放課後の向うがわⅡ-33

「でもね……。
 あんな場面は、大ウソなのよ。
 ま、ウソというか、ドラマ共通の方便ね。
 『クロロフォルムを染みこませたハンカチで口を覆われると、人は気絶する』ってのは……。
 フィクションの世界だけの約束事。
 実際には、クロロフォルムにそんな作用はないの。
 せいぜい、咳が出たり吐き気がする程度。
 もちろん、大量に吸引すれば気絶するけど……。
 その場合、もう目覚めないわよ。
 腎不全で死んじゃうから。
 ということで、わたしが川上先生に使ったのは、ごくポピュラーな溶剤だけど……。
 青少年にこういう知識を与えちゃマズいから、あなたには内緒ね。
 どう?
 川上先生、バカになってない?
 はは。
 その状態じゃ、わからないか。
 起こしてあげて。
 せっかく、これからいい場面が始まるんだから。
 ダメダメ。
 揺さぶったくらいじゃ起きないわよ。
 ほっぺた、張り飛ばすのよ。
 出来ないの?
 使えない助手ね。
 じゃ、わたしがお手本みせようか」

 先生は、理事長の足元から起ちあがると、わたしの傍らに身を移した。

「これ、持ってて」

 赤いバイブを手渡された。
 こわごわ持ったら落としそうになり、思わず抱きかかえた。

「いい。
 よーく見てなさいよ。
 眠れる美女は……。
 こうやって起こすの」

 先生はわたしに背を見せ、川上先生に正対した。

「両脚を踏ん張る。
 この姿勢よ。
 どう?」

 先生は、両脚をパンタグラフみたいに開いた。
 いわゆる、がに股ってやつ。
 わざとしてるとしか思えなかった。
 わたしに見せつけるために。
 そう。
 だって、先生の下半身は剥き出しなんだもの。
 オーバーブラウスの途切れたウェストの下は、一糸まとわぬ素っ裸。
 肉色のパンタグラフは、この上なく卑猥に見えた。

 先生は、そのまま右手を振りかぶり、宙を薙ぎ払った。
 肉を打つ音と共に、川上先生の顔が真横を向いた。

「先生。
 お目覚めの時間ですわよ」
「ぐ……」
「寝起きが悪い子ね。
 もう一発、モーニングコールお見舞いしましょうか?」

 川上先生の首が、ようやく自力で起ちあがった。

「岩城先生。
 下ろして……。
 お願い」
「ダメー」
「下ろして。
 下ろして!
 下ろしてぇぇぇぇぇ」

 川上先生は、全身をよじりながら絶叫した。


「気が済みました?
 あんまり喚くと、綺麗な声が掠れちゃいますよ。
 さてと。
 やっと観客が起きてくださったから……。
 さっきの続きね」

 あけみ先生は、川上先生に背を向け、わたしに正対した。
 わたしの前に、手の平が差し出される。
 一瞬、何のことかわからなかったけど……。
 ようやく気づいて、抱えてた荷物を手渡した。
 そう。
 真っ赤なバイブ。

「これ、気に入った?
 抱きしめちゃって。
 暖かくなってる。
 こいつにバージン捧げてみる?
 ほほ。
 冗談よ。
 それじゃ、お待ちかねの人の方に、突っこんで差しあげましょうね」

 先生は、わたしの前から身を翻した。
 バイブと電池ボックスを片手ずつに持ち、猫をからかうみたいに背を丸め、理事長の足元に戻った。

「お待たせ!
 理事長、見えるでしょ?
 川上先生が、起きてくださいましたよ」

 あけみ先生は身を開き、理事長の視界を通した。

「ゆうちゃん……」
「そう。
 可愛いゆうちゃんね。
 川上先生も、何かひとことどうぞ」
「理事長先生!
 助けて」
「バカじゃないの?
 こんな格好で、何が出来るっていうの。
 出来ることはね……。
 無様にヨガってるとこを、あなたに見せることくらいよ。
 それじゃ……。
 レーッツ、ショータイム」

 バイブの駆動音が立ちあがった。
 あけみ先生は、真っ赤なバイブを顔の前に翳した。

「やっぱり、長年使ってたから……。
 見ただけで興奮するわ。
 刷りこみってやつかしら。
 ちょっと、摘み食いしちゃお」

 先生の舌が零れ、駆動するバイブを舐め始めた。
 視線は、理事長を見据えたままだった。
 理事長の顔は、恐怖と嫌悪を隠し切れないようだった。
 あけみ先生は、頬肉を上げて笑うと、バイブを咥えた。
 両目を寄せ、困ったような顔をしながら挿出する。
 髪の毛が宙を跳ね踊った。
 顔の輪郭がブレるほどに高まった速度が、しだいに緩やかになり……。
 ようやく先生は、バイブを吐き出した。
 湯気の立つバイブを、ソフトクリームみたいに掲げ、下から見入ってる。

「あー、美味しい。
 羨ましいわ。
 こんな美味しいもの、下のお口で堪能できるんですもの」

 あけみ先生は、掲げたバイブを揺らしながら、理事長に、にじり寄った。

「ひぃぃ。
 助けて」

 理事長は背中をうねらせ、懸命に畳を後退ろうとした。
 腹筋が地形図のように浮き上がり、後頭部が畳の縁から落ちた。

「まぁ。
 器用なことなさるのね。
 でも、こういうの……。
 “無駄な抵抗”って云いますのよ」

 あけみ先生は、理事長の両腿の縄に手を掛けると、自らの体重を後ろに預けた。
 理事長の努力も虚しく、その身体は、畳の中央に引き戻された。

「美里。
 なに突っ立ってるの。
 もっとこっち来なさい。
 見るの初めてじゃない?
 女性器が、男性器を咥えこむとこ。
 しっかり見てるのよ」

 あけみ先生は、トーチを傾げるようにバイブを倒していった。
 聖火台は、理事長の股間だった。

「あひぃ」

 理事長の背中が、持ちあがった。

「あら、敏感。
 触っただけなのに。
 ひょっとして、クリ……。
 もう、勃起してます?」

 あけみ先生は、手元を覗きこみながら、位置を調節してるようだった。

「あぅぅ」
「お、反応が良くなった。
 やっぱりここね。
 クリに直より……。
 ちょっと離して、振動を伝えた方がいいでしょ」
「やめて……。
 しないで」
「どうして?」
「はぅ」
「感じちゃうから?」

