放課後の向うがわⅡ-31

 理事長のお尻が、怯えた犬みたいに下を向いた。

「ほっほっほ」

 女王さまは、全身を揺らしながら笑った。
 その刹那……。
 わたしの身体に電撃が走った。
 女王さまが身を折った拍子に、ロウソクの炎の輪が、胸元まで照らしたの。
 女王さまの胸から下がるペンダントが、炎を返して揺れてた。
 そのペンダントには、見覚えがあった。
 まさか……。
 もっとよく見ようと、思わず身を乗り出した。

「誰!」

 女王さまの顔が、真っ直ぐにこっちを見てた。
 気づくと、わたしの上体は、鏡の陰から半分も出てた。
 女王さまの目は、目深に被った帽子で見えなかったけど……。
 その瞳が、わたしを射抜いてることは間違いなかった。
 メデューサに見詰められたように、わたしの身体は石に変わった。

「なんだ。
 観客がいたんじゃない。
 そんなところに隠れてないで、出てらっしゃいよ。
 特等席にご案内するわ。
 かぶりつきよ。
 あ、それよりも、舞台に上がってもらった方がいいか。
 まな板ショーね。
 さ、いらっしゃい。
 ほら、ゆい。
 観客にご挨拶なさい」

 女王さまの視線が、うずくまる理事長に落ちた。
 女王さまの手が、理事長の髪を掴んだ。
 理事長の頭が引き起こされる。
 メデューサの視線が逸れ、呪縛が一瞬だけ解けた。
 同時に、わたしは床を蹴ってた。
 理事長に顔を見られるわけにはいかない。
 ブルーシートの裾を、滑り抜ける。
 靴を拾い忘れたことに気づいたけど、もちろん取りに戻るわけにはいかない。
 今にも、背中に女王さまの影が差す気がして、振り返ることさえ出来なかった。
 理事会室の扉を抜けたところまでは覚えてる。
 でも、その後、どうやってあの塔を抜けて来たのか……。
 記憶が定かじゃないの。
 でも、女王さまは追って来なかった。
 ま、あの格好じゃ、塔の外には出れないわよね。

 ふふ。
 ちょっと幕間が長くなっちゃったようね。

「さて、美里ちゃん。
 ここで質問です」

 あけみ先生が語る、不可思議な世界から抜けきれなかったわたしは……。
 突然名前を呼ばれ、ようやく夢から醒めた。
 思えば今、その奇妙な話の舞台だった理事会室に……。
 登場人物が、そのままいるんだ。
 出で立ちもそのままに。

 あけみ先生の衣装は、下半身だけ無くなってるけど……。
 理事長と川上先生は、その時と同じ縄だけ。
 先生のお話と違うのは、縄の打たれ方。
 理事長は仰向けにされ、股が裂けそうなほど脚を広げられてる。


 川上先生は、蜘蛛の巣に絡められたようにぶら下がってる。


 お話の登場人物で、ここにいないのは女王さまだけ。
 その再現された舞台に、自分も立ってることに改めて気づき、わたしは身震いした。

「あの女王さまは、誰だったでしょう?
 はい、即答」

 そんなこと言われても、答えようが無い。

「そうね。
 もうちょっと、補足が必要か。
 女王さまのしてたペンダントに、見覚えがあったって言ったでしょ。


 紫色の、大きなペンダント。
 普通の服装では、とても着けられないデザイン。
 吊るしてるのも、チェーンじゃなくて、紐だったし。
 でも、あの日の女王さまのコスチュームには、とっても似合ってた。
 見覚えがあるどころの話じゃないの。
 だって、あのペンダントは……。
 わたしが、ともみさんにプレゼントしたんだもの。
 あの14年前の旧校舎で、わたしの手からともみさんに渡ったものなの。
 見間違いなんかしようもない。
 あれと同じものは、2つと無いわ。
 なぜならあれは、わたしの手作りだったんだから。

 高校のころの夢は……。
 ピアニストかジュエリーデザイナーになることだった。
 結局、この学校に残るために、音楽教師になっちゃったけど。
 ま、それくらい手先が器用だったのよね。
 で、お小遣いをはたいて材料を買い、一生懸命作った。
 ともみさんは喜んでくれたわ。
 わたしがあげたペンダントを、ともみさんはずっと持っててくれてるはず。
 わたしはそばにいられないけど……。
 わたしの作ったペンダントは、ともみさんと一緒にいる。
 それが、14年間、待ち続けられた支えでもあった。
 それが、なぜ!
 なぜ、ともみさんのペンダントを、あの日の女王さまが着けてたの?

 女王さまに見つかったとき……。
 どうしてあの場にとどまって、そのわけを聞きたださなかったのか……。
 後になって、どれだけ悔やんだか。
 でも、あの時は……。
 恐怖と混乱で、まともな思考ができる状態じゃなかった。

 逃げ帰ってから、さんざん考えたわ。
 ともみさんのペンダントを、女王さまが持ってたわけを。
 女王さまに、あげちゃったんだろうか……。
 いや、そんなはずは無い。
 わたしのともみさんが、そんなことするはずがない。
 そんなら、どうして?

