放課後のむこうがわ 8

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放課後のむこうがわ 8

「ふふ。
 今日はお客さまもいるから……。
 スイッチ入りまくりね。
 それじゃ、お望みを叶えてあげますか」

 ともみさんは、床の鞄の上にカメラを置くと、ゆっくりとあけみちゃんに近づいた。
 あけみちゃんは、涙を零しそうなほど潤んだ瞳で、ともみさんを迎えた。
 ともみさんが指先を伸ばす。
 三つ編みに指が届いただけで、あけみちゃんの身体が跳ねた。
 電撃に触れたみたいだった。

「髪に触っただけで、こんなに感じるんだからね」

 ともみさんは三つ編みの毛先を持ち上げると、あけみちゃんの顔を化粧筆のように掃いた。
 されるがままになりながらも、あけみちゃんの瞳は恨めしそうだった。

「あんまり焦らしちゃ可哀想か」

 ともみさんは髪から手を離すと、階段を1段上がり、あけみちゃんの後ろに回った。
 階段柱の縄を解いてるらしい。
 ときどき縄が引っ張られるのか、あけみちゃんの眉間に皺が寄った。
 ほどなく、胸前を戒めていた縄が、脚元に落ちた。
 縄抜けしたマジシャンみたいだった。
 縄と一緒にスカートの裾も落ち、白い太腿は隠されてしまった。
 一見すると、普通の女子高生の姿に戻ったんだけど……。
 紺のハイソックスの足首には、白いパンティが絡んでる。

「スカート、邪魔ね。
 脱いで。
 あ、全部脱いじゃダメだからね。
 スカートだけ」

 あけみちゃんの自由になった両手が、スカートのファスナーに回った。
 微かなジッパー音と共に、スカートが真下に落ちた。
 あけみちゃんは、足元のスカートを跨ぎ越した。
 まるで、結界を踏み越えるように。
 スカートは、抜け殻のような姿で床にうずくまってた。
 あけみちゃんが、そのスカートに手を伸ばそうとした。

「ストップ。
 このままにしといて。
 絵になるから。
 そうね……。
 鞄もあるといいかな。
 アシスタントさん。
 あけみの鞄、スカートのそばに置いてみて」

 ともみさんは階段から跳ねるように下りると、床のスカートと鞄を眺めてる。

「うん。
 オッケー。
 この後ろに、股を開いた女子高生。
 うん。
 いい構図」

 ともみさんは、あけみちゃんを眺めながら後ずさった。
 自分の鞄の脇まで来ると、勢いをつけてしゃがんだ。
 スカートが空気を孕んで捲れ、真っ白なお尻が見えた。
 この人もショーツを穿いてなかったんだって、改めて気づいた。
 穿いてるのは、わたしだけ。
 この2人の仲には、まだ入りこめてないんだって気がした。
 命じて欲しかった。
 あなたも脱ぎなさいって。

 そんなわたしにはお構いなしに、ともみさんは、背中を見せたまま鞄を開いた。
 取り出したのは、2本のロープ。
 さっきまであけみちゃんを戒めてたロープは、階段下にうずくまったまま。

 ともみさんは、ロープを持って起ちあがると、あけみちゃんに歩み寄った。
 あけみちゃんは、子犬のような目をして、ともみさんを迎えた。

「やっぱ、上は縛った方がいいな」

 ともみさんは、手に持ったロープを肩にかけると、床のロープを拾った。

「手、後ろに回して」

 あけみちゃんの上体には、再びロープが掛けられた。
 ロープがブレザーを擦る音が、小気味よく聞こえた。
 まるでマジシャンの手技だった。
 乳房を挟んで2段のロープが、瞬く間に打たれていった。

 紺のブレザーに、麻色のロープ。
 胸元のロープにかかる、赤いリボン。
 下半身は裸。
 紺のハイソックスの足首に絡まるショーツ。
 正装のように見えた。

「階段に座って。
 2段目くらいがいいな」

 階段の中央には、左右を分ける白線が引かれてた。
 もう色褪せて、半分消えかけてたけど。
 その白線の真上に、あけみちゃんは座った。
 階段下から見ると、白線に串刺されたみたいだった。

