放課後の向うがわⅡ-22

 あけみ先生は、川上先生に近づいた。
 川上先生は、顔を背けたまま動かない。
 あけみ先生は、ゆっくりと上体を折ると、川上先生の髪に鼻を埋めた。

「いい香り……」

 川上先生は懸命に頚を折り、逃れようとした。

「そんなに嫌がらなくてもいいでしょ。
 そう言えば、思い出した。
 バスの中で、一度だけ痴漢シーンを見たことがあるの。
 でも、あれは痴漢行為とは云えないのかな?
 だって、女性は気づいてなかったんだから。
 若い女性だったんだけど……。
 その後ろに、男が立ってた。
 ちょっとくたびれた、失業中みたいな感じの中年男。
 そいつがね、若い女性の後ろから、髪の匂いを嗅いでるの。
 もちろん、鼻を突っこんだりはしてなかったけど。
 うっとりと目を閉じて、ほんとに気持ちよさそう。
 ていうか、ほんとに気持ち良かったんだと思う。
 だって、右腕のジャンパーの袖が、小刻みに動いてたもの。
 あれは絶対、袖から出た手が、自分のちんぽ弄ってたのよ。
 ひょっとしたら、フィニッシュまでいっちゃったかも?
 女性のスカートのお尻には、工作用の糊みたいなのがベッタリ?

 ほほ。
 その時の男の気持ち、今わかったわ。
 女性の後ろから、髪の匂いを嗅ぐって、こんなにいいものなのね。
 わたしもこのまま、しちゃおうかしら。
 あの時の男みたいに。
 でも、精子をかけられないのが、ほんとに残念。
 せめて、こすりつけようかしら。
 そのまんまるなお尻に、おまんこのお汁を」

 あけみ先生は、腰を突きつけるように、にじり寄った。

「い、いやぁぁ」

 川上先生が悲鳴を噴きあげ、身を捩った。

「ゆうちゃん?
 ゆうちゃんなの?」

 振り返ると、理事長が懸命に頚をもたげてる。

「理事長先生。
 助けて……」
「どうして……。
 どうして、ゆうちゃん……。
 いえ、川上先生にまで、こんなことするの!
 岩城先生、どうして!」

「ふふ。
 ゆうちゃん、か。
 まさか……。
 学園の理事長と英語教師が……。
 レズビアンの関係にあるなんてね。
 驚いちゃうわよね」
「そんな!
 違います」
「違いません。
 だってわたし、見ちゃってるんだもの。
 お2人のお熱い場面。
 鼻の穴膨らませて、ふーふーいいながら、はしたないことしてらっしゃいましたよね。
 ここで」
「ウソ……」
「ウソじゃないことは、お2人が一番ご存知でしょ。
 なんなら、証拠を見せましょうか?
 佳境の場面の写真、撮ってありますのよ」
「目的は何なの?
 岩城先生、これは明らかに犯罪よ。
 こんなことまでして、どうしようって言うの!」
「どうしようかしら?
 何されたい?
 最後は、2人の愛の集大成に、心中させてあげましょうか?
 わたしがお手伝いしますわよ。
 このロープで。
 お2人の細い頚を並べて縛って、締めあげてさしあげます。
 お2人は、頬を寄せ合いながら……。
 互いの顔から、目玉や舌が飛び出すのを見届けて死んでいくの。
 噴きあげる便臭の中でね。
 どう?」
「狂ってる……。
 狂ってるわ」
「そうよ。
 だから、ほんとに何するか、わからないわよ」
「助けてあげて。
 川上先生だけは、助けて」
「ゆうちゃん、でしょ?
 言ってご覧なさい」
「……ゆうちゃんを、助けて」
「まぁ、妬けちゃうわね。
 でも、理事長。
 こんな目にあってるのは、そのゆうちゃんのせいなんですのよ。
 この塔への鍵をわたしにくれたのは、川上先生なんですもの」
「ウソです!
 そんなこと、してません!」
「したのよ。
 もちろん、そんなつもりは無かったんだろうけど」

