小野麻里亜×緊縛桟敷 レトロな和服

小野麻里亜杉浦則夫緊縛桟敷にて掲載開始。

またまた拘束好きのお嬢さんです、小柄で柔軟おまけにパイパン、衣装は昭和を思い起こされるレトロな和服、私の想いも昭和にかえる。ライティングをスタッフに、縛を奈加氏に頼んでいつもとちがえて撮影をする。麻里亜も縄をうけるとついつい顔をほころばせてしまう、その心情はわかりますが、会員の西田氏からのコメントにありましたように、縛られた女性に余裕があり緊迫感がないのは男の性欲をくすぐる臨場感にかける、写真からは疑似支配欲を感じたい。まさに的をえた指摘です。だが現場の女は自己の世界に没入し私の声はとどかない、酔いしれた肢体の動きはまさに真ゆえの艶やかな感動をよぶ、野暮な指導でこの美しさをとめたくはない。横臥する麻里亜に「どうだい今日の縄は?」とささやくように聞いてみると「はずかしい」ときえいるような声で答える、予期しない答えをいぶかりながらまさにまさに深い麻里亜の縄の想いを知る.
麻里亜は一寸たりとも動きを止めない、俺の声はとどかない、縄の感触で自分の世界におぼれている、美しいとレンズ越しにためいきつくひまにそれはすでに消えている、こういう女との撮影はほとんど戦場のバトルである。縄師の手が細い首にかかったとき、くくと鳩が鳴くような声を発して後ろにのけぞつた様はいかにも少女の可憐さがみえた、まるで恐れを知らない信じきった少女の媚態。時のすぎるのも忘れただただ夢中で撮影に没頭した一日。

小野麻里亜杉浦則夫緊縛桟敷にて掲載開始。

放課後の向うがわⅡ-18

 その人は、梁を支える柱を背にしてた。
 真っ直ぐに立ってれば、十字架にかかるキリストに見えたかも知れない。
 でも、その人は、床を踏んではいなかった。
 柱の中ほどの宙に、吊り下げられてたから。
 キリストのような、腰の覆いもなく……。
 全裸で。
 しかも、直立姿勢じゃない。
 大きく開いた両腿は、斜め上を指してる。
 両膝に縄が掛かってて、上から吊られてるの。
 膝から下は、真下に降りてる。
 いわゆる、M字開脚ってやつよね。
 股間は、剥き拡げられてるんだけど……。
 性器は見えなかった。
 臍下を回る横縄から、幾本も束ねられた縦縄が下り、性器から肛門までを覆ってる。
 でも、陰毛だけは隠しようがない。
 縦縄から覗く大陰唇に、翳のような薄い陰毛が烟ってた。

 両腕は、理事長と同じく、背中で束ねられてるみたいだった。
 幾本もの縄が、乳房を上下から潰してる。
 理事長のよりも、ひと回り大振りな乳房だった。
 鎖骨のすぐ下から、膨らみが始まってる。
 だから、乳房の上に掛かる縄は、傾斜の途中を押しつぶす形で回ってる。

 そんな姿を晒しながら、その人は、身動きひとつしない。
 足先の力が抜け、爪先が床を指してぶら下がってる。
 その人が意識を持ってないことは、誰の目にも明らかだった。
 でも、肌の色は艶やかに輝き、腹部が僅かに起伏してた。
 命を保ってることも、また明らかだった。
 柱に凭れた顔では、両目が閉じられてた。
 開いた時の大きさが想像できる、長い眼尻だった。
 睫毛の半分を、黒髪が覆ってる。
 それでも、誰かはわからない。
 その人の口も、布で覆われてたから。

「誰だかわかる?」

 首を振るしかなかった。
 でも、とうてい生徒には見えなかった。
 豊かな肉付きは、成熟した大人の女性を思わせた。

「それじゃ、ご披露しましょうね」

 先生はパンプスを脱ぐと、畳にあがった。
 柱に近づく。
 先生の息が届くほど近づいても、その人の目蓋は閉じられたままだった。

「よく眠ってる。
 まだ薬が効いてるのね。
 体質かしら。
 理事長は、先に醒めちゃったのに。
 あ、でも、この姿勢もあるのかな。
 なんか、後ろから抱っこされてるみたいに見えない?
 小さいころ、こんなふうに抱っこされて、道端でおしっこしたっけな。
 安心する姿勢なのかも知れないわね。
 でもやっぱ、大人がすると、イヤらしさ満々よね」