 理事長は、頭を幾度も横振った。
 あけみ先生の言葉を否定するというより……。
 内奥から湧きあがる感覚から逃れようとする仕草に見えた。

「ほーら、滲んできた。
 これなら、ローションなんて要らないわ。
 スゴいスゴい。
 アワビが潮吹いてる。
 美里、見てごらん。
 陰唇が捲れて……。
 雛鳥みたいにさえずってる。
 早くちょうだいって」

 理事長の陰唇は、バイブの振動に共鳴して、ゼリーのように細かく震えてた。

「それじゃ、お望みどおり、入れてあげましょうね。
 ほら、もっと股開いて」

 あけみ先生は、片手で理事長の膝を押さえつけた。
 もう一方の手が、持ちあげたバイブを掴み直す。
 短刀を構えるようだった。
 赤い切っ先が、理事長の正中線を灼きながら、再び仰角を下げていく。
 あけみ先生の二の腕に、腱の筋が走った。

「あぎぃ」

 赤い亀頭が、焼き鏝のように押しあてられた。

「はは。
 ごめんなさい。
 クリ、直撃しちゃったわね。
 もちろん、わざとですけど。
 痛かった?
 それじゃ、あんまり焦らしたら可哀想ですので……。
 入れてあげましょうね」

 思わず先生の手元に見入ったとき、後ろで柱の軋む音がした。

「止めてえ!」

 川上先生だった。
 マリオネットみたいに宙で藻掻きながら、懸命に首をもたげてる。
 自らの無様な姿を顧みない、必死な仕草に見えた。

「理事長、観客から掛け声がかかりましたよ。
 ヨガリ甲斐、ありますね。
 それじゃ、いきますよ。
 それっ」

 あけみ先生の腕が、短刀を突き出すように動いた。

「わひぃ」

 理事長の顎が仰け反った。


 バイブが、理事長の股間に埋もれてる。
 わたしは、思わず下腹を押さえてた。

「どうしたの、美里?
 気分出てきた?」

 わたしは、首を横振った。
 その仕草に嘘は無かった。
 あんな棒みたいに太いものが体内に入ってることを思うと、自分の身が突き刺されてるようだった。

「理事長の方は、もうお楽しみよ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-32

 中を掻き回す気にならなかったので、一番上に載ってた赤いバイブを手に取った。

「それにする?
 ちょっとおとなしめだけど、ま、いいか。
 持ってきて」

 赤いバイブは、本体と電池ボックスが別になってた。
 コードでつながってる。
 両手を伸ばして、捧げるように先生に手渡す。
 間近で見るのが、ちょっと怖かった。

「この子も、だいぶレトロ感が出てきたわね。
 今のバイブは、たいがい本体に電池が内蔵されてるから。
 でも、別になってる方が、軽くて使いやすいのよ」

 先生は、男性器を象った本体に鼻を近づけた。

「おー、臭さっ。
 使いっぱなしだから、強烈に臭うわ。
 あなたも、手に臭いが着いたかもよ」

 わたしは、手のやり場に困った。
 ブラウスで拭く気にもなれないし。

「どっちで持ってた?
 右だっけ?
 嗅いでごらん、手の平。
 汚くないでしょ。
 わたしのなんだから。
 ほら、手の平を鼻に持ってきなさい。
 そう」

 わたしは、近づけた手の平を、思わず遠ざけた。
 唾の乾いたような臭いがした。

「ふふ。
 やっぱ、臭い?
 ちゃんとお手入れしなきゃダメね。
 消毒用エタノールで拭くといいのよ。
 スプレーボトルに入ってるやつがあるから。
 あれをシュッシュとやって、ティッシュで綺麗に拭いてから仕舞いましょうね。
 でも……。
 この臭いが、癖になるのよね。
 あー、いい臭い」

 先生は、バイブを横にして、鼻下に近づけた。
 鼻を左右に滑らせる。
 ハーモニカを吹いてるみたいだった。

「知り合いの男でね。
 中学校のころ、オナニー覚えて……。
 ティッシュで始末しなかったってヤツがいたの。
 出した精液、どうしてたと思う?
 タオルで拭いてたのよ。
 それも、洗濯しないままの同じタオルで。
 なんでそんなことしたのかって云うと……。
 最初のオナニーで出した精液を拭いたのが、そのタオルなんだって。
 そのときは、オナニーしてるつもりなんかなくて……。
 なんとなく、ちんちん弄ってたら……。
 突然ヘンな気分になって、ちんちんから白い液が出た。
 で、慌てて、手近にあったタオルで拭いたんだって。
 以来、オナニーが病みつきになったわけだけど……。
 毎回、そのタオルで拭いた。
 ティッシュで拭こうという考えが、不思議と浮かばなかったんだってさ。
 男性は、最初の女が忘れられないって云うけど……。
 そいつにとっては、タオルがその人だったのかも?
 で、毎回毎回、タオルで拭いて……。
 そのタオルは、ベッドと壁の隙間に隠してた。
 もちろん、洗わないんだから、タオルは悲惨な状態になってく。
 糊で固めたみたいにガビガビだったって。
 白かった生地にも、ベージュや薄茶の染みが広がってく。
 何より強烈だったのが、臭いだそうよ。
 でもね。
 オナニーするとき、その臭いを嗅がずにはいられなくなったんだって。
 で、毎回、ガビガビのタオルに顔を埋めながら……。
 オナるようになったそうな。