 泣きながら考えぬいて……。
 出た答えは、ひとつだった。
 そう。
 あの女王さまは、ともみさんその人だったのよ。
 ふふ。
 なんでそんなことに気づかなかったの?、って顔してるわね。
 だって、年齢が、ぜんぜん違ってたんだもの。
 わたしの知ってるともみさんは……。
 大人びてはいたけど、それでも高校生だった。
 でも、あの女王さまは、今のわたしと同じくらい。
 間違いなく、30歳前後の女性よ。

 わたしは、ピアノをやってるせいか、人の手にすぐ目が行くの。
 女性の年齢はね……。
 顔は、ある程度お化粧でごまかせても……。
 手の甲だけは隠せない。
 テレビの女優さんを見ても、顔はほんとに若々しいのに……。
 手の甲に、無残な血管が浮いた人っているでしょ。
 高校生のともみさんの手は、ほんとに綺麗だった。
 血管なんて、ぜんぜん見えない。
 お餅を被せたみたいに、つるつる。
 でも、あの女王さまは違った。
 それなりに血管が浮いた、大人の女性の手をしてたわ。

 なら、どうしてその人がともみさんなのか……。
 わかる?
 つまり、あの女王さまは、30歳くらいになったともみさんだったってこと。
 ともみさんはね、時間を越える能力を、大人になってからも持ち続けてるわけよ。
 きっと、あの旧校舎にあなたが呼び寄せられたのも……。
 ともみさんがつくる磁場に、引きこまれたせいかも知れないね。

 すなわち、時間旅行をしてるのは、高校生のともみさんだけじゃない。
 30歳のともみさんも、時間を越えてるんだってこと。
 はは。
 信じられないって顔してるわね。
 わたしもほんとは、半信半疑。
 ともみさんがわたしを見て、あけみだって気づかなかったのも、ちょっとショックだったし。
 それよりなにより、どうしてわたしのところじゃなくて……。
 この2人のところに来てるの!
 それが一番、許せない!」

 裸電球の明かりに照らされたあけみ先生の顔には……。
 狂気の翳が差してるように見えた。

「で、今日は……。
 ともみさんを、もう一度呼び出してもらおうと思って……。
 ここに来たのよ。
 美里、あなたはその証人として呼んだの。
 わたしは、14年も経って変わっちゃったけど……。
 あなたは、旧校舎に行ったときのままだもんね。
 ともみさんも、絶対に覚えてるはずだから。

 さて、理事長先生。
 長々とわたしの独演をお聞きくださって、ありがとうございました。
 これからは、存分に語らせてさしあげますわ。
 イヤでもね。
 さ、どうなの?
 あの女王さまは、いったい誰?」

 両脚を一杯に拡げられた理事長は、背中に潰される腕が苦しいのか……。
 ときおり上体を捻り、背中を浮かせてた。
 身悶えてるようにも見えた。
 視線はとりとめなく彷徨い、意識が混濁しかけてるみたいだった。


「ふふ。
 大股開き、苦しそうね。
 自分で開くのは、大好きなくせにね。
 じゃ、ちょっとお色直ししてあげようか。
 美里、机の下の縄、取ってくれる」

 あけみ先生は、理事長の足首を戒める縄を解いた。
 でももちろん、理事長を解放するためじゃなかった。
 先生は、理事長の脚を膝で折ると、荷造りするように縄を掛け始めた。
 理事長の脚は、太腿とふくらはぎが密着するほどに畳まれた。
 あっという間の手際で、両脚がハムみたいに括られた。
 両足の裏が、股間の下で合掌してる。

「ずいぶん、おとなしくなったものね。
 暴れたから、また薬が回ったのかしら?
 じゃ、いい子にしてたご褒美あげましょうね。
 美里、また机のとこに行って。
 天板裏の薄い引き出しに、鍵が入ってるから。
 そう、それ。
 その鍵で、右の引き出し開けてごらん。
 開いた?
 そしたら、一番上を引いて。
 ははは。
 驚いた?」

 深い引き出しの中には、さまざまな色彩が、オモチャみたいに溢れてた。
 でも、子供のオモチャよりも色合いが暗く、毒々しい感じがするものが多かった。
 ウブなわたしでも、それが何かはわかった。
 そう。
 それは、大人が使うオモチャ。
 男性の陰茎を象ったものやら、大きさの違うボールを数珠つなぎにしたもの。
 深い引き出しの中で、それらは息づいて蠢いてるように見えた。

「わたしのコレクションの、ほんの一部よ。
 どれでもいいから、選んでみて。
 なんなら、自分のに入れて試してみてもいいけど。
 でも、ひょっとしてあなた……。
 バージン?
 どうしたの?
 恥ずかしいことじゃないでしょ。
 あなたの歳だったら、わたしだってバージンだったわ。
 ま、でも、こんなとこでバイブにバージン捧げることも無いわね。
 大事になさい。
 さ、どれかひとつ選んで。
 理事長のために。
 あなたの気に入ったのでいいのよ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-30

「呆れた人。
 自分から、お尻振るなんて」
「弄って。
 下も弄って」
「下?
 何のことかしら?」
「……おまんこ」
「はしたない人ね。
 生徒の前でも、そんなこと言える?
 あらあら。
 スゴいことになってる。
 毛が無いから、どうなってるか一目瞭然ね。
 アワビが、お潮噴いてる。
 床まで濡らして」
「はがが」
「ちょっと。
 あなたひょっとして……。
 あそこに力入れるだけで、イケちゃうんじゃないの?
 便利な人ね。
 手を使わなくていいんだから、どこでもやり放題じゃないの。
 電車の中とか。
 やってるでしょ?」
「イ、イ……」
「おっと。
 イカれてたまるもんですか」

 イカの脚が、獲物を放した。

「あぁぁ。
 止めないで」
「さっき言ったでしょ。
 わたしは、ご奉仕するSじゃないって。
 いい目を見た後は……。
 痛い思いをしてもらうわよ。
 ギャップを味わいなさい」

 女王さまは、聖火みたいに掲げてたロウソクを、理事長の肩越しに傾けた。
 赤い蝋が、重たい雨のように、理事長の乳房に降り注ぐ。
 思いがけないほどの量だった。
 ロウソクの芯の部分が凹んでるから、そこに大量の蝋が溜まってたのね。
 理事長の乳房は、一瞬にして、絵の具をぶちまけたみたいな真紅に染まった。

「ぎぇぇぇ。
 熱いぃぃ」
「生きてる証拠よ」
「ひぎぃぃ」
「いい声。
 わたしが聞きたいのは、これよ。
 甘え声なんかじゃなく、悲鳴。
 ほら、もっと鳴いて」

