放課後の向うがわⅡ-33

「でもね……。
 あんな場面は、大ウソなのよ。
 ま、ウソというか、ドラマ共通の方便ね。
 『クロロフォルムを染みこませたハンカチで口を覆われると、人は気絶する』ってのは……。
 フィクションの世界だけの約束事。
 実際には、クロロフォルムにそんな作用はないの。
 せいぜい、咳が出たり吐き気がする程度。
 もちろん、大量に吸引すれば気絶するけど……。
 その場合、もう目覚めないわよ。
 腎不全で死んじゃうから。
 ということで、わたしが川上先生に使ったのは、ごくポピュラーな溶剤だけど……。
 青少年にこういう知識を与えちゃマズいから、あなたには内緒ね。
 どう?
 川上先生、バカになってない?
 はは。
 その状態じゃ、わからないか。
 起こしてあげて。
 せっかく、これからいい場面が始まるんだから。
 ダメダメ。
 揺さぶったくらいじゃ起きないわよ。
 ほっぺた、張り飛ばすのよ。
 出来ないの?
 使えない助手ね。
 じゃ、わたしがお手本みせようか」

 先生は、理事長の足元から起ちあがると、わたしの傍らに身を移した。

「これ、持ってて」

 赤いバイブを手渡された。
 こわごわ持ったら落としそうになり、思わず抱きかかえた。

「いい。
 よーく見てなさいよ。
 眠れる美女は……。
 こうやって起こすの」

 先生はわたしに背を見せ、川上先生に正対した。

「両脚を踏ん張る。
 この姿勢よ。
 どう?」

 先生は、両脚をパンタグラフみたいに開いた。
 いわゆる、がに股ってやつ。
 わざとしてるとしか思えなかった。
 わたしに見せつけるために。
 そう。
 だって、先生の下半身は剥き出しなんだもの。
 オーバーブラウスの途切れたウェストの下は、一糸まとわぬ素っ裸。
 肉色のパンタグラフは、この上なく卑猥に見えた。

 先生は、そのまま右手を振りかぶり、宙を薙ぎ払った。
 肉を打つ音と共に、川上先生の顔が真横を向いた。

「先生。
 お目覚めの時間ですわよ」
「ぐ……」
「寝起きが悪い子ね。
 もう一発、モーニングコールお見舞いしましょうか?」

 川上先生の首が、ようやく自力で起ちあがった。

「岩城先生。
 下ろして……。
 お願い」
「ダメー」
「下ろして。
 下ろして!
 下ろしてぇぇぇぇぇ」

 川上先生は、全身をよじりながら絶叫した。


「気が済みました?
 あんまり喚くと、綺麗な声が掠れちゃいますよ。
 さてと。
 やっと観客が起きてくださったから……。
 さっきの続きね」

 あけみ先生は、川上先生に背を向け、わたしに正対した。
 わたしの前に、手の平が差し出される。
 一瞬、何のことかわからなかったけど……。
 ようやく気づいて、抱えてた荷物を手渡した。
 そう。
 真っ赤なバイブ。

「これ、気に入った?
 抱きしめちゃって。
 暖かくなってる。
 こいつにバージン捧げてみる?
 ほほ。
 冗談よ。
 それじゃ、お待ちかねの人の方に、突っこんで差しあげましょうね」

 先生は、わたしの前から身を翻した。
 バイブと電池ボックスを片手ずつに持ち、猫をからかうみたいに背を丸め、理事長の足元に戻った。

「お待たせ!
 理事長、見えるでしょ?
 川上先生が、起きてくださいましたよ」

 あけみ先生は身を開き、理事長の視界を通した。

「ゆうちゃん……」
「そう。
 可愛いゆうちゃんね。
 川上先生も、何かひとことどうぞ」
「理事長先生!
 助けて」
「バカじゃないの?
 こんな格好で、何が出来るっていうの。
 出来ることはね……。
 無様にヨガってるとこを、あなたに見せることくらいよ。
 それじゃ……。
 レーッツ、ショータイム」

 バイブの駆動音が立ちあがった。
 あけみ先生は、真っ赤なバイブを顔の前に翳した。

「やっぱり、長年使ってたから……。
 見ただけで興奮するわ。
 刷りこみってやつかしら。
 ちょっと、摘み食いしちゃお」

 先生の舌が零れ、駆動するバイブを舐め始めた。
 視線は、理事長を見据えたままだった。
 理事長の顔は、恐怖と嫌悪を隠し切れないようだった。
 あけみ先生は、頬肉を上げて笑うと、バイブを咥えた。
 両目を寄せ、困ったような顔をしながら挿出する。
 髪の毛が宙を跳ね踊った。
 顔の輪郭がブレるほどに高まった速度が、しだいに緩やかになり……。
 ようやく先生は、バイブを吐き出した。
 湯気の立つバイブを、ソフトクリームみたいに掲げ、下から見入ってる。