 はは。
 わたし、何が言いたかったんだろ?
 とにかく、臭いってのは、記憶に灼きつくものなのよ。
 それも、深い部分にね。
 このバイブも一緒。
 この臭いを嗅いでるとね……。
 うんこ漏らしそうなほど興奮するの」

 先生の片手は、いつの間にか自分の股間に回ってた。

「あぁ。
 やっぱり、立ちオナっていいわよね。
 精神的に昂まって。
 たった一度だったけど……。
 このバイブ持って、夜の公園に行ったことがある。
 まだ、若くて可愛かったころよ。
 素っ裸にワンピだけ着て。
 で、茂みの中でバイブを取り出し、立ったまま突っこむ。
 めちゃめちゃ興奮したわ」

「途中から、もうどうなってもいい気がして……。
 ワンピも脱いだ。
 素っ裸。
 ガニ股で、声まで出してお尻振ってると……。
 あっという間にイっちゃった。
 遠くに見える水銀灯の明かりが、人魂みたいに揺れて見えた。
 わたしの記憶に残る、青春の1シーンね。
 あー、思い出してきた」

 先生は、その場にしゃがみこんだ。
 和式便器を使う姿勢から、さらに両膝を開いた。

「見て」

 先生は、股間を覆ってた手の平を、肌を滑らせながら引きあげた。
 陰唇が、しゃぶしゃぶの肉みたいに湯気を立ててる。
 その上には、剥き出しのクリトリスが、一つ目小僧のようにわたしを睨んでた。

「どう?
 可愛い子が見えてる?
 どんな憎たらしい女でも……。
 クリだけ見てると、不思議と愛しさが湧いてくるものよ。
 でも、今この子を苛めたら、あっという間にイッちゃいそう。
 がまんがまん」

 先生は、包皮を引き上げてた手の平を外した。
 クリトリスは、柔らかい皮の帽子を被った。
 写真でしか見たことないけど……。
 なぜだか、雪の中で咲くザゼンソウを思い出した。

「でも、理事長のが十分湿ってないと、痛いかも知れないわね。
 だから……。
 わたしのお汁でヌメヌメさせてあげましょうね」

 先生は、バイブを逆手に持った。
 時代劇の女性が、自害する所作にも見えた。
 切っ先が、陰唇をなぞる。
 陰唇の襞が、茹で肉のように震える。

「はぅ」

 紅色の刃が、あらかじめ穿たれた傷に潜りこんだ。

「あぁ、いぃ。
 やっぱり馴染みの子は、襞の数まで覚えてるわ」

 先生は、幾度もバイブを突き立てた。
 紅色の刀身は、静脈血を噴き出してるようにも見えた。

「おっと、危ない。
 危うく夢中になるとこだった。
 一緒にクリ弄ってたら、止められなかったわ」

 先生は、名残を惜しむみたいに視線を泳がせながら、バイブを引き抜いた。
 体内から、紅色の抜き身が現れる。

「ほら。
 湯気が立ってる」

 そのまま、丸い亀頭部を鼻先に翳した。

「臭いぃ」

 先生は、ブラウスの胸を起伏させながら、激しい呼吸をし始めた。

「美里も嗅いでみる?
 たまらないわよ。
 イヤじゃないでしょ?
 わたしの臭いなんだから。
 はは。
 こんなことしてたら、また乾いちゃうわね。
 こちらに、お待ちかねの人がいるのに」

 先生は、しゃがんだままのアヒル歩きで、理事長の元に身を移した。

「理事長。
 ほら、ぼーっとしないで。
 あの薬、2度効きするみたいね。
 大丈夫ですかー」

 先生は、ハムのように括られた太腿を、ペタペタと叩いた。

「反応なし?
 ふて寝かしら。
 それとも、頭打って、ほんとにバカになっちゃった?
 面白くないわね。
 まだ大事な質問が残ってるのに。
 嫌でも答えてもらいますからね」

 先生は、理事長の足元ににじり寄ると、バイブを構えた。
 亀頭を模した丸みが、無残に開かれた股間を覗いてる。

「ほら、頭が入っちゃうわよ。
 あ、スイッチ入れた方がいいか」

 先生が手元の電池ボックスを操作すると、騒々しい駆動音が立ち上がった。
 ブリキのロボットが動き出したような音だった。

「昔のオモチャは、この音が弱点よね。
 公園でしたときも、さすがにスイッチ入れる勇気は無かったわ。
 でもここなら、どんな音立てても、誰に聞こえるわけもないし。
 ほら、理事長。
 なんなら、声も出していいんですよ」

 先生は、生きもののように蠢き始めたバイブを、理事長の股間に翳した。
 亀頭がゆっくりと切っ先を下げ、恥丘に着地する。
 バイブに添えた指が反り、力が加わった。


「ほら、早く目を醒まさないと……。
 クリが擦り切れちゃいますよ」

 理事長の首が、大きく振れた。

「やっと起きたみたいね。
 理事長ー。
 何されてるかわかりますかー?」
「あ……、あぅ」
「いきなり喘ぎ声?
 その前に、感想いってちょうだいよ」
「や、止めて……」
「ウソおっしゃい。
 もっとしてもらいたいくせに。
 あ、ちょっとタンマ。
 もう一人の主演女優、バカに静かね」

 あけみ先生は、理事長にバイブを押しあてながら、川上先生を振り向いた。
 川上先生は、梁を背にぶら下がったままだった。
 完全に眠りこんではいないようだけど……。
 意識レベルが、かなり後退してるみたいだった。

