「こんなとこに忘れてったのね。
危ない危ない。
まさか、変なことには使って無かったでしょうね」
その人は、棒を電球に翳した。
光を浴びて、棒は光沢を見せた。
竹だった。
粉を吹いた地肌が光を返し、まるで自ら光を発してるように見えた。
なぜだか、かぐや姫の物語が頭に浮かんだ。
その人は、理事長の傍らに身を沈めた。
さっきから、顔を確かめようとしてるんだけど……。
出来なかった。
なぜなら、その人は帽子を目深に被り、つばの作る影が、顔の上半分を隠してたから。
「ほら。
おネンネの時間は終わりよ」
その人は、理事長の身体を引き起こした。
癇癪持ちの子が、人形を扱うような邪険な仕草だった。
上体を起こされた理事長は、視線を四囲に彷徨わせてる。
その人は、魔法めいた手際で、理事長の縄を解いた。
しかし、理事長に自由は与えられなかった。
理事長の両腕は、再び後頭部で束ねられ、縄打たれた。
その縄に、竹が通される。
理事長の頭の後ろを、竹が渡った。
わたしには、理事長の首を突き抜けたように見えた。
理事長の瞳が、焦点を結んだ。
「……、お姉さま」
「やっと目が覚めた?
わたしに無断で、気持ちいいことしてたわね」
「ごめんなさい」
「気までやって。
ほら、ゆうはまだ、大股拡げて寝てるわ。
あの子も、筋金入りの変態。
あんな綺麗な顔に生まれながら、不憫なものよね。
さてと。
まずは、あなたのお仕置き。
どうしようかしら。
どうされたい?」
「……。
突いて。
突いてください。
あのディルドゥで」
「は?
馬鹿じゃないの。
それじゃ、お仕置きにならないでしょ。
ふざけたこと言ってないで、ほら!」
その人は起ちあがりながら、理事長の身体を引きあげた。
理事長は自ら応えて身を起こすと、膝を突いた姿勢で背中を見せた。
張り出したお尻から、腰への括れが見事だった。
後頭部で束ねられた両腕には、竹が通っている。
まるで、竹に射抜かれたビーナスだった。
その人は、理事長を見下ろすように立ってる。
高いピンヒールから伸びる脚は、網タイツのガーターストッキングに包まれてた。
ストッキングが、ガーターだってわかると云うことは……。
つまり、スカートは穿いてなかったの。
股間は、かろうじて布地に覆われてたけど。
その黒いパンティには、真紅の花があしらわれてた。
その人は……。
やっぱ、この呼び方って言いづらいな。
ここからは、女王さまにするね。
女王さまは、柱のディルドゥを指さした。
さっき、理事長と川上先生が、舐めてたやつね。
「ください」
「さっきまで、つまみ食いしてたくせに」
「お姉さまに突いてほしい」
「そうかしら。
ひとりで遊ぶの、大好きなくせに。
わたしが、お預けを言いつけて置いても……。
言うこと聞かないじゃない。
ベッドに仰向けになったまま、腰振り出してさ。
ガードパイプに燭台で据えたディルドゥを上目で睨めながら……。
お尻をシーツに擦り始める。
「だって、お姉さまが、あんまり焦らすんですもの」
「甘え声出すんじゃないの。
焦らさなきゃ、お預けの意味がないでしょ。
ぜんぜん聞きゃしないんだから。
勝手に起きあがって、ディルドゥ舐め始める。
しかも、尻の穴をねぶりながら。
「だって……」
「また、だって?」
「前を弄ること、禁じられてるんですもの」
「“前”なんて曖昧な言い方、止めてちょうだい。
ちゃんと言いなさい。
どこをどうすることを禁じてあるの?」
「……。
おまんこ」
「はっきり!
おまんこをどうするの?」
「おまんこを、自分で弄ることです」
「そっちのいいつけだけは守ってるって言いたいわけ?
