放課後の向うがわⅡ-4

 わたしは、接合部を覗きこむ。
 肉棒はネラネラと濡れ、地図のように巡る血管が、光を返してうねってる。
 そのとき、背後に人影を感じた。
 振り向くと、パスタを食べてた、若い理科の先生。
 手には、パスタのカップを持ったまま。
 ルージュの落ちかけた唇を尖らせ、獣と化した同僚を凝視してる。

「こんなの見るの、初めて?」

 理科の先生は、かくかくとうなずく。

「でも、私生活では、やってるでしょ?」
「ベッドの上だけです。
 お風呂入ってから。
 こんな、服着たままなんて無いです」
「どう?
 イヤらしいでしょ」
「めちゃめちゃ興奮します。
 こっちの方が、ずっといい」
「見られながら、したい?」
「したいです」
「おまんこ、見られたい?」
「見られたい!」
「じゃ、下だけ脱いで。
 わたしが脱がせてあげる」

 理科の先生は、その場に起ちあがると……。
 パスタのカップを持ったまま、わたしに腰を突きつけてきた。
 スラックスのファスナーを、音立てて下ろす。
 ストッキングも穿かない、若い生脚があらわになる。
 白い肌を巡る血管が、網の目のように浮き出てた。
 股間を三角形に覆う布地の中心は、すでに湿ってて、わだかまる陰毛まで透けて見えた。
 わたしは、ウェストのゴムに手を掛けると、一気にショーツを引き下ろす。
 海栗の身を割ったような、若い性器があらわになった。

「先生……。
 スゴいことになってますよ。
 ほら、太腿までお汁が垂れてる」
「ふぅぅん」

 理科の先生は、スラックスの裾を踏みつけて脱いだ。

「裸……。
 下だけ裸……」
「うれしい?
 お尻もおまんこも、剥き出しにできて」
「うれしい」
「こんなエッチなおまんこしてたら、毎日したくてしょうがないでしょ?」
「したい。
 朝晩したい」

「彼氏は、してくれるの?」
「毎日は会えないもの」
「じゃ……。
 自分でしてるのね?」
「してます」
「毎日?」
「朝晩!
 今朝もして来ました。
 さっきの休み時間もしました」
「あらまあ。
 どこで?」
「もちろん、トイレです」
「裸になったの?」
「いいえ。
 スラックスだけ下ろして」
「それはいけないわね。
 下だけは、素っ裸にならないと。
 今みたいにね。
 うれしいんでしょ?
 見られて」
「見て……。
 もっと見て」

 先生はわたしに正対すると、腰を前後に振り始めた。
 股間から跳ねた雫が、ひざまずくわたしの太腿を濡らす。

「ほら。
 国語の先生にも見てもらいましょう」

 理科の先生の手を引いて、机に突っ伏す国語の先生の傍らに起たせる。
 国語の先生は、メガネを鼻の頭まで落として喘いでる。
 開いた唇から零れた涎が、赤ペンの入った答案を汚してる。

「先生。
 見てやって下さい。
 理科の先生のおまんこ。
 いやらしいでしょ?
 朝晩、自分でなさってるんですって」

 理科の先生は、両脚をパンタグラフのように開き、股間を突きつけた。
 国語の先生の目が、泳ぎながらも股間で焦点を結ぶ。

「おっきぃ……。
 おまんこ」
「あぁ。
 それ、言わないでぇ。
 コンプレックスなんですぅ。
 彼のじゃ物足りなくて。
 国際結婚しようかしら?
 見て。
 おっきぃおまんこ、もっと見てぇ」

 でもすでに、国語の先生の視線は、あらぬ方向に飛んでいた。
 メガネが、鼻の頭で斜めにかしいでる。
 後ろの日本史の先生が、激しく腰をぶつけ始めてたの。
 日本史の先生の腰骨と、国語の先生の尻たぶが、高らかな肉音を立て始めた。

 パンパンパンパンパンパンパンパンパン。

 それは、学校中に響くファンファーレのように聞こえた。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。
 出る!
 出ます!」

 理科の先生は、身を翻すと、ファンファーレの音源に顔を近づけた。
 和式便器を使うようにしゃがんだ股間では、指が忙しく動いてる。
 もう一方の手は、カップのパスタを掲げたまま。

「先生!
 出していいですか!
 中に出していいですか!」
「出して!
 出して!
 でも、妊娠したら!
 妊娠したら!
 結婚してぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「そ、それは……。
 無理ですぅぅぅぅぅ」

 最後の最後で集中を乱されたのか、日本史の先生のちんぽが外れた。

「あぁ!」

 国語の先生が、喪失の悲鳴をあげる。
 日本史の先生は、お腹まで跳ね上がったちんぽを掴んだけど……。
 もう、間に合わなかった。
 亀頭が膨れ上がると、空中で暴発。
 でも、その先には、理科の先生が、顔を差し出してた。
 精液が、理科の先生の黒セルのメガネを直撃。
 理科の先生は、銃弾を浴びたように仰け反る。
 メガネのレンズは、真っ白に覆われてた。
 さらに、あおのいた鼻の穴に、第2弾が直撃。
 細い鼻孔が、濃厚な糊で塞がれる。

