あけみ先生は、川上先生に近づいた。
川上先生は、顔を背けたまま動かない。
あけみ先生は、ゆっくりと上体を折ると、川上先生の髪に鼻を埋めた。
「いい香り……」
川上先生は懸命に頚を折り、逃れようとした。
「そんなに嫌がらなくてもいいでしょ。
そう言えば、思い出した。
バスの中で、一度だけ痴漢シーンを見たことがあるの。
でも、あれは痴漢行為とは云えないのかな?
だって、女性は気づいてなかったんだから。
若い女性だったんだけど……。
その後ろに、男が立ってた。
ちょっとくたびれた、失業中みたいな感じの中年男。
そいつがね、若い女性の後ろから、髪の匂いを嗅いでるの。
もちろん、鼻を突っこんだりはしてなかったけど。
うっとりと目を閉じて、ほんとに気持ちよさそう。
ていうか、ほんとに気持ち良かったんだと思う。
だって、右腕のジャンパーの袖が、小刻みに動いてたもの。
あれは絶対、袖から出た手が、自分のちんぽ弄ってたのよ。
ひょっとしたら、フィニッシュまでいっちゃったかも?
女性のスカートのお尻には、工作用の糊みたいなのがベッタリ?
ほほ。
その時の男の気持ち、今わかったわ。
女性の後ろから、髪の匂いを嗅ぐって、こんなにいいものなのね。
わたしもこのまま、しちゃおうかしら。
あの時の男みたいに。
でも、精子をかけられないのが、ほんとに残念。
せめて、こすりつけようかしら。
そのまんまるなお尻に、おまんこのお汁を」
あけみ先生は、腰を突きつけるように、にじり寄った。
「い、いやぁぁ」
川上先生が悲鳴を噴きあげ、身を捩った。
「ゆうちゃん?
ゆうちゃんなの?」
振り返ると、理事長が懸命に頚をもたげてる。
「理事長先生。
助けて……」
「どうして……。
どうして、ゆうちゃん……。
いえ、川上先生にまで、こんなことするの!
岩城先生、どうして!」
「ふふ。
ゆうちゃん、か。
まさか……。
学園の理事長と英語教師が……。
レズビアンの関係にあるなんてね。
驚いちゃうわよね」
「そんな!
違います」
「違いません。
だってわたし、見ちゃってるんだもの。
お2人のお熱い場面。
鼻の穴膨らませて、ふーふーいいながら、はしたないことしてらっしゃいましたよね。
ここで」
「ウソ……」
「ウソじゃないことは、お2人が一番ご存知でしょ。
なんなら、証拠を見せましょうか?
佳境の場面の写真、撮ってありますのよ」
「目的は何なの?
岩城先生、これは明らかに犯罪よ。
こんなことまでして、どうしようって言うの!」
「どうしようかしら?
何されたい?
最後は、2人の愛の集大成に、心中させてあげましょうか?
わたしがお手伝いしますわよ。
このロープで。
お2人の細い頚を並べて縛って、締めあげてさしあげます。
お2人は、頬を寄せ合いながら……。
互いの顔から、目玉や舌が飛び出すのを見届けて死んでいくの。
噴きあげる便臭の中でね。
どう?」
「狂ってる……。
狂ってるわ」
「そうよ。
だから、ほんとに何するか、わからないわよ」
「助けてあげて。
川上先生だけは、助けて」
「ゆうちゃん、でしょ?
言ってご覧なさい」
「……ゆうちゃんを、助けて」
「まぁ、妬けちゃうわね。
でも、理事長。
こんな目にあってるのは、そのゆうちゃんのせいなんですのよ。
この塔への鍵をわたしにくれたのは、川上先生なんですもの」
「ウソです!
