撮影開始前のモデルさんとのやり取りの中で
須永佐和子 最終章
杉浦)今日の感想を後日メールください
須永)こんばんは。
緊縛の余韻が徐々に消えていってしまいます。悪あがきしても、時間の経過にはさからえないですね・・・
撮影の前日はワクワクしていました。(子供が遠足の前夜に興奮しているかのようでした)当日は目覚めと同時に、ワクワク感に高揚している私と、何か違う方向へ向かおうとしているような妙な感覚を持った私がいました。
おそらくメイクを始めた時から、自分の世界へと出発していたのでしょうね。
先生の情熱を感じながらも私は「無」の域へとスライドしていっていたと思います。撮影中の先生の声やライトの眩しさで現実へと戻ってきたり・・・変な言い方ですが「三途の川」を彷徨って行ったり来たりしている状態に似ているのかなぁ、と感じました。
先生、気づきましたか??ラストの吊りの時に軽く失神したんです。すぐに意識は戻っちゃいましたけど。「あ、今飛んでいたぁ・・・」とうれしく思っちゃいました。最後の吊りは私の中では大興奮をしていました。自分の意思もない無機物の肉体がぶらさがっているなんて、思い出すだけでもゾクゾクします。
今回、妙な感じを受けたんです。よく、「自分の中にもう一人の正反対の自分がいる」って言いますよね。でも、なぜか私は「無」を感じている私と「無」を感じている私を感じている私がいるような感覚だったんです。正反対ではなく、「無」を完全に肯定してくれている私なんです。分かりにくいですよね・・・。今まで無かった感覚でした。
縛りの中で「無」になるのを邪魔するものがあるんです。心臓の音です。自分の心音がただのノイズにしか思えなくなってしまいます。心音がなくなれば、それは「死」になってしまいますね。心臓だけは「無」を否定したいるのでしょうかね?
帰る途中で何度も縄跡を眺めたり撫でたりしてました。周囲の人たちは携帯見ているというのに私は腕を見ていましたね。
今は縄跡もきれいに消えてしまい、記憶のさかのぼってあの時の感覚をこっそり楽しんでいます。
須永佐和子