 女王さまは、さらにロウソクを近づけた。
 理事長の肌には、疫病みたいに蝋の染みが広がった。
 乾いて薄皮の張った蝋に、ドロドロの真紅の蝋が溶け流れる。
 乳房を包みながら流れ下る蝋は、山肌を伝う溶岩流のように見えた。
 赤い染みは、脇腹まで拡がってた。

「ひぃぃ。
 熱い熱い熱い。
 熱いぃぃぃぃぃぃぃ」
「もっと鳴け。
 もっと!」

 悲鳴を迸らせる理事長を愛しむみたいに、女王さまは顔を近づけた。
 キスをするのかと思ったら、長い舌が零れた。
 理事長の耳を舐め回す。

「ふふ。
 いい香り。
 一気に汗が噴き出して、雌が香りだした。
 蝋の衣装を纏うと、女は雌に変わるのね」
「許してぇ」
「そんなこと言いながら……。
 こっちからは、別の汗を出してるんじゃないの?」

 女王さまの片手が、理事長の肩越しに前に回った。
 指先が、股間に届く。


「ほうら。
 山肌を伝うのは、真っ赤な溶岩流。
 そして、その麓には、熱泥が噴き出してる。
 どろどろじゃないの」
「い、言わないで」
「言ってほしいくせに。
 ほら、ほら。
 こんなに濡らして」
「あぅぅ」
「どう?
 いいでしょ。
 こうやって苛められながら、クリを嬲られるのって。
 ここに観客がいれば、もっと燃えるのにね。
 ゆうは目を覚まさないし。
 ほら、もっと股開いて」
「あぁぁ、あぁぁ」
「イキそう?」

 理事長は、歯を食いしばりながら、がっくがっくと頷いた。
 爪先では、10本の指が、花びらのように開いてた。

「イカせてあげなーい」

 女王さまの指が、股間を離れた。

「あぁっ。
 いやぁ」

 理事長が、怨嗟の声をあげる。

「気持よくイカれたんじゃ、お仕置きにならないって言ってるでしょ。
 今日のメインディッシュは、痛みなのよ。
 痛みのフルコースを、とことん味わってもらうわ。
 ひょっとしたら……。
 そこを突き抜けた先に、新たな快感が待ってるかも?
 さぁ、新しい地平を目指して、出発よ」

 女王さまの持つロウソクが、宙を移動した。
 再び傾けられる。
 理事長の真っ白いお尻に、鑞涙がぼたぼたと落ち始める。

「ぎぃえぇぇぇぇ」
「真っ白い肌に落ちる蝋って……。
 どうしてこんなに綺麗なのかしら。
 ほうら」
「熱い熱い熱い。
 無理!
 もう無理!」
「ウソおっしゃい。
 まだまだ地平は見えないわよ。
 ほら、もっと高みに登りなさい」
「あぎぃぃぃ」
「ぜんぜん余裕ね。
 ほんとに耐えられなくなった人はね……。
 大便を漏らすのよ。
 尻たぶを汚しながら、茶色い溶岩が流れ出す。
 地平が見える瞬間だわ。
 あなたはまだ、おしっこも漏らしてないじゃない。
 ほら、もっと鳴け」
「助けてぇぇぇぇ」

 理事長は、熱から逃れようと身を捻った。
 身体が反転し、下を向いた。
 豊かな相臀のあわいに、性器が覗いて見えた。

「馬鹿な人。
 身体を動かしたら、まっさらなところに蝋が落ちて、よけい熱いでしょうに。
 それとも……。
 お尻が好きなのかしら?
 お尻で受けたいわけ?
 真っ赤な精液を」
「ほんとに許して!
 ほんとに……」
「うんこ漏らしたら、許してあげる」
「いや」
「それじゃ、もっと味わいなさい。
 ほら」
「あぎゃぁぁぁぁ」

 理事長は、ロウソクをもぎ取ろうとでもしたのか、背中に束ねられた指を真上に伸ばした。
 10本の指が、白い炎のように燃え立った。

「おっと」

 女王さまは、ロウソクを吊り上げた。
 もう、白い指は届かない。
 理事長は、落ちる蝋を遮ろうとするみたいに、手の平を一杯に広げた。
 それをあざ笑うかのように、蝋は指の股を抜け、ぼたぼたとお尻に落ちた。


「あぁっ。
 あぁっ」

 理事長は、連獅子みたいに髪を振り立て、全身をうねらせた。

「いいパフォーマンスよ。
 このまま舞台に立てるわ。
 今度、会員制のクラブでやってみない?
 そうね。
 見せるだけじゃつまらないわね。
 会員さんにも参加してもらいましょう。
 もちろん、あなたには指一本触らせないから安心して。
 そのかわり……。
 精液をかけてもらうの。
 この格好で。
 真っ赤に溶け流れる蝋の上に、練乳みたいな精液が振りかかる。
 綺麗でしょうね。
 蝋の燃える臭いを突いて、栗の花が香り立つ。
 嗅いでるだけでイケそうね。
 あー、気分出てきた」

 縄目を掴んでた女王の片手が外れた。
 指先は、迷いなく自らの股間に移った。
 切れあがったショーツの上から、宥めるように股間をさすってる。

「ふぅ」

 贅肉の無い女王さまの腹筋が、ぴくぴくと震える。
 お臍のピアスが、ロウソクの炎を返して光った。
 女王さまの指先が、ショーツのサイドを割って滑りこむ。

「あふ。
 もう、どろどろ。
 指先に、蛭みたいに絡みつく。
 あぁっ」

 女王さまの太腿に、腱が走った。
 片手に束ねたロウソクが傾き、蝋が大量に零れた。

「ぎぇ」

 奇声とともに、理事長が這い始めた。
 縄目を掴んでた女王さまの手が外れたから、事実上、自由の身だったのよね。

「おっと」

 女王さまの手が、自らの股間を離れ……。
 逃げようとする理事長の肩を抱えた。

「誰が逃げていいって言ったの」

 そんなに強く押えられてるわけじゃないのに、理事長の四肢が静まった。
 まるで、主人に伏せを命じられた犬のようだった。

「じっとしてなさい。
 お尻に、綺麗な模様を入れてあげるから。
 立体的なタトゥよ」

 女王さまは、ロウソクを束ねた手の平を上向けた。
 巨大な2本の絵筆を、ゆっくりと下ろしていく。

「熱いぃ」

 理事長のお尻が跳ねあがった。

「ほら、もっとお尻振りなさい。
 そうそう。
 スゴいスゴい。
 まるで、後ろから突っこまれてるみたいよ。
 こんなに動かれたら、男はあっという間に射精だわね」
「痛い痛い痛い痛い痛い」

