放課後の向うがわⅡ-26
わくわくしながら、その日を待ったわ。
セピア色だった女子高の日常が、鮮やかな色に輝き出した。
で、ある週末の放課後。
川上先生の様子に異変を感じた。
わたしは、折りたたみの手鏡を机に置いて、ずっと先生を観察してたの。
だから、小さな変化も見逃さなかった。
それほど忙しい時期でもないのに、居残ってるし……。
と言って、仕事をしてるふうでも無い。
ノートパソコンに向かいながらも、心ここにあらずって感じね。
何かあるって思ったわ。
外が暗くなりかけたころ……。
川上先生がパソを落とし、起ちあがった。
まばらに残る同僚に、『お先に』の言葉を残して扉を出てった。
先生の足音が聞こえなくなるまで待ち、わたしも席を立った。
廊下に出ると、もう先生の姿は見えなかった。
もし、わたしの思い違いで、先生が真っ直ぐに帰ったんなら……。
それはそれで仕方ない。
次の機会を待てばいい。
わたしは、躊躇なく塔に向かった。
曲がり角ごとに、そっと覗くんだけど……。
先生の姿は見えない。
やっぱり今日は外れかと思いつつ、最後の角から顔を覗かせたら……。
遠い扉の前に、背中が見えた。
見間違えようのない、白いブラウス。
わたしは、慌てて顔を引っこめた。
振り向かれたらヤバいもんね。
遠くで扉の閉まる音を確かめ、扉に続く廊下に踏み出した。
もう、そこには誰の姿も無かった。
でも、さっきの背中が、扉の向こうに消えたことは間違いない。
その扉のほかに、行き場は無いんだから。
わたしは、足音を殺しながら、扉に駆け寄った。
なんだか、身体がフワフワと軽くて、宙を飛んでるように思えた。
夢の中にいるみたい。
扉の前で立ち止まって初めて……。
自分の心臓が、早鐘みたいに鳴ってるのがわかった。
2,3度深呼吸して、ノブに手を掛ける。
開かない。
やっぱり、向こうからロックしたのね。
もちろん、これは想定内。
わたしは、ポケットから合鍵を取り出し、ノブの鍵穴に挿しこんだ。
指に伝わる手応えを感じながら、鍵を回す。
くぐもった金属音を響かせて、鍵は180度回った。
でも、なかなか扉を開く勇気が出ない。
この扉を入ったら、もう後戻りできない。
そんな気がしたの。
だけど、そのまま引き返す気なんて、もちろん無かった。
気づくと、握ったノブが、わたしの手の温度と同じになってた。
校舎の外で、カラスが鳴いた。
わたしには、それが合図だった。
ドアノブを回し、押し開く。
考えてみれば……。
塔に入ったのは、竣工パーティ以来かも。
建築中は、毎日のように通ってたのにね。
でも、目の前に開けたホールは、記憶にあるままだった。
まるで、ここだけ時が止まってたみたい。
夕暮れの、がらんと静まり返ったホール。
もちろん、明かりは灯されてない。
ステンドグラスから差しこむ光が、床に綺麗な模様を描いてる。
わたしは、もう一度復唱する。
ここに入ったのは、川上先生を見かけて、不思議に思ったから。
扉には、鍵がかかってなかった。
うなずきながら、扉を振り返る。
でもそれなら……。
わたしがここをロックしたら、ヘンかな?
だけど、開けっ放しにしておくのは、どうしても不安だった。
わたしと同じように、ここに入りこむ人物がいないとも限らない。
背後から、誰かがつけてくる……。
その妄想だけは振り切りたかった。
ラッチを回し、扉をロックする。
無意識にロックしたんだと、自分に言い聞かせながら。
でも、ノブを掴み、開かないことを確認すると……。
逆に、度胸が座った。
この先、鬼が出るか蛇が出るか……。
見届けてやりましょう、ってね。
ホールの空気は、しんと静まり返って、人のいる気配がない。
それなら、川上先生はどこに消えたのか。
2階しか考えられなかった。
わたしは、華奢な階段に向けて歩き出した。
吹き抜けの高いホールに、ヒール音が木霊する。
階段から見下ろす景色は、夢で見た記憶のように綺麗だった。
ステンドグラスを透いた細長い影が、床に幾本も絵画を描いてる。
わたしは思わず立ち止まり、胸ポケットからカメラを取り出した。
川上先生を監視するようになってから、カメラは常時持ち歩くようにしてるの。
どんなネタが撮れるかわからないものね。
カメラを構えると、細い手すりに両腕を載せて固定する。
液晶を覗きながら、ホールの全景を収める。
小さなシャッター音が響いた。
写真を撮るのは、わたしにとって、おまじないのひとつなのよ。
緊張してるときとか、不安になったときに撮るの。
カメラを構えるってのは、そのシーンで第3者になる儀式なわけ。
当事者の立場じゃなくてね。
だから、客観的になれるんじゃないかな。
美里も、大学受験のときとか、やってごらん。
試験場のまわりとか、受験生の表情。
シャッター押さなくても、覗くだけでもいいのよ。
はは。
また、脱線ね。
でも、勉強になったでしょ?