「あー、美味しい。
 羨ましいわ。
 こんな美味しいもの、下のお口で堪能できるんですもの」

 あけみ先生は、掲げたバイブを揺らしながら、理事長に、にじり寄った。

「ひぃぃ。
 助けて」

 理事長は背中をうねらせ、懸命に畳を後退ろうとした。
 腹筋が地形図のように浮き上がり、後頭部が畳の縁から落ちた。

「まぁ。
 器用なことなさるのね。
 でも、こういうの……。
 “無駄な抵抗”って云いますのよ」

 あけみ先生は、理事長の両腿の縄に手を掛けると、自らの体重を後ろに預けた。
 理事長の努力も虚しく、その身体は、畳の中央に引き戻された。

「美里。
 なに突っ立ってるの。
 もっとこっち来なさい。
 見るの初めてじゃない?
 女性器が、男性器を咥えこむとこ。
 しっかり見てるのよ」

 あけみ先生は、トーチを傾げるようにバイブを倒していった。
 聖火台は、理事長の股間だった。

「あひぃ」

 理事長の背中が、持ちあがった。

「あら、敏感。
 触っただけなのに。
 ひょっとして、クリ……。
 もう、勃起してます?」

 あけみ先生は、手元を覗きこみながら、位置を調節してるようだった。

「あぅぅ」
「お、反応が良くなった。
 やっぱりここね。
 クリに直より……。
 ちょっと離して、振動を伝えた方がいいでしょ」
「やめて……。
 しないで」
「どうして?」
「はぅ」
「感じちゃうから?」

 理事長は、頭を幾度も横振った。
 あけみ先生の言葉を否定するというより……。
 内奥から湧きあがる感覚から逃れようとする仕草に見えた。

「ほーら、滲んできた。
 これなら、ローションなんて要らないわ。
 スゴいスゴい。
 アワビが潮吹いてる。
 美里、見てごらん。
 陰唇が捲れて……。
 雛鳥みたいにさえずってる。
 早くちょうだいって」

 理事長の陰唇は、バイブの振動に共鳴して、ゼリーのように細かく震えてた。

「それじゃ、お望みどおり、入れてあげましょうね。
 ほら、もっと股開いて」

 あけみ先生は、片手で理事長の膝を押さえつけた。
 もう一方の手が、持ちあげたバイブを掴み直す。
 短刀を構えるようだった。
 赤い切っ先が、理事長の正中線を灼きながら、再び仰角を下げていく。
 あけみ先生の二の腕に、腱の筋が走った。

「あぎぃ」

 赤い亀頭が、焼き鏝のように押しあてられた。

「はは。
 ごめんなさい。
 クリ、直撃しちゃったわね。
 もちろん、わざとですけど。
 痛かった?
 それじゃ、あんまり焦らしたら可哀想ですので……。
 入れてあげましょうね」