 理事長の張り出した相臀に、疫病のように蝋が広がっていく。

「あぁっあぁっあぁっ」
「そのまま、うんこ漏らしたら許してあげる」

 理事長は、額を擦りつけながら、顔を横振った。
 髪の毛が、モップを真似て床を掃く。

「強情な人ね。
 そんなにしたくないんなら……。
 蝋で肛門を塞いであげようか」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-29

「こんなとこに忘れてったのね。
 危ない危ない。
 まさか、変なことには使って無かったでしょうね」

 その人は、棒を電球に翳した。
 光を浴びて、棒は光沢を見せた。
 竹だった。
 粉を吹いた地肌が光を返し、まるで自ら光を発してるように見えた。
 なぜだか、かぐや姫の物語が頭に浮かんだ。

 その人は、理事長の傍らに身を沈めた。
 さっきから、顔を確かめようとしてるんだけど……。
 出来なかった。
 なぜなら、その人は帽子を目深に被り、つばの作る影が、顔の上半分を隠してたから。

「ほら。
 おネンネの時間は終わりよ」

 その人は、理事長の身体を引き起こした。
 癇癪持ちの子が、人形を扱うような邪険な仕草だった。
 上体を起こされた理事長は、視線を四囲に彷徨わせてる。
 その人は、魔法めいた手際で、理事長の縄を解いた。
 しかし、理事長に自由は与えられなかった。
 理事長の両腕は、再び後頭部で束ねられ、縄打たれた。
 その縄に、竹が通される。
 理事長の頭の後ろを、竹が渡った。
 わたしには、理事長の首を突き抜けたように見えた。
 理事長の瞳が、焦点を結んだ。

「……、お姉さま」
「やっと目が覚めた?
 わたしに無断で、気持ちいいことしてたわね」
「ごめんなさい」
「気までやって。
 ほら、ゆうはまだ、大股拡げて寝てるわ。
 あの子も、筋金入りの変態。
 あんな綺麗な顔に生まれながら、不憫なものよね。
 さてと。
 まずは、あなたのお仕置き。
 どうしようかしら。
 どうされたい?」
「……。
 突いて。
 突いてください。
 あのディルドゥで」
「は?
 馬鹿じゃないの。
 それじゃ、お仕置きにならないでしょ。
 ふざけたこと言ってないで、ほら!」

 その人は起ちあがりながら、理事長の身体を引きあげた。
 理事長は自ら応えて身を起こすと、膝を突いた姿勢で背中を見せた。
 張り出したお尻から、腰への括れが見事だった。
 後頭部で束ねられた両腕には、竹が通っている。
 まるで、竹に射抜かれたビーナスだった。

 その人は、理事長を見下ろすように立ってる。
 高いピンヒールから伸びる脚は、網タイツのガーターストッキングに包まれてた。
 ストッキングが、ガーターだってわかると云うことは……。
 つまり、スカートは穿いてなかったの。
 股間は、かろうじて布地に覆われてたけど。
 その黒いパンティには、真紅の花があしらわれてた。

「これが、ほしいの?」

 その人は……。
 やっぱ、この呼び方って言いづらいな。
 ここからは、女王さまにするね。
 女王さまは、柱のディルドゥを指さした。
 さっき、理事長と川上先生が、舐めてたやつね。


「ください」
「さっきまで、つまみ食いしてたくせに」
「お姉さまに突いてほしい」
「そうかしら。
 ひとりで遊ぶの、大好きなくせに。
 わたしが、お預けを言いつけて置いても……。
 言うこと聞かないじゃない。
 ベッドに仰向けになったまま、腰振り出してさ。
 ガードパイプに燭台で据えたディルドゥを上目で睨めながら……。
 お尻をシーツに擦り始める。


「だって、お姉さまが、あんまり焦らすんですもの」
「甘え声出すんじゃないの。
 焦らさなきゃ、お預けの意味がないでしょ。
 ぜんぜん聞きゃしないんだから。
 勝手に起きあがって、ディルドゥ舐め始める。
 しかも、尻の穴をねぶりながら。


「だって……」
「また、だって?」
「前を弄ること、禁じられてるんですもの」
「“前”なんて曖昧な言い方、止めてちょうだい。
 ちゃんと言いなさい。
 どこをどうすることを禁じてあるの?」

「……。
 おまんこ」
「はっきり!
 おまんこをどうするの?」
「おまんこを、自分で弄ることです」
「そっちのいいつけだけは守ってるって言いたいわけ?
 それでお尻の穴弄ってたら、世話ないわ。
 あげくの果てに、ディルドゥ様を燭台から持ち出してさ。
 床に据え付けて……。
 舐め回すわ、頬ずりするわ。

 浅ましいったらありゃしない。
 わたしに見咎められなければ……。
 あのまま突っこんでたでしょ?」
「そんなこと、しません」
「ウソおっしゃい。
 ディルドゥが溶け出しそうなほど、頬張ってたくせに。
 そういう人は、罰を受けなきゃならないのよ」
「犯して……。
 めちゃめちゃに」
「だから……。
 それはあなたにとって、罰じゃないでしょ。
 考えてみれば……。
 SとMってのは、奉仕する側とされる側なのよね。
 もちろん、奉仕してるのはSの方。
 Mの欲望を満たすため、Sは一生懸命サービスしてるわけ。
 でもね。
 わたしは、そんなのイヤよ。
 わたしが聞きたいのは、ほんとの悲鳴。
 そのために……。
 今日は、おみやげを持ってきたわ」