「寝ちゃってる?
 中毒かしら?
 嗅がせすぎたかな。
 美里、ちょっと近くにいってみて。
 息してるわよね?
 下の方、漏らしてない?
 そう。
 そんなら大丈夫ね。
 余談だけど……。
 2時間ドラマなんかで、人を気絶させるシーンってあるでしょ?
 ハンカチで口を覆ってさ。
 どういう薬使ってることになってる?
 そうそう。
 クロロフォルムよ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-31

 理事長のお尻が、怯えた犬みたいに下を向いた。

「ほっほっほ」

 女王さまは、全身を揺らしながら笑った。
 その刹那……。
 わたしの身体に電撃が走った。
 女王さまが身を折った拍子に、ロウソクの炎の輪が、胸元まで照らしたの。
 女王さまの胸から下がるペンダントが、炎を返して揺れてた。
 そのペンダントには、見覚えがあった。
 まさか……。
 もっとよく見ようと、思わず身を乗り出した。

「誰!」

 女王さまの顔が、真っ直ぐにこっちを見てた。
 気づくと、わたしの上体は、鏡の陰から半分も出てた。
 女王さまの目は、目深に被った帽子で見えなかったけど……。
 その瞳が、わたしを射抜いてることは間違いなかった。
 メデューサに見詰められたように、わたしの身体は石に変わった。

「なんだ。
 観客がいたんじゃない。
 そんなところに隠れてないで、出てらっしゃいよ。
 特等席にご案内するわ。
 かぶりつきよ。
 あ、それよりも、舞台に上がってもらった方がいいか。
 まな板ショーね。
 さ、いらっしゃい。
 ほら、ゆい。
 観客にご挨拶なさい」

 女王さまの視線が、うずくまる理事長に落ちた。
 女王さまの手が、理事長の髪を掴んだ。
 理事長の頭が引き起こされる。
 メデューサの視線が逸れ、呪縛が一瞬だけ解けた。
 同時に、わたしは床を蹴ってた。
 理事長に顔を見られるわけにはいかない。
 ブルーシートの裾を、滑り抜ける。
 靴を拾い忘れたことに気づいたけど、もちろん取りに戻るわけにはいかない。
 今にも、背中に女王さまの影が差す気がして、振り返ることさえ出来なかった。
 理事会室の扉を抜けたところまでは覚えてる。
 でも、その後、どうやってあの塔を抜けて来たのか……。
 記憶が定かじゃないの。
 でも、女王さまは追って来なかった。
 ま、あの格好じゃ、塔の外には出れないわよね。

 ふふ。
 ちょっと幕間が長くなっちゃったようね。

「さて、美里ちゃん。
 ここで質問です」

 あけみ先生が語る、不可思議な世界から抜けきれなかったわたしは……。
 突然名前を呼ばれ、ようやく夢から醒めた。
 思えば今、その奇妙な話の舞台だった理事会室に……。
 登場人物が、そのままいるんだ。
 出で立ちもそのままに。

 あけみ先生の衣装は、下半身だけ無くなってるけど……。
 理事長と川上先生は、その時と同じ縄だけ。
 先生のお話と違うのは、縄の打たれ方。
 理事長は仰向けにされ、股が裂けそうなほど脚を広げられてる。


 川上先生は、蜘蛛の巣に絡められたようにぶら下がってる。


 お話の登場人物で、ここにいないのは女王さまだけ。
 その再現された舞台に、自分も立ってることに改めて気づき、わたしは身震いした。

「あの女王さまは、誰だったでしょう?
 はい、即答」

 そんなこと言われても、答えようが無い。

「そうね。
 もうちょっと、補足が必要か。
 女王さまのしてたペンダントに、見覚えがあったって言ったでしょ。


 紫色の、大きなペンダント。
 普通の服装では、とても着けられないデザイン。
 吊るしてるのも、チェーンじゃなくて、紐だったし。
 でも、あの日の女王さまのコスチュームには、とっても似合ってた。
 見覚えがあるどころの話じゃないの。
 だって、あのペンダントは……。
 わたしが、ともみさんにプレゼントしたんだもの。
 あの14年前の旧校舎で、わたしの手からともみさんに渡ったものなの。
 見間違いなんかしようもない。
 あれと同じものは、2つと無いわ。
 なぜならあれは、わたしの手作りだったんだから。

 高校のころの夢は……。
 ピアニストかジュエリーデザイナーになることだった。
 結局、この学校に残るために、音楽教師になっちゃったけど。
 ま、それくらい手先が器用だったのよね。
 で、お小遣いをはたいて材料を買い、一生懸命作った。
 ともみさんは喜んでくれたわ。
 わたしがあげたペンダントを、ともみさんはずっと持っててくれてるはず。
 わたしはそばにいられないけど……。
 わたしの作ったペンダントは、ともみさんと一緒にいる。
 それが、14年間、待ち続けられた支えでもあった。
 それが、なぜ!
 なぜ、ともみさんのペンダントを、あの日の女王さまが着けてたの?

 女王さまに見つかったとき……。
 どうしてあの場にとどまって、そのわけを聞きたださなかったのか……。
 後になって、どれだけ悔やんだか。
 でも、あの時は……。
 恐怖と混乱で、まともな思考ができる状態じゃなかった。

 逃げ帰ってから、さんざん考えたわ。
 ともみさんのペンダントを、女王さまが持ってたわけを。
 女王さまに、あげちゃったんだろうか……。
 いや、そんなはずは無い。
 わたしのともみさんが、そんなことするはずがない。
 そんなら、どうして?