「足開いて。
 鞄とスカート挟むみたいに」

 あけみちゃんは、階段下に伸ばした脚を、大きく拡げた。
 シューレースの付いたプレーントゥが、鞄とスカートを挟んで伸びた。

「うーん。
 やっぱり膝が開いてると、構図が悪いよね。
 膝閉じてみて。
 足先はそのままの位置でね」

 あけみちゃんの両膝が、内側に折れた。
 でも、足先が開いてるので、膝が着くまでは閉じれなかった。

「ほら。
 いい感じになった」

 膝が内側に折れることで、あけみちゃんの身体は“人”の字型を作ってた。
 その脳天から股間を、階段の白線が貫いてる。

「記号みたいに見えるよね」

 言われてみれば、そんなふうにも見えなくもなかった。
 あけみちゃんの姿は、天を指す矢印みたいだった。

「記号まで昇華したとき、人は一番綺麗に見えるのかも。
 でも、これじゃ……。
 自分で股拡げてることになっちゃうから……」

 ともみさんは、肩のロープを1本下ろすと、あけみちゃんに近づいた。
 階段に片足をかけ、あけみちゃんの太腿を縛り始めた。
 ともみさんの指先は、力強く動いてた。
 ヨットマンみたいだった。
 たちまち綺麗な結び目ができた。
 あけみちゃんの太腿は、ヨットを舫う杭のように見えた。

 両腿を縛り終えると、ともみさんは上体を起こした。
 片方のロープを持って、階段柱の脇に立った。

「アシスタントさん。
 そっちのロープ持ってちょうだい。
 早く。
 そっちの階段柱に巻きつけるのよ。
 そう。
 両側から引っ張るの。
 あけみは、腿を内側に絞って。
 そうそう。
 こんなとこかな。
 アシスタントさん、その位置で縛ってちょうだい。
 大丈夫。
 下手くそでも。
 そっちの結び目はカメラに写らないから」

 あけみちゃんの両腿から伸びるロープが、階段柱まで張り渡された。
 斜め上方に向かって、左右のロープは相似形に伸びてた。

「あけみ、もっと力入れて絞って。
 ロープが弛んじゃうでしょ」

 あけみちゃんの両腿に力が籠った。
 内腿にロープが喰いこむ。

 ともみさんは階段柱を離れ、あけみちゃんの正面に立った。

「アシスタントさん。
 こっち来てちょうだい」

 下手くそな結び目に未練を残しながら、わたしはともみさんの脇に身を移した。

「どう?
 いい感じじゃない?」

 ともみさんの問いかけに、わたしは頷いてた。
 あけみちゃんの両腿は、内側に向かって絞られ……。
 その両腿からは、斜め上方にロープが伸びてる。
 膝から下は、“ハ”の字を描いて開いてる。
 ほんとうに、何かの記号みたいだった。

「でもなぁ。
 あまりにも人工的かなぁ。
 シンメトリー過ぎるよな。
 ま、片足にだけショーツが絡んでるのが……。
 アクセントと言えば言えるんだろうけど。
 どうするか……」

 ともみさんは、あけみちゃんの脚元にしゃがみこみ……。
 脱ぎ落とされたスカートと鞄の位置を、微妙に調節した。
 スカートは、脚元にストンと落ちた形そのままで、キュプラの裏地が盛りあがってた。
 それを見てるうち……。
 またヘンな気分になってきた。
 わたしの腿にも、同じ裏地が触れてる。
 あのツルツルの裏地が腿に擦れる感じって、すっごくエッチだよね。

「ちょっと、アシスタントさん。
 なにモゾモゾしてんの?
 ひょっとして、また気分出してるんじゃないの?
 子供みたいな顔して、とんだおませさんだね。
 そういう子のあそこって、どんなんだろ。
 あ、そう言えば……。
 モデルが下半身すっぽんぽんなのに、アシスタントがそれじゃ、失礼よね。
 わたしだって、パンツ穿いてないんだから。
 下、脱いじゃいなさい」

