放課後の向うがわⅡ-46


 理事長の背中が浮きあがった。

「あら。
 手伝ってくれるの。
 この、最後のクリップ、わたしがどこに付けたいか、わかってくださってるみたいね。
 そうよ。
 この鎖は、川上先生と理事長を繋ぐ、架け橋。
 それでは、繋いであげましょうね。
 目の前にぶら下がってる、ここに!
 えい」
「あぎゃぁぁぁぁあ。
 痛い痛い痛いぃぃ」

 川上先生が、悲鳴を噴きあげた。
 わたしは、思わずカメラを抱きしめた。
 カメラの固い肌で、腕に跡が残るほどだったと思う。
 でも、視線は川上先生から逸らせなかった。
 クリップは、川上先生の股間に食いついてた。
 川上先生の痛がりようからすれば、陰毛を挟んでるわけじゃない。
 だとすれば……。

「ほんとに痛い?
 ちゃんと痛覚はあるのね。
 ほら、そんなに暴れると、伸びちゃいますよ。
 あんまりビラビラになっちゃ、彼氏に嫌われちゃうわ」
「痛い。
 ほんとに痛いぃ。
 岩城先生、外して!
 お願い!」
「痛いからやってるんじゃありませんか。
 ほら、そんなに動くと、舌を吊られてる理事長が苦しいでしょ」

 川上先生は、連獅子のように髪を打ち振りながらも、懸命に上体を折り曲げた。
 理事長の舌に、テンションを掛けないための努力だろう。
 しかし、宙吊りで身体を傾けたせいか、逆に下半身が大きく揺らいだ。
 クリップに挟まれた陰唇が、ゴムみたいに伸びるのが、はっきりと見えた。
 チェーンの対岸では、理事長の乳首が、無慈悲に引き伸ばされた。
 2人の顔は、苦しげに歪んだ。
 でもわたしには……。
 縄に括られ、チェーンで繋がれた2つの肉体が、この上もなく美しく見えた。
 すべてを脱ぎ捨て、性器を剥き出した古代の女神。
 わたしは、思わずカメラを構えてた。

「あら、美里。
 写真部員らしくなったじゃない。
 そうよね。
 ここは撮りどこよね」
「くぅ」
「あ。
 待って。
 この女、バイブ吐き出した。
 すっげー膣圧。
 突っこみなおそうか?
 ……。
 やっぱ、いいや。
 この方が、丸見えだもんね。
 これで、まんこから精液零れてたら、最高なんだけど。
 ま、そこまでは無理ね。
 じゃ、撮って」

 あけみ先生は後ずさり、構図の外に消えた。
 画角の中央に、肉のオブジェを収める。
 汗ばんだ両脇を締め、シャッターを切る。
 ミクロコスモスの爆発みたいに、フラッシュが光った。
 吐き出されたフィルムを手に取り、画像が浮かび上がるのを待つ。
 あけみ先生が、脇に寄ってきた。

「出てきた出てきた。
 うん。
 いいよ。
 入部試験、合格」

 あけみ先生は、フィルムを翻し、わたしの眼前に掲げた。

「モデルさんにも見せてあげましょう」

 先生は舞台中央に戻ると、2人の顔の前に、フィルムを翳した。
 2人は目を逸らし、見ようとしなかった。

「ちゃんと見なさいって。
 自分がどんな姿してるか。
 スゴい格好よ。
 楽しみだわ。
 明日朝、一番に来て、これを掲示板に貼り出してあげるわね。
 生徒たち、大騒ぎよ」
「止めて。
 それだけは、止めて」

 川上先生は、上体を伏せたまま、懸命に顔を上げて訴えた。

「それなら……。
 ともみさんを、ここに呼んで。
 あなたたちがお姉さまと慕う、あの人よ。
 2人でいるときなら、来てくれるんでしょ?」
「呼べば来てくださるわけじゃないんです。
 あの方は、み心のままに現れるの」
「はは。
 まるでマリアさまじゃない。
 全裸で交合する、2人のベルナデッタの前に……。
 蝋燭を持った、無慈悲なマリアさまが現れる。
 悪くないわ、この脚本。
 わたしに撮らせてもらえないかしら?
 大冒涜ドラマ。
 ほら、早く呼んで」
「だから……」

「早く呼ばないと……。
 理事長が、苦しみますわよ」

 あけみ先生は、理事長の肩に足裏を置き、前後に揺さぶった。

「はが。
 はがが」

 理事長の舌が、カエルのように引き伸ばされる。

「ほら、痛いって」
「止めて!
 止めてぇ。
 呼びます。
 呼びますから。
 お姉さま!
 お姉さま、助けて!」
「まぁ、呆れた。
 ほんとに呼んだわ。
 恥ずかしくないのかしら。
 ウルトラマンでも呼んでるつもり?
 子供じゃあるまいし。
 美里、ボーっとしてないで、もっと撮って。
 おんなじとこに突っ立ってちゃダメよ。
 写真は、フットワーク。
 脚を使って動き回る。
 いろんな角度から撮るの。
 そう……。
 やっぱ、理事長の下手から舐めあげるショットがいいわね。
 足元に回って。
 行き過ぎ!
 そこまで回ったら、川上先生が半身になっちゃう。
 少し戻る。
 そう。
 ツルツルまんこ、しっかり入れてね」

