監督は、その場にしゃがみこむ。
水流は、作業着の前ボタンを駆けあがり、顔面まで届いた。
監督は首をうねらせながら、顔いっぱいに熱い飛沫を受ける。
顔に弾ける瀑布の向こうに、理事長の姿が揺らめいて見える。
監督は、何か言おうとして口を開く。
でも、声にはならない。
口中に飛びこんだ水流が、声帯をごぼごぼと鳴らすだけ。
まるで、液体で出来た陰茎で、口を犯されてるみたい。
監督は、存分に犯されながら、ノドを鳴らして尿を飲む。
胃の腑が膨れるほど飲み干すと、ようやく水流は勢いを失った。
棒のような水流は、連なる数珠の球に戻り……。
そして、途絶えた。
名残の雫が、肛門から垂れてる。
監督は、ゆっくりと起ちあがる。
濡れそぼった作業着の前に両手を掛け、羽撃くように左右に開く。
弾け飛んだボタンが、コンクリートの床に、貝殻みたいな音を立てる。
監督は、脱いだ作業着を頭上に翳すと、雑巾を絞るように両手で捻った。
浅葱色の作業着からは、薄い煎茶色の液体が、ぼたぼたと落ちる。
仰向いた監督の口が、一滴残らず雫を受ける。
雫が途絶えると、監督は首を起こした。
脱水機から取り出したようにカラカラになった作業着が、床に放り出された。
芋虫みたいに捻られた布が、撚りを戻しながら蠢く。
一糸まとわぬ全裸になった監督は、顔を洗うように顔面を両手で拭った。
手の平の雫を、脇の下に塗りつける。
全身、一箇所残らず、尿で濡らすために。
それは……。
別の生き物になる儀式のようにも見えた。
そして……。
この世ならぬ生き物に生まれ変わった監督が、近づいてくる。
一歩、一歩。
尿で濡れそぼった床を踏み、陰茎を天に突きあげながら。
でも理事長は、悲鳴ひとつあげない。
なぜなら……。
理事長も、別の生き物に変わってたから。
そう。
2人にはわかった。
お互いが、人間の皮を剥ぎ落とし、別の生き物に変わったことが。
そう、“変態”という哀しい生き物に。
にじり寄った監督は、自らの男根に手を掛ける。
天を突いて反り返る灼熱の陰茎を、押し下げる。
切っ先は、真っ直ぐ陰唇に定まった。
鈴穴のように膨れあがった射出口が、膣内を覗きこむ。
陰唇は、隠しようもないほど、溶け崩れてる。
灼熱の男根を翳され、バターのように新たな雫を零した。
一瞬だけ、監督と理事長の視線が合った。
互いの目の中に映る、哀しい獣を見た。
「うぉっ」
牡の獣が吠え、身体ごと雌にぶつけた。
「わひぃ」
雌が全身をうねらせて応えた。
牡と雌は下腹部を接していた。
接合部に男根は見えない。
すでに、雌の胎内深く埋もれてたから。
「熱い……」
牡は、ゆっくりと腰を引いた。
埋もれてた男根が、引き出される。
表皮は、なめし革に油が塗られたように照り輝いてる。
それを確かめると、牡は再び腰を送った。
奥まで。
牡の恥骨が、雌の陰核を押し潰す。
「い……、ぎぎぎ」
「これが好きか?」
雌は、がっくがっくと首を振り倒して応える。
連獅子のように乱れた黒髪が、顔面を叩く。
「そうか……。
好きなのか」
牡は、雌の顔を隠す髪をかき分け、両頬を手で挟む。
雌の目を覗きこみながら、腰を捏ね回す。
「あひぃぃぃぃ」
「いいか?
そんなにいいか?」
「いぃっ。
いぃっ」
「そんなら、もっと良くしてやるよ。
ほら」
牡の腰が、動きを前後に変えた。
弓のように引かれた腰が、反動を付けて戻る。
弓につがえられた矢は、雌の奥深く撃ちこまれる。
矢尻の根元に連なる恥骨が、容赦なく陰核を潰す。
「が」
陰核をひしゃげさせた恥骨は、一瞬で退いた。
しかし、間髪を置かずに、再び繰り出される。
撃つ。
「あきゃぁ」
引く。
「はっ」
そして、撃つ。
「ひぎっ」
前後動は、瞬く間にトップスピードに昇り詰めた。
腰の輪郭が消えてた。
牡の腰と雌の尻が打ち合い、高らかに鳴り始める。
パンパンパンパンパンパンパンパンパン。
まるで、廃屋に響くファンファーレのように!
「はがががががががが」
雌は、鼻濁音を撒き散らしながら、首を踊らせてる。
もう、視線が半分飛んでる。
高々と掲げられた爪先では、10本の指が、花のように開いてる。
「あああああああああああ。
イキそうだ!
