放課後の向うがわⅡ-28


 理事長は、歯を食いしばった表情のまま、後退った。
 半身に折った背中越しに、お尻が迫り上がった。

「ゆう。
 ゆう。
 見て」
「こんなに近くで見てる」
「後ろ。
 後ろから見て。
 ゆいのおまんこに、肉棒が突き刺さるとこを……。
 見てぇぇぇぇぇ」

 理事長は、きりりと眉を上げ……。
 そのまま後ろに、身を煽った。
 眼球が、引き上げられた深海魚みたいに膨れた。

「あぎゃぁ」

 表情が、弾けるように崩れた。
 首をうねらせ、空中を舐め回す。

「あぐぅ。
 ゆうちゃん……。
 見てる?」
「……」
「言って。
 どうなってるか言って」
「奥まで刺さってる」
「見える?」
「お尻に隠れて、よく見えない」

 理事長は顔を持ちあげ、再び表情を整えた。
 力んだ眉が、阿修羅像みたいだった。

「はぅ」

 理事長は、深淵を覗くように、身を前傾させた。

「見えた。
 見えたよ」
「言って。
 どうなってるか、言って」
「咥えこんでる」
「やらしい?」
「ゆいのおまんこ、動いてる。
 焼き網に載せられたアワビみたい」
「じっとしてると、肉棒を呑みこもうとするの」
「あ、お汁が零れた」
「あぁ……。
 焦れったい。
 がんがん突いて欲しいのに」
「無理よ。
 柱にそんなこと言っても」
「それなら、わたしが動くわ。
 こうやって。
 はぅっ」

 理事長が、身を畳んだまま後ろに跳ねた。
 外敵から逃れるエビのようだった。
 尻が柱を叩き、鈍い音を立てた。

「そんなにしたら、子宮が破けちゃう」
「奥がいいの。
 いいのぉぉ」

 理事長は再び前傾すると、すぐさま身を煽った。
 柱が揺れた。

「はぅぅ」

 理事長は、たちまち往復するピストン機関となった。
 尻が、高速で柱を打ち始める。
 柱は、アフリカの打楽器のように鳴り始めた。

「もう、速すぎて見えない」
「前に、前に来て。
 おまんこ、見せて」

 川上先生が、理事長の前に回った。
 理事長の顔が、川上先生の身体に隠れる。
 この状態なら、わたしへの視線は来ない。
 鏡の裏から片目で覗いてたわたしは、鏡から顔を出した。
 川上先生の肉付きのいい後ろ姿が、目の前にあった。
 みっしりと、隙間も見せず揃った太腿。
 曲線を描いて張り出したお尻。
 そして、腰骨の上で翳を孕む、天使のえくぼ。
 妄想したとおりの裸だった。

「はぅっ。
 はぅっ。
 ゆうちゃん……。
 開いて。
 開いて見せて」

 川上先生の太腿が別れた。
 両膝を外側に割り、腰を落とす。
 いわゆる、がに股の姿勢。
 尻たぶが、羽二重を押したように窪んだ。

「おまんこも開いて」
「できないわ。
 縛られてるんですもの」
「力を入れて。
 ぐっと。
 そう。
 見えた。
 見えたわ。
 ゆうちゃんのハラワタ」
「あぁぁ。
 弄りたい。
 弄りたいよぉ」

 川上先生は、がに股のまま身をくねらせた。

「そんな格好で、オナニーしたいの?」
「したい……」
「したことあるのね」
「……」
「どこで?」
「学校の、おトイレ」
「まぁ、はしたない」
「だって、理事長先生……。
 じゃなくて、ゆいとの夜を考えたら……。
 待ちきれなかったんですもの」
「可愛いわぁ。
 おトイレで、立ったままやったのね」
「思い切り」
「声が出ちゃうでしょうに」
「パンティを咥えて」
「ショーツ脱いじゃってたの?」
「全部脱いでた」
「全裸で?
 変態ね」
「あぁ。
 言って。
 もっと言って」
「変態!
 ゆうの変態!」
「あひぃ」
「でも、ゆうだけじゃないわ。
 ゆいも変態。
 だから2人は、変態姉妹。
 畜生の姉妹よ」
「あぁぁぁ」

