理事長の背中が浮きあがった。
「あら。
手伝ってくれるの。
この、最後のクリップ、わたしがどこに付けたいか、わかってくださってるみたいね。
そうよ。
この鎖は、川上先生と理事長を繋ぐ、架け橋。
それでは、繋いであげましょうね。
目の前にぶら下がってる、ここに!
えい」
「あぎゃぁぁぁぁあ。
痛い痛い痛いぃぃ」
川上先生が、悲鳴を噴きあげた。
わたしは、思わずカメラを抱きしめた。
カメラの固い肌で、腕に跡が残るほどだったと思う。
でも、視線は川上先生から逸らせなかった。
クリップは、川上先生の股間に食いついてた。
川上先生の痛がりようからすれば、陰毛を挟んでるわけじゃない。
だとすれば……。
「ほんとに痛い?
ちゃんと痛覚はあるのね。
ほら、そんなに暴れると、伸びちゃいますよ。
あんまりビラビラになっちゃ、彼氏に嫌われちゃうわ」
「痛い。
ほんとに痛いぃ。
岩城先生、外して!
お願い!」
「痛いからやってるんじゃありませんか。
ほら、そんなに動くと、舌を吊られてる理事長が苦しいでしょ」
川上先生は、連獅子のように髪を打ち振りながらも、懸命に上体を折り曲げた。
理事長の舌に、テンションを掛けないための努力だろう。
しかし、宙吊りで身体を傾けたせいか、逆に下半身が大きく揺らいだ。
クリップに挟まれた陰唇が、ゴムみたいに伸びるのが、はっきりと見えた。
チェーンの対岸では、理事長の乳首が、無慈悲に引き伸ばされた。
2人の顔は、苦しげに歪んだ。
でもわたしには……。
縄に括られ、チェーンで繋がれた2つの肉体が、この上もなく美しく見えた。
すべてを脱ぎ捨て、性器を剥き出した古代の女神。
わたしは、思わずカメラを構えてた。
「あら、美里。
写真部員らしくなったじゃない。
そうよね。
ここは撮りどこよね」
「くぅ」
「あ。
待って。
この女、バイブ吐き出した。
すっげー膣圧。
突っこみなおそうか?
……。
やっぱ、いいや。
この方が、丸見えだもんね。
これで、まんこから精液零れてたら、最高なんだけど。
ま、そこまでは無理ね。
じゃ、撮って」
あけみ先生は後ずさり、構図の外に消えた。
画角の中央に、肉のオブジェを収める。
汗ばんだ両脇を締め、シャッターを切る。
ミクロコスモスの爆発みたいに、フラッシュが光った。
吐き出されたフィルムを手に取り、画像が浮かび上がるのを待つ。
あけみ先生が、脇に寄ってきた。
「出てきた出てきた。
うん。
いいよ。
入部試験、合格」
あけみ先生は、フィルムを翻し、わたしの眼前に掲げた。
「モデルさんにも見せてあげましょう」
先生は舞台中央に戻ると、2人の顔の前に、フィルムを翳した。
2人は目を逸らし、見ようとしなかった。
「ちゃんと見なさいって。
自分がどんな姿してるか。
スゴい格好よ。
楽しみだわ。
明日朝、一番に来て、これを掲示板に貼り出してあげるわね。
生徒たち、大騒ぎよ」
「止めて。
それだけは、止めて」
川上先生は、上体を伏せたまま、懸命に顔を上げて訴えた。
「それなら……。
ともみさんを、ここに呼んで。
あなたたちがお姉さまと慕う、あの人よ。
2人でいるときなら、来てくれるんでしょ?」
「呼べば来てくださるわけじゃないんです。
あの方は、み心のままに現れるの」
「はは。
まるでマリアさまじゃない。
全裸で交合する、2人のベルナデッタの前に……。
蝋燭を持った、無慈悲なマリアさまが現れる。
悪くないわ、この脚本。
わたしに撮らせてもらえないかしら?
大冒涜ドラマ。
ほら、早く呼んで」
「だから……」
「早く呼ばないと……。
理事長が、苦しみますわよ」
あけみ先生は、理事長の肩に足裏を置き、前後に揺さぶった。
「はが。
はがが」
理事長の舌が、カエルのように引き伸ばされる。
「ほら、痛いって」
「止めて!
止めてぇ。
呼びます。
呼びますから。
お姉さま!
お姉さま、助けて!」
「まぁ、呆れた。
ほんとに呼んだわ。
恥ずかしくないのかしら。
ウルトラマンでも呼んでるつもり?
子供じゃあるまいし。
美里、ボーっとしてないで、もっと撮って。
おんなじとこに突っ立ってちゃダメよ。
写真は、フットワーク。
脚を使って動き回る。
いろんな角度から撮るの。
そう……。
やっぱ、理事長の下手から舐めあげるショットがいいわね。
足元に回って。
行き過ぎ!