「わきゃ。
 ぅわきゃ」

 日本史の先生は、奇声をあげながら、思うさま、尻たぶを絞った。
 理科の先生の頬に、唇に、次々と精液が着弾する。

「はぅぅ」

 日本史の先生が、尻たぶを痙攣させると……。
 ようやく、射精が止まった。
 射出口から零れる雫が、陰茎を握りしめた指に零れる。

「さ、最高でした……」

 日本史の先生は、蕩けるような声をこぼすと……。
 その場に尻を落とした。
 後ろざまに床に転がる。
 顔が横に倒れ、両目がわたしを見あげた。
 でも、目の中に瞳は無かった。
 真っ白い両目が、虚空を睨んでる。
 半開きの口の中で、舌だけがチロチロと動いてた。
 でも、股間のちんちんは握ったまま。
 シロップをまぶしたような陰茎は……。
 まだ天井を指して、びくびくと鼓動してる。

 仰向いてた理科の先生のクビが、元の位置に戻った。
 顔面に貼り付いた精液が、鑞涙のように下降する。
 細い顎先に集まった精液が、石筍みたいに伸び……。
 ぼたぼたと落ち始める。
 落ちた先は、手に掲げたままのパスタのカップ。
 わだかまる麺の上に、まるでドレッシングのように降りかかる。
 白濁したレンズ越しにそれを見つめてた理科の先生は……。
 突然、カップに顔を突っ伏した。

「ふぉぉぉぉ」

 唸りながらクビをうねらせ、顔面でカップを掻き回す。
 ひとしきり堪能すると、呼び止められた人のように顔を起こした。
 顔面をパスタのソースが覆い、鼻の穴からは麺が下がっている。
 ソースにまみれたレンズの向こうで、すでに目線が飛んでる。
 先生は、カップの中に手を突っこんだ。
 麺を鷲掴みする。
 クレーンのように持ちあげる。
 指の間から、ソースまみれの麺が垂れ下がる。

「はぅ」

 先生は、気合と共に、麺を握った片手を、自らの股間に叩きつけた。
 手の甲に癇立った腱を走らせながら、股間に麺を捻りこむ。
 ちぎれた麺が、ぼたぼたと床に落ちる。

「あひぃ」

 先生は、背泳のスタートのように、真後ろに倒れた。
 足裏が天を指すと、サンダルが外れて床に落ちた。
 先生は、そのままの姿勢で、自らの股間にトドメを刺そうとしていた。
 手の平の描くオーバルは、たちまち内径を縮め、周回を速めている。

「イ、イク……」

 その声に、机に突っ伏してた国語の先生が反応した。
 ふらふらと歩んで、理科の先生の脇に立つ。
 理科の先生が、哀願するように見あげた。

「お、お願いします。
 わたし、イク……。
 イキますから……。
 顔に……。
 顔に、かけて。
 おしっこ、かけて。
 かけてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 国語の先生が、理科の先生の顔を跨いだ。
 そのまま、しゃがみこむ。
 骨盤の尖る相臀が、理科の先生の顔を隠す。
 でも、位置を調節するためか……。
 その尻が、再び上がった。
 競馬の騎手のような姿勢だった。
 開いた相臀のあわいに、シャッターのような肛門が穿たれてる。
 ぱっくりと割れた性器も丸見え。
 理科の先生も、それを見上げてる。

「放尿……。
 放尿して」

 国語の先生のお尻に、翳のように力がよぎった。
 同時に、膣前庭に穿たれた尿道口が解放された。
 数珠を繋いだような雫がこぼれ……。
 たちまちそれは、一本の奔流と化した。
 理科の先生の顔面に打ちつける。
 理科の先生は、顔面で打たせ湯を受けるように、顔をうねらせた。
 湯気を上げる熱水が、理科の先生のレンズに噴きつけ、顔面のソースを洗い流す。
 鼻の穴の麺も流れた。


本作品のモデル「岩城あけみ」の緊縛画像作品はこちらからご購入可能です。

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-3

 誰もいない教員室。
 自分の席に座る。
 しんと静まって、空気まで澄んでる。

 鍵は掛けられないわ。
 後から、ほかの先生が来るかも知れないものね。
 守衛室で、わたしに鍵を渡したことを聞いて来るだろうから……。
 教員室に鍵が掛かってたら、なに疑われるかわからない。

 もちろん、耳を澄ませて廊下の足音は聞いてる。
 でも、誰も来ない。
 じっと座ってると、だんだん我慢できなくなってくる。
 滲んでくるのがわかるのよ。
 わたしの陰唇が、縄瘤をヒルのように覆って……。
 消化液のような分泌液が、縄目を溶かすほどに濡らしてる。
 そう。
 スカートの下には、股縄を締めてるの。

 早く、その下半身を露出したい。
 でも、もう一度耳を澄ます。
 誰の気配もない。
 と言っても、スカートを完全に脱いじゃうのは、やっぱり怖い。
 遠い足音を聞き逃してたら、間に合わないかも知れないものね。
 だから、そういう日は、ニットのタイトスカートを穿いて来てる。
 これだと、たくし上げとけば、落ちないのよ。
 人の気配を感じたら、引き下ろせばいい。

 わたしは、ゆっくりと起ちあがる。
 その瞬間……。
 わたしの中で、無人だった教員室が一変する。
 先生たちで満ち溢れるの。
 平日の昼休みかしら。
 愛妻弁当を食べてる、新婚の日本史の先生。
 残業したくない一心で、採点に励んでる国語の先生。
 カップのパスタを食べながら、パソコンでネットショップを覗いてるのは、若い理科の先生。

 起ちあがったわたしは、その場でスカートをたくし上げる。
 股間を覗きこむと、思ったとおり。
 わたしのイヤらしい陰唇が、縄瘤をしゃぶってる。
 そのままの姿で、先生たちの間を歩き出す。
 でも、まだ誰も気づかない。
 真っ白い尻たぶまで晒してるのに。
 わたしは、日本史の先生の後ろで立ち止まる。
 先生は、愛妻弁当を、一口ずつ味合うように食べてる。

