放課後の向うがわⅡ-40


 あけみ先生は、再び起ちあがった。
 理事長を跨ぎ越し、川上先生の柱に向かう。
 真っ直ぐな脚は、内腿がかすかに擦れ合った。
 内腿は光ってた。
 ナメクジの這ったような筋が、膝頭まで濡らしてる。
 わたしは、思わず自分の足元を見下ろした。
 あけみ先生とは違い、肉付きの乏しい内腿は、隙間を作ってた。
 でも、ナメクジの筋は、先生と同じだった。
 真上から見下ろしても、陰核が包皮を持ちあげてるのがわかった。
 弄りたかった。
 思い切り。

「こら。
 何ボーっとしてんのよ。
 手伝っててば」

 あけみ先生は、川上先生の右脚を抱えあげてた。
 川上先生の右膝には、ロープが掛かってる。
 ロープは、斜め上方から伸び、右脚を吊ってる。
 あけみ先生は、そのロープをほどいてる。
 なぜだか、船の舫いを解いてるように見えた。

「さ、川上先生。
 理事長のところに行きましょうね」

 右脚を開放された川上先生は、爪先を畳に着いた。

「あ、その前に、お色直しが必要ね。
 お股を隠したお褌、取りましょう?
 理事長先生も、ツルツルのまんこ、剥き出してるし……。
 わたしたちだって、ほら。
 貝の剥き身のように、内蔵を晒してる。
 ほら、じっとしてってば」
「いやいや」

 川上先生は、あけみ先生の指を逃れるように身を捩った。

「どうしたのよ?
 今さら、何が恥ずかしいの?
 褌締めてる方が、よっぽど変だわ」
「解かないで」

 川上先生は、身じろぎを止めなかった。
 爪先立った右脚を軸に、身体を捻る。

「悪い子ね。
 やっぱり、元の格好がいいのかしら?」

 あけみ先生は、川上先生の後ろに垂れるロープを手に取った。
 天井の滑車からは、数本のロープが下がってた。
 川上先生の身動ぎのせいで、ロープはゆらゆらと揺れた。
 教科書で習った『蜘蛛の糸』を思い出した。
 でも、このロープは、人を救いあげる糸じゃない。
 人を吊り下げるためだけの糸。

「美里!
 ほんとに気の利かない子ね。
 こっち来て、脚押さえてって。
 持ちあげるの」

 言われたとおり、川上先生の右脚を抱えあげる。
 みっしりと肉の付いた脚は、持ち重りがした。
 もちろん、先生がじっとしてないせいもあった。
 抱える両腕の中で、脚は回遊魚のように暴れた。

「ほら、もっとこっち」

 あけみ先生が、暴れる魚に縄を打つ。
 熟練された手わざに、たちまち魚は蹂躙された。

「よしよし。
 いい格好。
 やっぱり、お股を開いた方がお似合いよ。
 それじゃ、お褌、取りましょうね」
「取らないで。
 それを取らないで」
「ずいぶん気に入ってくれたものね。
 嬉しいわ。
 明日から、毎朝締めてあげようか。
 縄のお褌で授業をするのよ。
 でも、今日は取ってもらうわ」

 よく撓う奇術師みたいな指が、たちまち縄を解いていく。
 川上先生の股間から、縄の束が失われた。

「はい、ご開帳。
 気持ちいいでしょ?
 きっと蒸れ蒸れね。
 どれどれ」

 あけみ先生は、わざとらしい仕草で身を屈めた。
 もちろん、顔を近づけたのは、川上先生の股間だった。

「み、見ないでぇ」
「すごーい。
 こんなにしちゃって。
 なんでお褌を取りたがらないかと思ったら……。
 こういうこと。
 美里も見てごらん。
 こんなに浅ましいまんこ、初めて見た。
 お汁塗れ」

「うっ、うぅ」

 川上先生は、顔を伏せて泣いた。
 でも、その股間は、もっと号泣してた。
 縄に潰された陰唇が捩れて、膣口が覗いてる。
 陰唇も膣も、工作糊を溶かしたみたいな液に濡れてた。
 クリトリスが包皮を持ちあげてるのが、はっきりとわかった。

「なるほど。
 縄の刺激が良すぎたわけ?
 ちょっとでも身動きすると、締まるんだものね。
 陰核が潰されて、たまらないわね。
 少しだけ、弄ってあげましょうか?」
「止めて。
 助けて。
 これ以上、辱めないで」
「今でも、この上なく恥ずかしいと思いますけど。
 お尻の穴まで濡らしてるんですもの。
 お客様、どうぞ遠慮なさらずに。
 一回イカせてさしあげますわ。
 もちろん、無料で」