そこまで回ったら、川上先生が半身になっちゃう。
少し戻る。
そう。
ツルツルまんこ、しっかり入れてね」
わたしは、夢中でシャッターを切った。
フラッシュが光る。
ファインダーの向こうの世界が、カメラに吸いこまれる。
全能感に似た高揚を感じた。
出てきたフィルムを、電球の明かりに翳す。
わたしの切り取った世界が、ゆっくりと浮かびあがる。
「ふふ。
楽しそうじゃない。
適性があるかもよ。
よーし。
それじゃ、ちょっと鍛えてやるか。
わたしの言うとおり動くのよ」
あけみ先生は、さまざまな角度からの撮影をわたしに命じた。
わたしは、指示に追い回されるまま、被写体の周りを巡った。
何枚か撮るうち……。
あけみ先生にとっては、わたしも被写体のひとつなんじゃないかって思えてきた。
あけみ先生の目には、舞台の2人と、それを撮るわたしが入ってる。
縄で括られた、豊満な全裸の女性が2人。
それを撮る、小さな尻を剥き出した子供。
「ほら、美里。
今度は、そっちから。
また行き過ぎ。
よし。
下がって。
柱のディルドゥ、ちゃんと入ってる?
巨大なちんぽが、2人を見下ろしてるとこ。
あ、サラシの布も入れよう。
精液の象徴みたいになるわ」
理事長は、無毛の股間を剥き広げ、無防備に仰のいてる。
両脚は折り畳まれ、赤ん坊がオシメを替えてもらう姿勢だった。
でも、いくら無毛と言っても……。
その中心部に穿たれた裂傷は、赤ん坊とはまるで違うものだった。
さっきまでバイブを咥えてた名残か……。
陰唇が、わずかに開いて見えた。
川上先生は面伏せたまま、眉根に皺を寄せてる。
少年阿修羅と称される仏像のようだった。
しかし……。
その首から下は、少年ではあり得なかった。
縄に区画された胸部では、巨大な乳房が潰されてる。
腹部には、パン生地みたいな肉の括れが、幾本もうねってる。
その下には、黒々とした陰毛が、野火の跡のようにに広がってる。
中心には、まだ火が残ってた。
そう。
烟る陰毛を分け、陰唇が覗いてる。
もっとも印象的なのは、尻から太腿にかけての、圧倒的な量感だった。
柱の男根が、その尻を指弾するように、宙に突き出てる。
柱に垂れるサラシが、ほんとに精液みたいに思えた。
わたしは、構図の縁を裁つように、丁寧にシャッターを切った。
「美里、次はあっちからよ。
ぼやぼやしない。
違う!
どっち行くのよ。
逆だってば。
美里!
ミサ!」
わたしが“ミサ”と呼ばれたのは、このときが初めてだった。
そう。
この瞬間に、わたしは“美里”から“ミサ”に変わったのかも知れない。
「あ」
フラッシュが光らなくなった。
「電球、使い切ったわね。
取り替えて来て。
さっきの引き出しに、もう1本入ってるから」
新しいフラッシュバーを取って戻ると……。
あけみ先生は、2人の前に立ち、背中を見せてた。
と言うより……。
お尻を見せてた、と言うべきかもね。
腰で切れたオーバーブラウスの下には、空豆を合わせたみたいな臀部が剥き出てる。
わたしは、思わずカメラを構えてた。
3人の女性を構図に入れると、シャッターを切った。
フラッシュが、遠い日の幻燈のように灯った。
あけみ先生が振り向いた。
「わたしのこと、撮ったのね。
ふふ。
フラッシュ焚かれると、気持ちが昂ぶるみたい。
モデルさんって、みんなこんな心理になるのかしら?
脱ぐはずじゃなかったのに、いつの間にか裸になってた、なんて話を聞くけど……。
ほんとかもね。
フラッシュを浴び続けると、トランス状態に入っていくのかも。
なんだか、気分出てきちゃった。
このまま立ちオナしちゃおうかな。
オカズは目の前にあるし。
それも、これ以上無いほど、豪華なオカズ。
よし。
わたしがオナってるとこ、後ろから撮って。
縛られた2人の女をオカズに、立ちオナする変態女。
斬新な題材だわ。
始めるわよ」
あけみ先生は、両脚を開き、腰を沈めた。
形のいい脚は、膝で“く”の字に曲がり、外側に開いてる。
いわゆるガニ股の姿勢だった。
尻のあわいから、わずかに陰唇が覗いてた。
その陰唇が、引き攣れるみたいに動いた。
前から回った手が、すでに股間を嬲ってるようだ。
空豆のような尻たぶが窪み、翳が生まれた。
翳は、はためきながら息づいた。
本作品のモデルの掲載原稿は以下にて公開中です。
「川上ゆう」 「結」 「岩城あけみ」
《説明》
杉浦則夫の作品からインスピレーションされ作られた文章作品で、長編連載小説のご投稿がありました。(投稿者 Mikiko様)
本作品は毎週日曜日に公開される予定となっておりますので、どうぞお楽しみに。
前作を凌ぐ淫靡と過酷な百合緊縛!「川上ゆう」さん、「YUI」さん登場予定作品です。
時を越え、再び出会った美里とあけみ。現在に戻った美里は、さらなる花虐へと誘われていく…。