「美味しそうですね」
「はは。
 まだまだですよ。
 料理始めたばっかりなんで」
「でも、その卵焼きなんて、すごくお上手ですわ」
「今日は、奇跡的に上手く出来たみたいですね」

 椅子を回してわたしを振り返った先生は、その場で凝固する。
 箸に挾んだ卵焼きが、ポロリと落ちる。

「先生……。
 お食事中申し訳ありませんが……。
 この縄を、引っ張っていただけませんか?」
「え?」
「痒くて堪らないんです。
 ほら、ここを引いてください」
「どうしてボクが……」
「人に引いてもらわないと、収まらないかゆみなんです」

 わたしは先生の手を取り、股縄に導く。

「握って」

 先生の指が、腹部に渡る縄目を潜る。
 指の関節が、生き物のように肌を這う。

「引いて下さい」
「こ、こうですか?」
「ひぃっ」
「大丈夫ですか?」
「気持ちいいんです。
 痒いとこが。
 もっと引いて。
 そう、そう。
 あひっ。
 あひぃぃぃぃ」

 わたしは、堪らずしゃがみこむ。
 先生の指が縄目を外れるとき、縄瘤が思い切り陰核を潰し……。
 半分、イッちゃってる。
 気づいたら、先生の両脚にすがるようにして身を伏せてる。
 つまり、先生の股間が目の前。
 ジッパーが壊れそうなほど膨らんでる。

「お礼に……。
 先生の痒いところも、掻いてさしあげますわ」
「別に、痒いとこは……」
「ウソおっしゃい。
 ここが、こんなに腫れてるじゃないですか」
「あ。
 ダメです」

 わたしは、隠そうとした先生の手を跳ね除け、ジッパーを引き下ろす。

「止めてください!」

 黒いブリーフの前をかき分けたとたん……。
 太いソーセージが転げ出す。

「熱っつい。
 こんなに膨らませて。
 ちゃんとヤッてるんですか?
 奥様と」
「してます。
 今朝もしてきました」
「まぁ。
 ごちそうさま。
 それじゃ、わたしもいただいちゃいますね」

 わたしは、顔をぶつけるようにして、とんがり棒を咥える。
 クビを振り立てながら、先生を上目で見あげる。

「あひゃひゃ。
 そ、そんなにされたら、すぐ出ちゃいます」

 慌てて肉棒を吐き出す。

「まだ早いですわ。
 前戯のフェラで出されたら……。
 奥様、怒りません?」
「日々、努力してます」
「それじゃ、今日も努力して下さいね」

 わたしは、その場で起ちあがると同時に、先生のちんちんを引っ張りあげる。

「こちらにいらして」
「い、痛いです」

 子供の手を引くように、先生のちんちんを握ったまま……。
 わたしが向かったのは、国語の先生のところ。
 死語になりつつある“オールドミス”って言葉がピッタリの先生。
 わたしたちが近づいても気づかずに、一心に採点を続けてる。

「先生、ちょっとよろしいですか?」

 迷惑そうな仕草で振り向いた顔が、能面みたいに凍りつく。
 当然よね。
 目の前には、下半身剥き出しの音楽教師と……。
 ちんちん剥き出しの日本史の先生。
 しかも、そのちんちんは、わたしが握ってる。

「久しぶりにごらんになりました?
 これ。
 まさか……。
 初めてじゃありませんよね」

 国語の先生から、握ったままの赤ペンを取り上げ……。
 その手を、日本史の先生のちんちんに導く。
 触れたとたん……。
 指が跳ねあがる。

「熱いでしょ。
 生きてる証しですから。
 国語の先生なら、もちろんご存知ですよね。
 与謝野晶子の歌。

『柔肌の熱き血潮に触れもみで寂しからずや道を説く君』

 いかがです、先生?
 先生も、熱き血潮に触れてみませんか?」

 わたしは、国語教師の手を取って、起ちあがらせる。

「後ろ向いて。
 両肘を机に着いて下さい」

 国語教師の背中を押すと、素直に机に突っ伏した。
 タイトスカートを捲りあげる。
 黒いストッキングのお尻が剥き出る。
 返す手で、ショーツごと一気に引き下ろす。
 真っ白い痩せたお尻が、晒される。
 尻たぶの窪みが翳を孕み……。
 はかない命のように息づいてる。
 でも……。
 痩せた尻のあわいからは……。
 真っ赤に充血した性器が覗いてる。
 まさしく発露のような雫が、陰毛の先で珠を結んでる。

「先生、お若いですわ」

 わたしは、股間に指を伸ばす。
 触れたとたん、尻たぶが絞られた。

「まだまだ、これからですよ。
 ほら、こんなに……」
「あ、あぁぁ」
「今ここに、熱き血潮を突き入れてさしあげますからね」

 わたしは、日本史の先生を振り向く。
 ちんちんから手を離しても、もう逃げなかった。

「日本史の先生なら、ご存知でしょ。
 先生の『成り成りて成り余れる処』を……。
 このお尻の間に覗く『成り成りて成り合はざる処』に突っこむんです。
 ほら、ブリーフの間からなんか出してないで……。
 下、全部脱いじゃってください」

 もう、わたしが手伝うまでも無かった。
 日本史の先生は、カチャカチャと忙しなくバックルを外すと、ズボンを踏みつけて脱いだ。
 ブリーフを持ちあげるようにして、前開きからちんちんを抜き、そのまま脱ぎ下ろす。
 再び起ちあがった先生の股間で、ちんちんが大きく上下に振れた。
 顔が映るほど膨れ切った亀頭が、ネクタイに届いてる。
 ひょっとしたらこの先生……。
 毎日、家に帰ると、玄関先でこうやってるんじゃないか。
 そう思えるほど、手際のいい脱ぎっぷりだった。