 わたしは、夢中でシャッターを切った。
 フラッシュが光る。
 ファインダーの向こうの世界が、カメラに吸いこまれる。
 全能感に似た高揚を感じた。
 出てきたフィルムを、電球の明かりに翳す。
 わたしの切り取った世界が、ゆっくりと浮かびあがる。

「ふふ。
 楽しそうじゃない。
 適性があるかもよ。
 よーし。
 それじゃ、ちょっと鍛えてやるか。
 わたしの言うとおり動くのよ」

 あけみ先生は、さまざまな角度からの撮影をわたしに命じた。
 わたしは、指示に追い回されるまま、被写体の周りを巡った。
 何枚か撮るうち……。
 あけみ先生にとっては、わたしも被写体のひとつなんじゃないかって思えてきた。
 あけみ先生の目には、舞台の2人と、それを撮るわたしが入ってる。
 縄で括られた、豊満な全裸の女性が2人。
 それを撮る、小さな尻を剥き出した子供。

「ほら、美里。
 今度は、そっちから。
 また行き過ぎ。
 よし。
 下がって。
 柱のディルドゥ、ちゃんと入ってる?
 巨大なちんぽが、2人を見下ろしてるとこ。
 あ、サラシの布も入れよう。
 精液の象徴みたいになるわ」

 理事長は、無毛の股間を剥き広げ、無防備に仰のいてる。
 両脚は折り畳まれ、赤ん坊がオシメを替えてもらう姿勢だった。
 でも、いくら無毛と言っても……。
 その中心部に穿たれた裂傷は、赤ん坊とはまるで違うものだった。
 さっきまでバイブを咥えてた名残か……。
 陰唇が、わずかに開いて見えた。

 川上先生は面伏せたまま、眉根に皺を寄せてる。
 少年阿修羅と称される仏像のようだった。
 しかし……。
 その首から下は、少年ではあり得なかった。
 縄に区画された胸部では、巨大な乳房が潰されてる。
 腹部には、パン生地みたいな肉の括れが、幾本もうねってる。
 その下には、黒々とした陰毛が、野火の跡のようにに広がってる。
 中心には、まだ火が残ってた。
 そう。
 烟る陰毛を分け、陰唇が覗いてる。
 もっとも印象的なのは、尻から太腿にかけての、圧倒的な量感だった。
 柱の男根が、その尻を指弾するように、宙に突き出てる。
 柱に垂れるサラシが、ほんとに精液みたいに思えた。
 わたしは、構図の縁を裁つように、丁寧にシャッターを切った。

「美里、次はあっちからよ。
 ぼやぼやしない。
 違う!
 どっち行くのよ。
 逆だってば。
 美里!
 ミサ!」

 わたしが“ミサ”と呼ばれたのは、このときが初めてだった。
 そう。
 この瞬間に、わたしは“美里”から“ミサ”に変わったのかも知れない。

「あ」

 フラッシュが光らなくなった。

「電球、使い切ったわね。
 取り替えて来て。
 さっきの引き出しに、もう1本入ってるから」

 新しいフラッシュバーを取って戻ると……。
 あけみ先生は、2人の前に立ち、背中を見せてた。
 と言うより……。
 お尻を見せてた、と言うべきかもね。
 腰で切れたオーバーブラウスの下には、空豆を合わせたみたいな臀部が剥き出てる。
 わたしは、思わずカメラを構えてた。
 3人の女性を構図に入れると、シャッターを切った。
 フラッシュが、遠い日の幻燈のように灯った。
 あけみ先生が振り向いた。

「わたしのこと、撮ったのね。
 ふふ。
 フラッシュ焚かれると、気持ちが昂ぶるみたい。
 モデルさんって、みんなこんな心理になるのかしら?
 脱ぐはずじゃなかったのに、いつの間にか裸になってた、なんて話を聞くけど……。
 ほんとかもね。
 フラッシュを浴び続けると、トランス状態に入っていくのかも。
 なんだか、気分出てきちゃった。
 このまま立ちオナしちゃおうかな。
 オカズは目の前にあるし。
 それも、これ以上無いほど、豪華なオカズ。
 よし。
 わたしがオナってるとこ、後ろから撮って。
 縛られた2人の女をオカズに、立ちオナする変態女。
 斬新な題材だわ。
 始めるわよ」

 あけみ先生は、両脚を開き、腰を沈めた。
 形のいい脚は、膝で“く”の字に曲がり、外側に開いてる。
 いわゆるガニ股の姿勢だった。
 尻のあわいから、わずかに陰唇が覗いてた。
 その陰唇が、引き攣れるみたいに動いた。
 前から回った手が、すでに股間を嬲ってるようだ。
 空豆のような尻たぶが窪み、翳が生まれた。
 翳は、はためきながら息づいた。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。