 先生は、その人に顔を近づけると、身体のカーブに沿って鼻先を動かした。

「いい匂い。
 雌の匂いってやつね。
 牡が嗅いだら、速効でおっ起つわ」

 先生は、その人の後ろに回った。
 先生の両手が、髪の後ろで動いてる。
 すぐに、白い布地が緩んだ。
 でも、柱と頭の間に挟まってるのか、布地は落ちなかった。
 先生は、その人の横に身を移した。
 片手は、布地を握ったまま。

「それじゃ……。
 ご開帳」

 白い布地は、プラナリアのように宙を泳ぎ去った。
 その人のすべてが、電球の下に曝された。

「もうわかったでしょ?
 誰だか」

 現れた唇は、少し開いてた。
 その唇の形を、わたしは知ってた。
 授業中、ずっとそこを見てたから。
 その唇から、綺麗な英単語が、音符のように零れるのを。
 そう。
 その人はまさしく、わたしが憧れてた、英語の川上先生だった。

 川上先生は……。
 生徒に人気のある先生だった。
 授業が終わった後も、ノートを持った生徒が教卓を囲み、なかなか帰してもらえなかった。
 転入したばかりのわたしには、それを見てることしか出来なかったけど。
 だから、川上先生と直接言葉を交わしたこともない。
 でも、憧れてた。
 ていうか……。
 はっきり言って、好きだった。

 その川上先生が、目の前にいる。
 しかも、全裸で吊られて。

 わたしは、肛門を引き絞った。
 お腹が痛くなるほど動揺してた。

「可愛い先生よね。
 美里も好きなんでしょ?
 わたしも昔は、このくらい可愛かったんだけどな。
 さすがに今は、対抗できないけど。
 でも、ほんと……。
 庇護してあげたくなる雰囲気よね。
 男が放っておかないでしょうに。
 それが、なんで山の中の女子高教師なんかになったのか。
 ずっと不思議だった。
 でも、最近になってわかったのよ。
 この綺麗な顔、綺麗な身体が、女しか愛せないってことを。
 つまり、レズビアンってこと。
 女子高にレズビアン教師ってのは、笑っちゃうシチュだけど……。
 いるのよね、やっぱり。
 でもほんと……。
 ノーマルな女性でも、この顔見てたら、変な気起きるかも」

 川上先生は、両目蓋を閉じたままだった。
 眼尻は、頬を覆う髪に隠れてる。
 大きな眼だった。
 開いてるときは、いつも潤んでるように見えた。
 生徒からは、“嘆き姫”なんて呼ばれてた。
 宿題を忘れたときなんか、あの大きな瞳が悲しそうに潤むと……。
 自分が、とんでもない大罪を犯したように思えるんだって。

「でも、ほんとに素晴らしい身体。
 着痩せするタイプなのね。
 顔が小さいからかしら。
 こんなにボリュームがあったとは意外よね」

 わたしは、思わずうなずきそうになった。
 決して、太ってるわけじゃない。
 でも、女らしい脂肪が、みっちりと着いて……。
 お臍の下を渡る縄で、肉が括れてる。

「苛めたくなる身体って云うのかしら。
 縛ってるときは、マジで興奮したわ。
 男になった気分」

 あけみ先生は、両手を腰の後ろに回し、川上先生の周りを巡った。
 まるで、美術品を鑑賞するようだった。

「オブジェみたいよね。
 だけど、限りなくイヤらしいオブジェ。
 美術の授業で、これをデッサンしなさいなんて課題が出たら、どうなるかしら?
 ま、男の子なら、我慢できなくなるでしょうね。
 わたしでも、ヘンな気分になるもの。
 この身体の前に立つと……。
 わたしのクリがペニスに変わって、精子出すんじゃないかって思うほど。
 綺麗だろうなぁ。
 この身体に精子がかかったら。
 練乳みたいな白い鞭が、この肌を縦横に打つの。
 あぁ、興奮してきた」