 日本史の先生は、自らのちんちんを握った。
 上は、腕まくりしたワイシャツにネクタイ。
 でも下半身は、靴下だけ。
 脛毛の目立つ脚の付け根からは、ワイシャツの裾を分けて、ちんちんがそそり起ってる。
 まさしく、変態の姿よ。

 先生は、ちんちんの切っ先を、息づく尻たぶに定めた。
 腰を落として、にじり寄る。
 ワイシャツの後ろから、筋肉質の尻が覗いてる。
 国語の先生の白いお尻が、日本史の先生の後ろ姿に隠れる。

「あひぃ」

 国語の先生の上体が、奇声とともにうねり上がった。
 一気に突っこんだのね。
 わたしは慌てて、2人の真横に回る。
 もう、肉棒の挿出が始まってた。

「わひっ。
 わひいっ」
「せ、先生、締まります!
 締まります!」

 挿出に合わせて、国語の先生の尻たぶは、心臓の鼓動のように伸縮してる。
 細い太腿には、喜悦の腱が幾筋も走ってる。

「いかがですか?
 『熱き血潮』は」
「いぃっ。
 いぃっ」


本作品のモデル「岩城あけみ」の緊縛画像作品はこちらからご購入可能です。

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
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時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-2

 先生は背を向けると、わたしを促すように先導した。
 広い部屋の奥まった一角。
 電球の光が、ようやく届くあたり。
 美術の教科書に載ってた、レンブラントの絵を思い出した。

「面白い装置をお見せするわ」

 先生は、パフォーマーみたいな仕草で、手の平を向けた。
 でも、その手に示されたものが何か、わからなかった。
 青いシートが被せられてたから。
 ほら、工事現場とかにあるでしょ?
 青い色のゴワゴワのシート。
 電球の光が、シートの皺に染みてるように見えた。

「それでは、ご披露しましょう」

 先生はシートの端を握ると、大げさな身振りで宙に抜きあげた。
 青いシートの擦れ合う音が、思いのほか大きく聞こえた。

「何だと思う?」

 見たことのないものだった。
 大きな机に載ってる。
 カメラが置かれてる机より、もっと大きくて、頑丈そうな机。
 ほら、学校で『技術』の授業をする部屋があったでしょ。
 大きな机が並んでる。
 机っていうか、作業台よね。
 がっしりした、柱みたいな脚が付いてるヤツ。
 目の前にある机は、まさしくその作業台だった。
 そこには、金属製の不思議な機械が載ってた。
 言葉で説明するのは難しいけど……。
 美弥子さんのお父さんって、釣りとかしない?
 そう。
 それじゃ、わからないかもね。
 わたしの父は、海釣りが趣味でさ。
 道具とかにも凝ってたの。
 その釣竿に付いてる、リールって知ってる?
 釣り糸を巻き上げる道具ね。
 作業台の上に載ってる機械は、まさにそのリールに似てた。

 キラキラと輝く金属製のドラムに、巻き上げ用のハンドルが片側に付いてた。
 でも、芯に巻かれてるのは、釣り糸なんかじゃなかった。
 飴色のロープが、幾重にも撚れ重なってた。
 芯から出たロープは、斜め上方に向かって伸び……。
 太い梁を渡ると、その先は、真下に下がってる。
 これだけ見れば、リールの用途はなんとなくだけどわかる。
 梁の下にある何かを、持ちあげる機械なんだって。
 リールは作業台に、ただ置いてあるだけじゃなかった。
 ボルトで固定されてた。
 その作業台の脚も、分厚い金具で床に固定されてる。
 たぶん、重い荷物を持ちあげるために。
 でも、その荷物が何かは、わからなかった。
 リールに掛けられてたと同じ、青いシートが張られ、ロープの途中から下を隠してた。

「この機械、何て云うかわかる?」

 わたしは、クビを横に振った。

「これはね、手動ウィンチって云うの。
 ウィンチって、聞いたことない?
 4WDの車なんかにも付いてるけど……。
 重いものを巻き上げる機械ね。
 ま、普通のウィンチは、動力で巻き上げるわけだけど……。
 このウィンチの場合は、まさしく人力。
 このハンドルを、人間が回すのよ。

 綺麗な機械よね。
 ステンレスなんだって。
 覗きこむと、顔が映るのよ。
 でも何で、こんなものがここにあるか……。
 わかんないでしょ?
 それを説明すると長くなるんだけど……。
 ざっと話しとくわね」

 あけみ先生は、腰の後ろで腕を組み、作業台をゆっくりと巡りながら話し始めた。

「まずは、この建物のことからになるわね。
 この妙ちくりんな趣味の建物は、後になって増築されたものなの。
 3年前だったかな。
 建てたのは、もちろん理事長。
 あなたも、転入面接で会ったでしょ。
 驚いたんじゃない?
 若くて。
 わたしより、2つ上でしかないのよ。
 何で、そんな若くして理事長になれたかって云うと……。
 前理事長の娘だからよ。
 5年前、前理事長が急死したの。
 代々、女系の支配する家らしいわね。
 で、ヨーロッパに留学してた娘が呼び戻されて……。
 理事長の椅子に座ったわけよ」