そんなこと、してません!」
「したのよ。
もちろん、そんなつもりは無かったんだろうけど」
あけみ先生は、オーバーブラウスのポケットから、鍵束を取り出した。
2人に見せつけるように指先で吊るし、鈴のように振ってみせる。
擦れあった鍵は、しゃらしゃらと儚い音を立てた。
「夏休みに、更衣室のロッカーが入れ替えられたでしょ。
前のロッカーは、ほんとに酷かったですよね。
あんなところに予算をケチって、旧校舎のロッカーが転用されてたんですもの。
でもさすがに、鍵の無くなったのやら、扉が閉まらなくなったのが多くなって……。
ようやく新品に入れ替えられることになった。
搬入は、夏休み。
でもその日、搬入に立ち会うはずだった事務員が休んじゃったのね。
ま、父親が急死したんじゃ仕方ないわ。
で、たまたま事務員からの電話を受けたわたしが、代わりに立ち会うことになったわけ。
立ち会うったって、大したことするわけじゃないの。
ここに入れてくださいって、業者さんを案内して……。
後は、設置後に検収するだけ。
何事もなく終了したわ。
新しい金属の匂いが、部屋いっぱいに広がってた。
で、業者さんに御苦労さまでしたって言おうとしたら、鍵をひとつ渡されたの。
もちろん、個々のロッカーに掛かる鍵は、それぞれ鍵穴にぶら下がってる。
リングで繋がれたスペアキーも一緒にね。
首を傾げたわたしに、業者さんは、その鍵の役割を説明してくれた。
マスターキーだったのよ。
今時のロッカーでは普通らしいけど、思いもつかなかったわ。
つまり、個々の扉は、それぞれの鍵で開け閉めするわけだけど……。
ほかにもうひとつ、すべての扉を開閉できるキーがあったわけ。
そのときは感心しただけで、スカートのポケットに仕舞ったんだけどね。
もちろん、その鍵をどうこうしようなんて、考えもしなかった。
事務員が復帰したら、渡すつもりだったわ。
でも、父親の葬儀だから、忌引きが長かったのよ。
で、ポケットに入れたまますっかり忘れちゃって……。
そのスカート、たまにしか穿かないやつだったから、ずっとワードローブに下がったまま。
気づいたのは、スカートをクリーニングに出そうとしたときだった。
鍵を受け取ってから、10日も経ってた。
そうなると、今さら出しにくいわよね。
マスターキーをずっと持ってたなんてことが知れたら、なに疑われるかわからない。
それに……。
事務員を始めとして、マスターキーがどこにあるかなんて、誰ひとり聞かなかったのよ。
つまり、新しいロッカーにマスターキーがあるってこと、誰も知らなかったわけでしょ。
そんなら、最初から無かったことにすればいいやって……。
机の奥に仕舞っちゃった。
そんときは、それでお終い」
「あれは、2学期が始まったばかりのころだった。
放課後。
川上先生の後ろ姿を見かけた。
ぷりぷりのお尻を見送ってると……。
先生は、真っ直ぐに塔への扉に向かって行った。
あの塔は、一般教師には無縁の場所のはず。
不思議に思って見てると……。
川上先生は、扉の前まで来て振り返る素振りを見せた。
あわてて、廊下の曲がり角に身を隠した。
わたしがコソコソしなきゃならない理由は無いんだけどね。
でも、川上先生の挙動には、そうさせる怪しさがあったの。
好奇心が抑えられず……。
角から偶然出てきたって感じで、もう一度廊下に踏み出した。
川上先生は、もう背中を向けてた。
で、ポケットから何か出すと、それを扉に差しこんだ。
扉が開いた。
驚いたわ。
一般教師が、塔への鍵を持ってるなんて。
川上先生が扉の向こうに消えた後……。
扉に駆け寄り、ノブを回してみたけど、開かなかった。
向こう側からロックしたのね。
俄然、探究心が湧いた。
どうして、わたしより後輩の川上先生が、塔への鍵を持ってるのか。
川上先生が鍵を差しこんだとき、手の平から革のストラップが下がってるのが見えた。
そのストラップには、見覚えがあったの。
すぐに思い出したわ。
更衣室で見たんだって。
わたしと川上先生のロッカーは、通路を挟んで向かい合ってる。
つまり、ロッカーを使うときは、背中を向けてるわけだ。
偶然、更衣室で一緒になることも、珍しくはなかった。
お互い後ろを向いて他愛ない話をしながら、わたしは川上先生の背中を見てた。
なぜ見えるかと云うと……。
ロッカーの扉の裏には、小さな鏡が付いてるから。
扉を一杯に開いてると、真後ろが見えるのよ。
鏡に映る背中は、ほんとに魅力的だった。
豊かな肉付きが、ブラウス越しにも見て取れた。
真っ白いうなじから続く肌を想像する。
きめが細かくて、手の平を当てたら、しっとりと吸い付くんじゃないかってね。
男だったら、絶対に襲いかかってたわね。
実際、2人きりのときは、妙な気が起きかけて困ったわ。
知らなかったでしょ?
他愛ない話をしながら……。
わたしが頭の中で、何を考えてたかなんて」
ふふ。
ここでわたしが、いきなり裸になったら……。
この先生はどんな反応するかしら、なんて妄想してたのよ。
ま、実際にやったら……。
呆れられて逃げられるだけでしょうけど。
妄想の中ではそうはいかない。
そう。
妄想の中のわたしは、半陰陽。
つまり、両性具有。
クリトリスが、長大な男根に変化してるの。
わたしは、手早く服を脱いでいく。
ボタンを外す指がもどかしく震える。
ブラウスとブラをロッカーに放りこみ……。
スカートを下ろす。
ショーツのウェストから、男根が顔を覗かせてるのが見えた。
射出口から漏れた先走り汁が、ストッキングを濡らしてる。
ストッキングごとショーツを下ろす。
踏みつけて脱ぐわ。
晴れて全裸になれたわたしは、男根を握り締める。
鏡の中の先生は、まだわたしの変貌に気づいてない。
わたしは、おヘソまで届く男根を吊り上げたまま、操縦桿のように振り回す。
男根を追って、わたしの身体も反転する。
川上先生の背中が、目の前にあった。
わたしの手の平は、すでに男根を擦リ始めてる。
そのまま、背中に近づいてく。
ようやく気配を感じたらしい川上先生が、後ろを振り向く。
笑顔のまま、顔が凍り付くわね。
「川上先生……。
やっと見てくださいましたわね。
どんなご感想です?