それでお尻の穴弄ってたら、世話ないわ。
あげくの果てに、ディルドゥ様を燭台から持ち出してさ。
床に据え付けて……。
舐め回すわ、頬ずりするわ。
浅ましいったらありゃしない。
わたしに見咎められなければ……。
あのまま突っこんでたでしょ?」
「そんなこと、しません」
「ウソおっしゃい。
ディルドゥが溶け出しそうなほど、頬張ってたくせに。
そういう人は、罰を受けなきゃならないのよ」
「犯して……。
めちゃめちゃに」
「だから……。
それはあなたにとって、罰じゃないでしょ。
考えてみれば……。
SとMってのは、奉仕する側とされる側なのよね。
もちろん、奉仕してるのはSの方。
Mの欲望を満たすため、Sは一生懸命サービスしてるわけ。
でもね。
わたしは、そんなのイヤよ。
わたしが聞きたいのは、ほんとの悲鳴。
そのために……。
今日は、おみやげを持ってきたわ」
女王さまは、薄い上着を羽織ってた。
胸前ははだけ、ブラが覗いてる。
黒いカップの上に、パンティとお揃いの花が咲いてる。
女王さまは、上着の裏から、マジシャンみたいに、あるものを取り出した。
カップに咲く花よりも赤い、棒のようなもの。
遠目からでは、よくわからない。
「ほら。
おっきいでしょ。
これも突っこみたい?
でも、残念ながら……。
あなたの下のお口を満足させるために、持ってきたんじゃないの。
何に使うか、わかるでしょ。
SMショーの定番だものね。
ロウソクショーって云うのよ。
どう、この色。
毒々しいまでの赤。
無残絵の血の色みたい。
でも、とても懐かしい色。
子供のころ見た夢に灯ってた色よ」
女王さまは、赤いロウソクを、理事長の顔前に翳した。
お寺の本堂にあるような、大きなロウソク。
「この赤い蝋が溶けて……。
白い肌に落ちると、それはそれは綺麗なの。
だから、SMショーでは、赤いロウソクが使われるのね。
でも、ほんとに熱いのよ」
ロウソクを突きつけられた理事長は、床を後退った。
「ゆ、許して」
目が本気で怯えてた。
無理もないわ。
あんな太いロウソクを目の前にしたら……。
誰だって、恐怖の方が先に立つ。
「ダーメ。
どうやら、縛り直した方がよさそうね。
ほら、おとなしくしなさい」
女王さまは、理事長の腕から竹の棒を抜き取った。
床に放られた竹が、楽器めいた音を立てる。
その竹がまだ静まらないうちに、理事長の縄は解かれた。
でも、自由を得たのはほんの一瞬。
女王さまは、理事長の両腕を背中で束ねた。
再び縄が打たれる。
もちろん、本気で抵抗すれば逃げられたはず。
でも、理事長はそうしなかった。
顔は半泣きに歪んでたけど。
恐怖と、嫌われたくないという思いが、せめぎ合ってるように見えた。
その間にも、縄は重ねられていく。
瞬く間に、理事長の上体は、縄で区画された。
乳房の膨らみが縄で潰され、乳首が上を向いてた。
「はい、出来上がり。
綺麗になったわよ。
どんな衣装より、あなたには飴色の縄が似合うわ。
そして、それに合わせるのは……。
このロウソクの赤」
女王さまの上着から、小さな金色が生まれた。
指先が金色の肌を弾くと、軽やかな金属音とともに、金色は2つに割れた。
ライターだった。
微かな擦過音が立ち、炎が生まれた。
2本束ねたロウソクを傾け、ライターに近づける。
口づけをするみたいに、炎が移った。
赤いロウソクに、柑子色の火が灯った。
「ほら。
綺麗でしょ」
女王さまは、理事長の前に、2本のロウソクを翳した。
理事長の瞳が、怯えたように逃げる。
「まず、どこからいこうかしら?
そうね。
やっぱり、ツンとお澄ましした、そのおっぱいかしら。
どうなの?」
「許して……」
「ダメよ。
そんなこと言いながら……。
乳首、起ててるくせに」
「言わないで……」
「言いなさい。
蝋のお情けが欲しくて、乳首起ててますって」
「お姉さまに見られてるから」
「可愛いこと言ってもダメよ。
見られて起てるなんて、変態だわ」
「あぁ」
「ほら。
言葉で嬲られるだけで、そんな顔して。
立派な変態。
ちょっとだけ弄ってあげましょうか」
女王さまは、理事長の背後に回った。
束ねた指先が理事長の体側を回りこみ、乳首を摘んだ。
「ひ」
「まだ何もしてないでしょ。
もう鼻の穴膨らませて。
言ってごらん。
ゆいは変態ですって」
「……」
「言えないの?
止めちゃおうかな」
「変態です」
「主語が無い!」
「ゆいは……。
ゆいは変態です!
だから……。
だから、弄ってぇぇ」
指先が、獲物を捕らえたイカの脚みたいに蠢き出した。
「わひぃ」
「気持ちいいの?」
理事長は、がっくがっくと頷いた。
頷きながら、お尻を床にスライドさせ始めた。
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。