管野しずか×緊縛桟敷

管野しずか杉浦則夫緊縛桟敷にて掲載開始。
今回は特別編として7月に掲載した管野しずか撮影会の後半です、現場の動画も掲載いたしました。

撮影後期(五週目特別編 後半):
官能を浄化した哀しみの眼差しに、いまにも涙をこぼさんばかりのうちふるえる唇の哀しをみせて、おおぜいの男たちのぎらぎらする熱気のこもった目線を受ける、晒されて、哀しく孤独の淵にある貴女、貴女はきっと物語をつむいでいる、それは貴女の過去、あるいは幻想の世界の物語。一筋の縄の圧迫感が貴女の体をめぐり、スイチが特異な女に変換させる、そしてここにいる衆人は貴女から消え去り、貴女はひたすら孤独のなかで受縛を性の遊びとする。
管野の写真を見ながらこんな独り言の会話を楽しんだ。自由に楽しんでくださいこの貴婦人を。以前の桟敷の撮影で管野は太もも片足吊りになり、つきでた尻に濡れた秘部から愛液をひと雫こぼした、自分の体の変化は充分にわかるようで、うるんだ目を私のカメラに恥ずかしそうにさしむけた、潤んだ女の眼差しを一人静かに受け止める独占、これが撮影者の特権でじわりと心を熱くした。

放課後の向うがわⅡ-12

「理事長。
 すっごく綺麗ですよ。
 男の人だったら、今の姿見るだけで、射精しちゃうかも」

 理事長は、あけみ先生に嬲られても、もう声も出ないようだった。

「どーれ、写真の出来はどうかな」

 先生は、わたしの持つカメラから、フィルムを抜き取った。

「いい感じじゃない。
 なんか、別世界の人みたい。
 ほら」

 印画紙の中に、理事長の姿が貼り付いてる。
 昔の人が、魂を吸い取られると思った気持ちが、良くわかった。
 二次元の世界に閉じこめられた理事長は、まるで魂のコレクションみたいだった。

「理事長、ご覧になります?
 ほら」

 あけみ先生が、理事長の顔の前にフィルムを翳した。
 理事長は、苦しい息の中で、新月のような目を開いた。
 細く覗く瞳が、小刻みに震えてる。

「やめて……。
 撮らないで」
「どうして?
 こんなに綺麗なのに。
 逆さまになると、人は綺麗になるのかしら?
 理事長、今まで見た中で、一番綺麗ですよ。
 もう、犯しちゃいたいくらい。
 あの現場監督が見たら、あっという間に暴発ね。
 理事長。
 ほんとは理事長も、あの監督に興味があったんじゃありません?
 浅黒くて、引き締まってて。
 興味がありすぎて、逆にあんなにツンケンしちゃったのかしら?
 ふふ。
 子供みたい。
 ほんとは、無理難題を投げつけて、背を向けて帰るとき……。
 背中に、監督の視線を感じてた。
 衣服を灼くような熱い視線を。
 で、理事長室に帰ると……。
 もう我慢出来ない。
 監督の視線に灼かれた衣服が、我慢出来ないほど熱い。
 もちろん、その場に脱ぎ散らかすわ。
 一糸残らず」

「全裸になりたくて、しょうがないのよね。
 だって、そんなに素敵な身体してるんですもの。
 わたしだったら、見せたくて見せたくて、どうしようも無いかも。
 きっと、ストリッパーになってるわね。
 理事長も、ほんとはそうなんじゃありません?
 この学園、経営が苦しいんでしょ?
 いっそ、何もかも無くして、身ひとつになって……。
 落ちるとこまで落ちたい。
 そんな気持ちもあるんじゃありません?」

 あけみ先生は、腰をかがめ、理事長の顔を覗きこんだ。
 理事長の目は、再び閉じてた。
 耳の後ろから頬に貼り付いた髪が、震える目元まで届いてる。

「ほんとに可愛い。
 舐めちゃいたいくらい」

 あけみ先生の口から、舌が零れた。
 驚くほど長い舌だった。
 口から内臓が出てきたみたい。
 厚みのある舌が宙を舐めながら、理事長の顔に近づく。
 もちろん、先生が顔を近づけてるんだけど……。
 わたしには、舌だけが伸びてくように見えた。