 あけみ先生は、ゆっくりと上体を折った。
 視線の先は、川上先生の顔から胸に移った。
 あけみ先生は、身を屈めたまま、川上先生の乳房を凝視してる。
 正確に云うと、乳房の中央から突き出た、乳首ね。
 女のわたしが見ても、吸い付きたくなるような乳首だった。
 ほら、高校生くらいだと、乳房は発達しても……。
 乳首が、乳輪に陥没してるみたいな子っているでしょ。
 でも、川上先生のは違った。
 まさしく、大人の乳首って云うのかな。
 烟るような薄い乳輪の上に、トッピングみたいに、球形の乳首が載ってる。
 ベリーの実みたいだった。
 唇に含んだら、きっと丁度いい大きさよね。

 あけみ先生の口元が、その実を頬張りそうに近づいた。
 鼻翼がはためいてた。
 匂いを嗅いでるのね。
 離れてても、川上先生の身体は香ってた。
 もちろん、香水とかの匂いもあるんだろうけど……。
 その奥から、もっと濃厚な匂いが噴きあげてるようだった。
 そう。
 まるで、森の奥から、百合の香りが漂ってくるみたいに。

 あけみ先生は、夢見るように目蓋を閉じた。
 鼻翼をはためかせながら、顔が小刻みに振れ始めた。
 いつの間にか、あけみ先生の片手は、自らの股間に回ってた。
 指先が、中心を練るように動いてる。
 1本だけ立った小指が、宙に楕円を描いた。

「川上先生……。
 廊下ですれ違うときも、教員室でお話するときも……。
 いつもわたし、先生の裸を想像してましたのよ。
 このスーツの下には、どんな裸が隠されてるのかって。
 そして、その白い肌には、どんな形に縄を打ったらいいかって。
 そう。
 わたしの中で先生は、いつも裸だった。
 その裸体にわたしは、自在に縄を打つ。
 白い肌を戒める縄は、先生にとって唯一の正装。

 先生はその姿で、教室の扉の前に立つの。
 扉の向こうからは、生徒たちの笑い交わす声が聞こえてる。
 わたしは先生の後ろに立ち、花嫁の介添人のように縄を整える。
 縄の衣装は、上半身だけ。
 歩いて登場してもらいたいから。
 縄は、乳房を上下から挟み、両腕に巻き付いて後ろに回ってる。
 背中で交差する手首の縄を確かめると、わたしは教室の引き戸を開く。

 生徒の幾人かは、もう先生に気づいた。
 先生は、僅かにためらった後、敷居を跨ぐ。
 まるで、結界を踏み越すように。
 全裸の先生が教室に入ると、生徒たちの笑い声は、一瞬にして消え去る。

 この時間は、そうね。
 保健の授業。
 机や椅子は、すべて教室の後ろに押しやられ……。
 生徒たちは、リノリウムの床に散らばってる。
 保健の授業なのに、何が始まるんだろうって話してたんでしょうね。

 さてそれでは……。
 特別授業の開始よ」

 わたしに背中を押され、川上先生は教室の中に歩み出した。


 生徒たちは息を飲んで立ち竦んでる。
 先生の素足が、リノリウムの床を踏む音まで聞こえそう。
 先生が教室の中央まで進むと、近くにいた生徒は、波が引くように後ずさった。
 その顔を見回しながら、わたしは厳かに語り出す。

「さて、みなさん。
 今日の保健の時間は、特別授業を行います。
 教師を務めるのは、わたくし、岩城あけみ。
 ご存知のとおり、音楽の教師です。
 なぜ、音楽教師が保健の授業を受け持つのか……。
 それは聞かないでちょうだいね。
 諸般の事情ってのがあるのよ。

 さて、本日の授業内容は、『女体の神秘』です。
 大事な授業ですよ。
 みなさんがこれから成長し、子供を産み、そして育てていくためには……。
 まず、自らの身体のことを、よく知らなくてはなりませんから。