 あけみ先生は、オーバーブラウスのポケットから、鍵束を取り出した。
 2人に見せつけるように指先で吊るし、鈴のように振ってみせる。
 擦れあった鍵は、しゃらしゃらと儚い音を立てた。

「夏休みに、更衣室のロッカーが入れ替えられたでしょ。
 前のロッカーは、ほんとに酷かったですよね。
 あんなところに予算をケチって、旧校舎のロッカーが転用されてたんですもの。
 でもさすがに、鍵の無くなったのやら、扉が閉まらなくなったのが多くなって……。
 ようやく新品に入れ替えられることになった。
 搬入は、夏休み。
 でもその日、搬入に立ち会うはずだった事務員が休んじゃったのね。
 ま、父親が急死したんじゃ仕方ないわ。
 で、たまたま事務員からの電話を受けたわたしが、代わりに立ち会うことになったわけ。

 立ち会うったって、大したことするわけじゃないの。
 ここに入れてくださいって、業者さんを案内して……。
 後は、設置後に検収するだけ。
 何事もなく終了したわ。
 新しい金属の匂いが、部屋いっぱいに広がってた。
 で、業者さんに御苦労さまでしたって言おうとしたら、鍵をひとつ渡されたの。
 もちろん、個々のロッカーに掛かる鍵は、それぞれ鍵穴にぶら下がってる。
 リングで繋がれたスペアキーも一緒にね。
 首を傾げたわたしに、業者さんは、その鍵の役割を説明してくれた。

 マスターキーだったのよ。
 今時のロッカーでは普通らしいけど、思いもつかなかったわ。
 つまり、個々の扉は、それぞれの鍵で開け閉めするわけだけど……。
 ほかにもうひとつ、すべての扉を開閉できるキーがあったわけ。

 そのときは感心しただけで、スカートのポケットに仕舞ったんだけどね。
 もちろん、その鍵をどうこうしようなんて、考えもしなかった。
 事務員が復帰したら、渡すつもりだったわ。
 でも、父親の葬儀だから、忌引きが長かったのよ。
 で、ポケットに入れたまますっかり忘れちゃって……。
 そのスカート、たまにしか穿かないやつだったから、ずっとワードローブに下がったまま。
 気づいたのは、スカートをクリーニングに出そうとしたときだった。
 鍵を受け取ってから、10日も経ってた。
 そうなると、今さら出しにくいわよね。
 マスターキーをずっと持ってたなんてことが知れたら、なに疑われるかわからない。

 それに……。
 事務員を始めとして、マスターキーがどこにあるかなんて、誰ひとり聞かなかったのよ。
 つまり、新しいロッカーにマスターキーがあるってこと、誰も知らなかったわけでしょ。
 そんなら、最初から無かったことにすればいいやって……。
 机の奥に仕舞っちゃった。
 そんときは、それでお終い」

「あれは、2学期が始まったばかりのころだった。
 放課後。
 川上先生の後ろ姿を見かけた。
 ぷりぷりのお尻を見送ってると……。
 先生は、真っ直ぐに塔への扉に向かって行った。
 あの塔は、一般教師には無縁の場所のはず。
 不思議に思って見てると……。
 川上先生は、扉の前まで来て振り返る素振りを見せた。
 あわてて、廊下の曲がり角に身を隠した。
 わたしがコソコソしなきゃならない理由は無いんだけどね。
 でも、川上先生の挙動には、そうさせる怪しさがあったの。

 好奇心が抑えられず……。
 角から偶然出てきたって感じで、もう一度廊下に踏み出した。
 川上先生は、もう背中を向けてた。
 で、ポケットから何か出すと、それを扉に差しこんだ。
 扉が開いた。
 驚いたわ。
 一般教師が、塔への鍵を持ってるなんて。
 川上先生が扉の向こうに消えた後……。
 扉に駆け寄り、ノブを回してみたけど、開かなかった。
 向こう側からロックしたのね。