 わたしは、泣き笑いみたいな顔をしてたと思う。
 ほんとは、脱ぎたかった。
 露出したかったってわけじゃないよ。
 ま、その気持がぜんぜん無かったとは言わないけどさ。
 それより、2人と一緒の姿になりたかったんだ。
 でも、はいそうですかって脱いだら、変な気がしてさ。
 だから、どうしていいかわかんない顔で、ともみさんを見つめてた。
 もっと強く命じてほしかった。

「ほら、何してるの。
 あなたが変態ちゃんだってことは、もうわかってるのよ。
 ほんとは、見せたくてしょうがないんでしょ。
 脱ぎなさい」

 ともみさんは、わたしの心を見透かしたように命じてくれた。
 わたしは素直にうなずき、スカートを脱ぎ落とした。

第九話へ続く

文章 Mikiko
写真 杉浦則夫
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食虫花 ~美少女・内山遙~13

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第十三話【食虫花】

ウツボカズラの甘美な匂いに狂い、蔓先に膨らんだ蜜壷の内に捕われた蟲。
透明な粘液の中で、のたうちながら快楽に溺れていく。
やがて身が溶け出し、細り、消滅してもなお、残された魂は官能を貪り続けることだろう。
当初の甘い誘香は、いつしか誰もが眉根を寄せる死臭となる。

鬼畜教師の、変態的性癖の好餌となった少女。遙が、心に負った傷は計り知れない。
すでに彼女は、大学生の恋人と別れていた。林田に言われるまま、学校へは毎日登校していたが、以前のように清純可憐な生徒ではなくなっている。突然、廊下で奇声を上げたり、大雨の中ずぶ濡れでグランドを走ったりと、奇行も目立ち始めていた。
あんなに多かった友人も、今では気味悪がって誰も寄り付かない。こうなっては両親も、専門の医者に診てもらう事を、真剣に検討し始めていた。周囲には、すっかり人格が変わってしまったように見える。しかし、それは大きなストレスから自己を守る為、一時的に心神喪失状態となっているに過ぎなかった。
正気がある。まだ。真底は、人格崩壊に至っては居ない。
もはや遙本人は、意識していなかったろうが、堕とされてしまった絶望的状況の中で、未だ懸命に、心の逃げ場を探していたのだった。その代償として、あれほど聡明で精錬潔癖であった少女が、男の前で堕落した牝奴隷を演じていたとしても、誰が責める事が出来ようか。

「さぁ遙、今夜は少しキツイぞ!」
この教え子は、性の悦びを教え込まれ、ついにマゾとして開花したのだ。恋人との破局も、彼女がもはや、普通の男では満足出来なくなった証左なのだと、恩師は達成感に酔う。
これまでも、これからも。女生徒達の心理は読んでも、その心情を思いやる事など林田には無い。彼なりの愛情らしきモノは存在したが、己に都合良く曲解し、正当化されたものに過ぎなかった。
虚妄の慈愛。男はそれに従い、今はただ遙の肉体を求めるようになっている。連日連夜。
だが、この美蓄に飽きるのは、遠い先のように思われた。「こんな事が、いつまでも続けられるハズは無い」といった悲観は、林田の中に皆無である。いや、少しは頭を掠めていたかもしれない。それでも次々に妄想は実現し、彼はその官能に身を置く事を選んだ。何かに憑かれる様に、遙を縛ることを止められなくなっている。そして今夜も、二人は旧校舎の闇の中に蠢いていた。

激しい吊り責めの最中だった。
縄に身を委ね、恍惚の表情を浮かべる遙の視線の先。ドア越しにチラチラと懐中電灯らしき灯が目に入った。彼らの地下教室に向かい、警備員の靴音が階段を降りて来る。
青年は、いつものように巡回中、旧校舎から不振な物音を耳にした。掛かっているはずの鍵は壊れていた。ドアを開け旧校舎の中へと入った。音のする階下へと向かった。当然の職務遂行だった。
地下教室では教え子が、ギリギリと食い込む麻縄に顔を歪めている。教師はそれに熱狂し、自身が只今縛り上げた、幻想的とも言える妖美に見とれ、背後から近づく“破滅”に気付く事はない。