「前理事長は、立派な方だったわ。
 わたしも、短い期間だけどその下で働いて、まさしく薫陶を受けた。
 でもね。
 その娘はいけなかったわね。
 前理事長みたいな立派な教育者が、どうして娘をあんな風にしか育てられなかったのか……。
 ほんと、不思議だわ。
 ヨーロッパに留学ったって、怪しいものよ。
 遊学の一種じゃないの。
 遊び歩いてたんでしょ。

 理事長を継いでしばらくは、大人しくしてたみたいだけど……。
 そのうち地金が出てきた。
 なにしろ、前理事長の夫は早死にしてて……。
 一人っ子なわけよ。
 早い話、遺産も独り占め。
 ま、若くして、お金も権力も手に入っちゃったら……。
 わたしだって、好きなことの一つや二つするでしょうから。
 一概には避難できないけどさ。
 でも……。
 この建物は、やりすぎよね。
 ヨーロッパのお城みたいでしょ。
 ああいう建築物はさ、まわりの環境と調和してるから、素敵に見えるわけよ。
 こんな、鉄筋校舎の隣に建てたら……。
 学校に隣接してラブホが建ったみたいじゃない。
 鉄筋校舎にあった理事長室が狭いって理由だけで、こんなの建てちゃうんだから……。
 呆れるわよね」

 先生は腰の後ろに手を組んで、講義をするように作業台を巡った。
 ステンレスだというウィンチの地肌に、先生の姿が映ってた。
 部品のカーブにしたがって、映る姿はさまざまな形に歪んで見えた。
 別の世界が映ってるようだった。

「で、この部屋の話よ。
 どうしてここが、こんな倉庫みたいな状態で放置されたのか。
 早い話、予算オーバーね。
 もちろん、当初の設計では……。
 この部屋にも、ちゃんと用途が割り振られてた。
 何だと思う?
 理事会室。
 文字通り、理事会が開かれる部屋よ。
 それが、こうなっちゃったのは……。
 まさしく、あの理事長のせい。

 工事が始まってからも、次から次へと設計変更してさ。
 あ、わたしね。
 理事長から、工事の進捗状況をチェックする係に任命されてたの。
 で、毎日ヘルメット被って、工事現場に通ったわ。
 理事長が思い付きで指示を出して帰った後……。
 現場監督の人は、資材を蹴りあげてたものよ。

 で、業者の方も、当然余計なお金がかかってるわけだから……。
 理事長に、変更契約を求めた。
 ところが、一向に応じない。
 実際のところ、ほんとにお金が無かったらしいんだけどね。
 というわけで……。
 業者も怒っちゃって、最後に残ったこの部屋の工事を止めちゃったのね。
 でも、考えてみれば……。
 いらないのよ。
 理事会室なんて。
 だって、理事会なんて形だけで……。
 みーんな、理事長が決めてるんですからね。
 で、この部屋は、内装に入る前の状態で放置されたってわけ。

 でもほら、上見てごらん。
 太い木の梁が渡ってるでしょ。
 何本も。
 それを支える柱も、あんなに太い。
 あなた、チェーダー様式って知らない?
 イギリスのチューダー朝時代の建築様式ね。
 カントリーハウスによく使われてるわ。
 ほら、高原のロッジとかペンションとかにあるでしょ。
 真っ白い外壁で……。
 柱や梁を塗りこめないで、外に見せてる造り。
 白壁に、黒っぽい柱と梁が縦横に渡って……。
 所々に、斜めの梁も入ってる。
 絵本の中に出てくる、おとぎの国の家みたいなの。
 なんとなくわかるでしょ。
 ここの内装を、あんな感じに仕上げたかったらしいのよ。
 で、骨組みとなる柱や梁が組みこまれたとこで……。
 工事中止ってわけよ。

 でも、ほら。
 上、見てごらんなさい。
 梁の上に鉄骨が見えるでしょ。
 こんな外見してるけど、鉄骨造りなのよ。
 だから、こんな立派な柱や梁も、結局は飾りってこと」

 あけみ先生は、天井を差した指を下ろすと、作業台を回るのを止めた。
 そして、わたしを真っ直ぐに見た。

「なんだか気分出てきちゃったわ。
 講義を始めると、体の芯から火照るみたい。
 ここ、蒸すのよね。
 ねえ。
 美里ちゃん。
 ここから先は、特別講義よ。
 授業料は取りませんけど……。
 その代わり、講義にふさわしい身支度をしてもらいます。
 この美しい機械が、なぜここに据え付けられることになったのか……。
 それを語るわたしも、それを聴くあなたも……。
 一対一の特別講義には、特別な衣装が必要なの。
 と言っても、着替える必要は無いわ。
 脱ぐだけ。
 でも、真っ裸じゃ、衣装とは言えないわよね。
 なので、脱ぐのは下だけ。
 下半身だけ丸出しってのは……。
 全裸より、ずっとラジカルな姿よ。

 ヌーディストビーチって知ってる?
 人々が、公然と裸で過ごせるエリア。
 全裸になっても、恥ずかしくない場所。
 裸になるのは、自然に還ろうって趣旨のわけだからね。
 そこまで出来ない女性でも、上だけ脱いでトップレスで過ごしてる。
 全裸か、トップレスの世界。
 でもね。
 絶対にいないわよ。
 ボトムレスは。
 なぜならそれは……。
 高邁な主張とは無縁な姿だから。
 そう。
 まさしくそれは、変態そのものの姿。

 わたしね。
 ときどき休日に、学校に来ることがあるの。
 忙しいわけじゃないのよ。
 むしろ、忙しくない時期を狙ってる。
 忙しいときには、ほかの先生も出てるでしょ。
 ひとりになりたいのよ。
 教員室で。
 守衛室で鍵を借りるとき、何気ない声で聞くわ。
 ほかに出て来てる先生はいる?、って。

