放課後の向うがわⅡ-19

「さて、さっそく授業を始めましょうか。
 あ、その前に。
 なぜ、川上先生は縄を打たれてるのか。
 もちろん、川上先生が罪を犯したというわけではありません。
 でもね……。
 縄が無ければ、どうなると思う。
 ただの素っ裸よね。
 考えてもご覧なさい。
 制服を着た生徒たちの前に、裸で出るわけよ。
 とても恥ずかしいことなの。
 普通にしてたら、心が持ちこたえられない。
 だから……。
 縄を打たれ、わたしに命じられているという体を取ったわけ。
 決して、自ら裸になったわけじゃないって設定ね。
 おわかり?

 さて、それでは授業を始めます。
 どう?
 みなさん。
 川上先生の裸を見て。
 綺麗よね?
 まさに、女体としての理想の体型じゃないかしら。
 ファッションモデルみたいにギスギスしてなくて、適度な脂肪が載ってる。
 まるで、西洋絵画に描かれた女性みたい。
 川上先生、ちょっと後ろを向いてくださる?

 そうそう。

 ほら。
 このお尻の膨らみ。
 このフォルムは、どんな陶工でも作れない。
 まさしく、神が造りたもうたラインね。
 あと、ここ見てご覧なさい。
 お尻の上。
 わからない?
 指し棒が要るわね。
 あなた、机から取って来てちょうだい。

 ありがとう。
 さて、それじゃ、指し棒の先をよく見てください。
 ほら、交差する腕のすぐ下に、笑窪みたいな窪みが見えるでしょ?
 キューピー人形って知ってる?
 あの人形にはあるのよ。
 実際、欧米人には比較的多いんだけど……。
 東洋人では滅多にいない。
 これ、何て呼ばれてるか、知ってる?
 “ヴィーナスのえくぼ”って云うの。
 ほんと、素敵なお尻。
 頬ずりしたくなっちゃう。
 神さまってスゴいわね。
 赤ちゃんを産ませるために、骨盤を膨らませ、こんなすてきなお尻を造った。
 もっとよく見てみたいわね。
 川上先生。
 座ってくださる。
 両膝を着いて」

「そう。

 どう、みなさん?
 この太腿のボリューム、見てちょうだい。
 まるで、古代建築の柱みたいでしょ。
 川上先生、そのまま上体を倒して行ってくださる。
 あ、ちょっと待った。
 ストップ。
 これこれ。
 このお腹に載った、豊かな脂肪。


 川上先生、どうされました?
 嫌なの?
 このお腹。
 まぁ、とんでもない思い違いだわ。
 女性の腹部に載った適度な脂肪は……。
 男性からは、この上なくセクシーに見えるものなんですのよ。
 ときどきAVなんかだと、スカートやランジェリーを、お腹にたくし上げたままヤッてるシーンがあるけど……。
 とんでもない心得違いだわ。
 お腹を隠すなんて。
 特に、オシメを替えられるみたいに両脚を上げた姿勢だと……。
 お臍の下に、オムレツみたいな括れが出来て……。
 それはそれは、美味しそうな膨らみ。
 それを隠すなんて!
 言語道断もいいとこ!

 おっと、失礼。
 ちょっと興奮してしまいましたね。
 あ、言っときますけど……。
 AVは、資料として見てるんですからね。
 こうして保健の授業をするためには……。
 男女のまぐわいシーンの研究は不可欠なの。
 決して、オナニーするために見てるんじゃないわよ。
 ここんとこ、間違わないでちょうだい。

 あれ?
 川上先生?
 ひょっとして、乳首起ってません?
 あらあら。
 そんなに首振って。
 イヤなの?
 生徒に、勃起した乳首見られるの?
 いいじゃありませんか。
 こんなに素敵な乳首なんですもの。
 薄い肉色で、ほんとに綺麗。
 しゃぶしゃぶのお肉を、一瞬だけお湯に潜らせたみたい。
 大きさも、ベリーみたいで、人の唇に含むには最適の大きさ。
 川上先生の赤ちゃん、幸せだわ。
 いえ、その前に、将来の旦那さまが幸せものだけど。
 こんなおっぱいに吸い着いたら……。
 それだけで射精しちゃうかもね」