 俄然、探究心が湧いた。
 どうして、わたしより後輩の川上先生が、塔への鍵を持ってるのか。
 川上先生が鍵を差しこんだとき、手の平から革のストラップが下がってるのが見えた。
 そのストラップには、見覚えがあったの。
 すぐに思い出したわ。
 更衣室で見たんだって。
 わたしと川上先生のロッカーは、通路を挟んで向かい合ってる。
 つまり、ロッカーを使うときは、背中を向けてるわけだ。
 偶然、更衣室で一緒になることも、珍しくはなかった。
 お互い後ろを向いて他愛ない話をしながら、わたしは川上先生の背中を見てた。
 なぜ見えるかと云うと……。
 ロッカーの扉の裏には、小さな鏡が付いてるから。
 扉を一杯に開いてると、真後ろが見えるのよ。

 鏡に映る背中は、ほんとに魅力的だった。
 豊かな肉付きが、ブラウス越しにも見て取れた。
 真っ白いうなじから続く肌を想像する。
 きめが細かくて、手の平を当てたら、しっとりと吸い付くんじゃないかってね。
 男だったら、絶対に襲いかかってたわね。
 実際、2人きりのときは、妙な気が起きかけて困ったわ。
 知らなかったでしょ?
 他愛ない話をしながら……。
 わたしが頭の中で、何を考えてたかなんて」

 ふふ。
 ここでわたしが、いきなり裸になったら……。
 この先生はどんな反応するかしら、なんて妄想してたのよ。
 ま、実際にやったら……。
 呆れられて逃げられるだけでしょうけど。
 妄想の中ではそうはいかない。
 そう。
 妄想の中のわたしは、半陰陽。
 つまり、両性具有。
 クリトリスが、長大な男根に変化してるの。
 わたしは、手早く服を脱いでいく。
 ボタンを外す指がもどかしく震える。
 ブラウスとブラをロッカーに放りこみ……。
 スカートを下ろす。
 ショーツのウェストから、男根が顔を覗かせてるのが見えた。
 射出口から漏れた先走り汁が、ストッキングを濡らしてる。
 ストッキングごとショーツを下ろす。
 踏みつけて脱ぐわ。
 晴れて全裸になれたわたしは、男根を握り締める。
 鏡の中の先生は、まだわたしの変貌に気づいてない。
 わたしは、おヘソまで届く男根を吊り上げたまま、操縦桿のように振り回す。
 男根を追って、わたしの身体も反転する。
 川上先生の背中が、目の前にあった。
 わたしの手の平は、すでに男根を擦リ始めてる。
 そのまま、背中に近づいてく。
 ようやく気配を感じたらしい川上先生が、後ろを振り向く。
 笑顔のまま、顔が凍り付くわね。

「川上先生……。
 やっと見てくださいましたわね。
 どんなご感想です?
 男根をおっ勃てた女が……。
 あなたを見ながら、擦ってるんですのよ」
「……」

 先生の顔から、笑顔の仮面が剥がれ落ちる。
 恐怖と嫌悪の表情を隠そうともせず、先生は身を翻す。
 でも、わたしは逃さない。
 逃げようとする腕を掴む。

「離して!
 痛い痛い」

 そう。
 両性具有のわたしは、男性の膂力を持ってるの。
 腕を捻りあげられ、川上先生は膝を折る。
 その背中を押しつぶすと、先生はあっけなく床に突っ伏した。
 でもすぐに、這って逃げようとする。
 その肩を捉えて、身体ごと裏返す。
 逃げる間を与えず、馬乗りになる。
 抵抗して振りあげる両手首を掴むと、もう先生は身動き出来ない。
 大きく起伏する胸の上で、男根が上下に振れてる。

「川上先生……。
 わたし、ずっと先生に興味ありましたの。
 もちろん、性欲の対象として。
 今日はもう、我慢できませんわ。
 おわかりになるでしょ?
 ちんちんが、こんなに大きく膨らんじゃって……。
 先生のおまんこに収まりたいって、ピーピー泣いてるんですもの。
 ちんちんの願い、叶えてくれませんか?
 そうすれば、決して乱暴なことはいたしませんわ。
 ほんのいっとき、おまんこをお貸しくださるだけでいいの。
 わたしのちんちんが射精するまでの、ほんのいっとき。
 先生のおまんこの中に、臭い精液を、いっぱい出させていただきたいの」
「い、いや。
 いやぁぁぁぁ」
「うるさい!」