 思わず先生の手元に見入ったとき、後ろで柱の軋む音がした。

「止めてえ!」

 川上先生だった。
 マリオネットみたいに宙で藻掻きながら、懸命に首をもたげてる。
 自らの無様な姿を顧みない、必死な仕草に見えた。

「理事長、観客から掛け声がかかりましたよ。
 ヨガリ甲斐、ありますね。
 それじゃ、いきますよ。
 それっ」

 あけみ先生の腕が、短刀を突き出すように動いた。

「わひぃ」

 理事長の顎が仰け反った。


 バイブが、理事長の股間に埋もれてる。
 わたしは、思わず下腹を押さえてた。

「どうしたの、美里?
 気分出てきた?」

 わたしは、首を横振った。
 その仕草に嘘は無かった。
 あんな棒みたいに太いものが体内に入ってることを思うと、自分の身が突き刺されてるようだった。

「理事長の方は、もうお楽しみよ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-32

 中を掻き回す気にならなかったので、一番上に載ってた赤いバイブを手に取った。

「それにする?
 ちょっとおとなしめだけど、ま、いいか。
 持ってきて」

 赤いバイブは、本体と電池ボックスが別になってた。
 コードでつながってる。
 両手を伸ばして、捧げるように先生に手渡す。
 間近で見るのが、ちょっと怖かった。

「この子も、だいぶレトロ感が出てきたわね。
 今のバイブは、たいがい本体に電池が内蔵されてるから。
 でも、別になってる方が、軽くて使いやすいのよ」

 先生は、男性器を象った本体に鼻を近づけた。

「おー、臭さっ。
 使いっぱなしだから、強烈に臭うわ。
 あなたも、手に臭いが着いたかもよ」

 わたしは、手のやり場に困った。
 ブラウスで拭く気にもなれないし。

「どっちで持ってた?
 右だっけ?
 嗅いでごらん、手の平。
 汚くないでしょ。
 わたしのなんだから。
 ほら、手の平を鼻に持ってきなさい。
 そう」

 わたしは、近づけた手の平を、思わず遠ざけた。
 唾の乾いたような臭いがした。

「ふふ。
 やっぱ、臭い?
 ちゃんとお手入れしなきゃダメね。
 消毒用エタノールで拭くといいのよ。
 スプレーボトルに入ってるやつがあるから。
 あれをシュッシュとやって、ティッシュで綺麗に拭いてから仕舞いましょうね。
 でも……。
 この臭いが、癖になるのよね。
 あー、いい臭い」

 先生は、バイブを横にして、鼻下に近づけた。
 鼻を左右に滑らせる。
 ハーモニカを吹いてるみたいだった。

「知り合いの男でね。
 中学校のころ、オナニー覚えて……。
 ティッシュで始末しなかったってヤツがいたの。
 出した精液、どうしてたと思う?
 タオルで拭いてたのよ。
 それも、洗濯しないままの同じタオルで。
 なんでそんなことしたのかって云うと……。
 最初のオナニーで出した精液を拭いたのが、そのタオルなんだって。
 そのときは、オナニーしてるつもりなんかなくて……。
 なんとなく、ちんちん弄ってたら……。
 突然ヘンな気分になって、ちんちんから白い液が出た。
 で、慌てて、手近にあったタオルで拭いたんだって。
 以来、オナニーが病みつきになったわけだけど……。
 毎回、そのタオルで拭いた。
 ティッシュで拭こうという考えが、不思議と浮かばなかったんだってさ。
 男性は、最初の女が忘れられないって云うけど……。
 そいつにとっては、タオルがその人だったのかも?
 で、毎回毎回、タオルで拭いて……。
 そのタオルは、ベッドと壁の隙間に隠してた。
 もちろん、洗わないんだから、タオルは悲惨な状態になってく。
 糊で固めたみたいにガビガビだったって。
 白かった生地にも、ベージュや薄茶の染みが広がってく。
 何より強烈だったのが、臭いだそうよ。
 でもね。
 オナニーするとき、その臭いを嗅がずにはいられなくなったんだって。
 で、毎回、ガビガビのタオルに顔を埋めながら……。
 オナるようになったそうな。

 はは。
 わたし、何が言いたかったんだろ?
 とにかく、臭いってのは、記憶に灼きつくものなのよ。
 それも、深い部分にね。
 このバイブも一緒。
 この臭いを嗅いでるとね……。
 うんこ漏らしそうなほど興奮するの」

 先生の片手は、いつの間にか自分の股間に回ってた。

「あぁ。
 やっぱり、立ちオナっていいわよね。
 精神的に昂まって。
 たった一度だったけど……。
 このバイブ持って、夜の公園に行ったことがある。
 まだ、若くて可愛かったころよ。
 素っ裸にワンピだけ着て。
 で、茂みの中でバイブを取り出し、立ったまま突っこむ。
 めちゃめちゃ興奮したわ」

「途中から、もうどうなってもいい気がして……。
 ワンピも脱いだ。
 素っ裸。
 ガニ股で、声まで出してお尻振ってると……。
 あっという間にイっちゃった。
 遠くに見える水銀灯の明かりが、人魂みたいに揺れて見えた。
 わたしの記憶に残る、青春の1シーンね。
 あー、思い出してきた」

 先生は、その場にしゃがみこんだ。
 和式便器を使う姿勢から、さらに両膝を開いた。

「見て」

 先生は、股間を覆ってた手の平を、肌を滑らせながら引きあげた。
 陰唇が、しゃぶしゃぶの肉みたいに湯気を立ててる。
 その上には、剥き出しのクリトリスが、一つ目小僧のようにわたしを睨んでた。