「おっぱいにほっぺた着けて、母乳を吸いたてながら……。
 川上先生の優しい手コキで射精する。
 幸せでしょうね。
 残業なんかしてられっこない。
 すっ飛んで帰ってくるわね。
 腎虚になるかも。
 ほんと、や~らしい乳首。
 先生、言ってご覧なさい。
 『わたしの乳首は、イヤらしく勃起してます』って。
 どうしたの?
 言えないの?
 まだ、認めないつもり?
 こんなになってるのに。
 こういう悪い子の乳首は……。
 指し棒で突いてあげます。
 えい。
 ほほ。
 見た、今の反応?
 敏感敏感。
 体ごと跳ね上がったじゃありませんか。
 ほんと、嬲りがいのある体。

 さて。
 また脱線してしまいました。
 こんなことしてたら、時間がいくらあっても足りないわ。
 神秘の授業を進めます。
 この骨盤の膨らみを、みなさんに見てもらわなきゃね。
 先生、上体を倒してってください。
 そうそう。

 そのまま、顔を床に着ける。
 お尻を上げる。
 ほら!
 もっと。


 よしよし。
 それじゃ、みなさん。
 こっちに回って。
 川上先生の後ろから見てみましょう。
 先生は動かないでくださいね。
 ほら、お尻下げない!
 どうしたの?
 いまさら、恥ずかしいの?
 悪い子ね。
 そういうお尻は、縄で吊り上げてさしあげますわ。
 あなた、ロープ取ってきて。
 教卓の引き出し。
 そうそう。

 それじゃ、みなさん。
 マジックショーの始まり始まり。
 この一本の縄が……。
 撚れ絡み、結び合うと……。
 人の快感を貪る蛇に変わる。
 ほうら出来た。
 縄の、おふんどし。
 あなた、これ持って。
 上に吊りあげてちょうだい。
 そうそう。
 川上先生。
 いいかげんお尻上げてくださいな。
 素直にしないと……。
 指し棒で、下から突き上げてあげます。
 えい。
 ほら、上がった。

 どう、このお尻?
 “ヴィーナスのえくぼ”が、くっきりと見えるでしょ。
 きっとここには、天使の羽が生えてたのね。
 見れば見るほど、まんまるなお尻。
 男性だったら、突っこまずにおれないわね」

「そのとおりです!」
「誰です?」
「保健授業の助手として、まかりこしました」
「まぁ。
 あなたは、毎日愛妻弁当を持って来てる、新婚の日本史の先生じゃありませんか」
「詳細なご説明、ありがとうございます」
「でも、授業中の教室に、いきなり真っ裸で入ってくるのは、どういう心得ですの?
 生徒たち、みんな引いちゃったじゃないですか」
「真っ裸ではありません。
 ちゃんと、ネクタイはしてます」
「よけいに変態ですわ」
「本日は、憧れの川上先生がモデルと聞き及び……。
 是が非でも、授業の助手を務めさせていただきたく、馳せ参じた次第です」
「口調が、いちいち日本史すぎます」
「かたじけない」
「わけわかりません。
 でも、国語の先生は、放っといていいんですか?
 最近は、学校でもなさってるんでしょ?」
「あの、エロババア……。
 いや、失礼。
 しかし、恐ろしいものですな。
 あの歳で歓びを知ると。
 完全にタガが外れてしまってます。
 最近は、トイレで待ちぶせしてるんですよ。
 女子高にあって、男子トイレは一種の聖域です。
 侵すべからざる、謂わば“禁区 ”。
 そこに平気で入ってこられたんじゃ、男性にとって、安息の地は無くなってしまいます。
 あのバアさん、男子トイレの個室に潜んでるんですよ。
 で、わたしが小便器で気持よく用を足してると……。
 個室から飛び出してくる。
 しかも、全裸で。
 たまげますよ。
 いきなり後ろから、全裸の女が飛び出して来たら。
 初めてやられたときは、うんこ漏らしそうになりました。
 『先生は、足音でわかりますのよ』なんて言いながら、用を足してるわたしの傍らにしゃがみこむ。
 逃げようにも、おしっこは途中で止められません。
 で、あのエロババア、わたしのちんちんに、ちょっかい出してくる。

『やめてください』
『こっち向いてぇ』
『うわっ』」

「とうとう、ちんちん横を向かされました。
 バアさん、おしっこの軌道に顔突っこんで来て……。
 顔をうねらせながら、満遍なくおしっこを浴びるんです。
 終いには飲み始める。
 でも、お酒飲んでないときのおしっこなんて、すぐに止まってしまいます。

『あら、もうお終いですの?』
『もう空っぽです』
『ウソですわ。まだ残ってます』
『ありませんって』
『残ってます。
 真っ白くて、栗の花みたいな臭いのするおしっこが。
 今度は、それを出していただきますわ』。