 泣きながら考えぬいて……。
 出た答えは、ひとつだった。
 そう。
 あの女王さまは、ともみさんその人だったのよ。
 ふふ。
 なんでそんなことに気づかなかったの?、って顔してるわね。
 だって、年齢が、ぜんぜん違ってたんだもの。
 わたしの知ってるともみさんは……。
 大人びてはいたけど、それでも高校生だった。
 でも、あの女王さまは、今のわたしと同じくらい。
 間違いなく、30歳前後の女性よ。

 わたしは、ピアノをやってるせいか、人の手にすぐ目が行くの。
 女性の年齢はね……。
 顔は、ある程度お化粧でごまかせても……。
 手の甲だけは隠せない。
 テレビの女優さんを見ても、顔はほんとに若々しいのに……。
 手の甲に、無残な血管が浮いた人っているでしょ。
 高校生のともみさんの手は、ほんとに綺麗だった。
 血管なんて、ぜんぜん見えない。
 お餅を被せたみたいに、つるつる。
 でも、あの女王さまは違った。
 それなりに血管が浮いた、大人の女性の手をしてたわ。

 なら、どうしてその人がともみさんなのか……。
 わかる?
 つまり、あの女王さまは、30歳くらいになったともみさんだったってこと。
 ともみさんはね、時間を越える能力を、大人になってからも持ち続けてるわけよ。
 きっと、あの旧校舎にあなたが呼び寄せられたのも……。
 ともみさんがつくる磁場に、引きこまれたせいかも知れないね。

 すなわち、時間旅行をしてるのは、高校生のともみさんだけじゃない。
 30歳のともみさんも、時間を越えてるんだってこと。
 はは。
 信じられないって顔してるわね。
 わたしもほんとは、半信半疑。
 ともみさんがわたしを見て、あけみだって気づかなかったのも、ちょっとショックだったし。
 それよりなにより、どうしてわたしのところじゃなくて……。
 この2人のところに来てるの!
 それが一番、許せない!」

 裸電球の明かりに照らされたあけみ先生の顔には……。
 狂気の翳が差してるように見えた。

「で、今日は……。
 ともみさんを、もう一度呼び出してもらおうと思って……。
 ここに来たのよ。
 美里、あなたはその証人として呼んだの。
 わたしは、14年も経って変わっちゃったけど……。
 あなたは、旧校舎に行ったときのままだもんね。
 ともみさんも、絶対に覚えてるはずだから。

 さて、理事長先生。
 長々とわたしの独演をお聞きくださって、ありがとうございました。
 これからは、存分に語らせてさしあげますわ。
 イヤでもね。
 さ、どうなの?
 あの女王さまは、いったい誰?」

 両脚を一杯に拡げられた理事長は、背中に潰される腕が苦しいのか……。
 ときおり上体を捻り、背中を浮かせてた。
 身悶えてるようにも見えた。
 視線はとりとめなく彷徨い、意識が混濁しかけてるみたいだった。


「ふふ。
 大股開き、苦しそうね。
 自分で開くのは、大好きなくせにね。
 じゃ、ちょっとお色直ししてあげようか。
 美里、机の下の縄、取ってくれる」

 あけみ先生は、理事長の足首を戒める縄を解いた。
 でももちろん、理事長を解放するためじゃなかった。
 先生は、理事長の脚を膝で折ると、荷造りするように縄を掛け始めた。
 理事長の脚は、太腿とふくらはぎが密着するほどに畳まれた。
 あっという間の手際で、両脚がハムみたいに括られた。
 両足の裏が、股間の下で合掌してる。

「ずいぶん、おとなしくなったものね。
 暴れたから、また薬が回ったのかしら?
 じゃ、いい子にしてたご褒美あげましょうね。
 美里、また机のとこに行って。
 天板裏の薄い引き出しに、鍵が入ってるから。
 そう、それ。
 その鍵で、右の引き出し開けてごらん。
 開いた?
 そしたら、一番上を引いて。
 ははは。
 驚いた?」

 深い引き出しの中には、さまざまな色彩が、オモチャみたいに溢れてた。
 でも、子供のオモチャよりも色合いが暗く、毒々しい感じがするものが多かった。
 ウブなわたしでも、それが何かはわかった。
 そう。
 それは、大人が使うオモチャ。
 男性の陰茎を象ったものやら、大きさの違うボールを数珠つなぎにしたもの。
 深い引き出しの中で、それらは息づいて蠢いてるように見えた。

「わたしのコレクションの、ほんの一部よ。
 どれでもいいから、選んでみて。
 なんなら、自分のに入れて試してみてもいいけど。
 でも、ひょっとしてあなた……。
 バージン?
 どうしたの?
 恥ずかしいことじゃないでしょ。
 あなたの歳だったら、わたしだってバージンだったわ。
 ま、でも、こんなとこでバイブにバージン捧げることも無いわね。
 大事になさい。
 さ、どれかひとつ選んで。
 理事長のために。
 あなたの気に入ったのでいいのよ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-30

「呆れた人。
 自分から、お尻振るなんて」
「弄って。
 下も弄って」
「下?
 何のことかしら?」
「……おまんこ」
「はしたない人ね。
 生徒の前でも、そんなこと言える?
 あらあら。
 スゴいことになってる。
 毛が無いから、どうなってるか一目瞭然ね。
 アワビが、お潮噴いてる。
 床まで濡らして」
「はがが」
「ちょっと。
 あなたひょっとして……。
 あそこに力入れるだけで、イケちゃうんじゃないの?
 便利な人ね。
 手を使わなくていいんだから、どこでもやり放題じゃないの。
 電車の中とか。
 やってるでしょ?」
「イ、イ……」
「おっと。
 イカれてたまるもんですか」

 イカの脚が、獲物を放した。

「あぁぁ。
 止めないで」
「さっき言ったでしょ。
 わたしは、ご奉仕するSじゃないって。
 いい目を見た後は……。
 痛い思いをしてもらうわよ。
 ギャップを味わいなさい」