 女王さまは、薄い上着を羽織ってた。
 胸前ははだけ、ブラが覗いてる。
 黒いカップの上に、パンティとお揃いの花が咲いてる。
 女王さまは、上着の裏から、マジシャンみたいに、あるものを取り出した。
 カップに咲く花よりも赤い、棒のようなもの。
 遠目からでは、よくわからない。

「ほら。
 おっきいでしょ。
 これも突っこみたい?
 でも、残念ながら……。
 あなたの下のお口を満足させるために、持ってきたんじゃないの。
 何に使うか、わかるでしょ。
 SMショーの定番だものね。
 ロウソクショーって云うのよ。
 どう、この色。
 毒々しいまでの赤。
 無残絵の血の色みたい。
 でも、とても懐かしい色。
 子供のころ見た夢に灯ってた色よ」

 女王さまは、赤いロウソクを、理事長の顔前に翳した。
 お寺の本堂にあるような、大きなロウソク。

「この赤い蝋が溶けて……。
 白い肌に落ちると、それはそれは綺麗なの。
 だから、SMショーでは、赤いロウソクが使われるのね。
 でも、ほんとに熱いのよ」

 ロウソクを突きつけられた理事長は、床を後退った。

「ゆ、許して」

 目が本気で怯えてた。
 無理もないわ。
 あんな太いロウソクを目の前にしたら……。
 誰だって、恐怖の方が先に立つ。

「ダーメ。
 どうやら、縛り直した方がよさそうね。
 ほら、おとなしくしなさい」

 女王さまは、理事長の腕から竹の棒を抜き取った。
 床に放られた竹が、楽器めいた音を立てる。
 その竹がまだ静まらないうちに、理事長の縄は解かれた。
 でも、自由を得たのはほんの一瞬。
 女王さまは、理事長の両腕を背中で束ねた。
 再び縄が打たれる。
 もちろん、本気で抵抗すれば逃げられたはず。
 でも、理事長はそうしなかった。
 顔は半泣きに歪んでたけど。
 恐怖と、嫌われたくないという思いが、せめぎ合ってるように見えた。
 その間にも、縄は重ねられていく。
 瞬く間に、理事長の上体は、縄で区画された。
 乳房の膨らみが縄で潰され、乳首が上を向いてた。

「はい、出来上がり。
 綺麗になったわよ。
 どんな衣装より、あなたには飴色の縄が似合うわ。
 そして、それに合わせるのは……。
 このロウソクの赤」

 女王さまの上着から、小さな金色が生まれた。
 指先が金色の肌を弾くと、軽やかな金属音とともに、金色は2つに割れた。
 ライターだった。
 微かな擦過音が立ち、炎が生まれた。
 2本束ねたロウソクを傾け、ライターに近づける。
 口づけをするみたいに、炎が移った。
 赤いロウソクに、柑子色の火が灯った。

「ほら。
 綺麗でしょ」

 女王さまは、理事長の前に、2本のロウソクを翳した。
 理事長の瞳が、怯えたように逃げる。

「まず、どこからいこうかしら?
 そうね。
 やっぱり、ツンとお澄ましした、そのおっぱいかしら。
 どうなの?」
「許して……」
「ダメよ。
 そんなこと言いながら……。
 乳首、起ててるくせに」
「言わないで……」
「言いなさい。
 蝋のお情けが欲しくて、乳首起ててますって」
「お姉さまに見られてるから」
「可愛いこと言ってもダメよ。
 見られて起てるなんて、変態だわ」
「あぁ」
「ほら。
 言葉で嬲られるだけで、そんな顔して。
 立派な変態。
 ちょっとだけ弄ってあげましょうか」

 女王さまは、理事長の背後に回った。
 束ねた指先が理事長の体側を回りこみ、乳首を摘んだ。

「ひ」
「まだ何もしてないでしょ。
 もう鼻の穴膨らませて。
 言ってごらん。
 ゆいは変態ですって」
「……」
「言えないの?
 止めちゃおうかな」
「変態です」
「主語が無い!」
「ゆいは……。
 ゆいは変態です!
 だから……。
 だから、弄ってぇぇ」

 指先が、獲物を捕らえたイカの脚みたいに蠢き出した。

「わひぃ」
「気持ちいいの?」

 理事長は、がっくがっくと頷いた。
 頷きながら、お尻を床にスライドさせ始めた。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-28

 理事長は、歯を食いしばった表情のまま、後退った。
 半身に折った背中越しに、お尻が迫り上がった。

「ゆう。
 ゆう。
 見て」
「こんなに近くで見てる」
「後ろ。
 後ろから見て。
 ゆいのおまんこに、肉棒が突き刺さるとこを……。
 見てぇぇぇぇぇ」

 理事長は、きりりと眉を上げ……。
 そのまま後ろに、身を煽った。
 眼球が、引き上げられた深海魚みたいに膨れた。

「あぎゃぁ」

 表情が、弾けるように崩れた。
 首をうねらせ、空中を舐め回す。

「あぐぅ。
 ゆうちゃん……。
 見てる?」
「……」
「言って。
 どうなってるか言って」
「奥まで刺さってる」
「見える?」
「お尻に隠れて、よく見えない」

 理事長は顔を持ちあげ、再び表情を整えた。
 力んだ眉が、阿修羅像みたいだった。

「はぅ」

 理事長は、深淵を覗くように、身を前傾させた。

「見えた。
 見えたよ」
「言って。
 どうなってるか、言って」
「咥えこんでる」
「やらしい?」
「ゆいのおまんこ、動いてる。
 焼き網に載せられたアワビみたい」
「じっとしてると、肉棒を呑みこもうとするの」
「あ、お汁が零れた」
「あぁ……。
 焦れったい。
 がんがん突いて欲しいのに」
「無理よ。
 柱にそんなこと言っても」
「それなら、わたしが動くわ。
 こうやって。
 はぅっ」