 言いながらもう、ちんちんしゃぶってます。
 そこまでされると……。
 わたしも、勃たざるをえないでしょう。
 なにしろ、朝方、妻とやったきりですから。
 男子トイレの小便器前で、全裸の女にフェラされる……。
 思えば、興奮もののシチュエーションではあるわけです。
 女が、もう少し良ければいいんですが。
 でも、骨盤を尖らせたヤセ女が、背骨をうねらせながらフェラしてるのを見下ろすのは……。
 一種、倒錯的な興奮をもたらすものです。
 ちんちんは、あっという間に硬度を増します。
 ビンビンです。
 ほらみんな、よく見て。
 男性の陰茎は、こんなふうにビンビンになるんだよ。
 まるで骨が入ってるみたいだろ?
 みんな、触ってみて。
 痛っ。
 岩城先生、指し棒でちんちんを叩くのは止めてください。
 でも、ちょっと気持ちよかったかも。
 あ、話が途中でしたね。
 で、ちんぽがビンビンになると……。
 やっぱり、突っこみたくなる。
 国語の先生を引っ張りあげると……。
 小便器を抱えさせます。
 肉の薄い尻で、ちょっと突き出しただけで、肛門まで見えるんですよ。
 もちろん、その下の性器も丸見え。
 砕いたウニみたいに蠢いてます。
 そこを目掛け、思い切り腰をぶつける。

『わひぃ』
『先生、相変わらず狭いですね』
『突いてぇ』
『いきますよ。
 それそれ』
『わひわひ、わひひひ』
『どうです?』
『いぃっ。いぃ。
 犯されてるのね。
 わたしは犯されてる。
 男子トイレで、素っ裸に剥かれて』
『自分で脱いだんでしょ』
『言わないで!
 あぁ。
 身動きの出来ないわたしに、凶悪な肉棒が!』『エロ小説の読みすぎじゃありませんか?』『毎晩読んでます。
 こんなシーンを夢見ながら。
 でも今は、今は、夢じゃない!
 突いてください。
 突いて!
 突いて突いて突いてぇぇぇぇ』」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-18

 その人は、梁を支える柱を背にしてた。
 真っ直ぐに立ってれば、十字架にかかるキリストに見えたかも知れない。
 でも、その人は、床を踏んではいなかった。
 柱の中ほどの宙に、吊り下げられてたから。
 キリストのような、腰の覆いもなく……。
 全裸で。
 しかも、直立姿勢じゃない。
 大きく開いた両腿は、斜め上を指してる。
 両膝に縄が掛かってて、上から吊られてるの。
 膝から下は、真下に降りてる。
 いわゆる、M字開脚ってやつよね。
 股間は、剥き拡げられてるんだけど……。
 性器は見えなかった。
 臍下を回る横縄から、幾本も束ねられた縦縄が下り、性器から肛門までを覆ってる。
 でも、陰毛だけは隠しようがない。
 縦縄から覗く大陰唇に、翳のような薄い陰毛が烟ってた。

 両腕は、理事長と同じく、背中で束ねられてるみたいだった。
 幾本もの縄が、乳房を上下から潰してる。
 理事長のよりも、ひと回り大振りな乳房だった。
 鎖骨のすぐ下から、膨らみが始まってる。
 だから、乳房の上に掛かる縄は、傾斜の途中を押しつぶす形で回ってる。

 そんな姿を晒しながら、その人は、身動きひとつしない。
 足先の力が抜け、爪先が床を指してぶら下がってる。
 その人が意識を持ってないことは、誰の目にも明らかだった。
 でも、肌の色は艶やかに輝き、腹部が僅かに起伏してた。
 命を保ってることも、また明らかだった。
 柱に凭れた顔では、両目が閉じられてた。
 開いた時の大きさが想像できる、長い眼尻だった。
 睫毛の半分を、黒髪が覆ってる。
 それでも、誰かはわからない。
 その人の口も、布で覆われてたから。

「誰だかわかる?」

 首を振るしかなかった。
 でも、とうてい生徒には見えなかった。
 豊かな肉付きは、成熟した大人の女性を思わせた。

「それじゃ、ご披露しましょうね」

 先生はパンプスを脱ぐと、畳にあがった。
 柱に近づく。
 先生の息が届くほど近づいても、その人の目蓋は閉じられたままだった。

「よく眠ってる。
 まだ薬が効いてるのね。
 体質かしら。
 理事長は、先に醒めちゃったのに。
 あ、でも、この姿勢もあるのかな。
 なんか、後ろから抱っこされてるみたいに見えない?
 小さいころ、こんなふうに抱っこされて、道端でおしっこしたっけな。
 安心する姿勢なのかも知れないわね。
 でもやっぱ、大人がすると、イヤらしさ満々よね」