「あ」

 理事長の身体が、小さく跳ねた。
 あけみ先生の舌が、頬に届いたの。

「まぁ、敏感。
 お顔まで性感帯なのかしら?」
「……、止めて」
「ふふ。
 ほんとは、舐められるの、大好きなくせに。
 知ってるのよ、わたし。
 でも、ま、いいわ。
 お楽しみは取っときましょう」

 あけみ先生は屈めてた腰を伸ばすと、理事長の顔を見下ろした。
 理事長の頭は、先生の股間をまともに見る位置で逆さに下がってる。
 いったいどんな気持ちで、股縄に括られた股間を見てるのだろう。
 苦しくて、何が見えてるかわからなかったかも知れないけど。
 その理事長の頭を、あけみ先生の両手が包んだ。

「不思議よね。
 普段見慣れてるものでも、角度を変えるだけで、こんなにも違って見えるんだもの。
 こうして見ると、人の頭って、穴だらけよね。
 ま、骨格模型を眺めれば、当り前なんだけど。
 わたしが男だったら……。
 この穴、ひとつずつに、ちんぽ突っこむかも。
 でも、気持ちいいのは、口だけよね。
 ていうか、ほかの穴には入りっこないか。
 鼻の穴なら、なんとかいけるかな。
 やっぱ、骸骨の方がいいかも。
 女性の頭蓋骨を犯す女性。
 絵にならない?
 ほら、牡丹灯篭。
 相手の女性、お露さんだっけ?
 新三郎の元に、夜な夜な通ってくる。
 お露さんは、この世のものじゃなかったのよね。
 なら2人は、どうやってヤッてたのかしら?
 きっと、新三郎は、お露の頭蓋骨を犯してたのよ。
 だって、おまんこの位置には、穴なんて無いんですもの。
 骨盤の穴じゃ、大きすぎるものね。
 その点、頭蓋骨なら、手頃な穴がたくさん空いてる。
 そのひとつひとつに、ちんちん突っこんで……。
 思い切り射精してたのよ。
 一晩に、何回も。
 それじゃ、精を吸い取られるはずだわ。

 あ、そうそう。
 忘れてた。
 理事長室での、一人エッチの話が、途中でしたわね。
 現場監督の視線で燃えあがった身体を、ひとりで慰めるお話。
 どう?
 ほんとに、してたでしょ?
 オナニー。
 まぁ、首なんか振って、素直じゃないわね。
 したに決まってるわ。
 素っ裸になって。
 そうそう、あの黒いソファーでやったのよ。
 背もたれの高い、フカフカのソファー。
 女王様みたいにそこに座って、わたしに命令してくださいましたよね。
 考えてみれば、あのソファーって、オナニーに最適じゃないかしら。
 もちろん、背もたれに包まれるように座って……。
 両脚は、大開脚。
 思いっきりおっ広げて……。
 中心の、熟れ崩れたまんこを、欲しいままに嬲りたおすわけね。
 はしたない声を、噴水みたいにふきあげながら。

 どんなヤラシイ場面を想像してるのかしら。
 そうね……。
 きっと、現場監督に縛られちゃってる場面だわ」

 場所は、半分廃屋みたいな倉庫。
 工事用の資材なんかが、乱雑に投げこまれてる。
 組み立てられたままの、鉄管の足場とか。
 可哀想に……。
 拉致されて、連れこまれちゃったのよね。
 で……。
 その、ジャングルジムみたいな足場に、縛りつけられてるの。
 大股開きで。
 そう、ソファーの格好と同じね。
 同んなじ格好を想像してるわけ。

 頭の中のシーンでは……。
 足首を吊るされて、両脚は頭より高く上がってる。
 宙吊りよ。
 もちろん、両手は後ろで束ねられてるから……。
 恥ずかしい姿は、隠しようもない。
 肛門まで、白日のもとに曝してる。

 そこに、現場監督の登場。
 理事長のあまりにも身勝手な言動に、ついに切れちゃったのね。
 で、ついに直接行動に出たわけ。
 吊るされながらも、「こんなことしてタダで済むと思うの!」とか、毒づいたでしょうね。
 もちろん監督だって、タダで済むとは思ってないわ。
 だからこそ、溜まりに溜まった思いの丈を、存分にぶちまけようとしてる。