 理事長が、身を畳んだまま後ろに跳ねた。
 外敵から逃れるエビのようだった。
 尻が柱を叩き、鈍い音を立てた。

「そんなにしたら、子宮が破けちゃう」
「奥がいいの。
 いいのぉぉ」

 理事長は再び前傾すると、すぐさま身を煽った。
 柱が揺れた。

「はぅぅ」

 理事長は、たちまち往復するピストン機関となった。
 尻が、高速で柱を打ち始める。
 柱は、アフリカの打楽器のように鳴り始めた。

「もう、速すぎて見えない」
「前に、前に来て。
 おまんこ、見せて」

 川上先生が、理事長の前に回った。
 理事長の顔が、川上先生の身体に隠れる。
 この状態なら、わたしへの視線は来ない。
 鏡の裏から片目で覗いてたわたしは、鏡から顔を出した。
 川上先生の肉付きのいい後ろ姿が、目の前にあった。
 みっしりと、隙間も見せず揃った太腿。
 曲線を描いて張り出したお尻。
 そして、腰骨の上で翳を孕む、天使のえくぼ。
 妄想したとおりの裸だった。

「はぅっ。
 はぅっ。
 ゆうちゃん……。
 開いて。
 開いて見せて」

 川上先生の太腿が別れた。
 両膝を外側に割り、腰を落とす。
 いわゆる、がに股の姿勢。
 尻たぶが、羽二重を押したように窪んだ。

「おまんこも開いて」
「できないわ。
 縛られてるんですもの」
「力を入れて。
 ぐっと。
 そう。
 見えた。
 見えたわ。
 ゆうちゃんのハラワタ」
「あぁぁ。
 弄りたい。
 弄りたいよぉ」

 川上先生は、がに股のまま身をくねらせた。

「そんな格好で、オナニーしたいの?」
「したい……」
「したことあるのね」
「……」
「どこで?」
「学校の、おトイレ」
「まぁ、はしたない」
「だって、理事長先生……。
 じゃなくて、ゆいとの夜を考えたら……。
 待ちきれなかったんですもの」
「可愛いわぁ。
 おトイレで、立ったままやったのね」
「思い切り」
「声が出ちゃうでしょうに」
「パンティを咥えて」
「ショーツ脱いじゃってたの?」
「全部脱いでた」
「全裸で?
 変態ね」
「あぁ。
 言って。
 もっと言って」
「変態!
 ゆうの変態!」
「あひぃ」
「でも、ゆうだけじゃないわ。
 ゆいも変態。
 だから2人は、変態姉妹。
 畜生の姉妹よ」
「あぁぁぁ」

 川上先生は、夜の桃みたいに重そうなお尻を、ゆらゆらと揺らし始めた。
 “天使のえくぼ”が翳を孕み、顔のように見えた。

「もうたまらないのね。
 もっと近くに来て。
 わたしが、お口でしてあげる」

 川上先生が、尻たぶを窪ませながら、にじり寄る。
 その尻たぶが跳ねた。

「わひぃ」

 ピストンを止めようとしない理事長の顔が、川上先生の股間を叩いたのだ。
 川上先生は、一瞬砕けかけた腰を立て直すと、理事長の顔を迎えに行った。
 理事長の顔が繰り出されるのに合わせ、腰を煽る。
 わたしからは見えなかったけど……。
 理事長の顔と川上先生の股間が、空中で衝突してるのが、はっきりとわかった。

 理事長のピストンが速まった。
 纏めてた髪が解けた。
 理事長は、散らし髪を振り立てながら、川上先生の股間を抉る。
 川上先生の腰も、輪郭を消し始めた。

「イ、イク。
 イク」

 川上先生が、声を裏返したそのときだった。

「何してるの、あんたたち!」

 叩きつけるような声が、間近から聞こえた。
 わたしは、新たな人物の登場に動転し、その場に身を縮めるしかなかった。
 その人物は、まさに忽然と現れたとしか思えなかった。
 いくら2人の痴態に見入ってたとしても、近づく靴音くらいは聞こえたっていいはずだ。
 身を縮めたわたしに、初めてその靴音が聞こえた。

「おとなしく待ってなさいって、言ったでしょ」

 靴音は少し遠ざかり、その人が舞台中央に進んだのがわかった。

「あぁ」

 川上先生の、嘆きに似た裏声と共に、重そうな響きが床を伝わった。

「はしたない子ね。
 腰抜かしたりして。
 呆れ返ったわ。
 人の顔使ってオナニーするなんて。
 それでも教師なの。
 あらあら。
 もう、何を言っても聞こえないみたいね。
 白目剥いちゃって」

 再び、靴音が響いた。

「でも、こっちはもっと悪いわね。
 仮にも理事長でしょ。
 学校法人の。
 それが、柱に括りつけたディルドゥを、下の口に咥えこむなんて……。
 はしたないにも程があるわ。
 上のお口で舐めてなさいって言ったでしょ。
 まだ、咥えこんでる気?
 抜きなさいって」

 床を、柔らかい音が打った。
 理事長の身体が崩れたに違いない。

「悪い子たちには……。
 お仕置きが必要ね」

 靴音が微かに近づいたけど、逆に声は遠くなった。
 その人は、こちらに背を向けたに違いない。
 音楽やってると、そういう音の気配が感じられるのよ。
 ここまで来て、わたしは我慢が出来なくなった。
 見届けたかった。
 学園の理事長と教師を、自在に蹂躙できるその人物を。

 わたしは、伏せていた身から、ヘビのように首を持ちあげた。
 もし見つかったとしても、縛られてる床の2人は戦力にならない。
 それなら、女同士の1対1だ。
 声の発せられる高さからして、それほど大柄な女性じゃない。
 逃げるチャンスは、十分あるはず。
 そう自分に言い聞かせながら、鏡の裏から顔を覗かせた。

