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放課後のむこうがわ 8
「ふふ。
今日はお客さまもいるから……。
スイッチ入りまくりね。
それじゃ、お望みを叶えてあげますか」
ともみさんは、床の鞄の上にカメラを置くと、ゆっくりとあけみちゃんに近づいた。
あけみちゃんは、涙を零しそうなほど潤んだ瞳で、ともみさんを迎えた。
ともみさんが指先を伸ばす。
三つ編みに指が届いただけで、あけみちゃんの身体が跳ねた。
電撃に触れたみたいだった。
「髪に触っただけで、こんなに感じるんだからね」
ともみさんは三つ編みの毛先を持ち上げると、あけみちゃんの顔を化粧筆のように掃いた。
されるがままになりながらも、あけみちゃんの瞳は恨めしそうだった。
「あんまり焦らしちゃ可哀想か」
ともみさんは髪から手を離すと、階段を1段上がり、あけみちゃんの後ろに回った。
階段柱の縄を解いてるらしい。
ときどき縄が引っ張られるのか、あけみちゃんの眉間に皺が寄った。
ほどなく、胸前を戒めていた縄が、脚元に落ちた。
縄抜けしたマジシャンみたいだった。
縄と一緒にスカートの裾も落ち、白い太腿は隠されてしまった。
一見すると、普通の女子高生の姿に戻ったんだけど……。
紺のハイソックスの足首には、白いパンティが絡んでる。
「スカート、邪魔ね。
脱いで。
あ、全部脱いじゃダメだからね。
スカートだけ」
あけみちゃんの自由になった両手が、スカートのファスナーに回った。
微かなジッパー音と共に、スカートが真下に落ちた。
あけみちゃんは、足元のスカートを跨ぎ越した。
まるで、結界を踏み越えるように。
スカートは、抜け殻のような姿で床にうずくまってた。
あけみちゃんが、そのスカートに手を伸ばそうとした。
「ストップ。
このままにしといて。
絵になるから。
そうね……。
鞄もあるといいかな。
アシスタントさん。
あけみの鞄、スカートのそばに置いてみて」
ともみさんは階段から跳ねるように下りると、床のスカートと鞄を眺めてる。
「うん。
オッケー。
この後ろに、股を開いた女子高生。
うん。
いい構図」
ともみさんは、あけみちゃんを眺めながら後ずさった。
自分の鞄の脇まで来ると、勢いをつけてしゃがんだ。
スカートが空気を孕んで捲れ、真っ白なお尻が見えた。
この人もショーツを穿いてなかったんだって、改めて気づいた。
穿いてるのは、わたしだけ。
この2人の仲には、まだ入りこめてないんだって気がした。
命じて欲しかった。
あなたも脱ぎなさいって。
そんなわたしにはお構いなしに、ともみさんは、背中を見せたまま鞄を開いた。
取り出したのは、2本のロープ。
さっきまであけみちゃんを戒めてたロープは、階段下にうずくまったまま。
ともみさんは、ロープを持って起ちあがると、あけみちゃんに歩み寄った。
あけみちゃんは、子犬のような目をして、ともみさんを迎えた。
「やっぱ、上は縛った方がいいな」
ともみさんは、手に持ったロープを肩にかけると、床のロープを拾った。
「手、後ろに回して」
あけみちゃんの上体には、再びロープが掛けられた。
ロープがブレザーを擦る音が、小気味よく聞こえた。
まるでマジシャンの手技だった。
乳房を挟んで2段のロープが、瞬く間に打たれていった。
紺のブレザーに、麻色のロープ。
胸元のロープにかかる、赤いリボン。
下半身は裸。
紺のハイソックスの足首に絡まるショーツ。
正装のように見えた。
「階段に座って。
2段目くらいがいいな」
階段の中央には、左右を分ける白線が引かれてた。
もう色褪せて、半分消えかけてたけど。
その白線の真上に、あけみちゃんは座った。
階段下から見ると、白線に串刺されたみたいだった。
「足開いて。
鞄とスカート挟むみたいに」
あけみちゃんは、階段下に伸ばした脚を、大きく拡げた。
シューレースの付いたプレーントゥが、鞄とスカートを挟んで伸びた。
「うーん。
やっぱり膝が開いてると、構図が悪いよね。
膝閉じてみて。
足先はそのままの位置でね」