 わたしは、手首を掴んだ手を離すと、思い切り振りかぶる。
 頬骨に打ち下ろす。
 芯まで響く音と共に、先生の顔は真横を向く。

「痛いぃぃぃぃ」
「痛いでしょう?
 これが、男性の力よ。
 もう一発、味わってみる?」
「ひっ」

 わたしが、腕を振り上げると、先生の顔は幼児のように歪んだ。
 思ったとおり、痛みには屈服するタイプね。
 眉根に皺を寄せて、目をつぶっちゃってる。
 そのあからさまな恐怖が、わたしの嗜虐心に火をつけるの。
 もう片一方の手首を離すと、反対側の頬に打ち下ろす。

 ビシイッ!

 肉塊を叩く湿った音が響く。
 先生の顔は反対側を向き、ノドまで伸びちゃってる。

「あぅぅぅぅ」

 その顔はもう、人の言葉を発せないほど、苦痛と恐怖に支配されてた。
 わたしは、容赦なく腕を振るう。
 大鎌となったわたしの腕は、弱々しく遮ろうとする両手を、葦のように薙ぎ払う。

 バシッ!
 ビシッ!

 湿った厳しい音が数度響くと、先生はもう放心状態。
 涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔から、魂が飛んじゃってる。
 半開きの唇が弱々しく震え、齧歯類みたいな前歯が覗いてる。
 小動物を嬲る獣の歓びが、お腹の底から突きあがる。
 真っ白なブラウスに両手を掛けると、左右に引き千切る。
 弾け飛んだボタンが、噴水めいた軌跡を見せて視界の外に消えて行く。
 現れたのは、真っ白いふたつの丘。
 もちろん、ブラで隠されてる。
 わたしの両手がワイヤーにかかると、真上に捲りあげる。
 ブラと変わらないほどの真っ白い肉球が転び出る。
 その頂点には、トッピングみたいな大ぶりの乳首。
 でも、スライスした生ハムのような、綺麗な肉色。
 わたしは、思わず両手の指で摘む。
 指の腹で潰しながら、捻る。

「先生……。
 こんなことされながら、乳首が起っちゃいましたよ」
「う、うそです」

 先生は、ようやく放心状態から脱したみたいで、再び抵抗を始めた。
 華奢な指が、わたしの前腕を掴む。
 わたしは、苦もなく振りほどくと、腰を浮かし……。
 先生の身体を反転させる。
 うつ伏せになった先生の背中から、ブラウスを剥ぎ取る。

「綺麗な背中。
 こんな背中には、ブラなんて無粋なもの似合いませんわ」

 ブラのホックを外し、両腕から抜きあげる。

「この背中に相応しいのは……。
 縄。
 こんなふうに」

 妄想って便利よね。
 川上先生の背中には、一瞬にして縄が打たれた。
 縄に括られた腕が、芋虫みたいに蠢く。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