「呆れた人たち。
 2人して気をやっちゃうなんて」

 その人は、仰向いた理事長の枕元に腰を下ろし、顔を覗きこんでた。
 理事長は、白目こそ剥いてなかったけど……。
 視線はあらぬ方を指してて、意識の焦点は結ばれてないようだった。

「ほんとに気持ちよさそうにイッちゃって。
 どうなの、この顔」

 その人の手が、理事長の顎を掬い取った。
 理事長の顔が横を向き、視線がこちらに流れた。
 思わず、首を引っこめそうになったけど……。
 その両目が何も見てないことは、すぐに解った。


「死に顔みたい。
 こんな顔で死ねたら、幸せよね。


 魂を失った抜け殻って、どうしてこんなに美しいのかしら。
 このまま、わたしの魂が身投げしたら……。
 この美しい身体に入れるんじゃないかしら。
 なんてね。
 いくらわたしでも、そこまでの能力は無いわ。
 ほら、いつまで寝てるの!
 起きなさい」

 その人は、理事長を邪険に突き放し、その場に起ちあがった。

「まだ起きないつもり?
 もう気持ちのいい時間は終わりよ。
 先にいい目を見ちゃった子には……。
 たっぷりと痛みを味わってもらうわ。
 どうしてやろうかしら」

 その人は、顎を指先で支え、思案を巡らせてるようだった。

「あら」

 軽やかにヒールを響かせながら、その人は部屋の隅に屈みこんだ。
 再び身を起こすと、手には細長い棒のようなものを持ってた。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-27

 縄を纏った女が2人。
 床には、畳が敷いてあった。
 2人は、その畳に座りこんでる。
 2人の間には柱が立ってて、その柱を挟むように向かい合ってる。
 ひとりの顔は、正面から見えた。
 思ったとおり、川上先生だった。
 想像だけしてた裸が、目の前にあった。
 思ってた以上のボリュームに驚いた。
 お腹の肉が括れを作ってる。
 もう1人の身体は、見事なほど引き締まってた。
 ときおりうねる背中に、筋肉が浮きあがる。
 アップにまとめた髪から、解れた髪がうなじに流れてる。
 同僚の教師に、こんな体型の持ち主は思い当たらない。
 と言って、生徒では絶対ない。
 成熟しきった大人の身体だった。
 誰なのか確かめたい。
 わたしは、危険も忘れて身を乗り出した。
 刹那……。
 川上先生が、高い声で鳴きながら、仰け反った。
 それに応えるように、もう1人が顔を傾けた。
 見えた。
 知ってる顔だった。

 考えてみれば……。
 もう1人が塔の主だってことは、ごく当然のことだったのよね。
 川上先生が、塔への鍵を持ってたわけも、これでわかった。
 でも、理事長には命令されることしか無かったせいか……。
 自分と同じ人間だって意識を、持ってなかったのかも。
 だから、裸を想像したこともなかった。
 これまで、天上から見下ろされてた人が、今、わたしの眼の前にいる。
 性欲を剥き出しにした、1人の雌として。
 激しい興奮が、わたしの脊髄を貫いた。
 下腹が捻られる。
 思わず、スカートの股間に拳を押しあてた。

 2人は、何かささやき交わしてた。
 でも、弦を引くような高音に、くぐもった鼻濁音が混じって、よく聞き取れない。
 もどかしかった。
 2人は、畳にひざまずき……。
 柱に取り付けられた何かを、両側から挟むように向き合ってる。
 柱を中心線にした鏡像みたいな格好ね。
 その柱に取り付けられた何かが、よく見えない。
 最近、近視が進んで、コンタクトが合わなくなってるの。
 声を聞きたいし、2人の姿をもっと近くで見たい。
 我慢できなかった。
 身を移せる場所は、さっきから目に入ってた。
 大きな姿見が、立ててあったの。
 そう。
 ここにある、この鏡よ。

 この姿見が、2人の方を向いて置かれてあったの。
 まるで、2人の舞台を見る観客席みたいに。
 あの裏側なら、隠れられる。
 そうは思ったけど……。
 なかなか踏み出せなかった。
 でも、とうとう好奇心が勝った。

 天上から下がる裸電球は、わざとワット数の小さい電球を使ってるとしか思えなかった。
 2人の舞台をほんのりと浮かびあがらせるだけで、壁際までは届いてない。
 わたしは、手に持ったパンプスを、幕の外に置いた。
 暗がりに揃えられたパンプスは……。
 なんだか、身投げする人が残したみたいに見えた。
 でも、そう思ったら、逆に度胸が座った。
 そう。
 この幕を抜けて、わたしは彼岸に渡るんだ。
 別の自分に変わるんだって。

 もう一度、2人の様子を確認する。
 声はすでにうわ言に近く、忘我の境地って感じだった。
 おそらく、お互いの目の中しか見えてないはず。
 わたしは、幕の裾から這い出した。
 そのまま、壁際に沿って移動する。
 2人と鏡を結ぶ線上の位置で止まり、90度方向を変える。
 鏡が作る死角に身を縮め、這い寄っていく。
 おそらく、こちらを注視されたら、身を隠し切れてはいないはず。
 でも、見られる心配は薄いようだった。
 2人は、眼球を鎖で繋がれたように見つめ合ってたから。

 ようやく、鏡の真裏に身を寄せた。
 大振りな鏡は、おそらくわたしの全身を隠してくれてる。
 わたしは、鏡の縁から、そっと顔を覗かせた。
 2人の姿が、間近に見えた。

 柱から突き出てるものの正体が、ようやくわかった。
 それは、わたしの想像を超えた、最低に下品な代物だった。

 張り型だったのよ。
 わかる?
 勃起した陰茎を象った作り物。
 安っぽい肌色の質感が、よけいに淫猥に見えた。
 バイブみたいな棒型じゃなくて、陰嚢を模した平らな基部を持ってる。
 立てておけるのね。
 その基部が柱に密着し、陰茎は水平におっ勃ってる。
 もちろん、柱に括りつけられてるわけ。
 それがまた、白い布でね。
 まるで、褌を絞めたみたい。
 褌の脇から、ちんぽを突き出した変態男。
 その陰茎を、一生懸命2人で舐めてるの。