 監督が、理事長の目の前で作業ズボンを脱ぐ。
 作業着の裾から覗くブリーフは、スパナを呑んだように膨れてる。
 それを見た途端、理事長の口から雑言が途絶えた。
 視線は、白い稜線に釘付けになる。
 その視線を確かめながら、監督はブリーフを捲り下ろす。
 転げ出すわ。
 生々しく太い一物が。
 地面から生えた子供の腕みたいに、天を指して突きあがってる。
 膨れた亀頭は、子供が握った拳のよう。
 張り詰めた表皮に窓からの光が映り、てらてらと照り輝いてる。
 黒々と穿たれた射出口が、びくびくと鼓動してる。
 そこから噴き出す精液を想像しただけで……。
 理事長のまんこは、溶け崩れそうになる。
 雫を垂らすまいと、懸命に肛門を締める。
 でも、内襞も一緒に絞られて、ヤラシイ感覚が一層高まってしまう。

「ぐ」

 歯を食いしばって、表情を殺す。
 欲しがってる顔なんて、絶対できないものね。

 でも、興奮しきってる監督は、理事長の本性にまでは気づいてない。
 灼けた鉄棒みたいな陰茎を握りしめ、にじり寄ってくる。

「来ないで!」

 理事長の悲鳴は、陰茎に対する恐怖じゃない。
 イヤらしく溶け崩れてるまんこを、見られたくないから。
 もちろん、監督が言うこと聞くわけないわ。

「あんたを犯すことを、何度想像してきたことか。
 その澄まし切った顔に、精液をぶち撒ける夢を、何度見たことか」
「こんなことして、タダで済むと思うの!」
「もちろん、思わないよ。
 だから今日は、存分にさせてもらう」

 監督は、握りしめた陰茎を、ゆっくりと押し下げる。
 亀頭から発せられるレーザー光が、理事長の額から正中線を灼き下がってくる。
 青龍刀のように反り返った陰茎が、青眼の位置に定まった。
 膨れた射出口から、スパイラルが覗いてるようにさえ見えた。

「くく」

 我慢し切れずに垂れた雫が、会陰を伝い肛門に届くのがわかった。
 知られてしまう。
 こんな格好にさせられながら、イヤらしく興奮してることが。
 ここで理事長は、信じられない行動に出た。
 腹筋をプルプルと震わせると……。
 尿道口を開いたの。
 排尿を始めたのよ。
 つまり、まんこのヌラヌラを、おしっこで隠そうとしたわけ。
 おしっこを見られるより、性癖を悟られる方を恥と思ったのね。
 誤算は、思いのほか大量のおしっこが噴き出したこと。
 膀胱が膨れたまま拉致されたのね。
 おしっこは、天井に向けて噴きあげ、放物線を描いた。

「あっ」

 監督は、思わず飛び退った。
 おしっこが、コンクリートの床を叩く。
 サイダーみたいな飛沫が、監督の毛脛に黄色い玉を結ぶ。
 それを一瞬見下ろした後……。
 監督は、放物線の奇跡に脚を踏み入れた。
 理事長の体内を巡った重たい液体は、数珠玉を連ねたように宙に放たれ……。
 窓からの明かりを映して輝き……。
 監督の陰茎に降り注ぐ。
 監督は、陰茎を扱きながら、満遍なくしぶきを塗りたくる。
 水流は、まだ止まらない。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。


放課後の向うがわⅡ-11

「ほら理事長。
 満たんになりましたよ。
 特製プール」
「助けて……」
「泳げるんでしょ?
 スキューバダイビングとかも、なさるんじゃなくて?」

 理事長は、懸命に首を振ってい
 それを楽しそうに見下ろしてた先生は、笑顔のまま振り向いた。

「美里、ウィンチ。
 ほら。
 水道はもういいから、ウィンチのところに行って。
 そう。
 ハンドルを握って。
 そう。
 回して。
 どうしたの?
 さっきやったでしょ。
 出来ないの?」