階段を上りきったところで、ホールを背にした。
正面の理事長室まで、綺麗な遠近法で真っ白い廊下が伸びてる。
左右に、いくつかの扉。
川上先生は、そのどれかに入ったに違いない。
廊下を歩き始めると、思いのほか靴音が響いた。
パンプス、脱いじゃおうかと思ったけど……。
そんな姿を見られたら、言い訳のしようが無いし。
懸命に足音を忍ばせて進んだ。
扉の前では足を止め、中の気配を伺った。
でも、何も聞こえない。
気配もしない。
理事長室の扉が、真正面に迫ってくる。
今にもそれが開き……。
わたしを糾弾する指が突きつけられる。
そんな妄想がちらつき始めたころ……。
聞こえた。
声。
女の人の声。
言ってる言葉までは聞き取れなかったけど……。
日常会話じゃないってことは、はっきりとわかった。
粘るような甘ったるいトーンが、ところどころ跳ねあがる。
2種類の声が交差し、重なってる。
わたしは、声の漏れてる扉に擦り寄った。
それがこの、理事会室だった。
この部屋の工事は、途中で放棄されたはず。
立ち会ったわたしは、その経緯を知ってる。
その後、工事が再開された話なんて聞かない。
それならどうして、その部屋から声が聞こえるのか?
逃げ出したい恐怖に、好奇心が勝った。
鍵穴を覗いたけど、何も見えない。
扉に耳を着ける。
声は、部屋の奥からのようだった。
耳を着けても聞き取れない。
ぷつぷつと粒を潰すような響きに、ときどき裏返った高音が伸びあがる。
我慢できず、ドアノブに手を掛けた。
鍵が掛かってなかったことに気づいたのは、扉が開いてからだった。
でも、この事実に、わたしは意を強くした。
だって、ここに鍵が掛かってないってことは……。
塔の入口に鍵を掛けただけで、事足りるってこと。
つまり、塔の中には、この部屋の声の主しかいないってことじゃない?
それなら、背後から誰かが現れる心配は、もうしなくていい。
わたしは、扉の隙間を少しずつ広げていった。
まだ外は暮れ切ってないはずなのに、扉の中は夜のように暗かった。
窓に打ちつけられた横板のせいだってわかったのは、後になってから。
そう言えば、おととしだったかの台風のとき……。
塔の窓を、大急ぎで塞がせたことがあったの。
外から塞ぐのは無理だから、内側から塞いだわけ。
割れたガラスが散乱しないように。
台風のあと、ほかの部屋の板は外されたようだけど……。
ここだけは、そのままにされたみたいね。
ま、倉庫代わりに使うんなら……。
光が入らない方が、収納物が日焼けする心配も無いわけだし。
扉の隙間から、中を伺う。
聞こえる声は、少し大きくなったけど……。
聞き分けるには、まだ遠かった。
声の主は、扉からは離れた位置にいるようだった。
目が慣れると、部屋は真っ暗じゃなくて、遠くから微かな光が差してるのがわかった。
声の主は、きっとその光源付近にいるに違いない。
扉からわたしが入っても、声の主は気づかないだろう。
そう思ったけど、なかなか踏み出せない。
じっと耳を澄ます。
声は、ときおり重なるようだった。
明らかに、2種類。
中にいるのは2人。
2人とも女性であることは間違いない。
ひとりはおそらく、忽然と消えた川上先生。
なら、もう1人は?