「どう?
 可愛い子が見えてる?
 どんな憎たらしい女でも……。
 クリだけ見てると、不思議と愛しさが湧いてくるものよ。
 でも、今この子を苛めたら、あっという間にイッちゃいそう。
 がまんがまん」

 先生は、包皮を引き上げてた手の平を外した。
 クリトリスは、柔らかい皮の帽子を被った。
 写真でしか見たことないけど……。
 なぜだか、雪の中で咲くザゼンソウを思い出した。

「でも、理事長のが十分湿ってないと、痛いかも知れないわね。
 だから……。
 わたしのお汁でヌメヌメさせてあげましょうね」

 先生は、バイブを逆手に持った。
 時代劇の女性が、自害する所作にも見えた。
 切っ先が、陰唇をなぞる。
 陰唇の襞が、茹で肉のように震える。

「はぅ」

 紅色の刃が、あらかじめ穿たれた傷に潜りこんだ。

「あぁ、いぃ。
 やっぱり馴染みの子は、襞の数まで覚えてるわ」

 先生は、幾度もバイブを突き立てた。
 紅色の刀身は、静脈血を噴き出してるようにも見えた。

「おっと、危ない。
 危うく夢中になるとこだった。
 一緒にクリ弄ってたら、止められなかったわ」

 先生は、名残を惜しむみたいに視線を泳がせながら、バイブを引き抜いた。
 体内から、紅色の抜き身が現れる。

「ほら。
 湯気が立ってる」

 そのまま、丸い亀頭部を鼻先に翳した。

「臭いぃ」

 先生は、ブラウスの胸を起伏させながら、激しい呼吸をし始めた。

「美里も嗅いでみる?
 たまらないわよ。
 イヤじゃないでしょ?
 わたしの臭いなんだから。
 はは。
 こんなことしてたら、また乾いちゃうわね。
 こちらに、お待ちかねの人がいるのに」

 先生は、しゃがんだままのアヒル歩きで、理事長の元に身を移した。

「理事長。
 ほら、ぼーっとしないで。
 あの薬、2度効きするみたいね。
 大丈夫ですかー」

 先生は、ハムのように括られた太腿を、ペタペタと叩いた。

「反応なし?
 ふて寝かしら。
 それとも、頭打って、ほんとにバカになっちゃった?
 面白くないわね。
 まだ大事な質問が残ってるのに。
 嫌でも答えてもらいますからね」

 先生は、理事長の足元ににじり寄ると、バイブを構えた。
 亀頭を模した丸みが、無残に開かれた股間を覗いてる。

「ほら、頭が入っちゃうわよ。
 あ、スイッチ入れた方がいいか」

 先生が手元の電池ボックスを操作すると、騒々しい駆動音が立ち上がった。
 ブリキのロボットが動き出したような音だった。

「昔のオモチャは、この音が弱点よね。
 公園でしたときも、さすがにスイッチ入れる勇気は無かったわ。
 でもここなら、どんな音立てても、誰に聞こえるわけもないし。
 ほら、理事長。
 なんなら、声も出していいんですよ」

 先生は、生きもののように蠢き始めたバイブを、理事長の股間に翳した。
 亀頭がゆっくりと切っ先を下げ、恥丘に着地する。
 バイブに添えた指が反り、力が加わった。


「ほら、早く目を醒まさないと……。
 クリが擦り切れちゃいますよ」

 理事長の首が、大きく振れた。

「やっと起きたみたいね。
 理事長ー。
 何されてるかわかりますかー?」
「あ……、あぅ」
「いきなり喘ぎ声?
 その前に、感想いってちょうだいよ」
「や、止めて……」
「ウソおっしゃい。
 もっとしてもらいたいくせに。
 あ、ちょっとタンマ。
 もう一人の主演女優、バカに静かね」

 あけみ先生は、理事長にバイブを押しあてながら、川上先生を振り向いた。
 川上先生は、梁を背にぶら下がったままだった。
 完全に眠りこんではいないようだけど……。
 意識レベルが、かなり後退してるみたいだった。

「寝ちゃってる?
 中毒かしら?
 嗅がせすぎたかな。
 美里、ちょっと近くにいってみて。
 息してるわよね?
 下の方、漏らしてない?
 そう。
 そんなら大丈夫ね。
 余談だけど……。
 2時間ドラマなんかで、人を気絶させるシーンってあるでしょ?
 ハンカチで口を覆ってさ。
 どういう薬使ってることになってる?
 そうそう。
 クロロフォルムよ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。