ただ一瞬、苦悶の表情が緩み、遙がフッと笑ったように見えた。林田はそれを、被虐の陶酔と解釈したが、彼を蔑み、そして憐れみを含んだ微笑ではなかったか。

『なんとも酷い話です』

この後、二人に悲劇的な終幕が訪れる事は、容易に想像が付いた。遙の持つ、強い心だけが、暗澹たる結末を照らす希望の灯だが、事ここに至っては、いかなる救済も無意味に思えてくる。
何の落ち度も無い。悪い事など何一つしていない。
美少女・内山遙に、多分訪れたであろう、慎ましくとも幸せに満ち、退屈であっても平穏に違いなかった未来。それら一切を奪い取り、暗く荒んだものに書き換えてしまった事について、慙愧の念に耐えない。謹んでお詫び申し上げる次第。

おわり

文章 やみげん
写真 杉浦則夫
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放課後のむこうがわ 7

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放課後のむこうがわ 7

「このカメラはね……。
 少しだけ、被写体の魂を吸い取るの。
 それが印画紙に写るから、こんな感じの写真になるのね」

 そう言ってともみさんは、いたずらっぽく笑った。
 もちろん、ウソに決まってるけど……。
 危うく信じかけそうだった。

「あとで、あなたも撮ってあげるわ。
 でもまずは、あけみね。
 ほら、囀りそうな顔で、こっち見てる。
 撮ってほしくてしょうがないのよ。
 エッチな写真を」

 ともみさんは、あけみちゃんの目線を手繰るように近づいた。

「ちょっと、アシスタントさん。
 これ、持ってて」

 ともみさんがわたしを振り返って、ポラロイドカメラを差し出した。
 慌てて駆け寄って、受け取る。
 最上級生の命令口調に、もう言いなりだった。
 カメラは、両手で持ってもずっしりと重かった。

「まずは……。
 どうしてあげようかな」

 ともみさんは、あけみちゃんに纏わるように近づいた。
 息がかかるほど、顔を近づける。
 あけみちゃんの目が、葡萄のように膨らんでた。
 息がはぁはぁ言ってるのが、わたしにまで聞こえた。

 ともみさんは、いきなりあけみちゃんのスカートを捲りあげた。
 豊かな太腿と、その付け根を覆う白い布地が曝された。

「また、こんな小さいパンツ穿いて来て」

 目に沁みるほど白い布地が、股間を三角形に覆っていた。
 確かに小さなショーツだった。
 腰骨が隠れないほど。
 股ぐりも深くて、アンダーを処理してなければ、毛が見え出ちゃいそう。

「嬉しい?
 見られて」
「……、嬉しい」
「そうよね。
 見てもらいたくてしょうがないのよね。
 ほんとは、街中でもスカート捲りたい。
 でも、さすがにそれは出来ないから……。
 毎日、大風が吹くことを願ってる。
 縛る前に、自分で捲らせれば良かったかな。
 この前みたいに。
 自分で捲るの、大好きなのよね?」
「……」
「そうよね?」
「はい」
「ふふ。
 正直でよろしい。
 我慢出来ないと、素直になるわね。
 でも、まずは撮影からよ」

 ともみさんは、捲ったスカートを、お腹に回る縄に挟みこんだ。
 キュプラの裏地が縄を潜る音が、聞こえてきそうだった。
 つるつるした裏地に、射しこむ陽の光が踊ってた。