 女王さまは、聖火みたいに掲げてたロウソクを、理事長の肩越しに傾けた。
 赤い蝋が、重たい雨のように、理事長の乳房に降り注ぐ。
 思いがけないほどの量だった。
 ロウソクの芯の部分が凹んでるから、そこに大量の蝋が溜まってたのね。
 理事長の乳房は、一瞬にして、絵の具をぶちまけたみたいな真紅に染まった。

「ぎぇぇぇ。
 熱いぃぃ」
「生きてる証拠よ」
「ひぎぃぃ」
「いい声。
 わたしが聞きたいのは、これよ。
 甘え声なんかじゃなく、悲鳴。
 ほら、もっと鳴いて」

 女王さまは、さらにロウソクを近づけた。
 理事長の肌には、疫病みたいに蝋の染みが広がった。
 乾いて薄皮の張った蝋に、ドロドロの真紅の蝋が溶け流れる。
 乳房を包みながら流れ下る蝋は、山肌を伝う溶岩流のように見えた。
 赤い染みは、脇腹まで拡がってた。

「ひぃぃ。
 熱い熱い熱い。
 熱いぃぃぃぃぃぃぃ」
「もっと鳴け。
 もっと!」

 悲鳴を迸らせる理事長を愛しむみたいに、女王さまは顔を近づけた。
 キスをするのかと思ったら、長い舌が零れた。
 理事長の耳を舐め回す。

「ふふ。
 いい香り。
 一気に汗が噴き出して、雌が香りだした。
 蝋の衣装を纏うと、女は雌に変わるのね」
「許してぇ」
「そんなこと言いながら……。
 こっちからは、別の汗を出してるんじゃないの?」

 女王さまの片手が、理事長の肩越しに前に回った。
 指先が、股間に届く。


「ほうら。
 山肌を伝うのは、真っ赤な溶岩流。
 そして、その麓には、熱泥が噴き出してる。
 どろどろじゃないの」
「い、言わないで」
「言ってほしいくせに。
 ほら、ほら。
 こんなに濡らして」
「あぅぅ」
「どう?
 いいでしょ。
 こうやって苛められながら、クリを嬲られるのって。
 ここに観客がいれば、もっと燃えるのにね。
 ゆうは目を覚まさないし。
 ほら、もっと股開いて」
「あぁぁ、あぁぁ」
「イキそう?」

 理事長は、歯を食いしばりながら、がっくがっくと頷いた。
 爪先では、10本の指が、花びらのように開いてた。

「イカせてあげなーい」

 女王さまの指が、股間を離れた。

「あぁっ。
 いやぁ」

 理事長が、怨嗟の声をあげる。

「気持よくイカれたんじゃ、お仕置きにならないって言ってるでしょ。
 今日のメインディッシュは、痛みなのよ。
 痛みのフルコースを、とことん味わってもらうわ。
 ひょっとしたら……。
 そこを突き抜けた先に、新たな快感が待ってるかも?
 さぁ、新しい地平を目指して、出発よ」

 女王さまの持つロウソクが、宙を移動した。
 再び傾けられる。
 理事長の真っ白いお尻に、鑞涙がぼたぼたと落ち始める。

「ぎぃえぇぇぇぇ」
「真っ白い肌に落ちる蝋って……。
 どうしてこんなに綺麗なのかしら。
 ほうら」
「熱い熱い熱い。
 無理!
 もう無理!」
「ウソおっしゃい。
 まだまだ地平は見えないわよ。
 ほら、もっと高みに登りなさい」
「あぎぃぃぃ」
「ぜんぜん余裕ね。
 ほんとに耐えられなくなった人はね……。
 大便を漏らすのよ。
 尻たぶを汚しながら、茶色い溶岩が流れ出す。
 地平が見える瞬間だわ。
 あなたはまだ、おしっこも漏らしてないじゃない。
 ほら、もっと鳴け」
「助けてぇぇぇぇ」

 理事長は、熱から逃れようと身を捻った。
 身体が反転し、下を向いた。
 豊かな相臀のあわいに、性器が覗いて見えた。

「馬鹿な人。
 身体を動かしたら、まっさらなところに蝋が落ちて、よけい熱いでしょうに。
 それとも……。
 お尻が好きなのかしら?
 お尻で受けたいわけ?
 真っ赤な精液を」
「ほんとに許して!
 ほんとに……」
「うんこ漏らしたら、許してあげる」
「いや」
「それじゃ、もっと味わいなさい。
 ほら」
「あぎゃぁぁぁぁ」

 理事長は、ロウソクをもぎ取ろうとでもしたのか、背中に束ねられた指を真上に伸ばした。
 10本の指が、白い炎のように燃え立った。

「おっと」

 女王さまは、ロウソクを吊り上げた。
 もう、白い指は届かない。
 理事長は、落ちる蝋を遮ろうとするみたいに、手の平を一杯に広げた。
 それをあざ笑うかのように、蝋は指の股を抜け、ぼたぼたとお尻に落ちた。


「あぁっ。
 あぁっ」

 理事長は、連獅子みたいに髪を振り立て、全身をうねらせた。

「いいパフォーマンスよ。
 このまま舞台に立てるわ。
 今度、会員制のクラブでやってみない?
 そうね。
 見せるだけじゃつまらないわね。
 会員さんにも参加してもらいましょう。
 もちろん、あなたには指一本触らせないから安心して。
 そのかわり……。
 精液をかけてもらうの。
 この格好で。
 真っ赤に溶け流れる蝋の上に、練乳みたいな精液が振りかかる。
 綺麗でしょうね。
 蝋の燃える臭いを突いて、栗の花が香り立つ。
 嗅いでるだけでイケそうね。
 あー、気分出てきた」