好奇心を抑えきれなくなった。
思い切って、扉の隙間を擦り抜ける。
咎められたらどうしようかと思ったけど……。
使われてないはずの部屋で声が聞こえたから入ってみたって、開き直る覚悟だった。
もう、後戻りは出来ない。
ドアは、開けたままにしておくことにした。
閉めるとき音がしそうだったし……。
逃げ道を確保しておくためもあった。
扉に鍵が掛かってなかったんだから、第三者が扉から入ってくる危険も無いだろうし。
ようやく一人歩きを始めた子供みたいに、恐る恐るドアノブから手を離す。
声の聞こえる方へ、身体を向ける。
床材をほんのりと浮かびあがらせる光も、その方向から漏れてるのがわかった。
部屋の奥だった。
でも、人影は見えない。
わたしの視線は、不思議な材質の幕に遮られてた。
声の主は、その幕の向こうにいる。
踏み出そうとする脚が、震えてるのに気づいた。
足音を殺す自信が無かった。
思い切ってパンプスを脱ぐ。
逃げる用心のために、パンプスは手に持った。
もう、言い訳も出来ない格好ね。
ストッキングを滑らせるようにして床を進む。
木製の床は、能舞台を思わせた。
薪の火だけが、舞台を照らす。
一歩踏み出すごとに、鼓の音が聞こえるようだった。
でも、数歩進んだところで、能役者の脚がすくんだ。
幕の向こうから、バイオリンの弦を引くような高音が伸びてきた。
わたしのすぐ脇をすり抜けてった声は、日常会話では有り得ない音色だった。
その高音に、粘り気を帯びた声が重なる。
引き伸ばした飴に、濃厚なシロップが絡むみたい。
ようやく確信した。
2つの声は、明らかに睦言だ。
下腹が痛くなった。
膝が震える。
幕が降りたまま、舞台ではとんでもない劇が演じられてるに違いない。
ようやく幕までたどり着いた。
不思議な材質に見えた幕が、ブルーシートだってわかったのもこのとき。
そこまで近づくと、声ははっきりと聞こえた。
でも、声はもう、意味のある言葉を発してなかった。
明らかに、佳境に入った声。
シートの裾からは、光が漏れてる。
光源に照らされた舞台を、早く見たかった。
わたしは、ブルーシートを見回し、覗ける場所が無いか探した。
シートは、中央部で重なってた。
そこを開けば見えるだろうけど、幕の真ん中から顔を出すわけにはいかない。
わたしは、下手に回った。
壁面に、光が漏れてる。
幕の側面が、壁に沿って揺らいでる。
そのあたりは光源から遠いようで、漏れる光も弱かった。
ここから覗けば、中の2人には気付かれないはず。
でも、高い位置からシートを捲るのは憚られた。
わたしは、その場にひざまずいた。
シートの側面に手を掛ける。
わたしの手が触れると、シートが震えた。
もちろん、わたしの指が震えてたから。
僅かにシートを開くと、黄色い光が、スカートに差した。
その状態で、声に耳を澄ます。
気取られてないことを確信すると、少しずつシートを捲ってく。
身を壁に目一杯寄せ、頬を壁に着けながら、隙間に顔を差し入れた。
光源を、右頬に感じた。
光に視線を向ける。
そこには、裸電球の光源と……。
2つの声の音源があった。
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。
村上涼子×緊縛桟敷 撮影会編
村上涼子杉浦則夫緊縛桟敷にて掲載開始。
今週は五週目特別更新ということで、前々回の撮影会村上涼子さんの原稿が公開されました!
午前の部がワンピースで午後の部が和服という構成でした。
豊満な肉体の涼子さんに既製の和服は前回りを合わせるのがとても無理がありましたがなんとか着ていただきました。
最初のショットは参加者のカメラの露出の調整のために緊縛しない静かに座る涼子さんの姿を撮りました。
このショットが涼子さんにとってとても自然で、微笑する顔の色っぽさにはフアンならずも引き込まれる想いをいだく。
長い芸歴のうちでも緊縛撮影会は初めて、多くの参加者(フアン)の前で彼らを堪能させることができるか、トップクラスのAV女優のプライドもプレッシャーとなり大変な緊張の始まりであった。
陵辱感にうちのめされた屈辱、羞恥に身をこわばらせる女の哀しさ、それをこの豊満な肉体で表現しようと撮影前に話したのが、素直な彼女にとつてはプレッシャーで、縄がかかるや緊張で顔がこわばってしまった。