「ほうら、可愛くなった。
 ダサいスカートだけど、裏地は綺麗よね。
 ほんとは、こっちが表なのかも知れない。
 裏側こそが、ほんとうの表ってね」

 ともみさんは、わたしに向かって腕を伸ばした。
 手の平が上を向いてる。

「アシスタントさん。
 気を利かせてちょうだい。
 カメラよ」

 慌ててカメラを差し出す。
 ともみさんは、受け取ったカメラを、馴れた手つきで構えた。
 あけみちゃんは、顔を突き出すようにしてカメラを見つめてる。

「ちょっと。
 そんな格好でカメラ目線じゃ、雰囲気出ないじゃないの。
 顔伏せてちょうだい」

 あけみちゃんは、床に視線を落とした。

「そうそう。
 うーん、でもイマイチだなぁ。
 やっぱり、パンツ脱いだ方がいいか……」

 あけみちゃんの肩が、ぴくりと動いた。

「ふふ。
 嬉しそうね。
 アシスタントさん、何してるの?
 脱がしてちょうだい」

 ともみさんに視線を投げられ、ようやく自分のことだとわかった。
 あけみちゃんの視線が、真っ直ぐにわたしを見てた。
 見えない綱に引かれるように、わたしはあけみちゃんに近づいた。
 脚元に膝まづく。
 ブラウスの裾の分け目から、ショーツが目の前に見えた。
 少し肉付きのいいお腹が、せわしなく起伏してる。

 わたしは、ショーツのウェストに手を掛けた。
 ウェストっていうか、股上は腰骨までしかなかったけど。
 そのまま布地を引きおろそうとしたけど、うまく下りない。
 思ったよりお尻が豊かで、布地が乗りあげてたんだね。
 両手を腰の後ろまで回し、布地を捲りおろす。

 目を逸らそうとしても、出来なかった。
 あけみちゃんのアンダーヘアは、明らかに処理されてた。
 といっても、毛はちゃんと残ってたよ。
 でも、恥丘の上に、ほんのひとつまみ。
 性器を隠す役目はしてなかった。
 アケビの実を合わせたような大陰唇まで、はっきりと見えた。
 その膨らみとヘアーの間に、クリトリスが息づいてた。
 包皮から顔を出し、餌をねだる雛鳥みたいに囀ってる。

「ちょっと、アシスタントさん。
 早くどいてちょうだい」

 ともみさんの声に、われに返った。
 裏返ったショーツを、両手で握ったままだった。
 真っ白い布地を、太腿に滑らせていく。
 丸々と豊かに肉づいた太腿だった。
 ギリシャ神殿の柱みたい。

「ストップ。
 パンティは、膝に絡めといて。
 それから……。
 ブラウスを引っ張って、お股を隠す。
 そうそう。
 これだと、大事なところはぜんぜん見えないけどさ……。
 膝に絡んだパンティが、股間が剥き出しであることを象徴してるわけ。
 隠すことで、逆に、見る人の想像力をかきたてるのよ。
 なんてね。
 顧問の先生の受け売りだけど。
 うーん。
 でも、芸術的だわ。
 やっぱ、素材がいいからよね。
 アシスタントさん、今度こそどいてちょうだい」

 わたしが退くと、ともみさんはカメラを構えた。
 両脚を開いて、全身を安定させてる。
 素人のわたしから見ても、腕前を感じさせる姿勢だった。

 指先だけが微かに動くと、シャッター音が響いた。
 続いて、過擦れたような機械音。
 空間が引き伸ばされるような音とともに、カメラの前部から印画紙が送り出されてきた。

「アシスタントさん。
 こっち来てごらん」

 ともみさんが、肩越しに印画紙を掲げた。
 駆け寄って覗きこんだけど……。
 そこには、何も写ってないの。
 失敗かなって思って、ともみさんの横顔を見た。
 でも、ともみさんは、じっと印画紙を見つめたまま。
 もう一度そこに目を落とすと……。
 うっすらと、画像が浮かびあがってた。
 画像は、少しずつ鮮明さを増していく。

「何度見ても不思議よね。
 被写体の粒子をカメラが吸いこんで……。
 それが、印画紙の上で再構築される、って感じ。
 被写体が、わたしのものになる瞬間。
 ほら、出来上がり」

 ともみさんは、印画紙をわたしの前に翳した。
 そこには、あけみちゃんがくっきりと写ってた。
 でも、デジカメなんかの画像とは、明らかに違う。
 今撮ったばかりなのに、懐かしい雰囲気。
 机の引き出しの奥から、昔の写真が出てきたみたい。

「ふふ。
 あなたも気に入ったみたいね。
 後で撮らせてあげるわ。
 でも、困ったモデルさんは……。
 待ちきれないようね」

 ともみさんの視線に引かれ、あけみちゃんを見ると……。
 確かに、様子が違っていた。
 うつろに目を泳がせて、太腿を摺り合わせてる。

「この子、シャッター音聞くと、スイッチが入っちゃうのよ。
 根っからのモデルさんよね。
 でも便利ね。
 あんな格好で、オナニー出来るんだから。
 バスの中とかでも、やってるんじゃないかしら。
 あれ、何してると思う?
 垂れたお汁を、太腿に塗りたくってるのよ。
 あけみ。
 もっと撮ってほしい?」