 あけみ先生の指先が揃い、川上先生の股間に添えられた。
 指の腹が、恥丘を隠してる。
 指は、一瞬持ちあがるように動いた後、力強く鍵盤を押さえた。

「あひぃ」

 肉で出来たピアノは、調律の狂った音色を奏でた。

「その声じゃ、もう崖っぷちね。
 簡単な女。
 ま、舞台転換のとき暴れられると困るから……。
 一度、気を遣ってもらうわ。
 美里、よく見てなさい。
 ピアニストの指の威力を」

 股間を押さえた指が、反りを打った。
 指は、白く色を変えてた。

「いきますわよ」

 指先が、細長いオーバルを描き始めた。
 押さえられたクリは……。
 ゴムのように伸ばされながら、引き回されてるに違いない。
 わたしは、思わず股間を引き絞った。

「あひぃぃぃ。
 やめてやめてやめて。
 イ、イッちゃう。
 イッちゃうから!」

「イカせてあげるから。
 ほらほらほら。
 練れて来た、練れて来た。
 納豆みたいに、糸引き出した」
「あがが。
 イグぅ。
 イグイグイグイグイグイグイグイグイグ。
 イッぐぅぅぅぅぅぅ。
 ……。
 わきゃ。
 ぅわきゃっ」

 川上先生が、全身で跳ね踊った。
 張り詰めたロープが唸り、天井の滑車が軋んだ。
 あけみ先生の手は、まだ股間から外れてなかった。
 すでにオーバルは描いてなかったけど、急所を押さえる力は緩んでない。
 とどめを刺してるようにも見えた。

「ぶぶぶぶぶぶぶぶ」

 川上先生は、口元からあぶくを零し、ようやく静まった。
 首が、魂を抜かれた人形みたいに倒れる。
 見開いた人形の目に、瞳は無かった。
 真っ白い双眸が、床を睨んでた。

「浅ましいイキかた。
 白目まで剥いちゃって。
 でも、もし男が……。
 女を、こんなふうにイカせられたら……。
 誇らしいだろうね。
 ほら、見てごらん、これ」

 あけみ先生は、ようやく股間から離した手の平を、わたしの前に翳した。
 指先は、電球の明かりを返して、ぬめぬめと光ってた。
 思わず、隠すものを失った股間に目が行く。
 そこは、溶け崩れてた。
 貝の剥き身にバターを塗したようだった。
 手の平に押さえられてた陰唇は、捲れあがって潰れてる。
 覗いた膣口は、米のとぎ汁のような雫を零してた。

「ふふ。
 美里も、そうとう気分出ちゃってるみたいね。
 でも、お預けよ。
 助手にまでイカれたら、舞台回しが出来なくなるわ。
 ほら、こっち来て。
 このロープ、持って」

 あけみ先生は、柱の後ろで蟠るロープを拾い上げた。

「そしたら、理事長の方に、ゆっくり下がって」

 言われたとおりに、後退る。
 ロープは、縛られた2人の中間で、斜めに張り詰めた。
 どうしていいか判らず、あけみ先生を見る。

「ちょっと待ってて。
 今、柱から解くから」

 あけみ先生は、川上先生の背中に回ってた。
 どうやら、柱に括りつけたロープを解いてるらしい。

「よし、オッケー。
 じゃ、そのままロープ引いて。
 ダメダメ。
 そんな小手先じゃ動かないわよ。
 体重を後ろにかけるの」

 ロープを持ち直し、ロープ登りをするように、胸元に引きつける。
 恐る恐る、後ろに凭れる。

「もっと。
 足の裏で踏ん張って。
 そうそう。
 ほら、動いた」

 川上先生の身体が、柱から外れてた。
 背中の支えを無くし、宙にぶら下がってる。
 驚いて、力を緩めた。

「どうしたの?
 大丈夫よ。
 美里が持ってるのは、天井の滑車を動かすロープ。
 ほら、天井の滑車は、レールから下がってるでしょ。
 レールに沿って、滑車を移動できるってわけ。
 ほら、引っ張って。
 後ろ体重」

 再び動き出すと、川上先生の身体が宙で振れた。
 真っ白い目を見開いたまま、ぶらぶらと揺れてる。
 壊れたマリオネットみたいだった。

「わたしが荷物押さえてるから、大丈夫。
 ゆっくりね。
 そうそう。
 ふふ。
 ほんと、お肉屋さんの倉庫よね。
 世にも珍しい、生きた人肉だけを扱う倉庫。
 あ、足元気をつけて。
 そこから畳になってるわよ。
 あら、お行儀いいのね。
 ちゃんと靴脱いで。
 はい、もう少し引いて。
 ゆっくり。
 よーし、ストップ。
 どうよ?
 ものの見事に位置が合ったわ」


本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」

《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。