 縄目を掴んでた女王の片手が外れた。
 指先は、迷いなく自らの股間に移った。
 切れあがったショーツの上から、宥めるように股間をさすってる。

「ふぅ」

 贅肉の無い女王さまの腹筋が、ぴくぴくと震える。
 お臍のピアスが、ロウソクの炎を返して光った。
 女王さまの指先が、ショーツのサイドを割って滑りこむ。

「あふ。
 もう、どろどろ。
 指先に、蛭みたいに絡みつく。
 あぁっ」

 女王さまの太腿に、腱が走った。
 片手に束ねたロウソクが傾き、蝋が大量に零れた。

「ぎぇ」

 奇声とともに、理事長が這い始めた。
 縄目を掴んでた女王さまの手が外れたから、事実上、自由の身だったのよね。

「おっと」

 女王さまの手が、自らの股間を離れ……。
 逃げようとする理事長の肩を抱えた。

「誰が逃げていいって言ったの」

 そんなに強く押えられてるわけじゃないのに、理事長の四肢が静まった。
 まるで、主人に伏せを命じられた犬のようだった。

「じっとしてなさい。
 お尻に、綺麗な模様を入れてあげるから。
 立体的なタトゥよ」

 女王さまは、ロウソクを束ねた手の平を上向けた。
 巨大な2本の絵筆を、ゆっくりと下ろしていく。

「熱いぃ」

 理事長のお尻が跳ねあがった。

「ほら、もっとお尻振りなさい。
 そうそう。
 スゴいスゴい。
 まるで、後ろから突っこまれてるみたいよ。
 こんなに動かれたら、男はあっという間に射精だわね」
「痛い痛い痛い痛い痛い」

 理事長の張り出した相臀に、疫病のように蝋が広がっていく。

「あぁっあぁっあぁっ」
「そのまま、うんこ漏らしたら許してあげる」

 理事長は、額を擦りつけながら、顔を横振った。
 髪の毛が、モップを真似て床を掃く。

「強情な人ね。
 そんなにしたくないんなら……。
 蝋で肛門を塞いであげようか」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-29

「こんなとこに忘れてったのね。
 危ない危ない。
 まさか、変なことには使って無かったでしょうね」

 その人は、棒を電球に翳した。
 光を浴びて、棒は光沢を見せた。
 竹だった。
 粉を吹いた地肌が光を返し、まるで自ら光を発してるように見えた。
 なぜだか、かぐや姫の物語が頭に浮かんだ。

 その人は、理事長の傍らに身を沈めた。
 さっきから、顔を確かめようとしてるんだけど……。
 出来なかった。
 なぜなら、その人は帽子を目深に被り、つばの作る影が、顔の上半分を隠してたから。

「ほら。
 おネンネの時間は終わりよ」

 その人は、理事長の身体を引き起こした。
 癇癪持ちの子が、人形を扱うような邪険な仕草だった。
 上体を起こされた理事長は、視線を四囲に彷徨わせてる。
 その人は、魔法めいた手際で、理事長の縄を解いた。
 しかし、理事長に自由は与えられなかった。
 理事長の両腕は、再び後頭部で束ねられ、縄打たれた。
 その縄に、竹が通される。
 理事長の頭の後ろを、竹が渡った。
 わたしには、理事長の首を突き抜けたように見えた。
 理事長の瞳が、焦点を結んだ。

「……、お姉さま」
「やっと目が覚めた?
 わたしに無断で、気持ちいいことしてたわね」
「ごめんなさい」
「気までやって。
 ほら、ゆうはまだ、大股拡げて寝てるわ。
 あの子も、筋金入りの変態。
 あんな綺麗な顔に生まれながら、不憫なものよね。
 さてと。
 まずは、あなたのお仕置き。
 どうしようかしら。
 どうされたい?」
「……。
 突いて。
 突いてください。
 あのディルドゥで」
「は?
 馬鹿じゃないの。
 それじゃ、お仕置きにならないでしょ。
 ふざけたこと言ってないで、ほら!」

 その人は起ちあがりながら、理事長の身体を引きあげた。
 理事長は自ら応えて身を起こすと、膝を突いた姿勢で背中を見せた。
 張り出したお尻から、腰への括れが見事だった。
 後頭部で束ねられた両腕には、竹が通っている。
 まるで、竹に射抜かれたビーナスだった。

 その人は、理事長を見下ろすように立ってる。
 高いピンヒールから伸びる脚は、網タイツのガーターストッキングに包まれてた。
 ストッキングが、ガーターだってわかると云うことは……。
 つまり、スカートは穿いてなかったの。
 股間は、かろうじて布地に覆われてたけど。
 その黒いパンティには、真紅の花があしらわれてた。

「これが、ほしいの?」

 その人は……。
 やっぱ、この呼び方って言いづらいな。
 ここからは、女王さまにするね。
 女王さまは、柱のディルドゥを指さした。
 さっき、理事長と川上先生が、舐めてたやつね。


「ください」
「さっきまで、つまみ食いしてたくせに」
「お姉さまに突いてほしい」
「そうかしら。
 ひとりで遊ぶの、大好きなくせに。
 わたしが、お預けを言いつけて置いても……。
 言うこと聞かないじゃない。
 ベッドに仰向けになったまま、腰振り出してさ。
 ガードパイプに燭台で据えたディルドゥを上目で睨めながら……。
 お尻をシーツに擦り始める。


「だって、お姉さまが、あんまり焦らすんですもの」
「甘え声出すんじゃないの。
 焦らさなきゃ、お預けの意味がないでしょ。
 ぜんぜん聞きゃしないんだから。
 勝手に起きあがって、ディルドゥ舐め始める。
 しかも、尻の穴をねぶりながら。