 ともみさんの声に、あけみちゃんが顔をあげた。
 瞳が潤んでた。

「撮って……」
「どこを撮ってほしいの?」
「おまんこ。
 あけみのおまんこ」
「そんなとこ撮っても、発表できないじゃないのよ」
「撮って」

 あけみちゃんは、太腿を摺り合わせると同時に、お尻を階段柱に滑らせ始めた。

第八話へ続く

文章 Mikiko
写真 杉浦則夫
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食虫花 ~美少女・内山遙~12

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第十二話【DOLL】

遙は感情を表に出さず、極端に無口となっていった。あの明るく爽やかな笑顔を見せることは無い。時折、口元のみに薄ら寒い笑いが現れる。両親は娘の変化に気付いていたが、「一種の思春期病だろう」と、この時はまだ暢気であった。

その間にも、欲望はエスカレートしていく。
もう充分に教え子の身体をしゃぶり尽くし、いつもであれば、そろそろ次の獲物を物色しても良い頃合であった。だが林田は、遙の肉体を永遠に独占したいと、本気で思うようになっている。
美しく緊縛された教え子は、麻薬的な興奮と快感を鬼畜教師に与えていた。今では彼女も、直接的な刺激より、縄に酔う事を望んでいるように見える。やはり元々、マゾ的な資質が隠れていたのかもしれない。
すでに男は、週一回、土曜午後の淫靡な個人授業だけでは満足出来なくなっていた。平日、周囲を警戒しながらも、校内で遙と姦淫する。加えて、さらに夜になっても、教え子の美肉を求め始めていた。

夜の緊縛調教には、妻との別居先である安アパートでは、なにかと不都合だった。過激な妄想を実現するには手狭過ぎる。それに何よりも、学校外で未成年と交わるのに、世の中は厳しくなっていた。教え子であっても、不要の接触は世間が納得しまい。ホテルもまた同様の危険がある。知らぬものが見て、同年代が幼く見える遙であったが、警戒するに越した事はない。
やむを得ず、間もなく取り壊し予定の旧校舎を利用した。
「友達の家に泊まりこみで勉強」などと、ありきたりの嘘を両親へ吐かせて。あるいは家族の寝静まった頃、こっそり家を抜け出させて、学校へ呼び出す。そして、地下の一室で毎夜、色欲の狂宴が行われるのだった。

淡い光が、暗闇の中に遙の姿を妖艶に浮かび上がらせる。
旧校舎は通電していない為、自ら灯りを用意せねばならなかったが、そのほの暗さに中に浮かび上がる教え子は、高価なアンティーク・ドールにも見えた。

実際、遙は自らを、魂の抜けた肉人形としたのかも知れない。
精神と肉体を繋ぐ無数の回路があるとするならば、その重要な導線の幾つかを、彼女は無意識に遮断していた。林田の持つ、特異な性癖の全てを無条件に甘受せねばならない。あまりに不条理な現実に、そういった措置をとらねば、正気を保てなかったのだろうと同情する。

しかし、それと引き換えに発達途中の身体は、肉体的あるいは精神的苦痛をも、性的快感として変換し、受け入れるようになっていた。
あれほど嫌な目を見た浣腸プレイにも、すっかり慣れてしまった。限界まで耐えた排便時の擬似的射精感。それを覚えた今となっては、単にアナル挿入の前儀に過ぎない。苦痛を伴い、それ自体が“責め”であるはずの過酷な緊縛プレイでは、苦悶とも喜びともとれる、悦虐の表情を浮かべるようになっていた。
肥大する欲望を一身に受け止める学園性奴隷。
すでに、中年教師が好物とした、少女の初々しさや恥じらいといったものは、遙の心の奥底に封印されている。ゆっくり焦らしながら、一枚ずつ剥いていく彼女の服や下着からは、牝の匂いが立ち込めるようになっていた。