Aya×緊縛桟敷 個展で出会った女

Aya杉浦則夫緊縛桟敷にて掲載開始。

次週の掲載モデルを誰にしようかと考えながら私の個展会場に出向いてみると、入り口で「先生おはようございます」と美女から声をかけられた、私としてはみおぼえがなく怪訝なそぶりでいると、奈加氏の縄会で会っているという、会場にいた奈加氏にさっそく紹介をいただき、そのばでモデルを決める事ができた、こちらも助かったがAYAの嬉しがりようは尋常を越えその場で日程が決まるとすでに撮影が始まったごとく緊張し始めるのであった。この調子では一週間さきの撮影日までにストレスで体調をくずしてはいけないと心をほぐしてみてもいっこうにききめがない。
だが撮影が始まるとさすがベテランだけに緊張はほぐれ、本日のテーマである令嬢を演じていた。個展が終わってBBSにも書きましたが、私は撮影に変化を求めるようになった、具体性はみえない、だが欠けている緊縛の要素を知り、個人として一つ二つ取り込みたい、学術的なことではないので絶対的とか形式的とかとむずかしいことは苦手だ。
緊縛桟敷の縛師は奈加氏が中心であるから先日そんな話をして賛同を得た、だがわれわれ職人は一度習得した技を変化させるのは容易でない。また先日ある会員の方から個展を見て、やはり昔のフイルム時代の写真がデジタルと比べるとよりまさると指摘があり、だが今の環境でできることをせいいっぱい努力して下さい。と温かい支援のメールも届いた。

AYAの撮影にもどります。本格的に緊縛されるのは初めてとのこと、体はかたい、やせ形ではあるが小さいお尻が丸くて魅力的、想像以上の拘束の厳しさに4度ほど泣くはめになる、AYAにとっては辛い1日になった、しかし泣いてもシーンが終わると目をはらしててれたようなはにかみの笑顔をつくっていた。

Aya杉浦則夫緊縛桟敷にて掲載開始。

放課後の向うがわⅡ-21

「一流のエンターテイナーは、思わぬハプニングも、舞台演出に変えてしまうもの。
 で、出番を間違って舞台に上がって来てしまった先生にも……。
 このシーンに参加していただくことにしたってわけ」

 あけみ先生は、ゆっくりと川上先生に歩み寄った。
 上体をかがめ、下から舐め上げるように視線を上げる。
 子供のころ読んだ漫画の、ろくろ首を思い出した。

「ほんとに美味しそうな身体。
 縄のおふんどしが、よく似合いましてよ。
 ほら、このお腹の肉。
 縄に乗りあげて。
 とっても素敵。
 男なら、精子をかけずにいられませんわ。
 川上先生?
 いったい何人の男が、この身体に精子をかけてきましたの?」
「い、岩城先生……。
 下ろしてください」
「まぁ。
 誰かさんと同じことを言うのね。
 気が合って、うらやましいわ。
 でも、つまらない。
 どうしてさしあげようかしら?」
「下ろして!
 下ろしてぇぇ」

 川上先生は、空中で身をよじった。
 でも、両脚が宙を藻掻くだけだった。

 天井の梁が、かすかに軋んだ。

「案外、頭の悪い人ね。
 そんな格好で喚いたって、事態が好転しないことくらい……。
 わかりそうなものだわ。
 美里!
 何、引っこんでんのよ。
 こっち、おいで」

 あけみ先生の声が、突然頬を叩いた。
 こうして、観客席の隅に隠れてたわたしも、舞台に引っ張りあげられることになった。

「川上先生、この子、ご存知でしょ?」
「た、棚橋さん!
 岩城先生、まさかこの子にまで?」
「ほんとに、気が合いますわね。
 誰かさんと。
 まったく同じこと聞くんだから。
 でも、いいですか、先生。
 この生徒には、縄もなんにも掛かってないでしょ。
 つまり、この子は自由なの。
 てことは……。
 自分の意志でここにいるわけ。
 そして……」

 あけみ先生は、わたしの腕を掴むと、自分の脇に引っ張り寄せた。
 剥き出しの骨盤が、先生の太腿にあたった。

「ほら、ご覧くださいな。
 2人の格好。
 同じでしょ。
 下半身だけ、素っ裸。
 つまり、2人はチームなの。
 これが、チームのユニフォーム。
 すなわち、この子は、わたしの助手ってわけ。
 おわかり?」

 あけみ先生は、わたしの腕を掴んだまま、川上先生の正面に回った。

「美里、見てごらん、この身体。
 これが、大人の身体よ。
 体育の着替えとかで、同級生のは見てるだろうけど……。
 ぜんぜん違うでしょ?
 身体の丸みが。
 生殖可能な雌同士でも、成熟度合いによって、こんなに違うものなの。
 男はね……。
 こういう身体が、大好きなのよ。
 こういう裸を見ると……。
 精子を出したくなるの。
 わたしが男だったら、このまま突っこんでるかも」