 わたしの授業では、教科書など使いませんよ。
 薄っぺらな二次元の情報では、大切な事柄を伝えることは不可能ですから。
 で、『女体の神秘』を語るためには……。
 実際の女体を前にしなければならない。
 もちろん、わたしが裸になってもいいんだけど……。
 それじゃ、授業がやりにくい。
 と言って、みなさんの誰かに裸になってもらうわけにもいかない。
 誰かいる?
 志願者。
 わたし、みんなの役に立つなら、モデルになりますって人。
 山下さん、あなたクラス委員よね。
 どう?
 あなた、みんなのために、それこそ一肌脱げる?
 ダメ?
 ほかの人は?
 いない……、ようね。
 ふふ。
 何も、目を逸らさなくてもいいわよ。
 ま、これは予想できたことですけど。
 でも、人のために自らを投げ出すって精神は、わが学園の校訓でもあります。
 今日の授業は、この校訓を教師が実践してみせる、という意義もあるの。
 こうしてみなさんの目の前に、裸を晒している川上先生。
 憧れてる人も、少なくないんじゃないかしら。
 その先生が、みなさんのために、こうして自ら身を投げ出してくれてるわけ。
 どう?
 これが、わが校の校訓で謳われる“愛他の心”よ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-17

 悲鳴とともに、擦り合わされた太腿のあわいから、水流が噴き出した。

「どこの世界に、脚閉じたままおしっこする人がいるのよ。
 脚を開けっての」

 先生が、片脚を抱え上げた。
 それを追って、もう片脚が持ちあがる。

「美里、そっちの脚抱えて。
 ほら、お腹から降りていいから」

 わたしは、すぐに言われたとおりにした。
 理事長のお腹に載ってることには、気が咎めてたから。

「いやぁぁぁぁぁ」

 両脚が開くと同時に……。
 綺麗に剃り上げられた股間から、ダムの放水口のように水流が噴き出した。
 暴れる脚を、懸命に抱き締める。

「起こすよ」

 あけみ先生が、顔を振って方向を示した。
 片手を、理事長の腰にあてがってる。

「せいのっ」

 先生の掛け声に合わせ、わたしも理事長の腰を押しあげた。
 理事長の背中が捲れ、腰が持ちあがる。
 理事長の下半身は、天井を指して起ちあがった。
 もちろん、おしっこは止まらない。
 中空に噴き出した尿は、理事長の頭を越えた。

「いやぁぁぁぁ」
「スゴいスゴい。
 公園の噴水に、こんなオブジェがあったらいいね。
 小便小僧なんかじゃなくて。
 まんぐり返しで、おしっこ噴き出す女の像」

 わたしの腕の中で、理事長の脚は、魚のように暴れた。
 懸命に抱き締めてると、次第に魚は弱っていった。
 理事長の全身から、強張りが抜けるのがわかった。

「やっと諦めたみたいね」

 理事長は、仰向いたまま泣いていた。
 頭上を叩いてた尿が、ようやく力を失い、泣き顔に降り注ぐ。
 理事長は、顔を背けて避けようとした。

「自分のおしっこじゃないの。
 ちゃんと飲みなさいよ」

 あけみ先生が、理事長の髪を掴もうとしたけど、もう間に合わなかった。
 水流は、一気に勢いを失い、理事長の胸を縫い上がった。
 名残の雫が、恥丘を濡らした。

「もう、お終い?
 なーんだ。
 つまんないの」

 先生は、理事長の脚を離し、身を起こした。
 わたしもそれにならう。
 理事長は、両脚が自由なまま床に投げ出された。
 起ちあがることも出来たはずだけど、頬を床に着けたまま泣くばかりだった。
 もっとも、背中のロープがあるから、逃げられはしないんだけどね。

「何だか魚河岸みたいね。
 床に投げ出された白イルカ。
 美里、水槽の水で、ちょっと流してくれない?
 両手入れて、ばちゃばちゃやって。
 そうそう。
 こっちまで届く?
 白イルカさん、おしっこまみれだから。
 無理そうね。
 あ、ホースがあるんだった」

