてる。
「これ、何に使うものだと思う?
ふふ。
これはね、女と女の命を繋ぐ道具。
2人の体温がクリップを温め……。
チェーンを渡って繋がるの。
それじゃ……。
どことどこを繋げてあげましょうか?
お好きなところをおっしゃって。
理事長先生」
「お願い、もう助けて」
「女王さまが来たら、助けてくださるわよ。
早く来てくれるといいわね」
「あの方が来たら、あなたなんてやっつけられるんだから」
「ふふ。
そんな筋書きじゃ、面白みに欠けるわね。
やっぱり、どんでん返しが無いと。
ちょっとだけ教えましょうか。
このシーンの結末。
突然現れた女王さまは……。
そこで、昔の恋人と出会うのよ。
わかる?
それが、わたし。
わたしとあの女王さまは、高校生のころからの恋人なの」
「嘘よ。
そんなの、嘘だわ」
「ウソかどうかは、そのときのお楽しみね。
ほら、早く呼びなさいよ。
もたもたしてると……。
わたし、責め殺しちゃうかも。
大小便垂れ流して、骸になってからじゃ遅いでしょ。
ほら、早くってば」
「助けて!
お姉さま、助けて!」
「ほっほっほ。
ほんとに呼んだわ。
バカじゃないの?
でも、そんなオバカな理事長って、嫌いじゃありませんわ。
とーっても、可愛い。
可愛すぎるから……。
乳首、挟んであげる」
「ぎひぃ。
痛い痛い痛い。
痛いぃぃぃ」
「やかましい人ね」
「理事長先生!
大丈夫ですか?
岩城先生、外してあげて!
お願い」
「まぁ、妬けちゃうわ。
じゃ、川上先生が身代わりになってくださる?」
「代わります。
だから、理事長先生を助けて」
「素晴らしい。
わが校の校訓、“愛他の心”そのものだわ。
まさに、教師の鏡。
それじゃ、お望みどおり……。
挟んであげるわね。
理事長とおんなじとこ。
ほら」
「あぎ」
「ちょっと、そんなにロープ揺らさないで。
切れちゃうでしょ。
どう、ご気分は?」
「い、痛いぃ」
「外してほしい?
じゃ、おっしゃい。
理事長のはそのままにして、自分のだけ外してくださいって」
「いやです。
理事長先生のを外して」
「まぁ、ご立派。
理事長先生、お聞きになりました?
校訓の真髄、ここにあり!」
「ゆうちゃん!
大丈夫?、ゆうちゃん。
お願い、ゆうちゃんだけは助けて」
「でもわたし……。
こういうの、嫌いなんだなぁ。
お互いにかばい合うっての。
化けの皮、剥がしてやりたくなっちゃう」
「ゆうちゃん、痛い?」
「だ、大丈夫です。
わたしは大丈夫」
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。