 出来るわけがない。
 逆さ吊りの理事長の真下には、満々と水を湛えた水槽。
 逆立った髪が、水面に届いてる。

 ロープを緩めれば、理事長の頭は、水中に沈む。
 あけみ先生は、よっぽど恨みが溜まってたみたいだけど……。
 わたしは、面接で一度会っただけだもの。

「ダメな子ね」

 先生は身を翻すと、靴音を響かせてわたしの傍らに立った。

「もう一度、講義するわよ。
 さっきみたいに、時計回りにハンドルを回すと……。
 巻き上げられるわけ。
 ほら、カチカチ音がしてるでしょ。
 これは、メカニカルブレーキが働いてる音」

 理事長の身体が、荷物みたいに吊りあがった。
 水槽からは離れたわけだけど……。
 逆に、怖さを感じる高さだった。

「理事長。
 暴れないでくださいね。
 その位置で縄が切れたら……。
 たぶん、頚が折れます」
「……、たすけて」
「顔が赤いですよ。
 頭に血が昇ったのかしら。
 今、冷ましてさしあげますからね」

 ウィンチのハンドルに掛かった先生の手が、ゆっくりと逆向きに回る。

「ほら、こっちに回すと、音がしないでしょ。
 そして荷物は……。
 ゆっくりと下りる」

 理事長の髪が、再び水面に届いた。
 理事長は、腹筋を使って上体を持ち上げた。

「まぁ、素晴らしいエクササイズですこと。
 でも、理事長。
 さっきも言いましたけど……。
 このロープ、エクササイズ向きじゃありませんの。
 無理な荷重を掛けると、切れますわよ。
 それに……。
 そんな姿勢、いつまでも続くわけないでしょ」

 理事長の腹筋が、プルプルと震えだした。

「あぁ」

 止めてた息が吐き出されると同時に、理事長の上体から力が抜けた。
 折り畳まれてた身体が、真っ直ぐに伸びた。
 あけみ先生は、その瞬間を逃さなかった。
 指揮者が演奏開始のタクトを振るように、大きく腕が回った。
 刹那……。
 理事長の頭は、水槽に沈んだ。

「ぶぶ」

 理事長の口から漏れる泡が、先を競うように顎を転がり、水面に飛び出した。
 髪の毛が水槽いっぱいに広がって、顔を隠してる。

 でもその顔は、苦痛に歪んでるに違いなかった。
 それを思うと、お腹が絞られるように痛んだ。
 思わず、あけみ先生を見た。
 あけみ先生の顔には、微笑みが貼り付いたままだった。
 ほんとに殺してしまうんじゃないか……。
 裸のお尻に、鳥肌が立つのがわかった。

「先生!」

 わたしの声は裏返ってた。
 でも、先生は答えない。
 代わりに応えたのは、理事長だった。
 もちろん、声は出せない。
 でも、全身で身じろいだ。
 逆さの身体が、少しだけ回った。
 海藻みたいに揺らめいてた髪が、傍らに流れ……。
 表情が見えた。
 両目をきつく閉じ、頬には苦悶の筋が刻まれてる。
 綺麗なルージュのあわいから、食いしばった歯が覗いてた。

 もう、吐き出す泡は残ってないようだった。
 身体が回ったせいで、後ろ手に縛られた手首の先が見えた。
 指先が、虚空を掴むように開いてる。

 指先は今にも、花が凋むように閉じそうに思えた。
 もう一度先生を見返った。
 そのタイミングを待ってたかのように、先生の腕が回った。
 メカニカルブレーキの音が、カチカチと響いた。

「がぶっ」

 水面に上がった理事長の首が、人とは思えない声をあげた。
 縛られた上体を懸命に膨らませ、空気を貪ってる。
 ルージュを引いた口は大きく割れ、上歯の奥には、口蓋が洞穴のように見えた。

 人は、空気が無いと生きられない……。
 そんな当り前なことが、まざまざとわかった。
 背中から覗く手の平は、目一杯開いてた。

「理事長。
 苦しくても、水を飲まないのはさすがですわ。
 ま、逆さじゃ、飲みにくいでしょうけど。
 あ、タイヘン。
 忘れてた。
 写真撮るの」

 あけみ先生は、大げさな身振りで、作業台のカメラに視線を振った。

「美里、ここ代わってくれない。
 写真撮るから。
 どうしたの?
 出来ないの?
 ほら。
 わかったわかった。
 そんな顔しないの。
 それじゃ、あなたが撮ってちょうだい。
 理事長の、一世一代の晴れ姿。
 理事長。
 いいですか?
 もう一度下ろしますわよ」
「い、いやぁぁぁ」