旧校舎には夜間警備が巡回しないと聞いている。最初こそ、警戒し音も出来るだけ立てず、慎重にプレイしていたが、本当に見回りがないと分かると、調教はより大掛かりなモノになっていった。

林田は、愛奴として育て上げた教え子に満足する。遙が、彼の責めを受け入れる度に、妄想と現実が境目を失っていく。男の魂は、蕩けるように居心地の良い時空に浮遊していた。

第十三話へ続く

文章 やみげん
写真 杉浦則夫
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放課後のむこうがわ 6

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放課後のむこうがわ 6

「わたしだけ残して、イッちゃうなんて……。
 ひどいぃ」

 あけみちゃんは、腰をくねらせてた。
 股間が堪らなくなってたんだと思う。
 でも、後ろ手に戒められた姿では、自らを慰めることも出来ない。
 あけみちゃんは唇を噛むと、上体を起こした。
 視線は、ともみさんの股間を真っ直ぐに貫いてた。

 ともみさんのスカートは捲れたままで、人形みたいな下半身が剥き出しになってた。
 わたしの位置からは見えなかったけど……。
 あけみちゃんの眼前には、イッた後のおまんこが、ぱっくりと開いてたはず。
 あけみちゃんの視線は、そこに縫いつけられてる。
 あけみちゃんの身体が、ゆっくりと上下動を始めた。
 最初は、何してるんだろうって思った。
 でも、すぐにわかった。
 あけみちゃんは、括りつけられた階段柱に、お尻を擦り付けてるのよ。
 視線と、お尻からの刺激だけで、ともみさんの後を追うつもりなんだとわかると……。
 こっちの股間も切なくなった。
 指先が、他人の手みたいに太腿を這いあがった。
 ショーツの股ぐりから滑りこむ。
 もう、中はぐちょぐちょだった。
 よっぽど溜まってたんだね。
 だってさ……。
 転校してから、一度もオナニーしてなかったんだよ。
 寄宿舎だったから、落ち着いて出来る場所も無いし。
 もっとも、新しい環境に慣れるのに必死で、そんなことしてる余裕もなかったけどね。
 でも、やっぱり溜まってたんだね。
 ぐちょぐちょの陰毛が指先に絡むと、もう止められなかった。
 大陰唇を押すと、お汁が沁み出すんじゃないかってほど。

 あけみちゃんは唇を食いしばり、懸命にお尻を振ってる。
 胸前に垂れた髪が、跳ねるように揺れてた。
 わたしはあけみちゃんのお尻を凝視しながら、指先をシンクロさせた。
 でも、こっちは直接クリに触ってるわけだから、あっという間に追い詰められた。
 内履きの中の足指を、懸命に折りたたんでブレーキかけたんだけど……。
 止められそうになかった。
 もうダメ、イク……。
 って思った瞬間。

「誰、あなた」

 はっきりした声が、わたしの頬を打った。
 わたしは、一瞬で凍りついた。
 目だけ動かして、声の出処を見た。
 ともみさんだった。
 仰向いた顔が、真っ直ぐにこっちを向いてた。
 さっきまで真っ白だった目蓋の間には、ダイスの目みたいに瞳が戻ってた。

 あけみちゃんのお尻を凝視しようとして、廊下の角から身を乗り出しちゃってたんだね。
 ともみさんの位置からは、わたしの姿が丸見えだった。
 ともみさんは、糸に引かれる人形みたいに、ゆっくりと身を起こした。

「まさか、観客がいたとはね」

 起ちあがったともみさんは、スカートの埃を叩いた。
 もちろん、逃げようとしたんだけど……。
 情けないことに、ずっとしゃがんでたから、脚が痺れちゃってて。
 踏み出そうとしたら、廊下に這いつくばっってた。

「動かないで」

 ともみさんに決めつけられると、もう体を持ち上げられなかった。

「メガネさん。
 あなた、何年生?
 ま、1年以外、あり得ないだろうけど。
 どう見ても、中学生だからね。
 あけみと同じ制服着てなかったら……。
 へたすりゃ、小学生に見えるよ」