 あけみ先生の手の甲が、ベールを掲げるように、川上先生の太腿を撫であげた。

「い、いやぁぁぁぁ」

 絹織みたいな声が、窓を目指して伸びた。
 声は、窓を塞ぐ横板の隙間を抜け、空に逃げていく。

「素晴らしいソプラノですこと。
 でも、閨でこんな声出したら、近所迷惑ですわよ。
 少し、調律が必要みたいね。
 ここかしら?」

 あけみ先生の指が、川上先生の乳房に伸びた。
 器用に束ねられた指先が、乳首を摘む。
 指先が、葡萄を潰すように撓った。

「痛いっ。
 痛いぃぃぃ」
「生きてる証拠ですわ」

 あけみ先生の手首が裏返った。
 乳首は摘んだままだった。
 乳輪がよじられ、渦巻状に皺が走った。

「ひぎぃ」

 川上先生が、全身で跳ねた。
 背中の柱が、ギシギシと音を立てた。

「ちょっと、重量超過かしら。
 でも、ほら。
 思ったとおり」

 あけみ先生は、乳首から指を離した。
 離れた指先が伸び、乳首を指し示してる。

「起っちゃった。
 川上先生。
 はしたない声あげながら……。
 こんなに乳首、おっ起てて。
 やっぱり、お好きなんでしょ?
 乱暴に扱われるのが」
「ち、違います!」
「違わないわよ!」

 乳首を指してた指が翻ると、手の平となって戻った。
 大きな肉音が立った。
 手の平が、したたかに乳房を打ったのだ。
 縄に戒められた乳房が、肉のボールのように弾んだ。
 乳房には、みるみる赤い指跡が浮き上がった。

「助けてぇ。
 誰か、助けてぇぇぇぇ」

 川上先生の声が、狂ったリボンのように宙を駆けまわる。

「あらあら。
 先生が、はしたない声あげるから……。
 お目覚めのようだわ」

 畳に突っ伏してた理事長が、顔を持ち上げてた。


 まだ半分夢の中みたいで、視線が壁際を這ってる。
 川上先生には、まったく気づいてない。

「川上先生。
 心強いでしょ。
 ここには、お仲間がいたのよ」

 床の理事長を隠す形で立ってたあけみ先生が、ゆっくりと身を移した。
 川上先生から理事長まで、視界が開けた。
 川上先生の目蓋が、大きく開いた。

「さすがだわ。
 背中を見ただけで、誰だかわかったみたいね。
 ま、こんな素晴らしい裸の持ち主は、そうそういないけど。
 でも、それって……。
 その裸が誰のものか、知ってるってことよね」

 川上先生は唇を震わせながら、身をうねらせた。
 開脚したまま吊られたマリオネットみたいだった。

「理事長。
 お尻向けてないで、こちらをご覧になって」

 あけみ先生は、理事長の傍らに歩み寄ると、床に蟠る縄を拾いあげた。
 理事長の背中から伸びる縄だった。
 あけみ先生が、指揮者みたいなモーションで縄を振り上げた。
 縄は、生を得たように一直線に伸びた。

「でも、ほんと可愛いお尻ね。
 こんなお尻抱えながら腰振れる男は、幸せものだわ。
 でも……。
 ほんとにそんな男、1人でもいたのかしら?
 だって、レズビアンなんですものね。
 理事長先生」

 背中の縄を引っ張られた理事長は、全身を揉むように蠢いた。
 起ちあがろうとしてかなわず、再び畳に突っ伏す。

「あらあら。
 スゴい格好。
 理事長。
 お尻の穴まで見えてますよ。
 美里、そこの縄束持ってきて。
 本格的に目を覚ましそうだから」

 あけみ先生の指先は、カメラの載った机の下を指してた。
 そこには、飴色の縄の束が、いく巻もうずくまってた。
 4本の机の脚に囲まれた縄は、まるで檻の中の蛇のように見えた。