イキそうだ!」
「はがががががが」
そのとき……。
雌の顔を包んでた牡の指が、顎をなぞりながら降り……。
雌の喉首にかかる。
水鳥のように華奢な首を、たくましい牡の指が掴む。
猛禽のように。
そして、締めあげる。
渾身の力で。
「ぐ。
あぐぐ、ぐ」
「うぉっ。
し、締まる。
締まる」
雌は、真っ赤に充血した顔を持ち上げる。
両目は、引きあげられた深海魚のように飛び出てる。
「で、出る!
出る!
あぎゃっ。
ぅわきゃ」
牡は、全身に腱を走らせ、総身を跳ねあげながら精を放つ。
万力のように締めあげられた男根は、果てしない暴発を続ける。
凸レンズみたいに剥き出された雌の両目が、裏返った。
同時に、牡の睾丸を叩きながら、糞便が噴き零れる。
雌は、涙のような血を鼻から流すと、ゆっくりと首を沈めていった。
高々と掲げた両足の爪先で、開いてた指が、夕方の花のように萎んだ。
牡の身体は、美術室の塑像みたいに凝固した。
犬歯を剥きだして捲れあがった唇が、幕が下りるように白歯を隠していく。
牡は、元の監督に戻ってた。
掴んだ両手の中で、雌もまた理事長に戻ってた。
ただし、骸となって。
監督は、ゆっくりと身体を離す。
監督の下腹部で、牡は死んでた。
腐った魚のように力を失った陰茎が、膣口から転げ落ちた。
名残の雫を引いてた。
ぽっかりと洞穴のように開いた膣口に、精液が盛りあがり……。
零れた。
脱糞で汚れた肛門に、雫が垂れる。
監督がふらふらと後ずさると、投げ出されたパイプ椅子が、足元で音を立てた。
監督は、夢見るような瞳で、椅子を組み立てる。
理事長に向けて、観客席がひとつ出来た。
ただひとつだけの席。
でも監督は、そこに座らなかった。
四囲を見回した監督は、壁際からあるものを拾い上げ、椅子のもとに戻る。
手にしてたのは、太いロープ。
ロープを抱えたまま、監督は椅子の上に立った。
理事長の方を向く。
理事長は、全身の穴という穴を剥き開いてた。
それはまさに、人であることを止めた骸だった。
監督は、梁にロープを投げ、戻ってきた一端を結び、手際よく輪を作った。
ロープを、2,3度引いて強度を確かめると……。
輪の中に首を入れた。
そう。
それはまるで、覗き窓。
あちらの世界が見える窓。
向こう側に渡った理事長が、微笑んで招いてる。
監督は、それに応えて笑みを返した。
そして、思い切り、椅子を蹴る。
パイプ椅子は、コンクリートの床で大きな音を立て、平らに潰れた。
監督は……。
ぶら下がってた。
両目が、卓球の球みたいに突き出て……。
首が、信じられないほど長く伸びた。
ひととおり暴れると……。
やがて監督は、静かに吊り下がった。
でも、一瞬静まった監督が、再び踊り始める。
ネクタイダンスって云うの。
首を吊った人は、四肢が、ダンスを踊るように跳ね続けるの。
観客は、理事長になってた。
真っ白い目玉を見開いて、監督の踊りに見入ってる。
監督は、ロープを捩りながら回り始めた。
夜店で売ってた懐かしいオモチャみたい。
監督の最後のパフォーマンスは、見事だった。
男根が、もう一度起ち上がったの。
真っ赤に膨れた亀頭が、タクトを振るみたいに上下した。
で……。
くるくる回りながら、もう一度射精を始めた。
オモチャの水鉄砲みたいに。
ぴゅっ、ぴゅっ、って。
飛沫が、理事長まで届くわ。
真っ白い目玉を、袈裟懸けに叩く。
唇から垂れた青黒い舌に、白い水玉を散らす。
もちろん、剥き出しのおまんこにもかかる。
きっと精子は、まだ生きてるでしょうから……。
懸命に洞穴に潜りこむでしょうね。
監督は、自らの踊りに伴奏まで付け始めた。
高らかな放屁音。
括約筋が緩んだのね。
すぐさま、脱糞が始まるわ。
濡れた布地のような音が、床を叩く。
気持ちいいでしょうね。
精を放ちながらの脱糞。
前立腺は、きっと快感の大波に翻弄される。
でも……。
残念ながら、監督はもう感じることが出来ないのよね。
ようやく監督は、踊り終えると……。
雑巾のようにぶら下がる。
あとは、無音の世界。
2人の突出した眼球だけが見つめ合ってる。
どう?
永遠に2人だけの世界。
誰にも見つけられず、2人は腐っていく。
入りこんだ蝿たちが、2人の婚姻をはやし立てる中……。
理事長の眼球が、頬に垂れ下がると同時に……。
監督の首が千切れる。
落ちた胴体の薄皮が弾け、腐った肉が四散する。
床に、赤黒い水玉模様を撒き散らすわ。
ちょっと。
美里ちゃん、どうしたの?
口なんか押さえて。
あ、気持ち悪かった?
そうかなぁ。
いいシーンだと思うんだけど。
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は7/13まで連続掲載、以後毎週金曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。