「いいえ、先生だけです」
「そう」


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時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-1

《説明》

杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
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時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。

「ふふ。
 信じない?
 作り話だって思ってるでしょ。
 わかるわよ、信じてない目だって」

 美里はテーブルに身を乗り出し、いたずらっぽく美弥子の瞳を覗きこんだ。

「いいからいいから。
 わたしだって、誰も信じないと思うもの。
 だから、今まで誰にも話さなかったんだ。
 美弥子さんが、初めてよ。
 人に話したの。
 あー、なんかノド乾いちゃった」

 美里が語り終えたのは、転校先の学校での出来事だった。
 3年前……。
 いや、ほんの2年半前のことでしかないのだ。
 2人が通う高校から、美里が転校して行ったのは。
 しかし美里には、十分すぎるほど長い旅だったに違いない。
 あどけなかった少女は、すっかり大人びて帰っていた。

「おいしい紅茶ね。
 もう一杯、いただいていい?
 あれ?
 ポット空だわ」

 美里の物語に引きこまれ、ティーポットが空になっていることにも気づかなかった。

「あ、大丈夫。
 自分で入れて来るから。
 立たなくていいってのに。

 美弥子さん。
 さっきから気になってたんだけど。
 ほら、ベランダのテーブルセット。
 スゴく素敵ね。
 あの白い椅子、海辺のリゾートとかにあるヤツなんじゃない?
 外人さんが日光浴してるみたいな。
 背もたれが倒れるんでしょ?
 ねえ?
 今度はあそこで飲みたいな。
 いいでしょ?
 暑い?
 大丈夫よ、曇ってるんだもの。
 わたしは、紅茶入れてくるから……。
 美弥子さん、カップをベランダに運んでもらえない?
 せっかく立っちゃったんだから。
 お願いできる?」

「あー、やっぱり外は気持ちいいわ。
 ほんと、リゾートにいるみたいね。
 曇り空が、ちょっとだけ残念だけど。

 ねえ。
 さっきの話には……。
 続きがあるんだ。
 と言っても、あの木造校舎のお話じゃないの。
 あそこには、2度と行けなかった。
 続きってのは、あけみ先生とのお話。
 音楽室で、あの不思議な物語の顛末を聞かされた後のこと。

 あけみ先生が、写真部の顧問だって話は、したわよね?
 で、誘われたわけ。
 入部。
 迷いは無かったな。
 放課後、寄宿舎に戻るまでの時間つぶしになるしね。
 それにやっぱり、あけみ先生のことを、もっと知りたかった。
 ていうか……。
 やっぱり、自分のことを知ってる人のそばにいたかったんだろうね。
 聞いてくれる?
 あの日の続き。
 こっちの方が、ずっと衝撃的なお話なのよ」

―――――――――――――――

 音楽室に呼ばれた、その週の金曜日だった。
 携帯にメールが入った。
 あけみ先生からだった。
 アドレスは、音楽室で教えてたの。
 後で連絡したいからって言われて。
 メールは、放課後、体育館に続く廊下に来てほしいって内容だった。
 行ってみると……。
 あけみ先生は、もう待っててくれた。

「時間、大丈夫?」
「はい」
「寄宿舎に帰るだけ?」
「はい」
「じゃ今日は、写真部の部室に案内するわ。
 いいのよね?
 入部」
「はい」

 あけみ先生は、わたしの返事ににっこり微笑むと、黙って歩き出した。
 体育館に続く廊下から、本校舎に戻った。
 文化部の部室のあるエリアは知ってた。
 体育館から、すぐ近くの場所。
 写真部も、当然そこにあると思ってた。
 でも、あけみ先生の後ろ姿は、そこをあっけなく素通りした。
 わたしの当惑に気づいたのか、あけみ先生が振り向いた。

「写真部は、ここにはないの。
 待ち合わせ場所をあそこにしたのは……。
 あなたがまだ、校内をよく知らないと思ったからよ」

 あけみ先生は、すれ違う生徒の会釈に鷹揚に応えながら歩いていく。
 わたしは後ろから付いていきながら……。
 先生のお尻ばっかり見てた。
 ひょっとして今日も……。
 紺色のスカートの下には、縄が食いこんでるんじゃないか、なんてね。
 そんな妄想しながら歩いてたら……。
 先生が、突然立ち止まった。
 背中にぶつかりそうになって、慌てて飛びのいた。
 一瞬だけど、いい匂いがしたな。

 先生は、大きな扉の前に立ってた。
 本校舎から続いた廊下が、その扉で行き止まりになってた。
 廊下の窓から見える景色で、だいたいの居場所はわかった。
 本校舎の外れ。
 そして、この扉の向こうは……。
 あの建物のはず。
 校内探検してるときから、その建物は気になってた。

 本校舎は、普通の四角いコンクリートなんだけど……。
 そこにくっつく形で、その建物が立ってた。
 ヨーロッパのお城みたいなの。
 上の方は、水色の屋根が載ったドームみたいになってるし。
 でも正直、あんまり素敵だとは思わなかった。
 なんか……。
 ラブホみたいな感じでさ。
 でも、いったい何の建物だろうって、不思議に思ってた。
 授業じゃ、ぜんぜん使われないみたいだし。