何んとかそれをほぐそうとするのであったが泥沼に入るばかりで、涼子は焦りと困惑で涙を流すはめにおちいった。この肉体に縄がくい込むや整形術をほどこすように肉体を美しく仕上げていく、ここに緊縛の妙がある。ラストは奈加氏の懐に抱き抱えられておおなき泣きしてしまった。
むずかしい心のあやをやりとげた充足の涙と受け止める
村上涼子杉浦則夫緊縛桟敷にて掲載開始。
保護中: 美帆の緊縛日誌15 縄にのめりこんだ私
放課後の向うがわⅡ-25
「か。
かはぁ」
すべての精液を放出したわたしは……。
石炭を食い尽くした機関車みたいに、動きを止める。
尻たぶだけが、ひくひくと収縮してる。
きっと、顎は外れたようにぶら下がり……。
唇の端からは、涎を垂らし……。
瞳は半分、上瞼に隠れてる。
断崖に爪先立って、懸命に意識だけは保ってる。
「あぅぅ」
川上先生が、身をくねらせた。
骨のないゴム人形みたい。
女の身体って、どうしてこう柔らかいのかしら。
でも弾みで、わたしの姿勢は、危うい均衡を失った。
その場にひっくり返りそうになり、無意識に脚を送った。
「あぁっ」
陰茎が抜けた。
川上先生の声は、明らかに喪失の悲鳴を含んでた。
たたらを踏む足元を、懸命に踏ん張る。
陰茎はまだ硬度を失わず、先生の膣液に塗れたまま、ネラネラと光ってる。
射出口には、名残の精液が、珠のような雫を結んでる。
わたしは、陰茎の基部を握ると、切っ先に向けて扱きあげる。
指の股に絡め取った精液を、鼻先に翳す。
クラクラするほど臭い。
初夏の森に迷いこんだような匂い。
「先生……。
最高でしたわ。
でも……。
絶対、妊娠しちゃったと思う。
すっごく濃いもの。
感じたでしょ?
子宮口に。
どうです?
ご気分は?
女の胤で、子供を宿すお気持ちは?」
「い、いや……。
いやです」
川上先生のおまんこが収縮した。
酢を垂らされたアワビみたい。
肛門まで、シャッターのように絞られてる。
懸命に、精液を押し出そうとしてるの。
「あ、垂れてきた垂れてきた。
先生、椅子降りて。
座面が汚れちゃう」
背中の縄を引っ張って、先生を引きずり下ろす。
「ほんとにイヤらしいお尻。
また突っこみたくなるわ。
先生、待ってくださいね。
垂らさないでちょうだいよ。
今、バケツ持ってきますから」
掃除用のバケツを拾い、先生の足元に据える。
「ほら、いいですよ。
息んで。
お腹押してあげましょうか?」
先生の股間で、アワビが収縮する。
「スゴい締めつけ。
こんなに締められたら、どんな男だって我慢出来ないわ。
でも、出ないわね。
わたしの、よっぽど濃かったのかしら?
先生。
やっぱり、妊娠、決まりみたいですわ」
「い、いやぁ」
先生が顔を歪めると、なんと、股間のアワビが泣き出した。
おしっこ、し始めたのよ。
押し出せないなら、水で流そうってわけ?
おしっこで膣内なんて、洗えないのにね。
「終わりました?
少しは流れたかしら?」
わたしはバケツを覗きこむ。
ブリキの底には、うっすらとレモン色に色づいた液体が溜まってる。
「精液、出てないみたいですよ」
顔を近づけると、メガネが曇った。
それで一気に、興奮が昂まる。
バケツに顔ごと突っこみ、濃厚な蒸気を堪能する。
「あー、いい香り。
でも、精液が混じってるか、嗅いだだけじゃわからないわ。
味見してみないと。
先生、飲んでみていいですか?」
「ダメ!
止めてください。
汚い」
「あら、教師にあるまじき不見識ね。
出たばかりのおしっこって、無菌なんですよ。
綺麗なものなの。
飲んでも、ぜんぜん平気。
でも、飲む前にまず……。
顔、洗わせていただきますわ」
わたしは、バケツの底を両手で掬う。
薄黄色い水を透いて、指の腹は、並んで泳ぐ小魚みたい。
「先生、こっち見て」
わたしは、両手を抜きあげ、そのまま顔に叩きつける。
弾けた飛沫が、耳の穴に入った。
わたしは、手の平で顔を捏ね回す。
唇を伝う雫は、啜りこむ。
「美味しいー。
匂いも最高」
指先に纏わる滴りを、鼻の穴に突きこむ。
「止めて、止めてぇぇぇ」
「止められるもんですか」
わたしは、バケツを頭上に掲げると、水垢離をするように、ひっくり返す。
生温い滝が、頭上から降り注ぐ。
バケツを床に戻すと、両手で髪を掻き回す。
流れる雫を、全身に塗りたくる
「もう、止めて……」
脇の下に塗りこむと、鼻先を突っこむ。
発汗した脇の臭いと、雌の小便の臭い。
どんなチーズも敵わない、至高の香り。
下腹部に滴る小便を、陰茎に塗りたくる。
「先生……。
わたし、また勃っちゃいました。
いいですか?