 ともみさんは、あけみちゃんを振り返った。

「この子、知ってる?」

 わたしを見つめるあけみちゃんの首が、左右に振れた。

「どういうこと?
 まさか、1年じゃないの?」
「て、転校して来たばっかりで……」
「なんだ。
 転校生。
 それで、こんなとこに迷いこんだの?」

 わたしは、懸命に頷いた。

「そうよね。
 そんな体型で、1年以外のわけないわ。
 でも……。
 お股の方は、もう立派なオトナってことよね。
 わたしたちのこと見ながら、オナってたんだから。
 ふふ。
 さっき、イク寸前だったでしょ。
 小学生みたいな顔で、小鼻膨らませてさ。
 すっごく、ヤラしかった。
 あなたも、立派なお仲間ってことね。
 わたしたち、変態人間の。
 さ、こっちおいで。
 今さら逃げられないわよ。
 わたし、陸上部だもん。
 ほら、起って。
 ちょっと、手伝ってもらいたいことがあるんだ」

 ともみさんの声に応えて、わたしは起ちあがってた。
 オナニーしてるとこ、まともに見られて……。
 どんな言い逃れも出来ないってこともあったけど……。
 きっと、人に声かけてもらえたことが嬉しかったんだね。
 一生懸命、ひとりで頑張ってたけど……。
 やっぱ、寂しかったんだよ。

 わたしは、痺れた脚を引きずりながら、木橋の前に立った。
 土間コンクリートの川に架かる橋は……。
 まるで、この世とあの世を隔てる橋みたいに見えた。
 そう、橋の向こうは“彼岸”。
 おばあちゃんが言ってた、あの世の岸ね。
 わたしは、ともみさんとあけみちゃんの目を交互に見ながら、その橋を渡った。

「あなたに、やってもらいたいことがあるんだ」

 そう言ってともみさんは膝まづき、床の鞄を開いた。
 取り出したのは、厚めの本っていうか、お弁当箱みたいなものだった。

「これ、何だと思う?」

 そう言いながらともみさんは、箱をかちゃかちゃ操作した。
 箱は、たちまち立体的なフォルムに変形した。

「まだわからない?
 骨董品だからね。
 これは、カメラよ。
 ポラロイドカメラって云うの」

 組みあがった前面には、確かにカメラの形が張り出してた。

「さっき、陸上部なんて言ったけど……。
 大嘘。
 ほんとはね……。
 写真部。
 部長なのよ、これでも。
 だからわたしは3年生で、あなたやあけみより、2学年上ってこと。
 入学以来……。
 みっちり顧問の先生に鍛えられたおかげで……。
 コンクールにも入賞したわ。
 風景写真だけど。
 でもね……。
 わたしがほんとに撮りたいのは……。
 女性。
 それも、特殊な状況下に置かれた女性。
 今の、あけみみたいにね」

 そう言ってともみさんは、あけみちゃんにカメラを向けた。
 あけみちゃんの視線は、一瞬でカメラのレンズに定まった。
 ともみさんの視線も、ファインダー越しにあけみちゃんを見つめてるはず。
 2人は見つめあったまま、凍りついたように動きを止めていた。
 もう動かないんじゃないかと思ったころ……。
 ようやく、シャッター音が響いた。
 シャッター音っていうか、機械が駆動するようなウィーンって音ね。

 ともみさんは、胸前に下ろしたカメラを見つめてる。
 すぐに、カメラから厚い印画紙が出てきた。
 ともみさんは、出てきた紙をじっと見つめてる。
 頬に、微笑みを浮かべながら。
 まるで、母親が赤ん坊の顔を覗きこむようにね。
 時間が止まったみたいに思えたころ……。
 ようやく、ともみさんの顔が上がった。

「ほら、よく撮れてるでしょ?」

 あけみちゃんが、真っ直ぐこっちを見てる写真だった。
 不思議な質感の写真。
 デジカメで撮ったのとは、雰囲気がぜんぜん違う。
 レトロっていうかさ……。
 今撮ったばっかりなのに、昔の写真みたいなの。

第七話へ続く

文章 Mikiko
写真 杉浦則夫
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