 先生は、シンクに向かうと蛇口を捻った。
 床のホースが踊り出す。

「部屋の中で水撒きするなんて、初めて」

 ホースを拾った先生は、水の出口を指で絞ると、天井に向けた。
 電球の明かりを受けて広がる水は、蜻蛉の翅みたいに虹色に輝いた。

「理事長。
 雨漏り、大丈夫かしら?
 この下の部屋って、なんだっけ?
 ま、このぐらいにしておこうか。
 水漏れ騒ぎになったら面倒だから」

 先生は身を翻すと、シンクに消えた。
 ホースは命を失い、床に静まった。
 戻った先生は、腰に手を当てて床を見回した。

「スゴいことになっちゃったわね。
 これからが本舞台なのに。
 どうするかな?
 あ、そうだ!
 美里、その水槽、脇にどけて。
 水が減ってるから、動くでしょ。
 そうそう。
 そしたら、こっちに来て。
 ちょーっと、力仕事よ。
 畳。
 そこに立てかけてあるやつ、ここに敷こう」

 先生と2人で、畳を両側から持ちあげ、1枚ずつ運ぶ。
 乾いた畳が床に敷き詰められ、舞台は一変した。

「ふぅ。
 暑。
 けっこういい運動になっちゃったね。
 でも、見事に舞台転換が出来たじゃない?
 今度は、超和風よ。
 まさか……。
 少女漫画みたいなロココ調の建物に、畳部屋があるなんて……。
 お釈迦様でも、気がつくめい」

 先生は片脚を畳に上げて、見得を切るようなポーズを取ってみせた。
 先生のハイテンションが、手に取るようにわかった。
 股縄の解かれた先生の股間では、陰毛が、油絵のように滲んで見えた。

「さ、理事長。
 そんなとこに、いつまで寝てるんです?
 身体が冷えちゃいますよ。
 舞台に上がってください」

 先生の呼びかけにも、理事長は応えなかった。
 顔は、向こうをむいて倒れてる。
 表情は見えない。
 ひょっとして、気絶でもしたんじゃないか……。
 そんな風に思えた。

「ちょっと、理事長。
 狸寝入りは止めてくださいよ」

 そう言いながらも先生は、理事長の顔を覗きに行った。
 先生の影が、理事長の裸身に差した……。
 そのときだった。
 理事長が、突然跳ね起きたの。
 両脚の縄は、解いてあったのよね。
 ずっと転がったままだったから、理事長が起てるなんて、考えもしなかった。
 先生もびっくりしたみたいで、咄嗟に飛び退いた。
 起ちあがった理事長は、悪鬼のような顔をしてた。
 眼尻が上がり、唇は歪んでる。
 でも、綺麗だった。
 上半身に縄を打たれながらも、反逆の意思を失わない姿は……。
 江戸時代の女囚って感じ。
 見たことないけど。
 理事長は、先生を睨みつけながら、間合いを計ってるみたいだった。
 猫のように背を丸め、腰を落としてる。
 剥き出しの股間を、隠そうともしてなかった。

「ちきしょう!」

 理事長は、声とともに床を蹴った。
 身体ごと、真っ直ぐ先生に向かう。
 どうやら、身体能力は、理事長の方が上だったみたい。
 先生は、避けるのが精一杯。
 畳に身を投げ出した。
 理事長がそれを追って、畳に駆けあがる。

「はっ」

 理事長の長い脚先が、先生の頭を襲う。
 その蹴りを間一髪でかわすと、先生は畳を転がった。
 先生は、理事長の脚元を、這うように擦り抜けると……。
 さっき上がったところから、畳を飛び降りた。
 その背中を、理事長が追う。
 先生は、床の水たまりを駆け抜けた。
 理事長が、間近に迫る。

「あっ」

 理事長の身体が、一瞬ぶれたように見えた。
 ブーンという、弦の唸るような音がした。
 梁から伸びる縄が、一直線に張り詰めてた。
 理事長は、ちょうど片脚を振り上げようとしてたとこ。
 下は、水たまり。
 ひとたまりもなかった。
 足を滑らせた理事長は、水たまりに背中から落ちた。
 鈍い音がした。
 両腕を戒められた理事長は、受け身を取れない。
 どうやら、頭が床を打ったようだ。
 理事長の全身から、力が抜けるのがわかった。
 先生は、荒い息で、静まった理事長をしばらく眺めてた。
 ようやく理事長に近づくと、顔を覗きこむ。