「だって……」
「また、だって?」
「前を弄ること、禁じられてるんですもの」
「“前”なんて曖昧な言い方、止めてちょうだい。
 ちゃんと言いなさい。
 どこをどうすることを禁じてあるの?」

「……。
 おまんこ」
「はっきり!
 おまんこをどうするの?」
「おまんこを、自分で弄ることです」
「そっちのいいつけだけは守ってるって言いたいわけ?
 それでお尻の穴弄ってたら、世話ないわ。
 あげくの果てに、ディルドゥ様を燭台から持ち出してさ。
 床に据え付けて……。
 舐め回すわ、頬ずりするわ。

 浅ましいったらありゃしない。
 わたしに見咎められなければ……。
 あのまま突っこんでたでしょ?」
「そんなこと、しません」
「ウソおっしゃい。
 ディルドゥが溶け出しそうなほど、頬張ってたくせに。
 そういう人は、罰を受けなきゃならないのよ」
「犯して……。
 めちゃめちゃに」
「だから……。
 それはあなたにとって、罰じゃないでしょ。
 考えてみれば……。
 SとMってのは、奉仕する側とされる側なのよね。
 もちろん、奉仕してるのはSの方。
 Mの欲望を満たすため、Sは一生懸命サービスしてるわけ。
 でもね。
 わたしは、そんなのイヤよ。
 わたしが聞きたいのは、ほんとの悲鳴。
 そのために……。
 今日は、おみやげを持ってきたわ」

 女王さまは、薄い上着を羽織ってた。
 胸前ははだけ、ブラが覗いてる。
 黒いカップの上に、パンティとお揃いの花が咲いてる。
 女王さまは、上着の裏から、マジシャンみたいに、あるものを取り出した。
 カップに咲く花よりも赤い、棒のようなもの。
 遠目からでは、よくわからない。

「ほら。
 おっきいでしょ。
 これも突っこみたい?
 でも、残念ながら……。
 あなたの下のお口を満足させるために、持ってきたんじゃないの。
 何に使うか、わかるでしょ。
 SMショーの定番だものね。
 ロウソクショーって云うのよ。
 どう、この色。
 毒々しいまでの赤。
 無残絵の血の色みたい。
 でも、とても懐かしい色。
 子供のころ見た夢に灯ってた色よ」

 女王さまは、赤いロウソクを、理事長の顔前に翳した。
 お寺の本堂にあるような、大きなロウソク。

「この赤い蝋が溶けて……。
 白い肌に落ちると、それはそれは綺麗なの。
 だから、SMショーでは、赤いロウソクが使われるのね。
 でも、ほんとに熱いのよ」

 ロウソクを突きつけられた理事長は、床を後退った。

「ゆ、許して」

 目が本気で怯えてた。
 無理もないわ。
 あんな太いロウソクを目の前にしたら……。
 誰だって、恐怖の方が先に立つ。

「ダーメ。
 どうやら、縛り直した方がよさそうね。
 ほら、おとなしくしなさい」

 女王さまは、理事長の腕から竹の棒を抜き取った。
 床に放られた竹が、楽器めいた音を立てる。
 その竹がまだ静まらないうちに、理事長の縄は解かれた。
 でも、自由を得たのはほんの一瞬。
 女王さまは、理事長の両腕を背中で束ねた。
 再び縄が打たれる。
 もちろん、本気で抵抗すれば逃げられたはず。
 でも、理事長はそうしなかった。
 顔は半泣きに歪んでたけど。
 恐怖と、嫌われたくないという思いが、せめぎ合ってるように見えた。
 その間にも、縄は重ねられていく。
 瞬く間に、理事長の上体は、縄で区画された。
 乳房の膨らみが縄で潰され、乳首が上を向いてた。

「はい、出来上がり。
 綺麗になったわよ。
 どんな衣装より、あなたには飴色の縄が似合うわ。
 そして、それに合わせるのは……。
 このロウソクの赤」

 女王さまの上着から、小さな金色が生まれた。
 指先が金色の肌を弾くと、軽やかな金属音とともに、金色は2つに割れた。
 ライターだった。
 微かな擦過音が立ち、炎が生まれた。
 2本束ねたロウソクを傾け、ライターに近づける。
 口づけをするみたいに、炎が移った。
 赤いロウソクに、柑子色の火が灯った。

「ほら。
 綺麗でしょ」

 女王さまは、理事長の前に、2本のロウソクを翳した。
 理事長の瞳が、怯えたように逃げる。

「まず、どこからいこうかしら?
 そうね。
 やっぱり、ツンとお澄ましした、そのおっぱいかしら。
 どうなの?」
「許して……」
「ダメよ。
 そんなこと言いながら……。
 乳首、起ててるくせに」
「言わないで……」
「言いなさい。
 蝋のお情けが欲しくて、乳首起ててますって」
「お姉さまに見られてるから」
「可愛いこと言ってもダメよ。
 見られて起てるなんて、変態だわ」
「あぁ」
「ほら。
 言葉で嬲られるだけで、そんな顔して。
 立派な変態。
 ちょっとだけ弄ってあげましょうか」

 女王さまは、理事長の背後に回った。
 束ねた指先が理事長の体側を回りこみ、乳首を摘んだ。

「ひ」
「まだ何もしてないでしょ。
 もう鼻の穴膨らませて。
 言ってごらん。
 ゆいは変態ですって」
「……」
「言えないの?
 止めちゃおうかな」
「変態です」
「主語が無い!」
「ゆいは……。
 ゆいは変態です!
 だから……。
 だから、弄ってぇぇ」

 指先が、獲物を捕らえたイカの脚みたいに蠢き出した。

「わひぃ」
「気持ちいいの?」

 理事長は、がっくがっくと頷いた。
 頷きながら、お尻を床にスライドさせ始めた。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。