「ここ、何だかわかる?」

 わたしがクビを振ると、先生は満足そうに笑った。

「ここから先はね……。
 言ってみれば、“禁区”ね。
 生徒はもちろん、一般教師も入れないエリア。
 理事長のプライベートスペースなの」

 先生は、種明かしをするような仕草で、スーツのポケットから鍵束を取り出した。

「でも、わたしは入れるの。
 パスポートがあるのよ。
 今日はあなたを、この“禁区”にご招待するわ。
 今の1年生でここに入るのは、たぶんあなたが初めてじゃないかしら。
 生徒会長だって、任期中に1度呼ばれるかどうかってくらいだもの」
「あの……」
「何?」
「写真部の部室って……」
「そう。
 ここにあるのよ」

 生徒が入れないようなエリアに、どうして部室があるんだろう?
 あけみ先生は、わたしの困惑を心底楽しんでるみたいだった。
 先生は、マジシャンみたいな大げさな手振りで、鍵穴に鍵を挿しこんだ。

 扉の向こうは、大きなホールだった。
 そう。
 ホールとしか言いようがないの。
 何にもないんだもの。
 でも、装飾は凝ってたわね。
 よく言い表わせないけど……。
 宮殿のダンスホールみたい。
 縦長の意匠を凝らした窓。
 古典風の絵画。
 でも、調度類が何もない。
 壁際に、椅子が何脚か置いてあるだけ。
 美術館で、監視員が座ってる椅子みたいだった。

「ここ、何に使う部屋だと思う?
 似たようなとこ、見たことない?
 ほら、ホテルなんかのイベントホール。
 結婚式とかに使われるスペースよ。
 ここも、パーティなんかを開くために作られたみたい。
 確かに、落成式の日には、外部からお客さんがたくさん来てたみたいだけど……。
 その後は、聞かないわね。
 ここが使われたって話。
 ま、ここじゃ、立食パーティしか出来ないだろうしね」

 先生は、パンプスの靴音を木霊させながらわたしを先導した。
 わたしの内履きは、床のタイルでキュルキュルと音を立てた。

「部室は、この上。
 エレベーターもあるけど……。
 こっちの方が、いいでしょ」

 先生は、壁際に廻らされた階段を上り始めた。
 金色の手すりが細い木柵の上に渡ってて、柵の隙間からもホールを見下ろせる。
 階段は、ホールの膨らみに沿ってカーブしてるから……。
 上ってるうちに、目眩がしそうだった。

 2階に上がると……。
 でもあれ、2階って云うのかな?
 ホールは、もっと高くまで吹き抜けになってるの。
 そのホールの真ん中くらいの高さのとこに、バルコニーみたいなのが付いてる。
 階段の行き先がそこ。
 そのバルコニーからホールを見下ろしたら、ほんとに目が回りそうになった。
 そんなに高いわけじゃないのにね。
 中途半端な高さってのが、むしろ怖いのかも知れない。
 そのバルコニーに背を向けると、広い廊下が伸びてた。
 床は、ペルシャ模様みたいな絨毯が敷かれてた。
 なんか、豪華客船みたいな雰囲気だった。
 乗ったことないけど。

 先生は歩きながら、廊下の突きあたりを指差した。

「あの扉が、理事長室」

 先生の脚は、突きあたりの少し手前で立ち止まった。

「写真部の部室はここよ」

 先生は、廊下に面した白い扉に向かうと、スーツのポケットから、再び鍵束を取り出した。
 鍵束の立てるシャリシャリという音が、廊下を駈けてホールに逃げていくように聞こえた。
 わたしの気持ちも、きっと逃げたかったんだと思う。

「はい、どうぞ。
 暗いから、足元に気をつけてね」

 先生に促されたけど……。
 何だかイヤな気がして、脚が動かなかった。

「どうしたの?
 閉じこめられるとでも思ってない?」

 そのとおりだった。
 開かれたドアの隙間からは、矩形の暗闇が広がってた。

「そんなことしないわよ」

 そう言って先生は、先に部屋に踏みこんだ。

「今、明かり付けるから」

 視界から先生が消えると、壁際でスイッチ音がした。
 オレンジ色の明かりが灯った。
 そう。
 教室みたいな、蛍光灯の光じゃ無かった。
 電球色の明かり。

「ほら、入って」

 再び視界に現れた先生が、明かりの下で手招いた。
 明かりが揺れてたのかな。
 先生の顔に出来た翳が、動いてるように見えた。

 恐る恐る踏みこんだ部屋は、廊下の外の世界とは、まったく違ってた。
 なんか、夜の世界って感じ。
 見上げると、天井が高い。
 鉄骨の梁みたいなのが見える。
 そこから、裸電球が下がってて……。
 力のない光を落としてる。

「窓に板が張ってあってね。
 光が入らないのよ」

 ようやく目が慣れてきた。
 不思議な部屋だった。
 部屋っていうより、物置に近い感じかな。
 だだっ広い。

 電球が下がる鉄骨の下には、なぜか太い木の梁が、幾本も渡ってる。
 古民家みたいな感じ。
 床も板張り。
 明かりが弱いから、よく見えなかったけど……。
 油系のワックスでも塗られてるようだった。
 板が張られてるって窓は、薄暗い中でも、すぐにわかった。
 板の継ぎ目が、横糸みたいに光ってるの。
 外の光が漏れてるんだね。

「今のとこ、明かりはこれしかないのよ。
 壁にコンセントがあるから……。
 今度、ライトでも持って来なくちゃね。
 これじゃ、お茶も飲めないわ」
「あの……」

 わたしが聞きたかったのは、もちろん……。
 ほんとにここが、写真部の部室なのかってこと。
 それらしい機材はまったく見あたらない。
 それどころか、部員が座る椅子もない。
 そもそも、人のいる気配がないのよ。