「早く!」

 わたしは、恐る恐る檻に手を差しこみ、縄束を拾いあげた。

「1本は、その机の脚に結んで。
 お団子結びでいいから。
 そうそう。
 そしたら、そのまま引っ張って、こっち来て。
 あと、もう1本は束のまま持って来て」

 あけみ先生は、わたしから縄の一端を受け取ると……。
 突っ伏した理事長の左足首を括り上げた。
 もう1本の縄で右足首を縛り、そのままウィンチの載る作業台まで後退る。
 理事長の頭が、持ち上がった。

「お目覚めですか、理事長。
 でも、寝相が悪いですわね。
 朝は、きちんと仰向けでむかえましょう」

 あけみ先生は、持ってた縄を、大きく引っ張った。
 縄は一瞬にして張り詰めると、理事長の右足が持ちあがる。

「ほら、美里。
 掛け声。
 何て言うんだっけ?
 綱引きのとき。
 あ、そうそう。
 これだ。
 オーエス、オーエス」

 あけみ先生は、両手を交互に移し変えて、縄を手繰り寄せた。
 先生は、うつ伏せた理事長の左側に立ち、理事長の右足を引っ張ってる。
 理事長の左足は逆に、右手にある机に縛られてる。
 起こる事態はひとつ。
 理事長の身体は畳の上で裏返り、仰向けになった。
 でも、あけみ先生は、綱引きを止めようとしなかった。
 理事長の両脚が開いてく。

「オーエス、オーエス」
「い、ぃぃぃ」
「どうしました、理事長?」
「い、痛いぃ」
「そんなはずありませんでしょ。
 その柔らかい身体なら、180度開脚も出来るはずよ。
 ほら、もっと頑張って」

 あけみ先生は、床にお尻を落とした。
 両脚で床を蹴りながら後退る。
 踵が床で空転するようになると、ボートを漕ぐように上体を反らせた。

「あぎぃ。
 痛い痛い痛い」

 理事長の悲鳴を聞いても、あけみ先生は縄を緩めようとしなかった。
 改めてあけみ先生を見ると、すごい格好だった。
 床にお尻を落とし、両脚は床に踏ん張って、目一杯開脚してる。
 下半身を覆うものは、何ひとつ無い。
 陰毛さえも。
 つまり、股間は丸見え。
 陰唇が、おちょぼ口みたいに開いてた。
 先生は、その格好のままお尻を送り、ウィンチの載る机脇まで移動した。
 引き絞ってた縄を、机の脚に巻きつける。
 縄は、蛇のように机の脚を括りあげた。
 縄目を結ぶと、先生はゆっくりと起ちあがる。

「最後、ちょっと緩んじゃったけど……。
 ま、こんなものね。
 ほら、美里。
 こっち来てごらん。
 すごい格好だから」

 先生の招く手に吸い寄せられるように、わたしは立ち位置を移した。
 先生の傍らに立つと、理事長の大きく開いた股間が、イヤでも目に入った。

 いいえ。
 イヤでもってのは、ウソよね。
 見たかったから、自分で動いたの。
 仰ぎ見る存在でしかなかった理事長が……。
 無残に股間まで晒してる。
 その恥ずかしい姿を……。
 理事長の生殖器を、見たくてしょうがないわたしがいた。

「でもほんと、素晴らしい体型よね。
 筋肉質の身体って、無理な姿勢を取らせるほど、美しさが際立つみたい。
 ほら、この太腿の張り」

 理事長の太腿には、大きな筋肉のはざまに、渓谷みたいな翳が走ってた。

「そうそう。
 この姿、川上先生にも見てもらいましょう」

 あけみ先生は数歩後ずさり、川上先生の視線を迎えた。
 わたしも、反対側に身を退けた。
 川上先生から理事長まで、モーゼの海のように視界が開けた。

「ほら。
 よく見なさいよ。
 何でさっきから黙ったままなの?
 顔、こっちに向けなさいって。
 どうしたの?
 恥ずかしいの?
 そんな格好、見られるのが」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。