もう一発。
ほら、お尻あげて」
ビシィッ。
尻肉が、小気味いい音を立てる。
尻たぶがほんのりと染まっていく。
先生のお尻が、ゆっくりと上がる。
相臀のあわいから、生々しいアワビが覗く。
わたしの陰茎は、舌なめずりするヘビのように近づいてく。
「はは。
まーた、脱線しちゃったわね。
何の話してたんだっけ。
あ、そうそう。
この塔への鍵の話よね。
川上先生が持ってた、革のストラップが付いた鍵。
それを見かけたのが、更衣室だったってとこまで話して……。
話が逸れちゃったのよね。
それじゃ、その続きから。
ロッカーの扉の裏に付いた鏡で、後ろが見える。
通路を挟んだ反対側の川上先生が、ローッカーを開けてると……。
その中が見えるわけよ。
革のストラップが付いた鍵がぶら下がってるのも見えた。
何の鍵だろうって、不思議に思ってた。
朝、その鍵を持って出ないから、机の鍵でもない。
でも、謎は、偶然にも解けたわけよ。
その鍵で川上先生が、塔への扉を開くのを見ちゃったんだから。
川上先生が、扉の前で後ろを振り返ったときの目。
きっと、あの目に出会った瞬間よ。
わたしの心に、悪魔が宿ったのは。
怯えたような、でも、期待に膨らんでるみたいな……。
葡萄を思わせる眼だった。
わたしの好きな、大手拓次って詩人に、『藍色の蟇』って詩があるわ。
その中の一節が、脳裏に蘇った。
『太陽の隠し子のやうにひよわの少年は
美しい葡萄のやうな眼をもつて、
行くよ、行くよ、いさましげに』
そう。
その時の川上先生の目は……。
まさに、少年の目だった。
でも、健康な目じゃない。
病床の布団の中で、熱に浮かされてるひよわな少年。
でも、彼の意識は、想像の森を歩いてるの。
“いさましげに”よ。
はは。
また脱線した。
でも、それくらい印象的な目だった。
わたしの心臓を、鷲掴みするくらいね。
で、先生の手から下がる革製のストラップが、塔への扉を開くのを見たとき……。
わたしの肩越しに、悪魔がささやいた。
お前は、オールマイティのカードを持っているんだぞ、って。
そうよ。
あのロッカーのマスターキー。
それまでのわたしは……。
あのキーを悪用しようなんてこと、これっぽっちも考えたことが無かった。
これは本当よ。
きっと、教師という立場が、無意識のブレーキを掛けてたのね。
でも、悪魔の声を聞いた瞬間……。
ブレーキが外れた。
以来、マスターキーを常にポケットに入れ、チャンスを待ったわ。
その機会は、案外早く訪れた。
川上先生が、年休を取ったの。
わたしは、人気のない時間を見計らい、更衣室に向かった。
他人のロッカーに鍵を挿しこむときは……。
さすがにドキドキしたわね。
でも、あっけないほど簡単に、扉は開いた。
当たり前だけど。
ロッカーの中には……。
川上先生の匂いが、かすかに籠ってるようだった。
思わずオナニーしそうになったけど……。
さすがに、そこは持ちこたえた。
目的は、そんなことじゃないものね。
そう。
目あての物は、まさしく目の前にぶら下がってた。
革のストラップの付いた鍵。
それを持ち出すと、昼休みに街に出て……。
合鍵を作った。
もちろん、先生の鍵は、そのままロッカーに戻した。
こうして、オールマイティなマスターキー君のおかげで……。
わたしの手元には、大変な鍵が手に入ったわけよ。
そう。
“禁区”と呼ばれる、この塔への扉。
でもね。
なかなか勇気が出なかった。
あの扉を開く勇気が。
塔の中に、誰がいるかもわからないし。
もし、わたしが塔に入ってるところを見咎められたら……。
言い訳のしようが無いじゃない?
どうしてここに入れたんだって、問い詰められるわ。
いろいろ口実を考えたけど……。
やっぱり、一人で入るのは危険だって結論しか出なかった。
それなら、どうするか。
川上先生に続いて入るしか無いじゃない。
川上先生が、塔に入るところを目撃し……。
不思議に思い、後を追った。
これなら理由になるでしょ?
もちろん川上先生は、入った後、扉をロックしたって反論するでしょうけど。
でも、鍵なんて掛かってなかったって言い張れば……。
結局は、川上先生の掛け忘れってことに帰着するはずよ。
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。