「なあに?」
「ほかの部員の人は……」
「いないわよ。
 部員は、あなた一人」
「え?」
「まだ、部の申請してないの。
 ていうか、部員一人じゃ無理でしょ」

 わたしはきっと、どういう顔していいかわからなかったんだと思う。
 先生は、そんなわたしの顔を、いたずらっぽく覗きこんだ。

「部員はいないけど……。
 モデルさんはいるのよ。
 これから紹介するわね。
 あと、カメラはちゃんとあるわ。
 ほら、そこの机」

 先生が指差した壁際には、木製らしい大きな机が据えられてた。
 太い脚の、重そうな机だった。
 その上に、確かにカメラがいくつか載ってた。
 その中のひとつに、わたしの目は吸いつけられた。
 それは、お弁当箱みたいな形をしていた。
 忘れようもない。
 ともみさんが持ってた、ポラロイドカメラだ。

「覚えてた、そのカメラ?
 あ、忘れるわけないか。
 あなたは、行ってきたばっかりなんだもんね。
 14年前の、あの日に」

 先生の目は、悲しそうだった。

「うらやましい……。
 あの日のすぐ近くにいるあなたが。
 きっと、記憶も鮮明なんでしょうね。
 わたしのはもう、セピア色。
 どんな大事な記憶でも、年月と共に色褪せてしまう。
 写真と一緒よ。
 でも、あなたを見つけてからは……。
 セピア色の写真に、色が戻った気がするの。

 ねえ。
 今日も穿いてるの?
 あの、レモン色のショーツ。
 こないだ、見せたでしょ。
 14年前のあなたのショーツ。
 記憶と一緒に、あの布地も色褪せてしまった。
 なにしろ、あのショーツには、わたしの涙が染み過ぎたから。
 幾度、あのショーツを握りしめて泣いたことか。
 もちろん、ともみさんの持ち物があれば、そっちに縋ったわよ。
 でも、ともみさんは何も残してくれなかった。
 あの日の記憶に縋るには、あなたのショーツしか無かったの。

 あ、こないだ、思いついたんだけど……。
 ともみさんは、これから入学してくるわけよね。
 あなたの後輩として。
 そのともみさんに、あの日のわたしに……。
 何か残してくれるように頼むってのは、どうかしら?
 こういうのって、パラドックスって云うんでしょ?
 もし、ともみさんが、何かを残してくれたら……。
 わたしが、あなたのショーツに涙を零すこともなくなる。
 そしたら、わたしのその記憶は、いったいどうなるんだろう?
 わたしは、消えて無くなるの?」

 先生に詰め寄られ、わたしは思わず一歩下がってた。
 背中が壁に着き、後頭部が軽く音を立てた。
 先生はその音で、ようやく我に返ったみたいだった。

「ごめんね。
 あなたを責めても仕方ないわよね。
 そうそう。
 モデルさんが、お待ちかねだったんだ。
 こっち来て。
 えーっと……。
 あなた、名前なんって云うんだっけ?
 14年前には、自己紹介なんてしなかったもんね」
「棚橋美里です」
「そう。
 棚橋さん。
 美里ちゃんね。
 じゃ、今からそう呼ぶわ」


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飯倉えりか×緊縛桟敷

今回は「飯倉えりか」さんより撮影時の感想文をいただきましたので、撮影後記に変わって掲載させて頂きます。

杉浦先生、ならびにスタッフの皆様、先日は大変お世話になりました。
長時間撮影だったにも関わらず、あっという間の素晴らしい時間を過ごさせていただきました。 心からお礼申し上げます。

杉浦先生の撮影現場はとても緊張感に溢れていて、たくさんの初めての責めを受けても逃げずにいれたのは、杉浦先生から発せられるパワーと思いを全身で感じる事が出来たからだと思いました。
ところどころ記憶が飛んでしまっていて申し訳ないのですが、初めて経験したクリップ責めは、体の表面から痛みを感じ、それが全身に広がり今度は熱さに変わっていきました。身体は緊縛で身動きが取れず、乳首も割り箸で挟まれ、息をするたびに痛みが全身に走りました。
どうすることも出来ない、という状況は、苦痛でもあり喜びでもある。
それを実感致しました。

私は緊縛というものを数年経験していますが、「縄で縛られる」という、ある種拷問でもあり苦痛でしかない状況が、なぜこのように自分を解放させてくれるのか。。
いまだにその謎は解き明かされていません。
「不自由な中での自由」は、私に考えることを許さず、「感じること」のみを与えてくれます。

その証拠に、数々の責めを受け、泣きじゃくったあとの体は異様に敏感になり、体の内部…特に秘めた部分にとてつもない熱さを感じていましたから。。

そのあとは、ずっと夢の中にいるような不思議な感覚で…ずっとそうされていたいという欲求が、あとからあとから湧いてきて…
苦しくて惨めで、どうしようもない状態の私を真剣に見てくださっている。身体がどれだけキツくても、この心が解放される喜びを知ってしまうと縄からは離れられません。

もっとどうにでもして欲しい。
女の秘部を踏みつけられ、女のシンボルである乳房を鷲掴みにされ、踏みつけられたい。
浅ましい「肉」に成り果てたい。

そんな欲望に満ち溢れた数時間は、私が「女」であることを強く認識させてくれた、素晴らしい時間でした。
ぜひひまた経験してみたいと思う、背徳の時間でした。。

今は、杉浦先生の作品となった自分を見るのが楽しみです。  そこにはきっと、私が望んでいた凄惨な美、「縄の向こう側」の世界が写し出されているはずだから。。

飯倉えりか「杉浦則夫緊縛桟敷」にて掲載開始。