「また、狸寝入りじゃないでしょうね?
 ひょっとして、死んだふり?
 まさか、ほんとに死んでませんよね」

 先生は、しゃがみこむと、理事長の顔に手の平を翳した。

「大丈夫。
 息してる。
 あー、びっくりした。
 こんなとこで死なれたら、大ごとよ。
 でも、これほど馬鹿な人だとは思わなかった。
 背中の縄が、梁に繋がってるのにね。
 ひょっとしたら、逃げるつもりなんかなくて……。
 わたしに一撃を加えたい一心だったのかも。
 そう考えると、不憫な気もするけど……。
 やったことの罰は、きっちり受けてもらいますからね。
 しばらく、そうしてなさい」

 そう言いながらも、あけみ先生は、理事長の傍らを離れようとはしなかった。
 まじまじと顔を覗きこんでる。

「意志を失った人の顔って、どうしてこう美しいのかしら。
 愛しくなっちゃう」

 首を差し出すようにして、理事長を見つめる先生の手の先は……。
 自らの股間に消えていた。
 肘から先が、忙しなく動いてるのがわかった。
 折り畳んだ太腿に、翳のように力が差した。

「あぅっ。
 あぁぁ。
 アブない、アブない。
 危うくイッちゃうとこだった」

 先生は、未練を振り切るように起ちあがった。

「さてと。
 お互い、トイレも済ませてすっきりしたところで……。
 2時間目の開始よ。
 さっき言ったように……。
 手動ウィンチは、2機設置されてる。
 ほら、こっちの作業台。
 なんで作業台を別にしたかって云うと……。
 ピアノの荷重に耐えらなくて、作業台の方が引っこ抜かれる怖れがあったから。
 ひとつの作業台に2台のウィンチじゃ、保たないって思ったのね。
 で、こんなふうに、作業台も2つ並んでるわけ。
 さて、こちらもご披露しましょうか。
 じゃーん」

 あけみ先生は、作業台にかかるブルーシートを剥ぎ取った。

「と言っても……。
 同じウィンチなんだから、芸も無いんだけどね。
 でも、こんな綺麗な機械が、2台並んだ光景って、かなり素敵じゃない?
 優秀な双子って感じよね。
 さてさて。
 このウィンチからも、ロープが伸びて……。
 天井の梁に渡ってる。
 梁を越えたロープは、柱に沿って下がってる。
 その下は、ブルーシートのカーテンが隠してる。
 でも、そのシートに隠されたものが何か……。
 転入試験を、優秀な成績でクリアした生徒のあなたなら……。
 わかるわよね?」

 先生はブルーシートの傍らに立ち、シートに手を掛けながら微笑んだ。
 もちろん、わかってた。
 双子の機械が吊り下げるものは……。
 きっと同じものだって。

「ま、誰でもわかるか。
 それじゃ、ご披露しましょう。
 えいっ」

 先生は、シートを引っ張った。
 金具でも弾けたのか、床に軽やかな金属音が立った。
 ブルーシートは、波が引くように消えてた。
 半分わかってたとはいえ……。
 息を呑んで立ち竦むしかなかった。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


杉浦則夫初の個展 入場無料

私は個展をやらない、なぜならばやるべきではないから、とつぱっていたがつっぱり棒がはずれて、新宿南口の寂しげな所にある小さな画廊で10月9日(火曜日)から10月22日(月曜日)の期間で開催することになりました、運がいい人は遊びにきたモデルさん達とも合えます、見にきてください。私は夕方にいるようにします。

パンフレット掲載文
1970年代から約40年にわたり撮影してきた膨大な数の“緊縛写真”から、「感じいるもの」を自ら選び抜き展示する“緊縛写真家・杉浦則夫”初の写真展。

※入場は無料です。
※18歳未満は入場禁止。
※杉浦則夫作品の販売も行います。

住所:東京都新宿区新宿4-4-15 地図(Google Map)
JR新宿駅「東南口」「南口」より徒歩5分。
新宿4丁目交差点(フォーエバー21のある交差点)を四谷方面に眺めた右側(吉野家があるブロック)、赤い鳥居のある角を右に曲がり、まっすぐ進んだ左「中田家」という旅館手前奥にあります。