 あけみ先生の腕が、大きく回った。
 上半身は白のオーバーブラウス。
 でも、下半身は剥き出し。
 お尻の割れ目には、縄が渡ってる。
 そんな格好で、踏ん張るように膝を割り、ハンドルを回してる。
 滑稽に見えてもいいその姿は、わたしには恐ろしく思えた。

「早く!」

 あけみ先生が振り向いた。
 回った髪が頬を叩いた。
 射抜くような視線だった。
 わたしは、作業台のカメラを持ちあげた。
 そう。
 持ちあげるって言葉がふさわしいほど、そのカメラは重かった。
 金属の部品が、ぎっしりと詰まってる感じ。

「いい。
 これは、写真部の入部試験よ。
 上手に撮ってちょうだい。
 シャッターがどこか、わかるわよね?
 上じゃないのよ。
 前っかわ。
 そう、それ。
 赤いボタン。
 あ、そう言えば、撮ったことあるのよね。
 向こうの世界で。
 でも今日は、フラッシュ使うから、もう一度復習ね。
 なにしろ、一回焚くごとに、電球がひとつずつ潰れちゃうんだから。
 フィルムが出てくるまで、シャッターボタンは押し続けなきゃダメよ。
 わかった?
 じゃ、早く。
 理事長のそばで構えて。
 もう、御入水だから」
「い、いやよ。
 助けて。
 助けて。
 あなた、先生をなんとかして」

 理事長が首を持ちあげ、わたしの顔を縋るように見た。
 形のいい鼻翼が、瀕死の動物みたいに羽ばたいてた。

「ダメよ、理事長。
 この子は、わたしの助手なんですから。
 それに“あなた”なんて、まだ名前も覚えてらっしゃらないの?
 相変わらず、ご自分にしか興味が無いんだから。
 でも、人のなすがままにされるってのも、案外気持ちいいでしょ?
 だんだん、酔ったようになって来ません?
 さ、下ろしますよ。
 美里、構えて」

 理事長の首が、観念したように真下に垂れた。
 背後に、巻き起こる風を感じた。
 ってのは大げさだけど……。
 あけみ先生の腕が、大きく回るのがわかった。
 理事長の頭が、水槽に沈んだ。

「シャッター!」

 慌ててカメラを構え、ファインダーを覗く。
 小さな窓の中に……。
 不思議な水族館が見えた。
 理事長の顔を覆うように、髪が揺らめいてる。
 背中から出た手の先で、人差し指だけが、何かを指し示すみたいに伸びてた。

「何してるの?
 死んじゃうわよ。
 ほら、シャッター!」

 わたしは、慌ててボタンを押し下げた。
 フラッシュが発光した。
 小さな天体が爆発したみたいだった。
 あたりをほんの少しだけ明るくして、電球は潰れた。
 この一瞬の明るさを灯した電球は、もう生きてないんだ。
 なんだか切なかった。
 わたしは、電球の命を無駄にしないよう、一心にシャッターボタンを押し続けた。

「美里の後ろ姿、もうひとつのカメラで撮りたいくらい。
 下半身だけすっぽんぽんで、カメラを構える少女。
 すっごい扇情的。
 あ、もうフィルム出たわね」

 目元からカメラを離すと、背後でカチカチと音がした。

「ぷ、ふぁぁ」

 萎んでた袋が、一気に膨らむような音がした。
 理事長の顔が、水槽から上がってた。
 音を立てたのは、理事長の肺だったみたい。
 震える唇のあわいに、食いしばった歯が見えた。
 首元から流れる水滴が、頬のファンデーションを転がってく。
 背中に回った手の先で、5本の指が、何かを求めるように開いた。

「そうとう苦しかったみたいね。
 美里がもたもたしてるからよ」

 あけみ先生は機械を離れ、わたしの傍らに立った。

「でも、ほら。
 あのお腹。
 スゴいわよね」

 あけみ先生の指差す先で、理事長は全身で呼吸してた。
 お腹に力が入るたび、脇腹を縦に走る窪みが浮き出た。
 渓谷を刻んだ腹筋が、立体の地形図みたいに見えた。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。