あけみちゃんの両膝が、内側に折れた。
でも、足先が開いてるので、膝が着くまでは閉じれなかった。
「ほら。
いい感じになった」
膝が内側に折れることで、あけみちゃんの身体は“人”の字型を作ってた。
その脳天から股間を、階段の白線が貫いてる。
「記号みたいに見えるよね」
言われてみれば、そんなふうにも見えなくもなかった。
あけみちゃんの姿は、天を指す矢印みたいだった。
「記号まで昇華したとき、人は一番綺麗に見えるのかも。
でも、これじゃ……。
自分で股拡げてることになっちゃうから……」
ともみさんは、肩のロープを1本下ろすと、あけみちゃんに近づいた。
階段に片足をかけ、あけみちゃんの太腿を縛り始めた。
ともみさんの指先は、力強く動いてた。
ヨットマンみたいだった。
たちまち綺麗な結び目ができた。
あけみちゃんの太腿は、ヨットを舫う杭のように見えた。
両腿を縛り終えると、ともみさんは上体を起こした。
片方のロープを持って、階段柱の脇に立った。
「アシスタントさん。
そっちのロープ持ってちょうだい。
早く。
そっちの階段柱に巻きつけるのよ。
そう。
両側から引っ張るの。
あけみは、腿を内側に絞って。
そうそう。
こんなとこかな。
アシスタントさん、その位置で縛ってちょうだい。
大丈夫。
下手くそでも。
そっちの結び目はカメラに写らないから」
あけみちゃんの両腿から伸びるロープが、階段柱まで張り渡された。
斜め上方に向かって、左右のロープは相似形に伸びてた。
「あけみ、もっと力入れて絞って。
ロープが弛んじゃうでしょ」
あけみちゃんの両腿に力が籠った。
内腿にロープが喰いこむ。
ともみさんは階段柱を離れ、あけみちゃんの正面に立った。
「アシスタントさん。
こっち来てちょうだい」
下手くそな結び目に未練を残しながら、わたしはともみさんの脇に身を移した。
「どう?
いい感じじゃない?」
ともみさんの問いかけに、わたしは頷いてた。
あけみちゃんの両腿は、内側に向かって絞られ……。
その両腿からは、斜め上方にロープが伸びてる。
膝から下は、“ハ”の字を描いて開いてる。
ほんとうに、何かの記号みたいだった。
「でもなぁ。
あまりにも人工的かなぁ。
シンメトリー過ぎるよな。
ま、片足にだけショーツが絡んでるのが……。
アクセントと言えば言えるんだろうけど。
どうするか……」
ともみさんは、あけみちゃんの脚元にしゃがみこみ……。
脱ぎ落とされたスカートと鞄の位置を、微妙に調節した。
スカートは、脚元にストンと落ちた形そのままで、キュプラの裏地が盛りあがってた。
それを見てるうち……。
またヘンな気分になってきた。
わたしの腿にも、同じ裏地が触れてる。
あのツルツルの裏地が腿に擦れる感じって、すっごくエッチだよね。
「ちょっと、アシスタントさん。
なにモゾモゾしてんの?
ひょっとして、また気分出してるんじゃないの?
子供みたいな顔して、とんだおませさんだね。
そういう子のあそこって、どんなんだろ。
あ、そう言えば……。
モデルが下半身すっぽんぽんなのに、アシスタントがそれじゃ、失礼よね。
わたしだって、パンツ穿いてないんだから。
下、脱いじゃいなさい」
わたしは、泣き笑いみたいな顔をしてたと思う。
ほんとは、脱ぎたかった。
露出したかったってわけじゃないよ。
ま、その気持がぜんぜん無かったとは言わないけどさ。
それより、2人と一緒の姿になりたかったんだ。
でも、はいそうですかって脱いだら、変な気がしてさ。
だから、どうしていいかわかんない顔で、ともみさんを見つめてた。
もっと強く命じてほしかった。
「ほら、何してるの。
あなたが変態ちゃんだってことは、もうわかってるのよ。
ほんとは、見せたくてしょうがないんでしょ。
脱ぎなさい」
ともみさんは、わたしの心を見透かしたように命じてくれた。
わたしは素直にうなずき、スカートを脱ぎ落とした。
第九話へ続く
文章 Mikiko
写真 杉浦則夫
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