 理事長は、張り型に舌先を這わせてる。
 陰茎の肌には、誇張された血管が巡ってる。
 浮き出た血管を舌が乗り越えるたび、舌体がビラビラと震える。
 陰唇みたい。
 女の口が性器だってことが、まざまざとわかる。
 川上先生は、舌先で亀頭をなぞってる。
 張り出したカリ首を、愛おしむように。
 わたしはエラの張ったカリが好きなんですって、一生懸命舌が言ってた。


 ここまで近づくと、2人の声もはっきり聞こえた。
 はしたなくて、イヤらしい雌同士の会話。

「理事長先生……。
 頬張りたい。
 お口いっぱいに」
「ダメよ……。
 お預けって言われてるでしょ。
 舐めるだけって」
「欲しいの……。
 ノドの奥まで」
「あぁ……。
 そんなこと言わないで。
 わたしも欲しくなっちゃう。
 このカリで、おまんこの襞を研ぎ下ろされたら……。
 どんなにいいでしょう」

 聞いてるほうが、おかしくなりそうだった。
 わたしは、スカートの上から、拳を股間に押し当てた。
 太腿に力を籠めると、お汁が滲むのがわかった。

「理事長先生、もう我慢出来ない。
 お口に欲しいの」


「ダメダメ。
 叱られるわ」
「ちょっとだけ。
 だって、ほったらかしにするあの方が悪いのよ」
「もうすぐよ。
 もうすぐ戻ってらして、お預けを解いてくださるわ」

 この会話で、わたしは総身に水を浴びたように震えあがった。
 どうして気づかなかったんだろう。
 目の前の2人は、どちらも後ろ手に縛られてる。
 ひとりがもうひとりを縛ることは出来ても……。
 残された1人は、自分自身を縛れない。
 つまり、もう1人いたのよ。
 この2人を縛った誰かが。
 わたしは床に突っ伏し、身を縮めた。
 その誰かに、真後ろから襲われそうな気がした。

 ここから、逃げなければ。
 もう一度、2人の視線を確かめる。
 陰茎を舐めあがった理事長も、舌先を亀頭に這わせてた。
 2人の女は向かい合い、舌先を炎のようにちらつかせてる。

 こっちは見えてない。
 身を翻すタイミングを図る。

「まだなの?
 まだお姉さまはお戻りにならないの?」
「ほんとに遅いわねぇ」

 わたしは、反転しかけた身を止めた。
 お姉さま?
 ということは、第3の人物は女性だ。
 しかも、“あの方”という言葉を使うからには、それもひとり。
 そうであれば、さほど恐れることはないではないか。
 ここにいる2人は、後ろ手に縛られ、戦力にはならない。
 もうひとり現れたとしても、実際には一対一だ。
 逃げる隙はあるはず。
 それに……。
 この2人を縛った“女性”を、どうしても見届けたかった。
 わたしは、反転させかけた身を戻し、再び鏡の後ろにうずくまった。

「ゆうちゃんにちょうだい。
 このおちんちん、ちょうだい。
 ゆうちゃん、お口一杯に頬張りたいの」
「またそんな赤ちゃん言葉使って。
 ずるい子ね。
 その甘ったれ声で、お姉さまに気に入られようとしてるのね」
「そんなことしてません。
 どうしてそんなこと言うの?
 おかしいわ」
「そうなの。
 あの方が現れてから……。
 頭の中が、大混乱。
 ゆうちゃんが、ハーネスを付けたあの方に犯されてるとこ見ると……。
 悲しくて切なくて、涙がボロボロ出るのに……。
 下のお口からも、お汁がどんどん溢れてくる。
 わかる?
 この気持」
「すごくわかる」
「うそうそ」
「わかるもん」
「じゃ、今日は、わたしがお姉さまに犯されてもいい?」
「いや。
 理事長先生のそんな姿、見たくない」
「“理事長先生”は、やめて。
 そんな偉そうな肩書きで崇められる日常が、ほんとは好きじゃなかった。
 あの方が現れてから、それがはっきりわかったの」

「あの方に命令されると、嬉しくて仕方ないの。
 ご褒美に、足の指をしゃぶらせていただくのが、至福のとき」
「理事長先生……」
「だから、それはやめて。
 名前で呼んで。
 結(ゆい)って」
「ゆい?」
「そうよ。
 ゆうとゆい。
 まるで、双子の姉妹みたい」
「双子?」
「そう。
 2人は、羊水の中にいるときから、裸で寄り添ってたの」
「そして今も?」
「そうよ。
 だから今も、2人とも裸」
「でも、ゆうは、威厳のある理事長先生が好きなのに」
「2人だけのときは、これからもそうしてあげる。
 でも、あの方の前では、双子の姉妹にさせて」
「ゆいとゆう?」
「そう。
 ゆうとゆい」
「わかった」
「じゃ、いいでしょ?
 今日は、わたしが犯される番。
 ゆうに見つめられながら……。
 欲しいままに犯されたいの。
 あぁ。
 まだかしら。
 もう、我慢出来ないわ」
「どうする気?」
「このディルドゥを、あの方がハーネスに装着するまで待てないの。
 今、欲しいの」

 理事長は、その場に起ちあがった。
 後ろ手に縛られた身体が、よろめいた。
 脚が痺れたというより……。
 ささやき交わした睦言のせいで、腰が抜けそうなほど興奮してるのがわかった。
 股間から垂れ零した液体で、ナメクジが這ったような筋が、太腿を伝っていた。

「見て。
 ゆいが後ろから犯されるとこ」

 理事長は、腰をかがめながら顔をひねり、川上先生を見上げた。

「ダメよ。
 叱られるわ」
「叱られてもいいの。
 いいえ。
 叱られたいの。
 罰されたいの」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。