 先生は、その人に顔を近づけると、身体のカーブに沿って鼻先を動かした。

「いい匂い。
 雌の匂いってやつね。
 牡が嗅いだら、速効でおっ起つわ」

 先生は、その人の後ろに回った。
 先生の両手が、髪の後ろで動いてる。
 すぐに、白い布地が緩んだ。
 でも、柱と頭の間に挟まってるのか、布地は落ちなかった。
 先生は、その人の横に身を移した。
 片手は、布地を握ったまま。

「それじゃ……。
 ご開帳」

 白い布地は、プラナリアのように宙を泳ぎ去った。
 その人のすべてが、電球の下に曝された。

「もうわかったでしょ?
 誰だか」

 現れた唇は、少し開いてた。
 その唇の形を、わたしは知ってた。
 授業中、ずっとそこを見てたから。
 その唇から、綺麗な英単語が、音符のように零れるのを。
 そう。
 その人はまさしく、わたしが憧れてた、英語の川上先生だった。

 川上先生は……。
 生徒に人気のある先生だった。
 授業が終わった後も、ノートを持った生徒が教卓を囲み、なかなか帰してもらえなかった。
 転入したばかりのわたしには、それを見てることしか出来なかったけど。
 だから、川上先生と直接言葉を交わしたこともない。
 でも、憧れてた。
 ていうか……。
 はっきり言って、好きだった。

 その川上先生が、目の前にいる。
 しかも、全裸で吊られて。

 わたしは、肛門を引き絞った。
 お腹が痛くなるほど動揺してた。

「可愛い先生よね。
 美里も好きなんでしょ?
 わたしも昔は、このくらい可愛かったんだけどな。
 さすがに今は、対抗できないけど。
 でも、ほんと……。
 庇護してあげたくなる雰囲気よね。
 男が放っておかないでしょうに。
 それが、なんで山の中の女子高教師なんかになったのか。
 ずっと不思議だった。
 でも、最近になってわかったのよ。
 この綺麗な顔、綺麗な身体が、女しか愛せないってことを。
 つまり、レズビアンってこと。
 女子高にレズビアン教師ってのは、笑っちゃうシチュだけど……。
 いるのよね、やっぱり。
 でもほんと……。
 ノーマルな女性でも、この顔見てたら、変な気起きるかも」

 川上先生は、両目蓋を閉じたままだった。
 眼尻は、頬を覆う髪に隠れてる。
 大きな眼だった。
 開いてるときは、いつも潤んでるように見えた。
 生徒からは、“嘆き姫”なんて呼ばれてた。
 宿題を忘れたときなんか、あの大きな瞳が悲しそうに潤むと……。
 自分が、とんでもない大罪を犯したように思えるんだって。

「でも、ほんとに素晴らしい身体。
 着痩せするタイプなのね。
 顔が小さいからかしら。
 こんなにボリュームがあったとは意外よね」

 わたしは、思わずうなずきそうになった。
 決して、太ってるわけじゃない。
 でも、女らしい脂肪が、みっちりと着いて……。
 お臍の下を渡る縄で、肉が括れてる。

「苛めたくなる身体って云うのかしら。
 縛ってるときは、マジで興奮したわ。
 男になった気分」

 あけみ先生は、両手を腰の後ろに回し、川上先生の周りを巡った。
 まるで、美術品を鑑賞するようだった。

「オブジェみたいよね。
 だけど、限りなくイヤらしいオブジェ。
 美術の授業で、これをデッサンしなさいなんて課題が出たら、どうなるかしら?
 ま、男の子なら、我慢できなくなるでしょうね。
 わたしでも、ヘンな気分になるもの。
 この身体の前に立つと……。
 わたしのクリがペニスに変わって、精子出すんじゃないかって思うほど。
 綺麗だろうなぁ。
 この身体に精子がかかったら。
 練乳みたいな白い鞭が、この肌を縦横に打つの。
 あぁ、興奮してきた」

 あけみ先生は、ゆっくりと上体を折った。
 視線の先は、川上先生の顔から胸に移った。
 あけみ先生は、身を屈めたまま、川上先生の乳房を凝視してる。
 正確に云うと、乳房の中央から突き出た、乳首ね。
 女のわたしが見ても、吸い付きたくなるような乳首だった。
 ほら、高校生くらいだと、乳房は発達しても……。
 乳首が、乳輪に陥没してるみたいな子っているでしょ。
 でも、川上先生のは違った。
 まさしく、大人の乳首って云うのかな。
 烟るような薄い乳輪の上に、トッピングみたいに、球形の乳首が載ってる。
 ベリーの実みたいだった。
 唇に含んだら、きっと丁度いい大きさよね。