 川上先生は、夜の桃みたいに重そうなお尻を、ゆらゆらと揺らし始めた。
 “天使のえくぼ”が翳を孕み、顔のように見えた。

「もうたまらないのね。
 もっと近くに来て。
 わたしが、お口でしてあげる」

 川上先生が、尻たぶを窪ませながら、にじり寄る。
 その尻たぶが跳ねた。

「わひぃ」

 ピストンを止めようとしない理事長の顔が、川上先生の股間を叩いたのだ。
 川上先生は、一瞬砕けかけた腰を立て直すと、理事長の顔を迎えに行った。
 理事長の顔が繰り出されるのに合わせ、腰を煽る。
 わたしからは見えなかったけど……。
 理事長の顔と川上先生の股間が、空中で衝突してるのが、はっきりとわかった。

 理事長のピストンが速まった。
 纏めてた髪が解けた。
 理事長は、散らし髪を振り立てながら、川上先生の股間を抉る。
 川上先生の腰も、輪郭を消し始めた。

「イ、イク。
 イク」

 川上先生が、声を裏返したそのときだった。

「何してるの、あんたたち!」

 叩きつけるような声が、間近から聞こえた。
 わたしは、新たな人物の登場に動転し、その場に身を縮めるしかなかった。
 その人物は、まさに忽然と現れたとしか思えなかった。
 いくら2人の痴態に見入ってたとしても、近づく靴音くらいは聞こえたっていいはずだ。
 身を縮めたわたしに、初めてその靴音が聞こえた。

「おとなしく待ってなさいって、言ったでしょ」

 靴音は少し遠ざかり、その人が舞台中央に進んだのがわかった。

「あぁ」

 川上先生の、嘆きに似た裏声と共に、重そうな響きが床を伝わった。

「はしたない子ね。
 腰抜かしたりして。
 呆れ返ったわ。
 人の顔使ってオナニーするなんて。
 それでも教師なの。
 あらあら。
 もう、何を言っても聞こえないみたいね。
 白目剥いちゃって」

 再び、靴音が響いた。

「でも、こっちはもっと悪いわね。
 仮にも理事長でしょ。
 学校法人の。
 それが、柱に括りつけたディルドゥを、下の口に咥えこむなんて……。
 はしたないにも程があるわ。
 上のお口で舐めてなさいって言ったでしょ。
 まだ、咥えこんでる気?
 抜きなさいって」

 床を、柔らかい音が打った。
 理事長の身体が崩れたに違いない。

「悪い子たちには……。
 お仕置きが必要ね」

 靴音が微かに近づいたけど、逆に声は遠くなった。
 その人は、こちらに背を向けたに違いない。
 音楽やってると、そういう音の気配が感じられるのよ。
 ここまで来て、わたしは我慢が出来なくなった。
 見届けたかった。
 学園の理事長と教師を、自在に蹂躙できるその人物を。

 わたしは、伏せていた身から、ヘビのように首を持ちあげた。
 もし見つかったとしても、縛られてる床の2人は戦力にならない。
 それなら、女同士の1対1だ。
 声の発せられる高さからして、それほど大柄な女性じゃない。
 逃げるチャンスは、十分あるはず。
 そう自分に言い聞かせながら、鏡の裏から顔を覗かせた。

「呆れた人たち。
 2人して気をやっちゃうなんて」

 その人は、仰向いた理事長の枕元に腰を下ろし、顔を覗きこんでた。
 理事長は、白目こそ剥いてなかったけど……。
 視線はあらぬ方を指してて、意識の焦点は結ばれてないようだった。

「ほんとに気持ちよさそうにイッちゃって。
 どうなの、この顔」

 その人の手が、理事長の顎を掬い取った。
 理事長の顔が横を向き、視線がこちらに流れた。
 思わず、首を引っこめそうになったけど……。
 その両目が何も見てないことは、すぐに解った。


「死に顔みたい。
 こんな顔で死ねたら、幸せよね。


 魂を失った抜け殻って、どうしてこんなに美しいのかしら。
 このまま、わたしの魂が身投げしたら……。
 この美しい身体に入れるんじゃないかしら。
 なんてね。
 いくらわたしでも、そこまでの能力は無いわ。
 ほら、いつまで寝てるの!
 起きなさい」

 その人は、理事長を邪険に突き放し、その場に起ちあがった。

「まだ起きないつもり?
 もう気持ちのいい時間は終わりよ。
 先にいい目を見ちゃった子には……。
 たっぷりと痛みを味わってもらうわ。
 どうしてやろうかしら」

 その人は、顎を指先で支え、思案を巡らせてるようだった。

「あら」

 軽やかにヒールを響かせながら、その人は部屋の隅に屈みこんだ。
 再び身を起こすと、手には細長い棒のようなものを持ってた。


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。