男根をおっ勃てた女が……。
あなたを見ながら、擦ってるんですのよ」
「……」
先生の顔から、笑顔の仮面が剥がれ落ちる。
恐怖と嫌悪の表情を隠そうともせず、先生は身を翻す。
でも、わたしは逃さない。
逃げようとする腕を掴む。
「離して!
痛い痛い」
そう。
両性具有のわたしは、男性の膂力を持ってるの。
腕を捻りあげられ、川上先生は膝を折る。
その背中を押しつぶすと、先生はあっけなく床に突っ伏した。
でもすぐに、這って逃げようとする。
その肩を捉えて、身体ごと裏返す。
逃げる間を与えず、馬乗りになる。
抵抗して振りあげる両手首を掴むと、もう先生は身動き出来ない。
大きく起伏する胸の上で、男根が上下に振れてる。
「川上先生……。
わたし、ずっと先生に興味ありましたの。
もちろん、性欲の対象として。
今日はもう、我慢できませんわ。
おわかりになるでしょ?
ちんちんが、こんなに大きく膨らんじゃって……。
先生のおまんこに収まりたいって、ピーピー泣いてるんですもの。
ちんちんの願い、叶えてくれませんか?
そうすれば、決して乱暴なことはいたしませんわ。
ほんのいっとき、おまんこをお貸しくださるだけでいいの。
わたしのちんちんが射精するまでの、ほんのいっとき。
先生のおまんこの中に、臭い精液を、いっぱい出させていただきたいの」
「い、いや。
いやぁぁぁぁ」
「うるさい!」
わたしは、手首を掴んだ手を離すと、思い切り振りかぶる。
頬骨に打ち下ろす。
芯まで響く音と共に、先生の顔は真横を向く。
「痛いぃぃぃぃ」
「痛いでしょう?
これが、男性の力よ。
もう一発、味わってみる?」
「ひっ」
わたしが、腕を振り上げると、先生の顔は幼児のように歪んだ。
思ったとおり、痛みには屈服するタイプね。
眉根に皺を寄せて、目をつぶっちゃってる。
そのあからさまな恐怖が、わたしの嗜虐心に火をつけるの。
もう片一方の手首を離すと、反対側の頬に打ち下ろす。
ビシイッ!
肉塊を叩く湿った音が響く。
先生の顔は反対側を向き、ノドまで伸びちゃってる。
「あぅぅぅぅ」
その顔はもう、人の言葉を発せないほど、苦痛と恐怖に支配されてた。
わたしは、容赦なく腕を振るう。
大鎌となったわたしの腕は、弱々しく遮ろうとする両手を、葦のように薙ぎ払う。
バシッ!
ビシッ!
湿った厳しい音が数度響くと、先生はもう放心状態。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔から、魂が飛んじゃってる。
半開きの唇が弱々しく震え、齧歯類みたいな前歯が覗いてる。
小動物を嬲る獣の歓びが、お腹の底から突きあがる。
真っ白なブラウスに両手を掛けると、左右に引き千切る。
弾け飛んだボタンが、噴水めいた軌跡を見せて視界の外に消えて行く。
現れたのは、真っ白いふたつの丘。
もちろん、ブラで隠されてる。
わたしの両手がワイヤーにかかると、真上に捲りあげる。
ブラと変わらないほどの真っ白い肉球が転び出る。
その頂点には、トッピングみたいな大ぶりの乳首。
でも、スライスした生ハムのような、綺麗な肉色。
わたしは、思わず両手の指で摘む。
指の腹で潰しながら、捻る。
「先生……。
こんなことされながら、乳首が起っちゃいましたよ」
「う、うそです」
先生は、ようやく放心状態から脱したみたいで、再び抵抗を始めた。
華奢な指が、わたしの前腕を掴む。
わたしは、苦もなく振りほどくと、腰を浮かし……。
先生の身体を反転させる。
うつ伏せになった先生の背中から、ブラウスを剥ぎ取る。
「綺麗な背中。
こんな背中には、ブラなんて無粋なもの似合いませんわ」
ブラのホックを外し、両腕から抜きあげる。
「この背中に相応しいのは……。
縄。
こんなふうに」
妄想って便利よね。
川上先生の背中には、一瞬にして縄が打たれた。
縄に括られた腕が、芋虫みたいに蠢く。
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。