食虫花 ~美少女・内山遙~6


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第六話【抵抗】

(この男は、女子更衣室で何かをしていたのだ!見られてマズイ何かを…多分それは…)

土曜休日に出勤する理由の無い、学校に居るはずのない教師が顔を引きつらせ、今ここに立っている。改めて、その不自然さに戦慄した。林田が、前任校で起こした破廉恥行為が脳裏を掠める。
すでに鍵は掛けられている。いや、ここは学校だ。まさか、いきなり下手な事は出来まい。油断があった。いざとなれば、さえない中年男の一人ぐらい撃退できる、とも思っている。自尊心と言ったほうが良いかも知れない。わずかでも退けば、なにかこの卑小な男に敗北するような気がしていた。
一方で遙は、自身の膝が小刻みに震えているのを感じている。怖かったのだ。それを林田に感付かせぬよう、毅然と睨み返していた。

ふん、とぼけているのか。あるいは、本当に見ていないのか。それならそれで構わない。「犯る」と腹を括った以上、理由はもう何でも良いのだ。
「ところでお前、先生の悪い噂を触れ回っているそうじゃないか?」
お前の作り話で、先生は困っているぞ。どうして、前の学校の事をお前が話せるのか。事情を知るはずも無いのに、不確かな話を広めるな。
「立派な名誉毀損だな、警察に言えばお前、逮捕されるぞ」
出任せだった。高校生と言っても、所詮はガキなのだ。“逮捕”という言葉は、ほとんどの少女に有効に作用する。

事実、十数年前に初めて凌辱した女生徒は、終始この脅しで支配した。当時はまだ、林田も“初心者”で加減が分からず、少女の精神が変調をきたすほど性虐の限りを尽くす。無慈悲にも、男は一年半もの間、教え子の肉体を弄んだのだ。
だが、在校中も卒業後も犯罪が露見する事は無かった。全くの被害者であるのに。鬼畜教師によって、彼女自身も罪を犯していると教育された結果だ。この事で学習した林田は、以降「逮捕されるぞ」を常套句とするようになる。
ところが遙は、これまで林田が相手にしてきた、無知な少女達とは違った。

「名誉毀損ねぇ…バッカじゃないの」
こんな言い方が出来るのか。こいつ。可憐な容姿に似合わぬ、おおよそ彼が、これまで遙に抱いていたイメージと違う乱暴な口調。そしてそれは、明らかな軽蔑を含んでいた。動揺。
「あんたが、前の学校で女の子に酷い事をしたのは、事実じゃないの?」
この野郎、言わせておけば。さらに動揺。担任教師の顔が見る見る紅潮する。
かまわず、教え子は言葉を続けた。この際、ハッキリしておきましょう。私たち女子は、あなたのクラスであることに、もう耐えられないんです。エロ教師!ロリコン教師!変態教師!
「警察に捕まるのは、そっちのほうでしょ!」
「うるさい!黙れ!」
思わず、あるいはシナリオ通りだったか。一発、ビンタを喰らわせた。腕力自慢の男でない。それだけに手加減しなかった。少女は身体をよろめかせ、頬を抑えながらその場にへたり込む。

“教師”には、「教育に熱心なあまり、つい…」という免罪符が存在する。通常、ここまでなら、いくらでもウヤムヤに出来る事を、林田は経験的に知っていた。どうせ、当事者同志の証言しかないのだ、理由は何とでも造ればいい。最悪でも、「どの学校にも一人二人居る体罰教師」で済む。学校だって、事を大きくしたくないのだ。たいしたお咎めは無いだろう。
だが、そもそもが、盗撮を知られてしまったかもしれない、という懸念にある。
(ここから先は…)
林田は、遙が床に崩れ、声も出せず呆然としている合間に、教室の隅に無造作に積んであった麻縄を手に取った。巻かれている縄をシュルルと解き、獲物に歩み寄る。
ついに男は、言い逃れの出来ない、危険な領域に足を踏み込んだのだ。これまで思い描いた淫靡な妄想の入口に立っている。

第七話へ続く

文章 やみげん
写真 杉浦則夫
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