 あけみ先生の口元が、その実を頬張りそうに近づいた。
 鼻翼がはためいてた。
 匂いを嗅いでるのね。
 離れてても、川上先生の身体は香ってた。
 もちろん、香水とかの匂いもあるんだろうけど……。
 その奥から、もっと濃厚な匂いが噴きあげてるようだった。
 そう。
 まるで、森の奥から、百合の香りが漂ってくるみたいに。

 あけみ先生は、夢見るように目蓋を閉じた。
 鼻翼をはためかせながら、顔が小刻みに振れ始めた。
 いつの間にか、あけみ先生の片手は、自らの股間に回ってた。
 指先が、中心を練るように動いてる。
 1本だけ立った小指が、宙に楕円を描いた。

「川上先生……。
 廊下ですれ違うときも、教員室でお話するときも……。
 いつもわたし、先生の裸を想像してましたのよ。
 このスーツの下には、どんな裸が隠されてるのかって。
 そして、その白い肌には、どんな形に縄を打ったらいいかって。
 そう。
 わたしの中で先生は、いつも裸だった。
 その裸体にわたしは、自在に縄を打つ。
 白い肌を戒める縄は、先生にとって唯一の正装。

 先生はその姿で、教室の扉の前に立つの。
 扉の向こうからは、生徒たちの笑い交わす声が聞こえてる。
 わたしは先生の後ろに立ち、花嫁の介添人のように縄を整える。
 縄の衣装は、上半身だけ。
 歩いて登場してもらいたいから。
 縄は、乳房を上下から挟み、両腕に巻き付いて後ろに回ってる。
 背中で交差する手首の縄を確かめると、わたしは教室の引き戸を開く。

 生徒の幾人かは、もう先生に気づいた。
 先生は、僅かにためらった後、敷居を跨ぐ。
 まるで、結界を踏み越すように。
 全裸の先生が教室に入ると、生徒たちの笑い声は、一瞬にして消え去る。

 この時間は、そうね。
 保健の授業。
 机や椅子は、すべて教室の後ろに押しやられ……。
 生徒たちは、リノリウムの床に散らばってる。
 保健の授業なのに、何が始まるんだろうって話してたんでしょうね。

 さてそれでは……。
 特別授業の開始よ」

 わたしに背中を押され、川上先生は教室の中に歩み出した。


 生徒たちは息を飲んで立ち竦んでる。
 先生の素足が、リノリウムの床を踏む音まで聞こえそう。
 先生が教室の中央まで進むと、近くにいた生徒は、波が引くように後ずさった。
 その顔を見回しながら、わたしは厳かに語り出す。

「さて、みなさん。
 今日の保健の時間は、特別授業を行います。
 教師を務めるのは、わたくし、岩城あけみ。
 ご存知のとおり、音楽の教師です。
 なぜ、音楽教師が保健の授業を受け持つのか……。
 それは聞かないでちょうだいね。
 諸般の事情ってのがあるのよ。

 さて、本日の授業内容は、『女体の神秘』です。
 大事な授業ですよ。
 みなさんがこれから成長し、子供を産み、そして育てていくためには……。
 まず、自らの身体のことを、よく知らなくてはなりませんから。

 わたしの授業では、教科書など使いませんよ。
 薄っぺらな二次元の情報では、大切な事柄を伝えることは不可能ですから。
 で、『女体の神秘』を語るためには……。
 実際の女体を前にしなければならない。
 もちろん、わたしが裸になってもいいんだけど……。
 それじゃ、授業がやりにくい。
 と言って、みなさんの誰かに裸になってもらうわけにもいかない。
 誰かいる?
 志願者。
 わたし、みんなの役に立つなら、モデルになりますって人。
 山下さん、あなたクラス委員よね。
 どう?
 あなた、みんなのために、それこそ一肌脱げる?
 ダメ?
 ほかの人は?
 いない……、ようね。
 ふふ。
 何も、目を逸らさなくてもいいわよ。
 ま、これは予想できたことですけど。
 でも、人のために自らを投げ出すって精神は、わが学園の校訓でもあります。
 今日の授業は、この校訓を教師が実践してみせる、という意義もあるの。
 こうしてみなさんの目の前に、裸を晒している川上先生。
 憧れてる人も、少なくないんじゃないかしら。
 その先生が、みなさんのために、こうして自ら身を投げ出してくれてるわけ。
 どう?
 これが、わが校の校訓で謳われる“愛他の心”よ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。